【インタビュー】シアノタイプ、他に
類を見ないシアトリカルロックと称す
べき独自の音楽性を開花させた1stア
ルバム『MONTAGE』

CYANOTYPE(シアノタイプ)といえば、ミュージカルスター、海宝直人がボーカルを務めるロックバンド。だがその真の魅力は、舞台で鍛えた劇的な表現力溢れる海宝の歌声、作詞作曲を手がける西間木陽の天才的な曲作りの巧さ、そして知る人ぞ知るスーパー・ギタリスト小山将平の驚異的なハイテクニックとの三位一体にある。他に類を見ないシアトリカルロックと称すべき独自の音楽性を開花させた1stアルバム『MONTAGE』の底知れぬ引力について、トーク力抜群のメンバーと一緒に楽しく深く掘り下げてみよう。

■海宝くんが何でも表現してくれることがすごい強み
■それを生かすことがシアノタイプになると思っている

──遂に1stアルバムが発売になりましたね。結成何年になりますか?

海宝直人 Vo(以下、海宝):8年ですね。

西間木陽 B(以下、西間木):いまさら1stアルバムという(笑)。

──いやいや、溜めが大きいと喜びも大きいと言いますし。それぞれ、完成した手応えは?

海宝:8年間、気が付いたらあっという間だなという感じです。それぞれ忙しいのもあって、初期の頃はライブもそんなにできなくて、ここ何年かでようやく密度の濃い活動ができるようになってきた。西間木くんの曲のストックも溜まってきてワンマンもできるようになって、それがようやくアルバムの形になってお客さんの手に届くのが嬉しいですね。その期間があったからこそ、シアノタイプのカラーや方向性が形になったので、すごく良いタイミングだなと思います。

西間木:僕が曲を作り始める前に、それまで使ってた楽曲が権利関係で使えなくなってライブ活動が全然できない時期があったんですよ。そのままバンドがなくなってしまう選択肢もあったかもしれないですけど、また3人で戻ってこられて、ちょっと遅いけどようやく1stアルバムが出せるのは感慨深いです。これを言うのはまだ早いけど、「やってきて良かったな」と思います。

小山将平 G(以下、小山):結成3年目ぐらいで「西間木くんの作る曲で頑張っていこう」ということになったけど、まだ1、2曲しかないのにライブをやらなきゃいけない。洋楽の「スタンド・バイ・ミー」、沢田研二さんの「勝手にしやがれ」とか、カバー中心でやってる時期もあって。

西間木:それはちょっと違うよ。前の曲が急遽使えなくなって、どうしよう?となった時のカバーだった。

小山:そうか。そこで「勝手にしやがれ」をやったら意外とうけて、このまま沢田研二さんのカバーバンドになるかと思いきや(笑)。軌道修正して西間木くんの曲だけでできるようになった。西間木くんの世界観が年々濃厚になっていきますね。

──これ本気ですけど、天才ですね西間木さん。

西間木:えっ!

──本当にすごい。特に歌詞の世界観、こんなのほかに聴いたことない。

西間木:これだけストレートにほめられたの初めてです。めっちゃ嬉しいです。
▲『MONTAGE』【初回限定盤】
▲『MONTAGE』【通常盤】

──楽曲については後程詳しく。曲を書く西間木さんが脚本家と演出家の役割で、それを演じて歌うのが海宝さん、音楽的に豊かにするのが小山さんかなあって、勝手に想像したんですけどね。

西間木:僕と小山くんが元々やってるバンド(B.C.V.)がインスト系なので、曲は書いてたんですけど、あまり歌詞を書いたことはなくて。歌詞は、海宝くんに歌ってもらいたくて書き始めたんですよ。アルバムの1曲目に入っている「鐘」という曲は、海宝くんの歌声を聴いた印象をそのまま言葉にしています。

──「それは突然、あまりにも神々しい。僕の中突き抜けてはるか宙へと消えた」。

西間木:そうです。

──「君と出会ったことで僕の中の、全ての色が大きく変わる」。

西間木:読まれると恥ずかしい(笑)。男性が女性に向けて贈っている言葉だと思われてもいいんですけど、自分の中ではそういうことです。そして「やるべきことが何となく分かった」という歌詞が象徴的なんですけど、これを書いたのはたぶん6年前とかで、俺がやるべきことはシアノタイプでやっていくことなのかな?と。

