Superfly 志帆は1年間の休養で何を
見出したのか? アリーナツアーさい
たま公演から見えたもの

Superfly Arena Tour 2019 “0”

2019.10.26 さいたまスーパーアリーナ
ゼロ。この言葉ほど、いまのSuperflyを表すのにふさわしい言葉はないのかもしれない。休養期間を経て、3年半ぶりに開催されたSuperflyのアリーナツアー『Superfly Arena Tour 2019 “0”』で、志帆は、そのツアーのタイトルに“0”と名付けた意味について、こんなふうに説明した。「ゼロというのは、私の心の状態を表しています。プラスでも、マイナスでもなく、地平線のようにフラットな状態です。1年間お休みをいただいて、好きなことばっかりやっていたら、だんだん自分がゼロに戻っていく感じがしました。自然と、“あ、歌を作りたいな”とか、“世の中にこういう音楽があったら、面白いんじゃないか”って、ワクワクする気持ちが生まれるようになりました」。2007年のメジャーデビューから13年目。いま改めて自分自身の原点に返った心境を反映するように、このツアーでは、音楽を鳴らすこと、歌うことを、心から楽しむ志帆の姿が印象的だった。以下のテキストでは、全国10都市15公演という自身最大の規模でまわった、そんなアリーナツアーのなかから、7本目に開催されたさいたまスーパーアリーナ公演の2日目の模様をレポートする。
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コンテンポラリーダンサー、管弦楽器やコーラスを含むゴージャズなバックバンドに続けて、ステージに現れた志帆が深く頭を下げた。ゆったりとした色鮮やかな衣装。トレードマークだったロングヘアをばっさりと切ったベリーショートは、凛とした志帆の表情にとてもよく似合っていた。オープニングは「Ambitious」。広いアリーナ会場に隅々まで染み渡るような開放的なバンドサウンドにのせて、子供のような無邪気さで“恰好いい私になれ”と歌い上げる温かなエールソングが、いよいよSuperflyのライブがはじまったという興奮を一気に掻き立てる。「Superflyです。最後までよろしくね」。挨拶を挟み、“咲き誇れ”と歌い上げる力強いボーカルに味わい深いエレキギターが寄り添う「Wildflower」、穏やかにお客さんに手を振りながら歌った「やさしい気持ちで」へ。デビュー以来、パワフルでソウルフルなボーカルはSuperflyの絶対的な魅力だが、それに加えて、大きな愛で、お客さんの人生に寄り添うような包容力は、年を重ねるごとに増しているように思う。
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最初のMCでは、500レベル(さいたまスーパーアリーナのいちばん後ろの座席)まで埋め尽くす満員の客席を見て、「すごいですね、嬉しい。ここには17,046人が集まってくれてます」と感謝を伝えた志帆。集まったお客さんの人数を1の位まで省略せずに言う、その律儀さがほほえましい。「今日は来年出すアルバム(『0』)の新曲も、昔からみんなと一緒に盛り上がった曲も、たくさん演奏していきたいと思っています」。そんな言葉のあとに届けたのは「Gifts」だ。輪唱のように追いかけっこするメロディにあわせて、スクリーンに映る手書きの歌詞。“あなたがあなたでありますように”と優しく願う歌詞に、そっと涙を拭うお客さんの姿もあった。
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中盤からは、音楽的にも、演出的にも、よりディープなSuperflyの世界へと突き進んでいった。休養期間中、ジャズを好んで聴いていたという話のあと、「恋する瞳は美しい」を、大胆なジャズアレンジで届けると、そんな志帆のモードが素直に投下した本格的なジャズナンバー「Fall」(復帰後第一弾シングル「Bloom」のカップリング曲)へとつなぐ。跳ねるフォービート。華やかなホーン隊の演奏。真っ赤な照明。めくるめく狂騒のなか、志帆は自由に踊りながら、楽しげにメロディを紡いでゆく。ピアノとストリングスによるインスト曲にのせ、星空や海、さらに、広い大地を彷徨うような志帆の姿がスクリーンに映し出されると、一度、ステージから捌けていた志帆が白い衣装に着替えて登場。そこから、心の靄が晴れるようなダイナミックな演出が息を呑むバラード「My Best Of My Life」、センターステージにパントマイマーのようなダンサーが踊り、仮面舞踏会、あるいはメリーゴーラウンドのような空間を作り上げた「氷に閉じこめて」へと、1曲ごとにまったく異なる世界観を描いていった。
