SHISHAMOレポート 大舞台をも通過点
に、進み続ける3人が立った初のさい
たまスーパーアリーナ

SHISHAMO NO BEST ARENA!!! EAST 2019.9.28 さいたまスーパーアリーナ
「みんな、キラキラしています。こんなすごい景色を見せてもらえるなんて、今までバンドをちゃんとやってきて、良かったなと思っています」という宮崎朝子(Gt/Vo)の言葉には確かな実感がこもっていた。この思いは松岡彩(Ba)にも吉川美冴貴(Dr)にも共通するものだろう。SHISHAMOにとって、ワンマンとしては最大となる約1万3千人の観客が詰めかけた、さいたまスーパーアリーナ公演。1週間前の9月22日には大阪城ホールで“WEST”が開催されており、こんなにたくさんの人が集まったのは、バンドのこれまでの音楽活動の積み重ねの成果と言えそうだ。もちろん数字以外の部分でもバンドの進化は顕著に表れている。3人はこの日、スーパーアリーナの大きな空間を活かして、音楽性の高さとエンターテインメント性の高さを兼ね備えた、素晴らしいステージを展開していた。
SHISHAMO
ステージセットで特徴だったのは、メインステージから円形の花道が設けられていたこと。そしてその花道の先端部分にセンターステージがあり、花道に囲まれた前列中央のエリアにも観客が入っていたこと。すぐ近くからはるか遠くまで観客が見えるのは、演奏する側にとっても、嬉しい構造だろう。メインステージの両サイドと中央にはLEDスクリーンが設置され、オープニングではその両サイドのスクリーンに、シングル曲のミュージックビデオやライブ風景のコラージュ映像が映し出された。さらにメンバー3人のリアルタイムの映像に切り替わっていくと、3人が互いの背中に手を当てて気合いを注入し、円陣を組んでいる。ステージにかけるメンバーの思い、ライブ直前の緊張感などが伝わってきて、こちらまで身が引き締まっていく。
SHISHAMO・宮崎朝子
3人がステージ上に姿を現して始まったのは「恋する」。吉川のドラムで始まり、宮崎のギター、松岡のベース、そして観客のハンドクラップが加わっていく。ライブの始まりの高ぶりと、歌の中の恋に落ちる瞬間のときめきとが重なっていくような始まり方がスリリングだ。バンドは緊張感を集中力に変えて、エネルギッシュな演奏を展開し、観客が熱烈に応えていく。ステージ中央のスクリーンに“SHISHAMO!!!”の文字のロゴがデザインされたバックドロップが映し出されている。そのバックドロップの赤色が瞬時に水色に変わって、「ねぇ、」へ。布製ではなくて、LEDだからこその演出が新鮮だ。さらに「僕に彼女ができたんだ」も気迫あふれる演奏が続いていく。
SHISHAMO・松岡彩
6月にリリースされたベストアルバム『SHISHAMO BEST』を受けてのライブで、シングル曲、人気曲、代表曲を軸としたセットリストになっていて、老若男女、あらゆる層が楽しめるステージだ。客層も幅広くなっていると感じた。宮崎が「アリーナ席!」「スタンド席!」「男!」「女!」と声をかけると、威勢の良い声や柔らかな声があちこちから上がっていく。バンドは会場内の空気をしっかりコントロールして、アリーナという大きな空間に対応した演奏を繰り広げていた。グルーヴはさらにダイナミックで、歌もアンサンブルもニュアンスが豊かだ。身近な歌はすぐ近くに届いてきて、壮大な歌はどこまでも広がっていく。
「今日はベストアルバム記念のアリーナ公演となってます。ベストに入ってる曲、入っていない曲、いろいろやれたらと思っています」という宮崎の言葉に続いて演奏されたのはベスト盤には収録されていないが、SHISHAMOならではの魅力が詰まった曲、「きっとあの漫画のせい」。表情豊かな歌声としなやかさと歯切れの良さを兼ね備えたバンドサウンドが、気持ち良く響き渡っていく。松岡によるタオルの使用方法の説明で始まったのは「タオル」。1万数千枚のタオルが歌に合わせて、アリーナの中で同時にぐるぐる回る景色は壮観だった。アウトロでは宮崎と松岡が花道に出て、一周しながらの演奏。松岡の骨太なベースで始まったのは「BYE BYE」。ソリッドなギター、タイトなドラムが加わってのアンサンブルは切れ味抜群で、バンドサウンドのシャープかつクールな魅力も伝わってくる。
SHISHAMO・吉川美冴貴
