マカロニえんぴつ・はっとりの中で芽
生えた気持ちの変化ーー「救う」とい
う言葉は嘘くさくて無責任に感じるけ
ど、それでも僕らは音楽で誰かを救い
たい

ミニアルバム『season』をひっさげて、全国15か所をめぐるワンマンツアー『マカロックツアーvol.8〜オールシーズン年中無休でステイ・ウィズ・ユー編〜』を10月25日からスタートさせるマカロニえんぴつ。トレンドが毎日変わっていくこの世の中。物事の旬は、一瞬のうちに過ぎ去ってしまう。いつの頃からは、「普遍的」なんて言葉を耳にすることは、ほとんどなくなってしまった。『season』では、現在の社会の状況だけではなく、あっという間に過ぎ去ってしまう青春時代、恋愛のはかなさなど、まさにTwitterのトレンドワードのように、めくるめくスピードで様々な物事が迎えられ、そして過去のものになっていく様が描かれている。先述のツアーは、2020年1月12日、バンドのワンマン史上最大キャパとなるマイナビBLITZ赤坂での公演をもってファイナルを迎える。それまでに『season』の楽曲群はどのように育まれるのか。これらの曲は、旬を過ぎることなく、聴き手にとってずっと「トレンド入り」できるのだろうか。今回はメンバーである、はっとり(Vo.&Gt.)に、同作について話を訊いた。
はっとり(マカロニえんぴつ) 撮影=日吉“JP"純平
――『season』には、「ヤングアダルト」「青春と一瞬」などマカロニえんぴつらしい愛の曲もありますが、これまで以上に物事の見方に関して俯瞰性を感じさせるところもあります。
バンドを取り巻く状況の変化とともに、歌いたい内容も変わってきたことが影響しています。これまで「マカロニえんぴつの歌はこういうものだ」と、どこか自分たちで枠を作っていました。報われない恋愛だったり、すがったり、しがみついたりする人だったり。でも今、バンドの状況が良くなってきて、「自分たちだけの力ではここまでこれていない」とすごく感じ、たくさんの優しさをもらってここまで来れたなとすごく感じています。世の中は決して報われないものだけではないという、今までよりちょっと幅を広げて伝えたいと思いました。
――「ヤングアダルト」に、<夢を見失った若者たち><ハロー、絶望>といった歌詞もありますけど、ネガティブな感覚ではないですよね。何歳になっても消えない不安や不穏な空気感はまとっているけど、前向きにとらえられる内容になっています。
僕ら自身、右も左もわからないままデビューをして、下北沢SHELTERでのワンマン(2016年3月)まではトントン拍子でくることができました。ただ、お客さんがたくさん来てくれる理由がつかみきれていなかったんです。そして、いっぱいいっぱいになってしまったんですよね。
――どう、いっぱいいっぱいになったんですか。
「もっと売れるために」とか、そういう曲作りを考えるようになってしまったんです。離れてしまうお客さんも当然多くいました。そういったことを経て、バンドをやる難しさが出てきたんです。落ちたタイミングも自分たちで知っている。そんな中、7年目でまたバンドの本質がつかめてきた。自分たち自身が報われない時期を知っているからこそ、「続けていたら希望もある」と実感した。「ヤングアダルト」にはそういった状況があらわれているかもしれません。
はっとり(マカロニえんぴつ) 撮影=日吉“JP"純平
――その話につながっているかもしれませんが、マカロニえんぴつの曲には、「夜」がたくさん出てきますよね。今回は「ヤングアダルト」「二人ぼっちの夜」、過去作でも「ブルーベリー・ナイツ」「ミスター・ブルースカイ」「girl my friend」「夜と朝のあいだ」「レモンパイ」など。
ああ、こすりまくってますね(笑)。
――そうなんです。ほかにも「夜」をイメージさせるワードも出てきます。夜って、新しい物事が始まる前触れの表現でもあるので、夜をこえて、新しい一日=希望に繋がるのかなって。
それはあるかもしれません。僕としては、一人を実感するのは夜だけだと思っているんです。人にとって、もっともリアルな時間。一人になりたい時ってありますけど、一人ぼっちにはなりたくない。でも、そういう時間は絶対に訪れるし、乗り越えなきゃいけない。次に向かうために、自分とあらためて向き合うことができる夜は、時間として必要なんです。僕自身、いろんなことを思い返したり、寂しい感覚を抱いたりするから。
――どういうときに寂しくなるんですか。
一人で、アルコール度数の高いお酒を飲んでいて、Instagramで友だちのストーリーを見ているときですね。なんとも形容しがたい寂しさに襲われます。
――そのストーリーにはどんなことが書いてあるんですか。
まあ、往々にしてハッピーなことしか書いていないですよね。あと、「何か質問ありますか?」というストーリー。「別にそこまでお前に興味はないよ!」と思ったりして(笑)。
――つっこみをいれるわけですね(笑)。
でも、そういう自分を客観的に見たときに、「いや、はっとり。お前が一番寂しいよ」となるんですよ。だけど僕の場合はそれを歌にすることができる。だから、寂しさがなければダメなんです。とは言っても、最近はそこまで「寂しい」とはならなくなりました。デビュー当時は寂しさから生まれる辛さ、悲しさを曲にしていましたが、今は他人のインスタを見て「こういう人もいるのか」と客観性を磨くことができています。
はっとり(マカロニえんぴつ) 撮影=日吉“JP"純平
――でも確かに今作は、世の中、社会との向き合い方を客観的に見たような楽曲が多いですよね。
気持ちに余裕が出てきたところはあります。1stアルバム『CHOSYOKU』の曲なんかは一貫して別れのことを書いていますが、あのときはそういうことしか書けない時期でした。『CHOSYOKU』に限らず、歌詞を書くことに関しては、一度自分をどん底まで落としたくてしょうがなかった。
――今はそこまでする必要がなくなってきた、と。
先ほどお話をしたように、バンドを取り巻く状況も良くなったし、たくさんの方に曲を聴いてもらえるようになったので、今はそこまでする必要はない。もしかすると僕はもう『CHOSYOKU』のような曲は書けないかもしれない。でも、今には今しか作れない歌があると思うんです。以前まではこういうことを歌えたのに、今は歌えないということだってある。一方で、自分の中でヒリヒリした感覚が薄らいでいるんじゃないかという危機感や葛藤はあります。
――いや、それは聴いている側は感じないですよ。
自分ではそう感じちゃうんですよね。でも今は、思ってもみないような曲が作れたりします。「青春と一瞬」なんてまさにそうです。曲を作ることって、人に夢を見せる、希望を見せることだと思うんです。みんな苦しいときって、答えをもらいたいのではなく、人に理解をして欲しいものなんだって気づきました。「救う」という言葉はいかにも嘘くさくて無責任に感じるけど、それでも僕らはそうやって、音楽で誰かを救いたいと考えるようになった。そこまで大げさではなくても、苦しい人の気持ちを楽にさせてあげられたらなって。