小山:なるほど。深いね。

西間木:深くないよ。まんまだよ。二番は逆に海宝くんの視点で、シアノタイプで歌ってもらうことを自分なりに表現した感じですね。面白いのが、9曲目に海宝くんが作詞作曲した「新しいとき」という曲があって、表現したいことが「鐘」と似てるのかな?と思ったんですね。「鐘」は僕の視点ですけど、「新しいとき」は歌う側の視点でシアノタイプを表現している気がする。結果的に、1枚のアルバムの中で対になってるのが面白いなと思います。決意表明的なものですね。

海宝:「鐘」はすごく難しい曲なんですよ。メロディも歌詞も含めて。でもさっき脚本とおっしゃってくれましたけど、台本を読み解くような面白さがあって、自分なりに解釈し表現していくことがすごく面白いなと思います。
▲海宝直人

──そこは、海宝さんがなじんでいるミュージカル曲と、ちょっと似てる部分もあるのかな?と。

海宝:そうですね。演劇っぽさがあるし、「将棋の神様」という曲にはセリフも入ってくるし、シアトリカルな曲が多いです。面白いですよね。

──そういう演劇的なストーリーの作り方は、曲を作る時に意識してますか。

西間木:シアノタイプでやりたいことは一貫していて、一本の木のように、大元の話からどんどん枝分かれしていく感じ。たとえばこの曲とこの曲は主人公が同じとか、全体の流れがあって一部分を切り取って曲にしているイメージがあります。それはなぜかというと、海宝くんが何でも表現してくれるから、その表現力をすごい強みに思っていて、そこを生かすことがシアノタイプになると思っているから。特に「ミュージカルっぽく」と考えてるわけではないんですけど、海宝直人の表現力を大切にしたいという、それがシアノタイプの強みだと思って曲を書いています。あえて普通にやる必要はないし、面白いことをやって驚いてもらうのが好きなので。そもそもやっていることが、ちょっと外れてるところになるのかな?とも思うので、どう見られるかは気にせずに、やりたいことを何でもやっていこうとは思ってます。

──小山さんの役割は?

小山:僕のシアノタイプの役割としては、ライブの司会進行ですね。それが一番大事。

西間木:一番なの?(笑)

小山:あとはパフォーマンスですね。僕の師匠はハウンドドッグの西山毅さんで、武道館で西山先生を見て“かっこいい!”と思って、イングヴェイばりにギターを回したり、そういうのが好きなんで。このご時世ですっかりいなくなってしまったギターヒーロー的なものを、シアノタイプでやってみたいです。曲に関しては、ギターソロは全て僕に委ねられているので、西間木くんに言われて作ったりしていますけど。

西間木:俺は「ナルコレプシーの創造論」のギターソロが断然好きですね。めちゃめちゃ大好きです。

小山:…はい。

海宝:あっさり(笑)。

小山:だって、あのフレーズ解説してもね。「何小節目がスティーヴ・ヴァイで」とか言っても(笑)。
■大事なのは〇〇っぽいというだけじゃなく
■いろいろな要素を混ぜることによって自分たちらしさが出る

──シアノタイプは、J-POPと言えばそうだし、ハードロックと言えばそうだし、ミュージカルっぽいと言えばそう。字余り的な歌詞とメロディの組み合わせはフォークソングっぽくもあるし、演劇的な歌い回しはシャンソンっぽいと思ったり。今時のアニソンにも似合いそうだし、ひとことで言うと「何だこれは!」ですよ。

小山:混沌としてる。

──曲はわかりやすいんですけど、ミクスチャー具合がすごくて、どこから出てきたのかがわからない。

小山:なるほど。僕の話になっちゃいますけど、僕もいろんなジャンルが好きで、ハードロックも、カントリーも、ジプシージャズも、いろいろ好きすぎて、「将棋の神様」でジャンゴ・ラインハルトのフレーズをやったりとか、わかる人にはわかることをやっていて。ジャンルを超えた曲にさらにジャンルを超えたギターが入って、より複雑になるのが逆に良かったのかもしれない。

──それでいて、スーッとJ-POPの中に入って行けるポピュラリティがあるのがすごい。そもそも曲を作ってる西間木さんのルーツって何なんですか。

西間木:一番のルーツはクラシックなんですけど、好きなジャンルというと、J-POPはもちろん、バンドも、あとプログレも聴いていました。ヨーロッパのプログレが好きで、そっちのほうが混沌とした魅力があるじゃないですか。イタリアのアレアとか。あとはマスロックみたいなものも聴くし、ベーシストなので16ビートの音楽も好きだし、普通にスピッツとかも好きです。

──海宝さんのルーツは?

