国宝級絵巻が初里帰りする『ボストン
美術館展 芸術×力』制作発表レポー
ト 要潤がアンバサダーに就任!

2020年4月16日(木)~7月5日(日)に、東京都美術館にて『ボストン美術館展 芸術✕力(げいじゅつとちから)』と題された展覧会が開催される。この展覧会は、後述する全5章で構成され、古代エジプトのファラオの像から日本の古美術、中国、朝鮮、インドなどアジア、そしてヨーロッパ、アメリカの美術・工芸品まで、60余点を展示。注目は、日本にあれば国宝級と言われる二つの絵巻物と《孔雀図》だ。開幕に先駆けて開催された記者発表会より、その見どころを紹介する。
東京都美術館館長の真室佳武氏は、ボストン美術館は“アメリカの東海岸ボストンにある、アメリカ有数の美術館のひとつ”であり、同館のコレクションは古今東西50万点に及ぶことを解説。今展覧会では“芸術と力、すなわち権力者と芸術の関係に焦点をあてた企画・構成”になるという。芸術と力について真室氏は「東西の権力者たちは、力を示し維持するために芸術を利用してまいりました。威厳に満ちた肖像画を描かせ、美しい工芸品で宮廷を飾り、贈り物として外交にも使いました。また自ら芸術をたしなみ、芸術家を支援し、多くの素晴らしい作品も生み出しています」とも語った。
東京都美術館館長 真室佳武氏
展覧会のオフィシャルサポーターを務める俳優の要潤は「大変光栄なこと。ボストン美術館は日本との歴史も深いと聞いています。150年の歴史をもつ美術館ということで、身が引き締まる思いです」と話す。また、アート系番組の出演などで各国の美術館を訪ねているそうで、美術の楽しみ方を聞かれると、絵との距離感を変えながら鑑賞していることを明かした。「まずは引いたところから、どんどん近づき、詳細を見ます。画家の方は、薄いところから色を塗ると聞いたことがあります。引きの時に目に入るのは、濃い色だと感じます。近づいていくにつれ薄い色、細かく塗られた色も見ていくという楽しみ方をしています」。楽しみにしている作品は、《孔雀図》と回答。最近は、自身で撮影した写真をベースに絵を描くこともあるのだそう。「150年の歴史を経て、日本で初公開される絵もあると聞きました。楽しみにしています。素敵な時間を、皆さんとともに過ごすことができるのではと思っております。ぜひお時間があればご来場ください」と呼びかけた。
要潤がオフィシャルサポーターに就任
芸術✕力、全5章の概要
“芸術✕力”というコンセプトはボストン美術館より提案されたものであるが、これに対し、日本開催館の学芸員が作品選定や構成に携わり、内容の充実を図ったという。全5章の構成は次のとおり。
1章 姿を見せる、力を示す
2章 聖なる世界
3章 宮廷のくらし
4章 貢ぐ、与える
5章 たしなむ、はぐくむ