はっとり(マカロニえんぴつ) 撮影=日吉“JP"純平

――4thミニアルバム『LiKE』に収録されていた「ワンルームデイト」では、<僕に頼ってくれ>と言っていたけど、それも人を救うという言葉に近いですよね。
でも『LiKE』あたりからは、リード曲に芯があるものができたら、ほかは結構遊び心を持って作っていて、「ワンルームデイト」は実はそこまで気負った気持ちはなかったんです。むしろドタバタコメディ。今回の「恋のマジカルミステリー」はあの曲の続編的なイメージで、「こんな男って愛おしくて微笑ましいよな」というくらいのテンション感。
――たしかに「恋のマジカルミステリー」には、美学、ロマン、勲章という男の大義みたいな言葉が並んでいる。ある意味で滑稽的ですもんね。
シリアスにし過ぎないというか。曲調も90年代の雰囲気だし、今はあえて使わないワードを入れていった。ダーリン、背広とか。「ヤングアダルト」が自分的に感情が強いものになったので、ほかは意識的に軽妙にしていった。そうしないと真面目過ぎてダサいアルバムになっちゃう。
――とは言っても、『恋のマジカルミステリー』のあとには、<終わるための恋>という歌詞がズシッとくる『二人ぼっちの夜』がきちゃいますけど。
そうですね、結局は重くなっちゃいましたね(笑)。『LiKE』のときにできていた曲。「終わる恋」というのは、今までも歌ってきたテーマですね。
――かつて「洗濯機と君とラヂオ」でも、<この恋が この夜が 最初で最後だ>と終わる前提の恋を描いていらっしゃいました。
うん、報われない恋の楽曲群の一つ。でも、終わるための恋が心地良いときってあるんです。そこにちょっとした罪悪感も生まれるけど。
――『二人ぼっちの夜』には午前2時という時間をあらわす歌詞が出てきます。そういえば「ブルーベリーナイツ」でも、<さよなら25時>とかありましたけど。はっとりさんにとって、これくらいの時間帯には何を意味しているんだろうって。
深夜の1時、2時……。毎週、下ネタばかり喋っているラジオ(J-WAVE『THE KINGS PLACE』)をやっている時間ですね!