MCではステージに隣接する“わくわくエリア!!!”に3人が訪れたことも報告された。この“わくわくエリア!!!”は物販コーナーはもちろん、フードエリア、カラオケコーナー、写真撮影スポットなど、楽しいコーナーがたくさん用意されていた。ライブに来た人に、ライブ以外の時間も思う存分楽しんでほしいという、メンバー、スタッフの気持ちまでが伝わってくるようだ。楽しさ、親しみやすさとともに、奥深さが見えてくる曲もいくつか演奏された。10月リリースのニューシングルのカップリング曲「君の大事にしてるもの」もそんな曲のひとつ。嫉妬心や独占欲といった胸の中にあるダークな感情を、ファンキーなリズムに乗せて表現した曲とも解釈出来そうだ。恋愛の光だけでなく、闇の部分に鋭く切り込んでいく歌声にゾクゾクした。こうした振り幅の大きさ、自在さもSHISHAMOの魅力のひとつだ。宮崎のアコースティックギターで始まった「夏の恋人」は、深みと余韻を備えた歌声とスケールの大きな演奏が広い空間に見事に映えていた。続いての「夢で逢う」もSHISHAMOのディープな魅力が詰まっているナンバー。抑制の効いた始まり方をしながら、後半に進んでいくほどに、悲痛な思いがむきだしになっていく。オルタナティブロックに通じるようなディープなエネルギーが渦巻く歌と演奏がズシッと響いてきた。
SHISHAMO
見上げるようなアングルで、歩きながら撮影したと思われる映像がスクリーンに流れ、センターステージで宮崎が椅子に座って、ひとりでアコースティックギターの弾き語りで新曲を披露する場面もあった。つぶやき声のようなさりげない歌声で始まり、繊細なギターが入ってくる。何気ない日常の中にあるかけがえのない瞬間が浮き彫りになってくるような素直な歌声が魅力的だ。さらに松岡、吉川もセンターステージに移動して、アコースティックギター、グロッケンとシェイカー、カホンというアコースティック編成で3曲が披露された。「熱帯夜」は過去にもアコースティック・アレンジで演奏されているが、この日はさらに洗練されていた。絶妙のタイム感を備えた演奏、優美なハーモニーがいい。3人の息もぴったり合っている。3人は向かい合って座って、演奏していたのだが、その3人を包み込むように、テント状に張り巡らせられた赤いスポットライトも綺麗だった。
SHISHAMO
「実はこのステージ、回るんです」(宮崎)、「人力という名の最新テクノロジーを駆使してます」(吉川)とのことで、1曲ごとにセンターステージが回転する仕組みになっていて、様々なアングルから3人の演奏を楽しめるようになっている。3人の麗しいコーラスをフィーチャーした「恋」、夢見る乙女心をみずみずしく表現していく「ロマンチックに恋して」と、SHISHAMOのアコースティックな世界も魅力的だ。花道が七色に光るなど、照明もロマンチック。観客も歌の世界に酔いしれて、聴き入っていた。
SHISHAMO
メインステージに戻ってからは、バックドロップが水色になって、ブルーのライトに照らされながらの「水色の日々」、せつなさの漂う歌とハーモニー、歌心あふれる演奏が見事な「ほら、笑ってる」と、シングル曲が続けて演奏されて、会場内の空気がポップに染まっていく。
SHISHAMO
SHISHAMOのワンマンライブでお馴染みとなっているMCコーナー、“吉川美冴貴の本当にあった○○な話”では、吉川がエゴサーチが大好きということで、デビューしてからこれまでで、最も深く記憶に刻まれたTwitterベストが紹介された。「SHISHAMOの缶バッチを見た外国人の先生がガール、ガール、ボーイと言っていました」などの自虐的なネタの数々で会場内が笑いに包まれてなごんだ後に、宮崎と松岡がヘッドセットを付けて登場した。
「どうしたら、みんなのそばに行けるかなと考えて、ヘッドセットに挑戦しようと決めました」と宮崎。ヘッドセットを使うことで、間奏以外でも、歌いながら自由に動くことが可能になる。花道を歩きながら「OH!」が演奏されて、観客もシンガロングで参加。<汗だくで何が悪い>という歌詞とシンクロするような全身を使ってのパフォーマンスだ。ともに歌い、歌に込められた思いを共有することで、会場内に連帯感のようなものが生まれていく。さらに「量産型彼氏」と「ドキドキ」へ。観客もコール&レスポンスやハンドクラップで応えていた。宮崎と松岡が花道を歩き、時には向き合ったり、縦に並んだりして演奏する構図が新鮮だった。ヘッドセットでの演奏終了後に吉川からこんな言葉もあった。
SHISHAMO
