『印象派からその先へ—世界に誇る吉
野石膏コレクション展』レポート 
近代美術のエッセンスが楽しめる、珠
玉の名品72点が集結

三菱一号館美術館にて『印象派からその先へ—世界に誇る吉野石膏コレクション展』が開催中だ(会期:~2020年1月20日)。本展は、大手建材メーカーの吉野石膏株式会社が有する美術コレクションを、日本ではじめて本格的に紹介するもの。
ピエール=オーギュスト・ルノワール 《赤いブラウスを着た花帽子の女》 1914年 吉野石膏コレクション
ピエール・ボナール 《靴下をはく若い女》 1908-10年 吉野石膏コレクション

風景画家のコローやバルビゾン派のミレーにはじまり、モネ、ルノワール、ピサロたち印象派から、セザンヌ、ゴッホなどの後期印象派、さらにはピカソやシャガールなど20世紀の作家まで。フランス近代絵画の流れを一望できる作品群には、優しく親しみやすい作品が多く含まれている。

クロード・モネ 《睡蓮》 1906年 吉野石膏コレクション
ポール・セザンヌ 《マルセイユ湾、レスタック近郊のサンタンリ村を望む》 1877-79年 吉野石膏コレクション

三菱一号館美術館館長の高橋明也氏は、「1980年代以降に形成された日本の西洋絵画コレクションとしてはトップクラス」と絶賛する。なかでも、ピサロやシスレーによる風景画の数々や、パリ時代の代表作から晩年の名作をそろえたシャガールの油彩画は見逃せない。
展示風景
油彩以外にも、ルノワール、ドガ、カサットによるパステル画を含む全72点の作品が集う会場より、本展の見どころをお伝えしよう。
展示風景
展示風景

充実した印象派のコレクションに浸る
本展覧会は全3章からなり、第1章の冒頭では、身近な自然の風景や労働者の姿を描いたコローやミレーの作品が紹介される。
右:ジャン=バティスト・カミーユ・コロー 《牧場の休息地、農夫と三頭の雌牛》 1870-74年 吉野石膏コレクション
ジャン=フランソワ・ミレー 《バター作りの女》 1870年 吉野石膏コレクション

続いて、都市生活を主題に絵画を描いたエドゥアール・マネ、光や大気の変化を、明るい色彩と素早い筆致でキャンバスに描き出した印象派、20世紀の前衛芸術を予告するようなセザンヌやゴッホなど、後期印象派たちの絵画が並ぶ。
アルフレッド・シスレー 《モレのポプラ並木》 1888年 吉野石膏コレクション
フィンセント・ファン・ゴッホ 《雪原で薪を運ぶ人々》 1884年 吉野石膏コレクション

特に、水辺の作品を明るい色彩で描いたアルフレッド・シスレーと、印象派の画家の中で最年長のカミーユ・ピサロの作品は、一部屋ずつ展示室が割り当てられているので、それぞれの画家の作品をじっくり鑑賞したい。
カミーユ・ピサロ 《ポントワーズのル・シュ》 1882年 吉野石膏コレクション
本展初公開となるピエール=オーギュスト・ルノワールによる《箒をもつ女》は、シスレーの没後、同じ画塾仲間だったモネが主体となって、遺族のために開催した展覧会とオークションにて出品されたもの。46名の芸術家が1点ずつ作品を提供した中、ルノワールもまた友人の死を悼み、モネの呼びかけに応じたという。本展では、その際の出品作の1点にあたるシスレーの《ロワン川沿いの小屋、夕べ》も展示されている。
ピエール=オーギュスト・ルノワール 《箒をもつ女》 1889年 吉野石膏コレクション
アルフレッド・シスレー 《ロワン川沿いの小屋、夕べ》 1896年 吉野石膏コレクション

