2020年『アニー』は「成熟と新鮮」~
ウォーバックス/藤本隆宏、ハニガン
/マルシア、グレース/蒼乃夕妃、ル
ースター/栗山 航、リリー/河西智

【THE MUSICAL LOVERS】Season 2ミュージカル『アニー』

【第34回】2020年『アニー』は「成熟と新鮮」​
2020年の丸美屋食品ミュージカル『アニー』(主催・製作:日本テレビ放送網/協賛:丸美屋食品工業)の制作発表が2019年12月9日、都内で行われた。
(後列左から)山田和也 河西智美 蒼乃夕妃 藤本隆宏 マルシア 栗山 航 篠﨑光正 (前列左から)荒井美虹 德山しずく
日本テレビ主催により1986年から日本での上演がスタートしたミュージカル『アニー』の舞台は、世界大恐慌直後の1933年、真冬のニューヨーク。誰もが希望を失う中、本当の両親が迎えに来る「明日」を信じて生きる孤児・アニー。そんなアニーをとりまく個性あふれる孤児たち、アニーによって変わってゆく大人たちが繰り広げるストーリー展開と、「Tomorrow」をはじめとする名曲の数々が、これまでのべ180万人もの観客に感動を与え続けてきた。
35年目となる2020年公演は、2020年4月25日(土)~5月11日(月)に新国立劇場中劇場で開催される(8月より大阪・群馬・名古屋・富山でも上演)。2017年・2018年・2019年に引き続き、演出は山田和也、音楽監督は佐橋俊彦、振付・ステージングは広崎うらんが担当する。
この日は大人キャストが発表になった。ウォーバックス役、ハニガン役、グレース役にはこれまで『アニー』に出演してきた実力派を据え、ルースター役、リリー役にはフレッシュな顔ぶれを起用した。
大富豪ウォーバックス役には藤本隆宏。2017年に丸美屋食品ミュージカル『アニー』が山田和也演出に刷新されてから4年連続、同役を演じる。
アニーたちにとっては恐怖の存在である、孤児院の院長ハニガン役にはマルシア。2017年に『アニー』が山田和也演出に刷新された際に同役を演じた。
大富豪ウォーバックスの秘書グレース役には蒼乃夕妃。2019年に同役を演じた。
ハニガンの弟ルースター役には栗山 航(わたる)。男性エンターテイメント集団「男劇団 青山表参道X」リーダーであり、2013年テレビドラマ『牙狼<GARO>~闇を照らす者~』主演・道外流牙役でデビュー、2016年『第4回ジャパンアクションアワード』にてベストアクション男優賞優秀賞を受賞したという華やかな経歴を持つ。
ルースターと組んでアニーたちをだますリリー役には河西智美。2006年AKB48の第2期生としてオーディションに合格、多くのシングルで選抜メンバーを務め、2013年に卒業後はライヴやミュージカルで活躍している。
会見では、はじめに日本テレビ放送網株式会社取締役執行役員の廣瀬健一が登壇。「1986年4月にスタートさせたミュージカル『アニー』も2020年に35年目を迎えます。現在、1986年当時を知るものは、局にもほとんどいませんが、私は情報系の番組で、PRのドキュメンタリーを担当したので、初演を観ました。スライディングステージ(仕掛けによって水平に移動する舞台)や、舞台が回る、当時としては画期的な演出でした。2017年から山田和也さんの演出に変わられて、常に時代と周りの状況にあわせ、中身も演出も少しずつ進化しています。それが35年間支持を得る最大の秘訣かと存じます。慢心することなく、常にひとつひとつのステージが新たな出会いだと思い、2020年も進化させていきたい」と挨拶を述べた。
廣瀬健一 日本テレビ放送網株式会社 取締役執行役員
次いで丸美屋食品工業株式会社 代表取締役社長の阿部豊太郎が登壇。「ミュージカル『アニー』は35年目となり、日本の定番ミュージカルになりました。2020年はオリンピック・イヤーで、夏は東京オリンピックがあります。『アニー』はGWから夏休みまで上演しますが、夏の公演はオリンピックをずらして調整しています。オリンピックの盛り上がりのあと夏の公演があります。ウォーバックス役の藤本隆宏さんはかつてオリンピックに2度出場、ハニガン役のマルシアさんもブラジル出身、と、国際的な活躍をされており、オリンピック・イヤーにふさわしい配役となりました。数千人から選ばれた才能あふれる優秀な子役さんたちと大人キャストが気持ちをひとつに、オリンピックに負けない感動をお届けできると思います。丸美屋食品も裏方として、すぐに食べられる即食型の製品を舞台裏・稽古場に差し入れし、胃袋をサポートさせていただきたい」と、企業協賛18年目ならではの思いを語った。
