吉川晃司、35周年ツアーファイナル。
信念がアップデートされた夜

 本年デビュー35周年を迎えた吉川晃司。デビュー記念日である2月1日の日本武道館からスタートしたアニバーサリーツアー「KIKKAWA KOJI 35th Anniversary Live TOUR」は、全国各地でソールドアウトとなり「吉川晃司」という人物の注目度の高さを証明した。本ツアーのファイナル公演が、9月8日幕張メッセ国際展示場4番で開催された。

Photography_Takashi Hirano
Text_Aki Ito

存在自体がパンクだった

 ここ近年、世間的には俳優業も活発な吉川だが、1984年のデビュー以降、コンスタントにライブツアーを行っている。また本人が「Live is Life」と謳っているとおり、ライブを軸に、活動をしてきた。吉川のデビュー当時=80年代前半は、テレビでヒットチャート番組、生放送の音楽番組が繚乱していた時代だ。デビュー当初、アイドル的な人気もあった吉川晃司は、新曲を出す度、連日テレビに生放送で登場し、片手でバック転をしたり、歌終りでプールに飛び込んだり、ステージにシャンパンをぶちまけギターを燃やしたりと、じつに破天荒な存在だった。
 存在時代が、パンクだった。既存のセオリーから、はみ出していたのである。
 このスピリッツは、今でも吉川晃司を形成する中で、最も重要なファクターだ。 

ヒットシングル連発、その変化

この日のライブは、ファンキーなパーティーチューン「Juicy Jungle」で幕を上げた。しょっぱなからメタルテープが放たれ、観客を喜ばせた後、続けて「BE MY BABY」(by COMPLEX)へ。吉川は、この曲のひとつの肝であるギターソロも担当した。スタンドマイクで歌い、その隣に配置されたギターでソロを弾き、左手をネックに置いたまま、右手でマイクをひきよせ、再び歌い出す。その一連の動作のしなやかなこと。前述した長年の音楽活動とスキルがあってこそ実現したミラクル。吉川のギタリストとしてのスキルがわかるシーンだった。
3曲終わったところで、この日最初のMC。「35周年なんで、懐かしいあんな曲からこんな曲までやっていきますよ」とチャーミングな笑顔を見せた後「17歳の時に弾いていたギターです。まだ元気だった」と、1985年1月に発売されたシングル「You Gotta Chance ~ダンスで夏を抱きしめて~」へ。吉川晃司主演映画の主題歌にもなったこの曲は、初めてシングルでチャート1位を獲得した1曲でもある。80年代ならではの打ち込みを重ねたインパクトのある三連符から始まるビートチューンに、会場が即座に反応してバウンドする。ここからは、まるで「1人でベストテン」。80年代中盤のヒットシングルを連発していく。「にくまれそうなNEWフェイス」では、右手をひらひらさせるリリース当時のアクションを見せたかと思えば、最後にはキーの一オクターブ上を地声で歌うというアドリブも披露。「サヨナラは八月のララバイ」の最後のシャウトでは、これまで滅多にやらなかったフェイクも見せた。懐かしい曲が思い出のシャワーのように、観客に降り注ぐ。イントロが始まる度、大歓声があがり、会場のボルテージも、一気にレッドゾーンまで振り切られた。
これまでの周年ライブでも、懐かしい曲はセットリストに組み込まれていたが、メドレーに入れられることが多かった。また、アレンジも象徴となるような音色やフレーズは残すが、生バンドのサウンドを前面に出したスタイルに変えられていたように思う。しかし今回は、違った。すべての懐かしい曲をフルで歌い、アレンジもなるべくリリース当時のままで再現しようとしていたように思う。もちろん、バンドメンバーのスキルとエネルギーで、とてつもなくダイナミックには、なっていたのだけど。
この変化は「ライブは観客のためにあるもの」という吉川晃司の信念がアップデートされた証拠だろう。

バラードでも座らない観客

ライブは中盤。ミディアムチューンやバラードが続く。シンガー吉川晃司の魅力、もっと言ってしまえば、吉川晃司が鳴らす声の表情を堪能できるブロックだ。ピアノ伴奏だけで歌った「I’M IN BLUE」では切なさと儚さを。「ONE WORLD」では孤独と力強さを。そして「Dream On」では大らかな包容力を。この10年くらいのヴォーカルアプローチの変化もあり、滑舌が抜群に良くなった分、言葉とメロディ、そして伸びやかな吉川の歌声が、際立ってくる。言葉のひとつひとつが明確に聴こえ、曲の輪郭がはっきりとわかるのだ。ゆえに、聴き手も曲に入り込みやすいのではなかろうか。立ったまま、吉川の声に聴き入る観客。バラードでも吉川晃司の観客は絶対に座らない。歴史あるアーティストのホールライブでは珍しい。この光景は、吉川晃司とそのファン達が、35年かけて作りだし、育んできたものだ。
吉川晃司のスピリッツをしっかり受け止めている観客の心意気も、また素晴らしい。

