東京バレエ団×勅使川原三郎の新作『
雲のなごり』 和歌と武満音楽ととも
に醸す雲の残り香

2019年10月26日(土)・27日(日)に、東京バレエ団が創立55周年を機に世界的な振付家にしてダンサー、勅使川原三郎に委嘱した作品、『雲のなごり』が上演される。バレエ団にとっては初の日本人振付家による新作だ。作品タイトルとそのイメージは藤原定家の和歌から題材を得、音楽は日本人作曲家の武満徹「地平線のドーリア」と「ノスタルジア ―アンドレイ・タルコフスキーの追憶に」を使用。それを日本のバレエ団が勅使川原の「ダンス」という言語を通して表現する。このほど世界初演を控えたハーサルが行われた。(文章中敬称略)
■終わりのない、「なごり」という永遠の世界の表現
東京バレエ団と勅使川原との共作は2016年、愛知トリエンナーレの際に勅使川原が演出したオペラ『魔笛』に東京バレエ団が出演したのが最初で、それが縁となり、今回の作品委嘱に繋がった。
勅使川原もまた「欧米でしばしば“なぜ日本のバレエ団に振り付けないのか”と聞かれ、“そういう依頼がないからだ”と答えていた。今回東京バレエ団に作品を振付ける機会をいただき、とてもうれしく思っている」と語る。振付家自身が望んでいた日本のバレエ団とのコラボレーションは、だからこそ「やりたいことがすぐ浮かんだ。悩むことはなかった」。
photo: Arnold Groeschel
その「やりたいこと」が、武満徹の音楽「地平線のドーリア」を使ってのクリエイションだ。「かつてワークショップで佐東利穂子(KARAS)の踊りとこの“ドーリア”の曲が呼応していると感じ、はっとした。いつかこの音楽の面白さにふれることの難しさを、ダンスを通して表現したいと考えていた」という。今回はその佐東も共演。「武満さんの音楽がかかった瞬間、全身で衝撃を受け、周りや、その温度までもが変わるような感覚だったことを記憶している」という。
photo: Arnold Groeschel
さらにその音楽を表現する際のテーマとして勅使川原が選んだのが、藤原定家の和歌であった。タイトルの「雲のなごり」という言葉は定家の和歌「夕暮れはいづれの雲の名残とて花橘に風の吹くらむ」からとられている。「明確に答えのあるものではなく、今はないものを感じること。暮れゆく風景の中、最後に残る花の香りのように、“なごり”という感覚が、いつまでも続くような永遠や宇宙といった、そうした感覚を表現してみたいと考えた」という。
■「勅使川原言語」理解に次第に熱がこもる
リハーサルに登場したダンサーは佐東のほか、バレエ団から勅使川原自身が選んだ沖香菜子、柄本弾、秋元康臣らのプリンシパルと、池本祥真(ファーストソリスト)、そして三雲友里加(ソリスト)の5人だ。今回のリハーサルは「踊りの土台作りで、一人ひとりの出演者が同じように音楽を捉える、いわば言葉を覚えている段階」(勅使川原)で、佐東が扇の要の位置に立ち、ダンサーらは彼女の振りや勅使川原の指示を受けながら、音楽に合わせて振りをひとつひとつ確認していく。いわばダンスを通じた「勅使川原語」の発音や発声の仕方を学んでいるという印象だ。
photo: Arnold Groeschel
ダンサーらは光や星の響き、宇宙空間の響きを思わせるような音楽に合わせ、A、A' などと名付けられた動きを、ゆったりと繰り返す。その動きを見ながら勅使川原の「もっと足の裏を使って」「重心をしっかりと」という身体の動かし方とともに、「水平線のむこうでさざめくような」「音楽が描く線画のような世界を」「強風の中で静けさが抵抗しているような感じで」などといった、なぞかけのような指示も飛ぶ。ジャンプや回転といった激しい動き一切はない。しかしリハーサルが進むにつれ、見ているこちらもじわっと汗ばんでくるような熱が伝わってくるのだ。
photo: Arnold Groeschel
リハーサルで使用する音楽は録音だが、「指揮者が今、この音楽と向き合い試行錯誤しているところだ。また音楽表現は演奏者の裁量に任されている部分も多いので、オーケストラが加わると踊りもまた変わってくるはず」と勅使川原。音楽や「言語」の解釈が深まったダンサーの踊り、加えてセットや衣裳が入った本番はどのような世界が舞台上に生まれるのか、期待が膨らむ。
■「ダンサーのポテンシャルを引き出すのが役目」。バレエ団の新たなステップへ
東京バレエ団ではこれまでも古典作品のほか、ベジャールやノイマイヤー、キリアンなど、数々の現代作品を踊ってきたが、今回の勅使川原作品はそうした作品とは明らかに違った、おそらくバレエ団としても初めてふれる「言語」だろう。
photo: Arnold Groeschel
リハーサルを終えた後、沖は「正直作品がどうなるかどうなるかわからずにいるが、どれだけ新しい世界に自分が入れるか、挑戦していきたい」と語る。柄本も「求めるものが今はまだ分からない。踊ったことのないダンスなので日々模索中だが、新しい作品が生まれる場にいられることはすごくいい経験だ」と話す。2016年の『魔笛』に出演した秋元は「『魔笛』の時は自分がしたことのない動きがたくさんあり、終演後にああすればよかったと思う一方で、もっと動き続けていたいとも感じていた。今回は風の動きや佇んでいる感覚に身を委ねていくうちに自然と作品となっているような、そうしたところを目指していきたい」と話した。
photo: Arnold Groeschel
こうしたダンサーの言葉を受け、勅使川原も「自分の仕事はダンサーのポテンシャルを引き出すこと。このバレエ団はレベルが高く、ダンサーたちはみなそれぞれ感じる力があり、芸術への献身性も感じる。この方向に向かって行けば間違いないと考えている」と話す。
斎藤友佳理芸術監督は「ダンサーにとって、短いキャリアの中で新作が誕生する瞬間に関われるのは非常に幸せなことで、これは自身に大きな成長をもたらすもの。私自身もいくつかの作品に関わる機会に恵まれ、その都度大きな発見があり、それが次の舞台への糧となった。今回の勅使川原さんとの創作で、ダンサーたちがひとつでも多くのことを学んでくれると信じている」とコメントした。
勅使川原が「学ぶ喜びを得るとダンスの風景が変わる」と語るように、リハーサルを通して、今回の新作のクリエイションはダンサーらのモチベーションが非常に高いなかで行われていることがうかがえた。新たな作品が与える新しいバレエ言語は、東京バレエ団の新たな財産となるに違いない。同時上演されるのは、ジョージ・バランシン『セレナーデ』と、次の公演が250回目の上演となるモーリス・ベジャール『春の祭典』だ。バレエ団の新たな魅力を発信する場となるに違いない。
取材・文=西原朋未 写真=Arnold Groeschel

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