阿部豊太郎 丸美屋食品工業株式会社 代表取締役社長
制作発表会場の一角には丸美屋食品コーナーも。
いよいよ出演者たちの紹介だ。まずは大人キャスト、ウォーバックス役の藤本隆宏、ハニガン役のマルシア、グレース役の蒼乃夕妃、ルースター役の栗山 航、リリー役の河西智美、2017年から『アニー』を演出する山田和也が登壇した。
大富豪ウォーバックス役を演じる藤本隆宏は、2017年から4年連続『アニー』にキャスティングされた。「同じ役を演じる難しさ・楽しさ」を問われると、「毎年、子どもたちやお客様の反応が違うので、演じていてすごく新鮮です。惰性で芝居する状況になりえない。山田和也さんの演出も少しずつ変わっている」と答えた。
大富豪ウォーバックス役の藤本隆宏
孤児院の院長ハニガン役のマルシアは、「ハニガンはアニーたちにつらくあたるが、2017年とは違う感覚はあるか」と問われると、「2017年のことは覚えていない(笑)、ですが思い出すようなハニガンにはいたしません。2017年から年齢を重ねてきた、その分芝居も変わる、山田さんの演出も変わる。当時100ボルトだったら今回は1000ボルトにあげていきたい」と、10倍のパワーで周囲に「やるぞ!」とハッパをかけた。
ハニガン役のマルシア
ウォーバックスの秘書グレース役を演じる蒼乃夕妃は、「来年への意気込み」を問われ、「2019年に初めて参加し、子どもたちのパワーに圧倒されました。毎回変わる子どもたちが新鮮でした。ロングランではあるが終わったらあっという間だったので、今回参加できて嬉しい。キャストが変わって新しい空気に馴染めるように頑張ります」と述べた。
グレース役の蒼乃夕妃
ハニガンの弟ルースター役の栗山 航は、『アニー』初参加となる。「皆が知っている『アニー』に参加できて光栄です。選ばれた意味があるよう、僕らしく演じたい。2020年はオリンピック・イヤー、それに負けないよう『アニー』も盛り上げたい」と、はつらつと語った。ことあるごとに「丸美屋さんの麻婆豆腐や、のりたまを食べれば笑顔」「丸美屋さんの差し入れが楽しみ」と「丸美屋好き」をアピールし、藤本には「大富豪にご飯をご馳走になりたい」と、ちゃっかりお茶目な一面ものぞかせ、すかさずマルシアが「私も!」と乗っかる。藤本に「ずる賢い(姉弟)ですねえ」と言わせ、早くもハニガン家としての本領を発揮させていた。
ルースター役の栗山 航
ルースターの恋人であり、アニーたちをだますリリー役の河西智美も、『アニー』初参加だ。「リリー役への意気込み」を問われ、「(ウエンディ役で出演したミュージカル『ピーターパン』を上演していた梅田芸術劇場の)隣(シアター・ドラマシティ)で『アニー』を上演していて、楽しそうだと思っていました。AKB48同期の野呂佳代も、2016年にこの役をやっていました。私はこれまで少女の役が多く、大人の、しかも悪だくみをするという悪役は初挑戦。私自身、新しい一面に出会えそう。私らしいリリーを演じたい」と述べると、司会の佐藤真知子アナウンサーは「色っぽい雰囲気がピッタリですね」と、リリー姿の河西に引き込まれていた。
リリー役の河西智美
そして『アニー』の主役である2人が呼ばれる瞬間が来た。<チーム・バケツ>アニー役の荒井美虹(あらい みく)、<チーム・モップ>アニー役の德山しずく(とくやま しずく)が元気よく登壇した。荒井は、『アニー』が大舞台初挑戦となる。德山は、主な出演作に、ミュージカル『冒険者たち~この海の彼方へ~』(2019年)月組 ジャンプ役、ミュージカル『ジョセフ』(2018年)STUDENT役がある。大舞台初挑戦となる荒井は、「アニーに決まって嬉しい。これから、いつ、どこで、誰に見られているかわからないので、挨拶や言葉遣いに気をつけます」とプロ意識を見せ、大人キャストたちも「見習わなきゃ」と顔を見合わせていた。