ルノワールやモネによる初期から晩年までの名品にも注目したい。第一回印象派展と同年の1874年に制作された、ルノワールの《庭で犬を膝にのせて読書する少女》は、「《ムーラン・ド・ラ・ギャレットの舞踏会》や《ぶらんこ》など、70年代中盤の代表作に通じるような秀作」と、岩瀬慧氏(三菱一号館美術館学芸員)。本作では、青々とした草むらの背景に溶け込むような青いドレスの少女と、揺れ動く木々や光の揺らめきが、画面の中で調和している。
ピエール=オーギュスト・ルノワール 《庭で犬を膝にのせて読書する少女》 1874年 吉野石膏コレクション
また、クロード・モネの《サン=ジェルマンの森の中で》では、木の葉が、赤、青、黄、緑など様々な色彩を用いて細かな筆致で描かれている。
クロード・モネ 《サン=ジェルマンの森の中で》 1882年 吉野石膏コレクション
フランス近代絵画の流れを見渡せる展示構成
第1章の後半では、ルノワール、ドガ、カサットによるパステル画が並べて展示されている。パステルの明るい発色を生かし、柔らかであたたかな画面を作り出したルノワールの《シュザンヌ・アダン嬢の肖像》や、パステル画の名手だったエドガー・ドガの《踊り子たち(ピンクと緑)》、子犬の毛並みを素早い筆致で描いたメアリー・カサットの《マリー=ルイーズ・デュラン=リュエルの肖像》と、各画家たちの作風を見比べるのも面白そうだ。
ピエール=オーギュスト・ルノワール 《シュザンヌ・アダン嬢の肖像》 1887年 吉野石膏コレクション
メアリー・カサット 《マリー=ルイーズ・デュラン=リュエルの肖像》 1911年 吉野石膏コレクション

第2章では、鮮やかな色彩や大胆な筆触を特徴とする野獣派の画家アンリ・マティスや、キュビスムの画家パブロ・ピカソ、さらにはワシリー・カンディンスキーによる抽象絵画まで、20世紀前半のモダン・アートを牽引してきた画家たちの作品が集う。なかでも、ピカソがパリのフォンテーヌブローの風景を描いたパステル画は非常に珍しく、本展の見どころのひとつになっている。
右:アンリ・マティス 《緑と白のストライプのブラウスを着た読書する若い女》 1924年 吉野石膏コレクション 左奥:アルベール・マルケ 《ロルボワーズ》 制作年不詳 吉野石膏コレクション
ワシリー・カンディンスキー 《過度なヴァリエーション》 1941年 吉野石膏コレクション

第3章では、諸外国からパリのモンマルトルに集ったエコール・ド・パリの作家たちの作品が並ぶ。本章は、詩情豊かな作風で知られるマルク・シャガールのパリ時代の作品《パイプを持つ男》から、画家が92歳の時に描いた最晩年の作品《グランド・パレード》まで、計10点が出品される。ほかにも、「白の時代」と呼ばれる画家の最盛期に描かれたモーリス・ユトリロの《モンマルトルのミュレ通り》や、パステルカラーを用いて、優美な女性像を描いたマリー・ローランサンの肖像画など、パリで活躍した個性的な画家たちの作品もあわせて紹介されている。
モーリス・ユトリロ 《モンマルトルのミュレ通り》 1911年頃 吉野石膏コレクション
右:マリー・ローランサン 《五人の奏者》 1935年 吉野石膏コレクション 左奥:同作者 《羽扇をもつ女》1937年 吉野石膏コレクション
モイーズ・キスリング 《背中を向けた裸婦》 1949年 吉野石膏コレクション

印象派後の様々な芸術潮流をおさえた作品群は、フランス近代絵画の流れを見渡せると同時に、絵画表現の多様さを体感できるコレクションになっている。
『印象派からその先へ—世界に誇る吉野石膏コレクション展』は2020年1月20日まで。印象派をはじめとする優れた名品の数々を堪能できる機会に、ぜひ足を運んでみてはいかがだろうか。

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