「命の続く限り役者人生を」松本白鸚
のミュージカル『ラ・マンチャの男』
1300回達成!記念特別カーテンコール
レポート

松本白鸚主演のミュージカル『ラ・マンチャの男』が、2019年10月21日(月)に、上演回数通算1300回を達成した。会場は、1969年4月の初演と同じく東京・帝国劇場。初演当時は染五郎として、その後、幸四郎を名乗り、今回は白鸚の名で主人公セルバンテスを演じている。
1300回目の公演が万雷の拍手で終演すると、通常のカーテンコールの後に一度暗転。そしてスペシャル・カーテンコールが始まった。サンチョ役の駒田一が進行し、アルドンザ役の瀬奈じゅんが、白鸚に花束を手渡すと、白鸚はドン・キホーテがドルシネアに捧げるような恭しさで花束を受け取った。
記念すべきこの日は、元女優で、1965年の本作世界初演でアントニア役を演じたミミ・ターク(Mimi Turque)さんも帝国劇場の客席に。
「この素晴らしい公演を拝見でき感動しています。“見果てぬ夢”を引き継いで下さったことに感謝します」と述べ、感極まった様子で白鸚に向け何度も「ありがとう」と言った。
白鸚はその言葉に涙をおさえながら、1970年に、ブロードウェイで全台詞英語の舞台の主演をつとめた時をふり返り、演出補でありミミさんの夫であったミックに助けられたことが、忘れられないと感慨深げに語った。
ただ一生懸命に無我夢中に50年
白鸚は花束を腕に抱え、感謝を述べた。
「初演以来50年、私も喜寿を迎えます。皆さまと一緒に、ただ一生懸命に無我夢中に続けておりましたが、それも劇場に足をお運びくださった皆さまのおかげです」
「(劇中で)現実真実と申しますが、私どもが生きるのは現実の世界。皆さんもご存じのとおり、楽しいこと嬉しいことばかりではありません。でも『ラ・マンチャ』をやるときは、苦しみを苦しみのままで終わらせず、勇気に変えて。悲しみや辛さをなんとか希望に……、という思いで続けてまいりました」
「共演者の皆さん、私の家族、友人、お世話になった方々。出演者の中にも東宝にも、この世にはもういらっしゃらない方がいます。皆さま方の思いを胸に、私は毎日毎日『見果てぬ夢』を歌い続けております。50年目を初演と同じ劇場で迎えられましたのも、ご来場いただいた皆さまのおかげです。これからも命の続く限り、役者人生を生きてまいりたいと思います」
客席から涙をこらえる息づかいが聞こえ、あちこちに目頭を押さえる人の姿がみえた。
共演者とともに本作を代表する曲『見果てぬ夢』を披露。曲のはじめをソロでうたう瀬奈は涙をこらえながら力づよく、並ぶキャストも感無量といった表情で歌い上げた。歌唱後は観客総立ちの、拍手喝さい。ミミさんも何度も「ブラボー!」と声をかけ拍手をおくり、客席の一部からは「高麗屋!」の大向こうもかかっていた。
松本白鸚のThe Impossible Dream
鳴りやまないスタンディングオベーションを受け、一度舞台をおりた白鸚は、花束をドン・キホーテの杖に持ち替えて再登場した。
「ニューヨークよりお越しいただいたいミミさんに。だいぶサビついてはおりますが、50年前のマーチンベック劇場を思い出して」と、英語バージョンの『見果てぬ夢(The Impossible Dream)』も披露した。その歌声は深く力強く、しかし押しつけがましさはない。大切な言葉を、しっかりと手渡すように歌い届ける。
この特別なパフォーマンスに、場内は総立ちのまま歌に耳を傾けた。最後は共演者たちが白鸚を囲み、帝国劇場に大きな拍手が響き渡った。白鸚は1階、2階、上手、下手、出演者やオーケストラピットのメンバーに何度も頭をさげ、拍手をし、最後は一人、観客に向かって手を振り、深々とお辞儀をして舞台を後にした。
白鸚は現在77歳。2時間を超える作品の中で、『ドン・キホーテ』の作者セルバンテス、劇中劇のドン・キホーテ、自分をドン・キホーテと信じるキハーナ老人の実質3人を演じ分ける。そのエネルギーはもちろん、円熟極まる人物描写は、観る者の心を掴む。歌舞伎俳優でありながら、日本のミュージカル史にも名を残すことになる松本白鸚の『ラ・マンチャの男』。帝国劇場で、今月27日(日)までの上演。
取材・文・撮影=塚田史香

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