映画『HiGH&LOW THE WORST』ポスター 配給:松竹(C)2019 高橋ヒロシ(秋田書店)/「HiGH&LOW」製作委員会

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鬼邪高校全日制に通う轟洋介くんのこ
と~ 映画『HiGH&LOW THE WORST』 を
見て~:ロマン優光連載146

ロマン優光のさよなら、くまさん
連載第146回 鬼邪高校全日制に通う轟洋介くんのこと~ 映画『HiGH&LOW THE WORST』 を見て~ LDHが送るスーパーバトルアクションシリーズ 『HiGH&LOW』シリーズ(通称・ハイロー)の新作映画 『HiGH&LOW THE WORST』 が公開され、さっそく見に行ったのですが、いや本当に最高でした。そういうわけで、私も 『HiGH&LOW THE WORST』について何か書いてみようと思うのですが、あそこのアクションがとか、あの俳優さんがとか、そういうのはもっとそれを得意にしている人や専門の人にまかして、独壇と偏見と妄想で好きなことを書きたいと思います。
 ハイローといえば公式設定(ガバガバめ)、演者が自分で考えた脳内設定、見たオタクがよくわからない部分を補完するために考えた脳内設定といった情報が入り乱れて撒き散らかされ、演者やオタクの妄想が公式に採用されたりするような世界であり、勝手に思ったことを勝手に書き散らすのも、非常に正しい在り方だと思ってます。
 轟洋介という男がいる。天下の不良校・鬼邪高の全日制に通っているわけだが、別に不良というわけではない。金持ちの息子ということで不良にいじめられた過去から、不良という存在自体に復讐するために体を鍛えあげ不良狩りを始めた男だ。鬼邪高に転校してきたのも、全国ナンバーワン不良校である鬼邪高のトップを倒すことは、不良の頂点を獲ることであり、それによって全不良に対する復讐を完成させるためである。そして、鬼邪高定時制の番長である村山さんとタイマンをはって破れ、以後は村山さんに大好きなのに素直になれずに噛みついていくみたいな人になっている。非常に素直でなく、めんどくさい人だ。
 轟はメガネをかけていて端正な容貌をしているために頭がいい人に見られがちだ。しかし、ほんとうにそうなのだろうか? 実は全国ナンバーワンの不良校とは鬼邪高の定時制のことを指していて、全日制は普通程度の不良校でしかない。轟は転校初日に全日制の不良をシメて、初めてその事実を知ったのだが、自分の転校する学校に全日制と定時制が存在していることも知らないような人間が果たして頭がいいのだろうか?
 また、 映画の前日譚が語られるテレビドラマ『HiGH&LOW THE WORST episode.0』にて『君主論』を読んでいたことも、轟が知性派の証であることの根拠として語られる場合もある。しかし、ここで轟が読んでいたのは『君主論』ではなく『アタマのための君主論』という本だ。タイトルから察するに『君主論』の内容を適当に引っ張ってきて、なんかタメになるっぽいことを言ってたりするようなタイプのビジネス本のたぐいだろう。『リーダーのための足利義教語録』とか『戦国武将・小田氏治から学ぶチャレンジ・ビジネス』とか、そんなたぐいのいい加減なハウ・トゥ本みたいなやつに決まっている。果たして、本当に頭がいい人がそんな本を読むだろうか? 本当に知的な人種なら、そんな本読まずに、岩波から出てるちゃんとした『君主論』を読んでるだろう。