海宝:僕はミュージカルをずっとやってきたんですけど、音楽は父親の影響が大きくて、60~80年代のアメリカのオールディーズとか、スティービー・ワンダーとか、あとは普通にJ-POPが好きで、ゆずが好きで、同級生と二人でゆずみたいなことやっていました。高校では軽音楽部みたいなところに入って、BUMP OF CHICKENを聴いたりしていました。いろんなものを均等に、という感じですね。
▲『MONTAGE』【初回限定盤】
▲『MONTAGE』【通常盤】

──今の3人のルーツを並べるだけで、いくつジャンルがあるんだと思いますけどね(笑)。

小山:確かに。

西間木:大事なのは、〇〇っぽいというだけじゃなく、混ぜることによって自分たちらしさが出ると思うので、意識して混ぜている部分はあります。あとは、海宝くんの表現力を生かすためにいろんな楽曲をやりたいということ。ロック一辺倒よりもいろんな楽曲があったほうが表現力を生かせるから。そうなると、J-POPなのかロックなのかわからなくなって、自分たちでもどういうふうに形容しようか?と考えたんですけど、なかなか思い浮かばなくて。何か良い言葉があったら教えてください(笑)。

──さっき出たシアトリカルというのがキーワードとして良いと思いますね。小山さん、アルバムの中のお気に入り曲は?

小山:僕は「時の不平等」がすごく好きで、これは絶対アルバムに入れてくれないと俺は抜けますと言って、西間木くんを脅したぐらい。

西間木:(笑)。

小山:歌詞の世界観に、西間木くんの回りくどい感じが一番出ているんです。12年一緒にいるからわかるんですけどいいんですよ。僕は中二病っぽい歌詞が好きなので、タイトルからしていいじゃないですか。

海宝:中二感がある(笑)。
▲西間木陽

──「時は平等って言うけれど、僕はそうは思わない」って、いきなり理屈っぽい(笑)。硬い言葉をスッとメロディに乗せるのがすごい。

西間木:海宝くんが、どんな難しい言葉でも速い言葉でも、ライブで全部聴こえるように歌ってくれるんですよ。だから、どんどんやりたくなっちゃう。息継ぎできないところとか。

──サビの、“生きて生きて生きて生きて”っですね。あれは息継ぎ不可能でしょう。

海宝:一回で歌いました。

――マジですか? 絶対あとで編集してると思った。素晴らしい。

西間木:そう、素晴らしいと思うじゃないですか。苦しめたくて書いたのに。

海宝:あははは。悪意があるな。

西間木:じゃなくて! だってこれは“生きる苦しみ”の表現だから。

小山:ああ、そういうことか。

西間木:別にいじめたいわけじゃない(笑)。だから「全然行けますよ」と言われると、「じゃあもっと行こう」って、どんどん息継ぎがない曲が出来上がっていく。

海宝:「ナルコレプシーの創造論」もそうだよね。すごい早口。

西間木:「ナルコレプシーの創造論」は、ちょっと意味わかんない感じの歌詞がいいかなと思っています。ナルコレプシーとは眠り病みたいな病気のことで、僕自身が金縛りに苦しんだ時期のことを歌っています。金縛りって世間一般でマイナスのイメージが強いけど、自分の意識次第で変えられる。明晰夢という、夢の中の出来事を自由自在に操る状況に移行しやすいのが金縛りの時なんですよ。

海宝:夢と現実の間に脳がある状態だから、夢だと気づけると操ることができる。それが明晰夢の概念なので。まずは夢の中で「これは夢だ」と気づくところから始まる。そしてコントロールすることでその戦いに勝つ。

小山:西間木くん、治ったの?