チーム・バケツ アニー役の荒井美虹
今回、3度目の挑戦で合格した德山。過去2回は書類審査で落ち、初めての実技審査でアニー役を勝ち取った。「私はダンスが得意なので、ダンス審査で最後まで踊り切り、そこでアニー役への自信があがった。本番の公演でも、ダンスを観てほしい」とアピールした。
チーム・モップ アニー役の德山しずく
「どんなアニーになりたいか」と問われると、荒井「観てくださった皆さんの心に残るアニーになりたい」、德山「演技でアニーの気持ちを伝えられたらな、と思います」と答える2人に、司会の佐藤アナは「2020年はオリンピック・イヤーで海外からもたくさんのお客さんが来るかも。ぜひ歌・演技・表現で伝えて」とエールをおくった。
司会の日本テレビアナウンサー 佐藤真知子
2017年から『アニー』を演出する山田和也は、「1年目、藤本さん、マルシアさんらとともに最初に作品を立ち上げるのは大変な仕事でした。うまくできたと思っても、後から振り返ると直したい、2年目にうまく直したと思ったら3年目にも直したくなる。今、整理され、見応えがあがっている。4年目は集大成として、熟されたクオリティーの『アニー』をお見せできます。さらに子どもたちは毎年入れ替わるので、新鮮にならざるを得ない。子どもたちからもらうエネルギー、無邪気な目、生意気な態度、それが『アニー』を新しくする。2020年の『アニー』は、成熟と新鮮!」と力強く語った。
演出の山田和也
さらに今回は、日本テレビ版『アニー』の初代演出家である篠﨑光正も特別ゲストとして登壇した。1986年から2000年まで、日本テレビ主催のミュージカル『アニー』を15年にわたり演出してきた篠﨑は、日本で『アニー』が定着し、発展した基礎をつくった人物だ。1986年から2017年まで、『アニー』における犬のサンディ役はオールド・イングリッシュ・シープドッグだった。これは篠﨑がさまざまな犬種を見て、アニーの衣裳(赤と白と黒)に映え、サイズ感も大きく舞台で見栄えがする犬種を選んだという。本物の犬を出演させることも画期的だった。篠﨑が築き上げた「子役を公募してオーディションする」「メイキング特番を放送する」「本物の犬を出演させる」ことは全て、1986年から現在まで続く『アニー』の特色となった。
日本テレビ『アニー』の初代演出家・篠﨑光正(右端)
その功績をたたえ、『アニー』が上演されたこれまでの『振り返りVTR』が上映された。「ハードノックライフ」でタオルを振って踊る子どもたちに、篠﨑が厳しい目を向ける。初代アニーの菅野志桜里と猪木寛子が映し出される。これまでアニー役を演じてきた66人の名前とともに、歴代アニーの声と映像で「Tomorrow」の曲が数珠つなぎで歌われていく。このVTRには、初演を観ている筆者も、感極まって涙が止まらなかった。
篠﨑からは、いかに日本での『アニー』が創られたか、という興味深い話がなされた。「当時の日本テレビ社長から『日本テレビの良心』を創ってくださいと頼まれ、1986年に上演するにあたり、1984年から2年間、社長も局長も参加されて準備した。その際、(1)(日テレで初めてのミュージカルなので)今までにない公演を創ろう。(2)(『アニー』は知られていなかったので)メイキングを創ろう。(3)(大人も子どもも)全員で合宿をしよう。……この3つの柱を軸とした」という。
「厳しい演出に、子どもたちは目をうるませていましたが?」という問いに、「映像だと怒鳴っている部分ばかりが使われているが、怒っているんじゃない。叱っている。自分の感情で怒るのはご法度だった、叱るのは子どもが成長するため。ただ、今だとパワハラなのだろうし、当時のことを言われると気が重い」。
これを受けて、現在、演出を担当する山田は「これからは叱り飛ばそうと思います(笑)」と場を和ませつつ、「特別なものを創ろう、という気持ちや、日本テレビの良心、という言葉に頭が下がる。肝に銘じていきたい」と語る。ウォーバックス役の藤本も、「『アニー』がこの先も続くよう、精いっぱいやりたい」と、バトンを引き継ぐ決意を語った。