 だいたい、轟があんな本を読んでいるのは、村山さんにリーダーとボスとの違いについて語られたから、自分なりに勉強しようとして間違った結果なのだろう。『君主論』は違うと思うぞ、絶対。あれは知的な轟ではなく、村山さんの言ったことの真意を知りたくて自分なりにがんばったけど、天然なので間違った本を手にしてしまった可愛い轟というシーンなのだ。とはいえ、轟一派の溜まり場に行ったら、轟は無言で『アタマのための君主論』という権謀術数とか書いてそうな本読んでるし、辻と芝マンは何か無言でテレパシー(注・轟の舎弟分である辻と芝マンの二人は「描写としては内面の声のはずなのに、互いにその内容が聞こえている」という謎のシーンが度々あったため、「二人はテレパシーで会話できる」という設定が一部のオタクの間に共有されている)で会話してるだけだし、誰も話しかけてくれないし、ほんと居心地悪いだろうな……。そんな目にあった高城司くんが「轟の下にはつけない」と言うのも、凄く納得。
 全日制・定時制を合わせた上で、村山さんの次に強いのは轟なのは鬼邪高生全員が認めるところなのに轟一派が三人しかいないのは、三人全員が他人とコミュニケーションがとれないタイプだからだろう。話してもくれない人のそばにいようとは普通は思わないし、それなら辻と芝マンが轟に代わって下の者とのコミュニケーションを果たさなければならないのに、奴らは二人でテレパシーばっかだし、こんな自己完結集団ではリーダーとかボスとか鬼邪高を支配するとか以前の問題だ。
 轟にだって仲間を思う気持ちはある。他校生にやられた鬼邪高生のために独りで相手高に殴り込みに行ったりだってする。そこに何も言わなくても駆けつける辻と芝マン。それはいいのだが、轟は自分から殴り込みに行ったなんて言わないし、辻と芝マンは二人でテレパシーしているだけだから、他の生徒は轟の善行を誰も知らないのだ。轟はそういう不器用な男だし、辻と芝マンもたいがいなのだ。
 ハイローシリーズには互いに小石を缶などに投げ合いながら語り合うという儀式が登場する。石を缶に当てることが目的ではなく、互いにまだ打ち解けてないもの同士が腹を割って喋ろうという時に、面と向かって語り合うのも気まずいので、それをごまかすために互いに缶に石とか投げるという行為を挟み込んでいるのだと思う。本篇の主人公花岡楓士雄がそれを轟とやろうと試みたところ、轟は最初の一撃で缶を薙ぎ倒してしまった。こういう空気が全く読めないのが轟という男だ。空気が読めないというか、あそこで自分の投てき能力を全力でアピールする意味がわからない。単なる変な人だ。夜の眼科から出てきて、医者が立ち会ってもないのに眼帯をカッコつけながら捨てるのも変だ。誰も見てないのに何カッコつけてるのだ。実際は楓士雄がこっそり見てたのだが、普通あんな独りでカッコつけてるとこ見られたら赤面するはずなのに、堂々としてるのも変だ。
 轟という男は不良ではない。単なる変人だ。それも、すごくすごく変な人だ。自己完結してて、ナルシストで、コミュニケーション能力に欠けていて、天然ボケの凄く変な変人だ。そんな轟が人たらしの楓士雄と出合うことで、積極的に他人のために動こうとする。それはロボットに人間の心が芽生えるような奇跡的な成長の瞬間だ。
 俺は轟が好きだ。
 体を鍛えてゲームの真似をしているだけで強くなった轟が好きだ。
 単にカッコいいからメガネをかけてる轟が好きだ。
 一撃で缶を薙ぎ倒してしまう轟が好きだ。
「村山ァァァァ」と叫びながら村山さんに挑む轟が好きだ。
 会話がめんどくさいと、すぐにハイキックで相手を沈めようとする轟が好きだ。
 村山さんが大好きだけど全然素直にならない轟が好きだし、村山さんを倒したい、越えたいという気持ちを忘れない轟が好きだ。
 クールなようで、不器用で、どこか間抜けで、変に暑苦しくてめんどくさい轟が好きだ。
 俺は轟洋介が大好きだ。
(隔週金曜連載)
写真:映画『HiGH&LOW THE WORST』ポスター 
映画『HiGH&LOW THE WORST』は松竹系で公開中
(c)2019 高橋ヒロシ(秋田書店)/「HiGH&LOW」製作委員会

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