「うらやましいんですよ、二人が縦横無尽に動いてるのが。さすがにドラムは難しいんですが、いつか演奏しながら、みなさんのところに寄っていくことをやってみたいです」(吉川) ちなみにヘッドセットを付けた2人の感想は「ゼイゼイ言うね」(松岡)、「酸素が足りないね。でも楽しかったね」(宮崎)とのこと。ヘッドセットを使うことでフットワークは軽くなるが、音質に関してはマイナス面もあるし、呼吸音を拾ってしまうなどのデメリットもある。それでもあえてヘッドセットを使用したのは、アリーナという大きな空間だからこそ、観客の近くに行って歌を届けたい、一緒に参加して楽しく盛り上がってもらいたいというバンドの気持ちの表れでもあるだろう。バンドは大きな視野に立って、この演出を選択していたのではないだろうか。
SHISHAMO
メインステージに戻って、ラストスパートで「君と夏フェス」「君とゲレンデ」と、全員参加型の曲がたて続けに演奏されていく。一瞬にして夏から冬へ。そんな展開も気持ちいい。本編最後に演奏されたのは「明日も」だった。銀色のテープが発射されて、観客が握りしめたテープが揺れる中、会場内の全員を鼓舞していくような熱くて、暖かくて、力強い歌と演奏によって、アリーナ内に爽快感と開放感と躍動感が充満していく。SHISHAMOにとっては観客が、観客にとってはSHISHAMOが、前に進んでいく上での大きな原動力となっているのだろう。アンコール時に松岡が、「みなさんが楽しそうな表情で観てくれたので、私も楽しく演奏することが出来ました」と言っていたのだが、この日のステージは双方向のエネルギーの交換会でもあったのではないだろうか。ミラーボールの光が降り注ぎ、エンディングではメリハリの効いた照明も一体となった気迫あふれる演奏が展開された。本編は気迫でスタートして、気迫でのフィニッシュとなって、熱烈な拍手が起こった。
SHISHAMO
「アンコールなのに、まだこの景色に慣れません。いい景色です。ありがとうございます」という宮崎のMCに続いて、2019年から20年にかけてのワンマンツアーの開催が発表された。さらにサプライズで、2020年8月9日に等々力陸上競技場で『SHISHAMO NO 夏MATSURI!!! ~おまたせ川崎2020~』が開催されることも発表されて、悲鳴にも似た歓声と大きな拍手が起こった。その反応を見て、吉川が涙する場面もあった。
「リベンジできることももちろん嬉しいんですが、みんなが声をあげてくれて、待っててくれたんだなというのが一瞬でわかって、嬉しかったです」と吉川。2018年8月に予定されていた『SHISHAMO NO 夏MATSURI!!! ~ただいま川崎2018~』が台風のために中止になったという経緯がある。バンドは大きなアクシデントを糧にし、悔しさをバネにして活動してきた。“ただいま”という言葉が“おまたせ”に変わって、2年分の成長も反映した素晴らしいライブとなっていくのは間違いないだろう。
SHISHAMO
「この日に向けて、頑張っていけたらと思っています」という宮崎の言葉に続いて、アンコールでは10月にニューシングルとしてリリースされる「君の隣にいたいから」が演奏された。もともとは『第86回NHK全国学校音楽コンクール』中学校の部の課題曲として制作された曲だが、この場所、この瞬間にもぴったりだ。柔らかな歌声、ジェントリーなユニゾンのギター、味わい深いベース、体温のあるドラムがフレンドリーな空気を生み出していく。爽快な風が吹き抜けていくようなエンディングも鮮やかだった。メンバーそれぞれが全力を投入してやりきったからこその清々しさが漂う。鳴り止まない拍手の中で、3人は手を繋いで、お辞儀して挨拶した。
SHISHAMO
集大成というよりも通過点、転換点。そんな言葉を使いたくなったのは、バンドのさらなる可能性の大きさを感じさせるライブだったから。そして3人がアリーナ・ワンマンに果敢に挑んでいく意志と姿勢とが、この日演奏された曲たちに、観客への思いとともに、闘志や勇気を注ぎ込んでいると感じたからだ。バンドの足腰はさらに強靱になり、見えてくる景色はさらに壮観なものになっている。ひとつの山を越えると、また次の山が見えてくる。SHISHAMOはさらにたくさんの笑顔に会うべく、前に進み続けている。

取材・文=長谷川誠

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