篠﨑は続ける。「『アニー』を創りはじめた37年前、モーレツに夜中まで仕事をすることは本当に幸せなのか疑問だった。それを仕事一筋のウォーバックスに重ねた。また、(丸大ハムの「わんぱくでもいい、たくましく育ってほしい」というCMのように)当時は、男の子に元気になってほしいというメッセージしかなく、女の子はおしとやかであれと言われることに疑問を持った。女の子にも元気になってほしかった。今は男女逆転し、女性が元気になったから『アニー』は任務を終えたかと思ったら、肝心のウォーバックスたちに元気がない。世界が分断され、エゴを出し、諍いがおこる社会において、成功しても不幸せなままのウォーバックスたちがいる。だからまだまだ、『アニー』を続けてほしい」。
キャスト・スタッフへは、「私たちの時代は7ヶ月半の稽古、プラス全員で合宿をして、心を創る仕事を大事にしてきた。今、演出を引き継ぐ山田さんによって、2020年も素晴らしい『アニー』に出会えると思う」と言葉をのこし、去っていった。
日本テレビ版『アニー』初代演出家の篠﨑光正
記者からの質問で、お互いの印象について問われた荒井と德山。荒井は德山を「明るくて、すごく話しかけてくれる。まさにアニー」と述べ、德山は荒井を「美虹ちゃんは、いつも素直で、そこがアニー。前向きで、本当にアニーに合っている」と絶賛。お互いに褒め合い、照れ合う2人が微笑ましかった。愛らしいアニー2人だが、河西がリリー役のずる賢さについて、「自分には見当たらない要素なので、作っていかなきゃ」と述べると、楽しそうにからかう。「コラ!まだ知らないでしょ?」とかわいく反論する河西を見る2人は、まさにアニーそのものだった。「『アニー』を観てくれた人に笑顔になってほしい」と述べる荒井、「家族といるとほっとする」という德山に、ハニガン役のマルシアは「大人よりしっかりしてるわ」と感心しきりだった。
(後列)河西、蒼乃、藤本、阿部社長、マルシア、栗山 (前列)荒井、德山
記者に混ざり出演者を撮影する演出の山田(毎年恒例)
2020年新アニーズのお披露目は、「丸美屋食品ミュージカル『アニー』クリスマスコンサート2019」で行われる。2018年・2019年のアニーズを中心に構成され、『アニー』でおなじみの曲の独自のアレンジや、クリスマスソングなどが楽しめる。こちらはマルシア(2017年・2020年ハニガン役)、藤本隆宏(2017年・2018年・2019年・2020年ウォーバックス役)、木村花代(2015年・2016年グレース役)がスペシャルゲストとして出演することが発表されている。12月21日(土)12:00/15:00/18:00、22日(日)12:00/15:00、新国立劇場 中劇場にて上演。こちらのチケットは現在好評発売中だ。
丸美屋食品ミュージカル『アニー』の本公演は2020年4月25日(土)~5月11日(月)、新国立劇場 中劇場で上演。8月より大阪・群馬・名古屋・富山にて公演を行う(日程は下記参照)。チケットは2019年12月14日(土)10時より発売(12/9現在イープラスにてプレオーダー受付中)、全席指定8,700円。ただし、4月28日(火)13時チーム・モップ公演 / 17時チーム・バケツ公演は「スマイルDAY」特別料金で全席指定6,700円。また、4月30日(木)13時チーム・モップ公演 / 17時チーム・バケツ公演は「わくわくDAY」として、来場者全員に『アニー特製サーモボトル(非売品)』がもれなくプレゼントされる(入場チケット持参で当日のみ引き換え・ものによっては数に限りがあり、先着順となる)。
なお、ローズベルト大統領※は、2017年・2018にも同役を演じた伊藤俊彦、大人アンサンブルキャストは、鹿志村篤臣、後藤光葵、谷本充弘、長澤仙明、矢部貴将、山名孝幸、太田有美、木村つかさ、濵平奈津美、横岡沙季に決まった。
取材・文=ヨコウチ会長
写真撮影=安藤光夫(SPICE編集部)

(※『アニー』キャスト表において、Roosevelt大統領は「ルーズベルト大統領」と表記されていますが、当連載では「ローズベルト大統領」と表記しています。)
次回に続く

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