東京都美術館学芸員の大橋菜都子氏は、時代や文化ではなく“作品が本来担っていた役割や機能”に注目した展示になると言う。「時には、隣り合って展示された作品が、数百年、数千キロに及ぶ時間と地域の隔たりがあることもあります。それでもなお共通するものがあるというのが、興味深いところ」と語った。
力を持つものが愛した作品、60余点
第1章は<姿を見せる、力を示す>。たとえばナポレオンは、威厳のある理想的な顔立ちで肖像画を描かせ、そこには英雄性を高める目的があった。これは「ナポレオンに限ったことではなく、必要なことでもある」と大橋氏は解説。それを感じる作品として、エジプトの王族だけが着用を許された付け髭や、青いサテンのドレスを纏いイングランドの優雅さ富をアピールするメアリー王女の肖像画などが展示される。
アンソニー・ヴァン・ダイク《メアリー王女、チャールズ1世の娘》1637年頃 Museum of Fine Arts, Boston, Given in memory of Governor Alvan T. Fuller by the Fuller Foundation
2章は<聖なる世界>として、聖母子像や大日如来坐像などが展示される。権力者たちが宗教的な儀式を執り行うことで、自らを神聖なものに見せたり、力を強めたり、あるいは自らの信仰心をみせることで、統治を安定させる目的があったという。
《大日如来坐像》平安時代、長治2年(1105) Museum of Fine Arts, Boston, William Sturgis Bigelow Collection
3章は<宮廷のくらし>。贅を尽くして装飾された宮廷内の芸術に触れる。宮廷はその贅沢さをもって、訪れる人々に支配者の力の強さを体感させたのだそう。宮廷の階段を下りてくる修道士に皆が頭を下げる様子を描いたジェロームの油彩画や、世界一裕福な女性の一人と言われたマージョリー・メリウェザー・ポストのブローチを展示予定。ブローチには、60カラットのエメラルドがあしらわれている。
ジャン=レオン・ジェローム《灰色の枢機卿》1873年 Museum of Fine Arts, Boston, Bequest of Susan Cornelia Warren
4章は<貢ぐ、与える>がテーマとなる。権力者たちが外交上の贈り物として、芸術を使うことは今も昔も変わらないこと。貢物やそれが運ばれる様子を描いた作品として、歴代イングランド王の肖像があしらわれた銀の食器や、貢物を運ぶ韃靼人の姿を描いた狩野永徳の屏風絵を見ることができる。
伝 狩野永徳《韃靼人朝貢図屏風》桃山時代、16世紀後半 Museum of Fine Arts, Boston, Fenollosa-Weld Collection
最後の5章は<たしなむ、はぐくむ>。権力者たちは芸術に対して、美的観点だけでなく、パトロンとなり自らの歴史観を正当化する作品、自らの価値観を表す作品を、コレクションしたり作らせたりもした。増山雪斎の《孔雀図》もここで紹介される。
注目は孔雀図と二大絵巻
文人大名・増山雪斎の《孔雀図》
《孔雀図》の増山雪斎は、伊勢長嶋藩の五代当主。お殿様の立場でありながら、画家、儒者、文人を支えるパトロンであり、自身も筆をとっていた。この《孔雀図》は、明治期にアメリカに渡って以来、今回が初の里帰りとなり、今回のために大がかりな修復がされたのだそうだ。神戸市立博物館学芸員の石沢俊氏は「《孔雀図》は沈南蘋(なんぴん)の影響を受けた、南蘋風花鳥画と呼ばれるスタイルである」と解説した。ただ美しく写実的なだけでなく、吉祥を招く孔雀や、吉祥の花モクレンなど、おめでたいモチーフを詰め込んだ“一家一族の吉祥、繁栄への願い”が込められている。
増山雪斎《孔雀図》江戸時代、享和元年(1801) Museum of Fine Arts, Boston, Fenollosa-Weld Collection
日本にあれば国宝級《吉備大臣入唐絵巻》と《平治物語絵巻》
10万点に及ぶボストン美術館の日本美術コレクションのうち、特に貴重な作品が、今回来日する《吉備大臣入唐絵巻》と《平治物語絵巻 三条殿夜討巻》の二大絵巻だ。福岡市美術館の宮田大樹氏は、どちらも「日本にあれば国宝級」のものと絶賛。《吉備大臣入唐絵巻》は、学者で政治家の吉備真備が中国に渡った時の活躍を描いたもの。吉備真備の冒険を助けるのが、赤い鬼の姿となった阿倍仲麻呂だ。吉備真備は、阿倍仲麻呂の助けや超能力を借りながら、迫りくる無理難題を切り抜けていく。愛らしい絵と、ユーモラスな展開が魅力的だ。「日本の偉人が、大国の中国を相手に活躍する痛快なストーリーを、当時の鑑賞者もわくわく読み進めたのではと想像します」と宮田氏は語った。《平治物語絵巻 三条殿夜討巻》は、合戦絵巻が大流行した時期に作られた中でも特に質が高いものなのだそう。なかでも《三条殿夜討巻》は、平治の乱のきっかけとなる場面。宮田氏は「屋敷の内外で戦闘が起こり迫力がある。中でも燃え盛る火炎の表現は圧巻。絵師の執念を感じる」とコメントした。
会見では音声ガイドについても発表された。展示作品を<表>と<裏>の2つの切り口で解説する予定だと明かし、ナレーションを声優の鈴村健一(表)と櫻井孝宏(裏)が担当する。
膨大なコレクションからの選りすぐりを“芸術と力”という新たな視点で切り取る『ボストン美術館展 芸術✕力』は、2020年4月16日(木)~7月5日(日)まで、東京都美術館での開催。その後、福岡、神戸を巡回する。
All photographs (c) Museum of Fine Arts, Boston

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