スライドギターの概念を変えた
デビッド・リンドレーの
『ウィン・ジス・レコード』は
時代に左右されない作品だ

初のソロアルバム

シンセポップの時代に突入した1980年、ブラウンも失速気味となって『ホールド・アウト』(‘80)では新しいサウンドに挑戦するもいまいちの結果に終わり、リンドレーはブラウンのグループを辞し、ソロアルバムの制作をスタートさせる。バックを務めるメンバーは、ベースのボブ・グロウブ(多忙なスタジオミュージシャン)、ドラムには元キング・クリムゾンのイアン・ウォレス(イギリスが誇る名ドラマー)などで、他にザ・バンドのガース・ハドソン、リトル・フィートのビル・ペイン、ジャクソン・ブラウンがバックヴォーカルと共同プロデュースのひとりとして参加するなど、豪華なメンバーが集まり、81年に『化けもの(原題:El Rayo-X)』がリリースされる。邦題はリンドレー自身が要望して付けられたタイトルである。初ソロ作とあって想いのこもった力作となった。彼の代表作と言えば、この『化けもの』を挙げる人は多いだろう。ロックンロール、ポップス、レゲエ、スカ、テックスメックス、沖縄など、彼らしいこだわりのアレンジがなされ、ギターはもちろんヴォーカルも素晴らしい。

エル・ラーヨ・エキス結成

初ソロアルバムは概ね好評(全米チャート83位)を持って迎えられ、すぐに次作の制作に取り掛かるのだが、前作にも参加したイアン・ウォレス(D)、ソロアルバム『シティ・ミュージック』(‘75)をリリースしているホルヘ・カルデロン(B)、新人のバーニー・ラーソン(G)をパーマネントメンバーとして選出、エル・ラーヨ・エキスとして活動をスタートさせる。

本作『ウィン・ジス・レコード』
について

ゲストに、ブッカー・T・ジョーンズ(K)、ウィリアム・スミッティ・スミス(K)というふたりのベテランオルガン奏者を迎えて、82年に本作『ウィン・ジス・レコード』はリリースされた。前作と比べ、かなりキャッチーな仕上がりになっている。特に冒頭の2曲「Something’s Got A Hold On Me」(エタ・ジェームスのヒット曲)「Turning Point」(タイロン・デイビスのヒット曲)はパワーポップ的な仕上がりで、リンドレーのスライドも乗りに乗った名演だと言える。「ブラザー・ジョン」はニューオリンズのワイルド・チョピトウラスのヒットで、リンドレーのスライドは一時期のライ・クーダーの影響が見られる。「Rock It With I」はジャマイカのロックステディのカバーで、ダブを取り入れているのが新しい。「Premature」も同じくジャマイカの名グループ、トゥーツ&ザ・メイタルズのカバーだ。

アルバム収録曲は10曲。上記の5曲を除くと他はリンドレーのオリジナル曲である。メンバーは4人ともコーラスが上手いので、ヴォーカル層は厚くかなり訓練している様子が窺える。ポリスとビッグ・カントリーを混ぜたような「Talk To The Lawyer」は意外にも80年代を感じさせるロックナンバーで、ブルースロック風の「Spodie」やビートルズ・ミーツ・パワーポップ的な「Make It On Time」もカッコ良い。「Ram-A-Lamb-A-man」はエヴァリーブラザーズっぽい優しいナンバーだが、ギターソロ部分はかなりアグレッシブだ。そして、ワイゼンボーン1本による沁みるインスト「Looks So Good」で本作は幕を閉じる。

久しぶりに聴いたけど古さはまったく感じず、リンドレーらしく時代に左右されない良いアルバムだと思う。

TEXT:河崎直人

アルバム『Win This Record』1982年発表作品
    • <収録曲>
    • 1. Something's Got a Hold on Me
    • 2. Turning Point
    • 3. Spodie
    • 4. Brother John
    • 5. Premature
    • 6. Talk to the Lawyer
    • 7. Make It on Time
    • 8. Rock It with I
    • 9. Ram a Lamb a Man
    • 10. Look so Good
『Win This Record』(’82)/David Lindley

OKMusic編集部

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