はっとり(マカロニえんぴつ) 撮影=日吉“JP"純平

――ハハハ(笑)。この「二人ぼっちの夜」のあとに収録されているのが、世の中への皮肉もこめられた「TREND」。『season』を象徴する一曲ですよね。
『season』では、あえて自分たちのことを「今が旬だ」と言っているんですよね。それは、皮肉の気持ちを込めている。だって、旬が終わったら腐っちゃうだけじゃないですか。
――その「旬」という言葉を、トレンドというワードで表現している。Twitterでよく使われる言葉です。
トレンド入りして、そのあとはトレンド落ちが待っている。消費が激しい社会の中で、トレンドは毎日どんどん変わっていく。他人への「いいね」よりも、自分にとっての「いいね」の方を大事するべきだし、そういう価値観が広がっている気がします。みんなもうトレンド自体、アテにしていないんじゃないですか。
――自然発生的にトレンドになるものもあれば、明らかに企業などが作り上げたトレンドも世の中にはたくさん紛れ込んでいますしね。
その中で本当に自分が「いいね」と感じたものだけを選べばいい時代だし、そうあるべき。流行りが、自分に刺さらなくてもいいわけだし。
――Twitterは顕著ですけど、みんなバズるための大喜利状態になっていますよね。人にウケることばかり狙っている。本当に伝えたいものがどこにあるのか……。
もはや、あるある合戦になっている。あと、“いいね稼ぎ”ですよね。炎上とか、もう誰も火傷しなくなっているし。SNS疲れや情報疲れは、みんなかなり感じているんじゃないかな。そこへの疑問や怒りはないんだけど、そういった風潮についてこの曲で投げかけたかった。「みんな、疲れているよね」って。それを言い当てるフレーズをはめこんでいきました。

はっとり(マカロニえんぴつ) 撮影=日吉“JP"純平

――ただ、かつての楽曲でも、流行りものに対して一石を投じていましたよね。
そう、『STAY with ME』ですよね。流行に簡単にながされちゃうことに対して、イエスでもノーでもないんですけど、ただ「ダセェな」と感じることが多い。僕は本質がしっかりしているものに心が動かされる。今の流行りには、そういうところが弱い気がする。ただ、こちらがどれだけ流行りものを否定したって、そこに需要があればそれはこちらの負け犬の遠吠え。それでも「俺はダサいと思うけどね」という意見はあります。
――そして「青春と一瞬」。こちらは17歳という青春の時期を題材にあげていらっしゃいます。
17歳へのこだわりはそこまでないんです。ただ17歳は、共感性を生む年齢ではある。原田宗典さんのエッセイ集『十七歳だった!』ってあるじゃないですか。17歳のくだらなさなど、いろんなことが書かれている。自分の17歳に固執せず、その年齢をもとに、聴く人にイメージをしてもらいたくて作りました。
――<つまらない、埋まらない退屈だけを愛し抜け>という歌詞がありますが、逆に年齢を重ねるにつれて、退屈とかつまんないってことをそのままやり過ごしたり、「退屈だけど、まあいっか」とすんなり受け入れがちになったりしませんか。
ああ、わかります。歳をとると、受け入れ方、乗り越え方、騙し方がうまくならざるを得ないですし。この「青春と一瞬」という曲には、情熱を絶やさないで欲しいという想いをこめています。10代だけではなく、上の世代の人にも届いて欲しい。恥ずかしさ、退屈、そういうものにいちいち感動していたい。そんな気分を忘れたくない。
――はっとりさんも、退屈だなと思っても、何もせずやり過ごすことが増えていますか?
音楽をやっていると退屈な時間は少ないけど、それでも気をつけていないと、大事なものをついつい手放してしまっている感覚はあります。だから、歌を書く人間として、内面を常に耕し続けていたい。ただ僕自身、人への興味が深くなっているし、視野も広がっている気がする。わりと「ヤングアダルト」なのかもしれません。
はっとり(マカロニえんぴつ) 撮影=日吉“JP"純平
――『season』をひっさげた『マカロックツアーvol.8〜オールシーズン年中無休でステイ・ウィズ・ユー編〜』では、これらの曲の反応が楽しみですよね。
ライブでどのように聴いてもらえるか、今は本当にわからない。どんなふうに曲が育つのか楽しみ。一つだけ言えることは、今まで以上に丁寧にパフォーマンスをしていきます。ライブDVDをあらためて見ると、演奏で雑なところが気になって「もっと練習をしなきゃいけない」と気が引き締まりました。マカロニえんぴつは気を張って演奏しないと楽曲のニュアンスも変わるし、テンポも細かく注意しなければならない。勢いで押し通すライブは、良くないんです。とにかく丁寧に、今までよりもクオリティをあげたライブを目指したいです。
取材・文=田辺ユウキ 撮影=日吉“JP”純平

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