グリーン・デイ来日にむけて大特集!
偉大なるロック界のリビング・レジ
ェンドとその影響を改めて紐解く

偉大なるロック界のリビング・レジェンドであり、世界でもっとも有名なパンク・バンドと言って間違いないであろうグリーン・デイの来日公演が決定した。1996年の初来日に始まり、さいたまスーパーアリーナや大阪城ホールなど、大会場でのライブを見事に成功させ、『サマーソニック』では2000年、2004年、2012年と3回もヘッド・ライナーを務めた彼らだが、今回の来日は実に8年ぶり。日程は3月25日(水)にインテックス大阪、3月27日(金)には幕張メッセだ。そこで、本稿ではあらためてグリーン・デイとはどんなバンドなのか、国内のパンク/ロック・シーンの状況も交えて、その魅力を特集する。
グリーン・デイはアメリカ・カリフォルニア州バークレー出身で、ギター・ヴォーカルのビリー・ジョー・アームストロング、ビリーとは幼馴染でもあるベーシストのマイク・ダーント、ドラムのトレ・クールからなる3人組。結成は1986年だが、当時のバンド名は“スウィート・チルドレン”で、1989年に改名しグリーン・デイに。翌年インディー・レーベルのルックアウト・レコーズからアルバム『1,039/Smoothed Out Slappy Hours』でデビューを果たし、さらに翌年、トレが正式メンバーとして加わって現体制となり、引き続き同レーベルよりセカンド・アルバム『Kerplunk』をリリースした。
1950年代や60年代のロックンロール、ラモーンズやセックス・ピストルズ、バズコックス、ジ・アンダートンズなどの、シンプルでざらついたバンド・サウンドとポップな歌を特徴とする、UKやUSのオリジナル・パンク勢からの影響に、パンクから派生したハードコア・ムーブメントの、より性急でタフなビートやディストーションの効いたざっくりとしたギター・サウンドをミックスしたような、彼らの根本となるスタイルは、この頃から確立。そして特筆すべきは、一度聴けばすぐに歌える超がつくほどキャッチーなメロディ・センスだ。そのポテンシャルは1994年のメジャー・デビュー・アルバム『Dookie』で大爆発し、たった1枚のロック・アルバムが音楽シーンを変える瞬間が訪れる。特にシングル「Basket Case」はミュージック・ビデオも含めて世界を震撼させた。
「Basket Case」
『Dookie』はこれまでに全世界で約2000万枚の売り上げを記録。グラミー賞の最優秀オルタナティブ・アルバム賞を受賞し、アンダーグラウンドなイメージの強かったパンクが、お茶の間レベルにまで知れ渡ることになる。そして、グリーン・デイのサウンドは、その登場前から活動していた、バッド・レリジョンやディセンデンツ、NOFX、よりポップな要素が強く『Dookie』と直近のタイミングでアルバム『Smash』がヒットしたオフスプリングといった、先述のパンクから派生したハードコアの影響を強く受けつつ歌のメロディに特化した、メロディック・ハードコア、いわゆる“メロコア”と呼ばれる音楽とも共鳴する。もし1990年代半ばに起こった、そういったパンクの大きな波がなければ、のちのグッド・シャーロットやサム41、フォール・アウト・ボーイ、マイ・ケミカル・ロマンス、ジミー・イート・ワールド……、挙げればきりがないほどの00年代ポップ・パンクやエモの隆盛はなかったかもしれない。
そして、その波は日本国内のシーンにも大きな影響を与える。『Dookie』と『Smash』の数カ月あとに、ミニ・アルバム『LADT OF SUNNY DAY』をリリースしたのが、日本を代表するパンク・バンド/メロディック・ハードコア・バンドであるHi-Standardである。インディペンデントな活動でオリコン・チャートにまでランクインし、アルバム『MAKING THE ROAD』は100万枚を超える売り上げを記録。アティチュードで繋がるフェス『AIR JAM』の開催など、数々の伝説を残して数えきれないほどのフォロワーを生み出し、今もなお根強い人気を誇る“メロコア”と呼ばれるシーンの礎を築いた。
そんなHi-Standardは、1991年という結成年からして、グリーン・デイから音楽的に強く影響を受けて始まったバンドではないにせよ、そのヒットはグリーン・デイをはじめとしたアメリカ産のパンクという布石があってのことだろう。これからはパンクだと言わんばかりに、外資系のCDショップやアナログ専門店の壁面に多くの海外アーティストの作品が並ぶなかにピックアップされていた日本のアーティスト。ふと気になって試聴してみたらめちゃくちゃカッコいい。彼らの快進撃はそこから始まった。
