Nulbarich キャリアも現在地も包摂
したストーリー、初のさいたまスーパ
ーアリーナで見せた破格の集中力

Nulbarich ONE MAN LIVE -A STORY-

2019.12.1 さいたまスーパーアリーナ
最新アルバム『2ND GALAXY』がさいたまスーパーアリーナ公演を意識して作られた作品であることと、常に新しいことに挑戦したいと考えているバンドの想い、そして3年間の集大成が見事に一つの“ストーリー”を描いたキャリア史上最大キャパのライブとなった。
これまでのNulbarichとは違うライブになるだろうことは予想していた。場内が暗転し、漆黒の闇の中を光るバルーンがスタンドから投入され、観客に配布されたLEDリストバンドが明滅し始めた時だ。これはまさに『2ND GALAXY』のテーマである、現実の惑星の外にある、我々の脳内にあるもう一つの惑星の比喩だ。スモークが焚かれたステージに現れたメンバーがセッションをスタートし、実質の1曲目が「Rock Me Now」という、新作の中でもヒップホップとパンク、グランジを接続した、ライブでの表現が最も想像できなかった曲であったことで、ああ、JQは私たちを真新しい旅に誘うつもりなのだなと鳥肌が立った。
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惑星(バルーン)たちがステージに向かうと、今度は生き物のように蠢く光の玉のようなライティングが非常に斬新。曲間のドロップとシンクロして動くその様は楽曲同様、自由でハイブリッドな感覚をもたらした。これまでのNulbarichがヒップホップ/ネオソウル的なバンドと形容できるとしたら、アルバム『Blank Envelope』と、そのツアーを経てさらに今の彼らはロック的なマインドも見せたのだ。続く「Zero Gravity」も歪み系のギターリフやオブリで、ガラッと曲のイメージをアップデートしてきた印象だ。
「意外と見えておる。意外と楽しめておる」とお茶目なMCでアリーナの広さを楽しんでいる様子を伝えたJQ。この短い一言を挟んでイントロのギターカッティングに歓声が上がった「Lipstick」で、場内のオーディエンスが手をあげたり自由に踊っている様子が確認できた。冒頭の怒涛の演出と重厚感から、緩やかにグルーヴするモードにオーディエンスも移行していった感じだ。おなじみの「ain’ t on the map yet」や「It’ s Who We Are」ではようやくステージが照らされ、JQの姿が確認されると、会場のリアクションもリラックス&ヒートアップ。センターに突き出した花道やステージ左右を歩き回りながら歌うJQとオーディエンスの親密なムードが漂う。「Are You Feeling?」と言葉を投げかけながら、演奏を終えると「あざーす!」と彼らしい挨拶。
続いて、“JQの曲の骨子にどうやってバンドが音を重ねていくのか?”の生披露として、JQがMPCで2コードのループと声ネタを出し、バンドがセッションしてくというレアな場面も。ギターやピアノが足されてアレンジされていく妙味を味わうことができた。
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JQが戻ってからの歌始まりの「NEW ERA」や「Kiss Me」は彼の声の伸びやかさとメロディの良さを改めて実感。トロピカルハウス的なニュアンスが音源では強かった「Kiss You Back」も、よりプリミティヴなスケール感を増し、生楽器のアピールとシンセが大きく空間を支配する部分がどちらも強く打ち出されていたのが更新されていたのはまさにアリーナ仕様というべきアレンジだった。冒頭の新作モードのスペイシー感、彼らの名前を浸透させたスマッシュヒット群、そしてEDM以降のポップスとしてNulbarichらしくエレクトロニックを導入した楽曲。曲順やアレンジにアリーナという規模感でのライブをストイックに追求した痕跡を見た。
中盤には「みんなここに連れてきてくれてありがとう。夢は語るべきだね。でもまだ終わっちゃいない。僕たちが乗った片道切符がどこまで続いてるか、見てみたいでしょ?」と、感謝と尽きない音楽への欲求を語り、「Almost There」へ。「I bought a one way ticket」の歌い出しに繋がっていくのだが、マイペースで音楽を楽しんでいるように思えるこのバンドの“マイペース”の裏に秘められた音楽への途方もない旅――それはいい意味で引き返せない片道切符の旅なのだということをこの日、確実に理解した。アレンジもグッとタフになり、特にツインドラムのバスドラとゴングドラムの力強さに気持ちが引っ張られる。続く「Silent Wonderland」の演奏が終わると、長い沈黙が訪れ、アリーナからは「One More!」と、曲を催促(!?)する声が上がり、JQも「アンコールありがとう」とユーモアたっぷりに応える。
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実はここからさらにブランニューNulbarichを体現する重厚なブロックになったのだが、静まりかえったアリーナに再びLEDリストバンドの光が白一色で点灯し、背景のビジョンには地球の映像が映し出され、彼らの新曲群の中でも最もドラマチックな「Lost Game」が鳴らされる。ピアノとゴングドラムが力強く響き、日本語詞メインでとうとうと歌い上げるJQのボーカルは渾身という言葉しか思い浮かばない。明滅するライトは光の3原色を発し、何か会場全体が細胞分裂もしくは新たな星の誕生に場面を演出しているようで、明らかにこれまでの世界観とは違う熱量で場の空気を塗り替えたのだった。「果てた……」というJQの一言も納得の入魂の演奏に続いて、グッとソウル/ファンクバンドとしてのグルーヴでアップリフトする「Get Ready」でオーディエンスを揺らす。
さらに「ここからはノンストップで行くから。終わってから言えないから、言っとく。気をつけて帰ってね」というMCからさらにダンスが加速する「VOICE」、JQのボーカルがどんどん絶好調になっていくのがわかる「Twilight」、珍しく「かかってこい!」とフロアを煽って曲に突入した「Super Sonic」は踊れるジャズの文脈のコード進行に解放される。アウトロに向かってベースソロ、ギターソロ、そしてピアノソロからツインドラムのソロが披露される頃にはJQの笑顔がビジョンで確認できた。新曲を軸に最新型のアレンジへとアンサンブルを研ぎ澄まし、時にラフに時にタフにバンドのパワーを各々上げてきたプライドと、そのことに対するリアクションをメンバー全員が味わっている。自然なモードチェンジかもしれないが、このライブに向けての7人の集中力の高さが歓喜に変わっていくのが見ているこちらも嬉しくてしょうがない。
ラストはヒップホップルーツのJQらしいメロディに、踏み鳴らすような力強い8ビートが今のNulbarichのスケール感に似合う「Stop Us Dreaming」。巨大な夢とか目標とか、そういうものとはまた違う、音を鳴らしてそれを共有することをただ止められない――そうした純粋なマインドを刻みつけたラストナンバーだと思った。
そしてエンディングと同時にステージは暗転し、客席全体が昼間の光のような照明で浮かび上がった。オープニングで脳内宇宙へダイブした我々オーディエンスが、同じ時間を過ごしてたどり着いた何もない荒凉とした地を思わせた。答えはオーディエンスそれぞれの中にあると言われているような、見事な演出だった。この日1日だけのために注ぎ込まれた熱量に再び鳥肌が立ったのは言うまでもない。
取材・文=石角友香 撮影=岸田哲平、本田裕二
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