肌にビリビリくるギターロック

ライブは終盤へ。デビュー曲「モニカ」で会場全体でコールアンドレスポンスが起こる。グリーンとレッドのムーヴィングライトが交差し、暗闇を引き裂いて「The Gundogs」、「Good Savage」。骨太なギターロックが塊りになって幕張メッセを駆け抜けていく。ギター小僧よろしく、ギターをかきならす吉川晃司。肌にビリビリくる音圧、重厚でソリッドなギターロックは、じつは吉川晃司の得意技のひとつである。「元々、そういう音楽が好きだから」と、インタビューで本人が言っていたが、生形真一(G)、ウエノコウジ(B)、湊雅史(Dr)、ホッピー神山(Key)というバンドメンバーを得て、よりダイナミックになったギターサウンドの切れ味は、まさに圧巻だった。本編ラストは、アーシーなミディアムポップチュ―ン「BOY’S LIFE」。この日、幕張メッセに集結した12000人のシンガロングが響いた。

2020年の全国ツアーを発表

アンコール。「全国、満員御礼でございました。ありがとう」と本ツアーを振り返った後「来年もツアーをやります」とひとこと。大歓声が起こる会場に向かいこう続けた。
「新しいホールができるので、(2020年の)5月にこけら落とし3daysやる予定です。そこからツアーがスタートするのかな。来年もしっかり音楽をやっていきたいと思っています。楽しみにしていてください」。
「オリンピックまでは歌い続けるから」と、水球日本代表Poseidon Japan公式応援ソング「Over The Rainbow」を披露。「SPEED」「せつなさを殺せない」と、最後まで観客を躍らせ、歌わせた。ファイナルのフィナーレを迎え、上気した笑顔と「ありがとう」という歓声、鳴りやまない拍手。それぞれの思いが会場に溢れる。ステージ上の吉川、バンドメンバーにも、観客にも、光る汗が見える。照明にあたり、キラキラ光る汗。満足げな表情とも相まり、まるで小さな勲章のように見えた。

 明るくなった会場に吉川が語りかけるように言う。
「笑顔で再会を。気を付けて帰ってください。今日は本当にありがとうございました」
 この日、深夜から早朝にかけ、大型台風の上陸がアナウンスされていた関東地方。ライブが終わった後、観客の帰路を心配し、ステージ上から「気を付けて帰って」と繰り返しアナウンスしていた吉川晃司。1人の人間として仲間を案ずるその姿が、とても印象的だった。

吉川晃司は止まらない

アンコールで本人が発表した次なるツアーは、2020年、5月3日、有明ホール(仮称)からスタートする。タイトルは『KIKKAWA KOJI LIVE 2020』。現在18カ所20公演が発表となっていて、久しぶりに山陰地方や、四国地方でのライブも組み込まれている。“地方・場所”という観点から見れば、近年では最多の規模だ。
吉川晃司は止まらない。「止まったら死んじゃうから(笑)」と本人はインタビューで笑っていたし、たぶん、本当にそういう性分なんだと思うが、じつはそれだけじゃない。
求める人がいるから、止まらないのだ。
たぶんみんな、あの汗を求めている。ちょっと乱暴に言ってしまえば、情報でさえ不確かな時代に、時間を共有し、心を通わせる、そんな確かな空間を求めているのだろう。
だから吉川晃司は止まらない。多くの人と“確かなもの”を、共有するために。
 

吉川晃司 オフィシャルサイト
吉川晃司 スタッフ Twitter

吉川晃司、35周年ツアーファイナル。信念がアップデートされた夜はミーティア(MEETIA)で公開された投稿です。

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「Music meets City Culture.」を合言葉に、街(シティ)で起こるあんなことやこんなことを切り取るWEBマガジン。シティカルチャーの住人であるミーティア編集部が「そこに音楽があるならば」な目線でオリジナル記事を毎日発信中。さらに「音楽」をテーマに個性豊かな漫画家による作品も連載中。

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