西間木:治った。一回克服すると、そのあと恐ろしいほど簡単にコントロールできるようになる。最初はなかなかうまくいかなくて、悪いイメージを消せなくて。どうしたかというと、テレビのモニターみたいに映し出して、小さくして端に寄せたんです。そしたらほかのところにすごいものが広がっていて、それからは金縛りに苦しまなくなりました。

海宝:全ての金縛りに苦しんでいる人たちへ贈る歌です。

西間木:そこまで限定してない(笑)。でも曲を作ろうという元がそこだったので、結果としてこういう楽曲になりました。

──海宝さんのお気に入り曲は。

海宝:やっぱり新曲を楽しみに聴いてほしいなというのがあって、「花色」と「ナルコレプシーの創造論」の2曲は聴いてほしいです。全然色の違う2曲で、「ナルコレプシーの創造論」は今話題になりましたけど、いろんな解釈で面白く聴けると思うので。「花色」は直球の悲しいラブソングで、メンバーそれぞれが意見を言って練り上げてアレンジにこだわった曲なので、今までのシアノタイプのバラードとはちょっと色が違う曲になってると思います。
▲小山将平

──面白くてドラマチックなシアノタイプの世界。誰にどういう形で届くといいでしょう。

小山:やっぱり海宝くんの演劇的な歌が魅力なので。ロックファンと言うと広すぎるけど。

西間木:海宝くんのミュージカルのファンは、僕らよりちょっと上?

海宝:多いのは30代以上じゃないかな。普通に女子高生やチビッ子たちとかもいるけど。

西間木:ここ(西間木&小山)は別のバンドでベンチャーズのカバーとかをやっていてその世代のファンも多いので、もっと広く同年代の方に聴いていただきたい気持ちはありますね。今はCDという形ではあまり聴かれなくて、でもシアノタイプは1曲だけ聴いてわかるタイプのバンドじゃないから、そこはデメリットなのかなとは思うんですけど、だからこそアルバムタイトルが『MONTAGE』(合成、組み合わせ)で、いろんな楽曲をいろんな方に聴いていただきたいと思います。同年代や若い方に聴いてもらいたい気持ちはありますね。

──ロック・フェスに出たいとかは?

海宝:ずっと言ってるよね。

西間木:そのためには、もっと明るい曲を増やしたほうがいいのかな。でも僕は暗くて踊れない感じの曲も大好きなんで。可能性はあると思うから、やりたいですね。このバンド、根っこはネクラだと思うんですよ。この二人もそうだと思っていて。

小山:仲間に入れるな! まあそうですけどね(笑)。

西間木:じゃないと続かないですよ。

海宝:まあね。

小山:みんなで渋谷のクラブに行ってワーッとやってる人たちじゃない。僕はそれを目指した時期もあって何回か行ったけど、ただレッドブルを飲んで終わるという。

海宝:合わなかったんだね(笑)。

小山:俺はここじゃないんだと思った。根が暗い人は、そういうところに行っちゃダメ。

──じっくり聴き込むタイプのファンが少しづつ確実に増えていくタイプのバンドだと思います。

小山:確かに。僕もそういうバンドは大好きなので。歌詞をちゃんと読みたくなるようなバンドでありたいです。

西間木:海宝くんがミュージカルで頑張ってるんで、どうしても「ついでにバンドやってるんでしょ?」と見られることも多いですけど、バンド自体は8年前からやってるし。最初に話した「鐘」という曲も、『ノートルダムの鐘』の主演を彼がやっていて、そこから取ったと思われるんですけど、「鐘」のほうが先だったりとか。

海宝:そうなんです。そのあとたまたま僕が『ノートルダムの鐘』をやらせてもらった。

西間木:そういうふうに見られがちなのは、やっぱり悔しいかな。「そんな軽い熱量ではやってないぞ」という気持ちで、なんとかこのバンドの良さを知っていただきたい気持ちがありますね。

小山:楽曲についてたくさん語れるよね。

海宝:とにかくたくさんの人に聴いていただきたい限りです。

取材・文●宮本英夫

リリース情報

『MONTAGE』
2019.10.9リリース
【初回限定盤】CD+特典DVD
3.800 円+税(KICS-93847)
【通常盤】CD
3.000 円+税(KICS-3847)
<通常盤&初回限定盤共通>CD
01.鐘
02.時の不平等
03.将棋の神様
04.花色
05.送る声
06.闘争心という名の本能
07.ナルコレプシーの創造論
08.最終電車
09.新しいとき
10.ハッピーエンド(キビラCMソング)
※初回限定盤のみ
特典DVD「鐘」PV &メンバー・インタビュー

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