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いくつものハイライトを重ねたライブのなかでも、圧巻は、志帆がひとりセンターステージに立ち、全編アカペラで歌った「I Remember」だった。2008年に発表された1stアルバム『Superfly』の最後に収録されている楽曲であり、大切に歌い続けてきた曲だが、全編アカペラで歌ったのは初めて。時に力強く、時に儚げに、揺れるテンポのなかで歌われるのは、志帆が歌を歌う意味そのものだ。傷つきながらも美しく生きたいという衝動が、自分を信じられない葛藤が、誰かに愛されたいという渇望が、あまりにも無防備に綴られるその歌からは、“前向きでパワフルな女性”という彼女のパブリックイメージの奥にある、もっと人間的な魅力を感じてならない。歌い終えたあと、この曲について、「私にとって歌うことは生きていく“相棒”のような大切な存在だなって、10代のときに気づいた、その瞬間のことを歌った1曲です。今回、ツアータイトルが“0”だし、10代のときのことを思い出したら、当時、一緒に音楽をやる人もいなくて、“あ、そうだ、ゼロだったな”と思い、今回はゼロの状態で歌ってみました」と言った。デビューから10年を越え、いまや国民的なアーティストとしての地位を確立しながら、あの頃、歌うことでしか自分を表現できなかった自分の原点をいまも大切にしている、そういう人間臭いところが彼女の素敵なところだなと思う。
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来年リリースされるアルバム『0』は多くのプロデューサーと共に完成させたという。そのなかでも、バンマスの八橋義幸(Gt)が初めてプロデュースとアレンジを手がけた曲として、中盤に披露されたのは「Lilyの祈り」だ。帯コメントを提供した一木けいの小説『愛を知らない』に感銘を受け、“誰かに愛されたいという気持ちは美しいものだと気づいた”ことで書いたというバラードは、アコースティックな手触りを大切にしたバンドサウンドにはじまり、やがてホーリーで壮大な景色を描いていく。バンドセッションを挟み、再び志帆が衣装を変えてステージに現れると、「覚醒」へ。そこから、いよいよライブはクライマックスに向けて、熱いロックナンバーを容赦なく畳みかけていく。圧巻の歌が熱く燃えあがる「タマシイレボリューション」、ミラーボールの光を浴びて踊った「Dancing On The Fire」に続けて、“ウォーウォー”というシンガロングを巻き起こした「愛をからだに吹き込んで」では、ステージ頭上にある楕円型の照明装置が傾斜して、大きな“0”のかたちを作り上げた。熱狂に次ぐ熱狂のなか、「次の曲で最後です!」と伝えたラストナンバーは「99」。真骨頂であるポジティブなエネルギーに満ちたロックナンバーを、広いステージを全力で移動し、志帆は最後に「サンキュッ!」とだけ言い残して、退場。ロックシンガー然とした佇まいは、最高にかっこよかった。
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アンコールは、大自然を描いたスクリーンの前に立ち、まるで絵本の中にいるような雰囲気で、CMソング「サンディ」を届けると、続く「愛をこめて花束を」では、イントロが鳴った瞬間に大きな喝采が湧いた。シンガロングも、この日いちばんだ。そして、最後に「17,046人の熱気は格別だなと思いました。本当にありがとうございます!」と感謝を伝えて、2時間半にわたるライブの最後に届けたのは、放送中のNHK連続テレビ小説『スカーレット』の主題歌「フレア」だった。一体感のあるハンドクラップのなか、お客さんの頭上に、志帆がアンコールで着ている衣装と同じ、赤やオレンジ色の風船が降り注ぐ圧巻のフィナーレ。“涙に負けるもんか”と、軽やかに背中を押すナンバーは、この会場を出たあとも、温かい気持ちを持って歩んでいけるような、そんな勇気をくれる締めくくりだった。
なお、Superflyは来年1月15日に、このツアーと同じタイトルを掲げたニューアルバム『0』をリリースする。「フレア」をはじめ、「Ambitious」や「Gifts」「サンディ」など、ツアーで披露された多くの楽曲も収録されるアルバムは、ゼロの状態になる“いま”のSuperflyが詰まった一枚になりそうだ。
取材・文=秦 理絵 撮影=神藤剛、カワベミサキ
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