ジェネシス独自のサウンドを
確立した黄金期のメンバーによる
『怪奇骨董音楽箱』
本作『怪奇骨董音楽箱』について
収録曲は全部で7曲。冒頭の10分半に及ぶ「The Musical Box」は牧歌的なイントロで始まり、徐々にドラマチックな展開になっていく。ジャケットを見ながら聴くと、グリム童話の一場面のような純粋な残酷さが味わえる。曲の途中で登場するハケットのギターソロは、驚くべきことにすでにタッピング(ライトハンド)奏法が使われていて、彼のプレイは当時のブリティッシュロックギタリストの多くに影響を与えただろう。
「The Return Of The Giant Hogweed」は植物が人間を襲うというSF的な内容のナンバーで、オペラ風で緻密な構成になっている。クイーンはジェネシスから多くの影響を受けていることがよく分かるナンバーだ。また、アルバム最後の「The Fountain Of Salmacis」ではコリンズの今も変わらない個性的なドラムが聴けるし、ゲイブリエルのトレードマークとなる演劇的展開が繰り広げられているのが素晴らしい。
秀逸なアルバムジャケットのイラストは前作から引き続いてポール・ホワイトヘッドが担当、奇妙でおどろおどろしい作風はゲイブリエルの狙い通りで、本作のイラストが彼の最高傑作だろう。なお、ジャケットに描かれている広い芝生の庭がある大邸宅はゲイブリエルの親の実家を参考にしているそうだ。
本作は全英チャートで39位となり、ジェネシスはようやく本国で認知されるようになるのである。そして、翌年の72年には本作をさらに上回る出来の『フォックストロット』をリリースし、世界的なプログレグループとして認知されることになる。ゲイブリエル時代のジェネシスのアルバムで、どれか1枚と言われたら僕は内容の充実度では『フォックストロット』を挙げるが、それでもティーエイジャーの時に出会った『怪奇骨董音楽箱』の邦題とジャケットの素晴らしさ(もちろん内容も良いし)がやっぱり忘れられないのである。
TEXT:河崎直人