そう考えると、後のレジェンド・ELLEGARDENも今をときめく04 Limited Sazabysも、グリーン・デイがいなければ出てきていなかったのかもしれない。世界規模でも、ここ日本においても『Dookie』、そして「Basket Case」以前と以降で、パンクという音楽の規模感の分かれ目はそこにあると言ってもいい。その功績ゆえに、グリーン・デイは、パンクが本来のDIY精神やエッジを失い商業化したと、その批判の矢面にも立たされるわけだが、“何をしてパンクか”といった論争も含めて実に興味深かった。
ここまでは『Dookie』を軸にグリーン・デイの魅力について記してきたが、彼らの影響力はパンクだけにあらず。出自はパンクではあるが、以降生粋のロックンローラーとしての魅力をさらに拡張していく。その大きなのろしとなったのが、2000年にリリースしたアルバム『Warning』。アイリッシュ・トラッドに接近した収録曲「Minority」はバンドを代表する1曲になった。
「Minority」
そして、2004年には7枚目のアルバム『American Idiot』をリリース。反戦をテーマに組曲形式の曲が収録されたコンセプチュアルな作品だ。“コンセプト・アルバム”と聞くと、難解で即効性を求める人には不向きというイメージがあるが、まったくそんなことはない。教室でほうきを弦楽器にバケツをドラムに見立ててロックしてみた、少年のような心と知性が融合した、衝動的でポップ且つ流れのある作品になっているところがグリーン・デイらしい。曲単位では、冒頭で“マヌケなアメリカ人にはなりたくない”と歌う鮮烈な歌詞、パンクの荒々しさとロックの完成されたサウンドのダイナミズムが融合したタイトル曲や、跳ねたビートに情熱的なメロディが乗る「Holiday」、オアシスばりのロックバラード「Boulevard of Broken Dreams」などがヒットし、アルバムはグラミー賞の「最優秀ロック・アルバム賞」を受賞した。
「American Idiot」
2009年には『American Idiot』に続く三部構成のコンセプト・アルバム『21st Century Breakdown』をリリースする。文字通り21世紀に対する危機感を描いたメッセージ性の強い作品で、こちらも60年代モータウン発のビートが弾ける「Know Your Enemy」はじめ、ザ・フーとクイーンとパンクが出会ったような壮大なタイトル曲などキラー・チューンが満載。前作に引き続きグラミー賞の「最優秀ロック・アルバム賞」を受賞した。
「Know Your Enemy」
以降も、2012年には『!Uno!』『!Dos!』『!Tre!』の3枚のアルバムを世に放ち、2014年にはロックの殿堂入りを果たし、2016年には12枚目のアルバム『Revolusion Radio』をリリースし、その健在ぶりをアピールする。そして2019年9月に新曲「Father oF All…」をミュージック・ビデオとともに公開。この曲がまた素晴らしい。
「Father Of All...」
ここにきて、自らの限界突破。進化を止めず新たな境地を開こうとする姿勢をここまでひしひしと感じる曲は初めてではないだろうか。まずびっくりしたのは、ビリーの声がファルセット。切れ味の鋭いギターと、マイクとトレのトラディショナルとモダンを往来するプレイも光るグラマラスな曲となっている。ギターとドラムとベース、古から語り継がれる、3ピースの“ザ・ロック”が数字のうえでは衰退を辿る流れを、ポップにユーモラスにぶっ壊し、新たなロックの地平を開くかもしれない可能性に期待したい。
そしてグリーン・デイは2020年2月にアルバムもリリースする予定で、3月に来日を果たす。彼らのライブはいつだってとにかく明快。間口は広くメッセージは熱く、そこからロックの歴史そのものを見せてくれるような深みに自然と誘ってくれる。感受性の扉が開く場所にぜひ出かけてもらいたい。

文=TAISHI IWAMI

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