村井良太が演じる人間の二面性と歪み
『デスノート THE MUSICAL』ゲネプロ
レポート

2020年1月20日(月)に、東京建物 Brillia HALLにて開幕した『デスノート THE MUSICAL』。大ヒット漫画「DEATH NOTE」を原作に、2015年、17年の上演が話題を呼び、韓国でも上演された人気作だ。国内では3度目の上演となる今回は、全出演者を一新。デスノートの持ち主となる夜神月役に村井良太、甲斐翔真のWキャスト、月と対峙する探偵Lに髙橋颯と、主要キャストに若手が抜擢された。
本記事では初日に先駆けて19日(日)に公開された、村井良太回のゲネプロ(通し稽古)の様子を、本作の魅力と共にレポートしよう。(甲斐翔真回のゲネプロの様子とそれぞれの新キャストの魅力は別記事参照)
人間の二面性と歪みを見事に表した村井の月
物語は主人公の月(村井)が通う高校の授業風景から始まる。高校生らが、冷めた様子で正義について話し合う様子が描かれる。初演再演時よりも高校生たちの退屈度がパワーアップした印象を受けたのは気のせいだろうか。村井演じる月は、優等生然と発言をしながらも、どちらかというとあまり目立たない生徒といった風情だ。
偶然デスノートを拾った月は、ニュースで見た犯罪者の名前を半信半疑でデスノートに書く。すると、その犯罪者が急死したというニュース速報が流れ、驚愕する。自分が思いがけず人を殺してしまったことに戸惑いつつ、犯罪者を裁くことで世界を救うことができるのではないかと考える月。伸びやかな歌唱のなかに、躊躇しながらも少しの優越感を持ち、希望を見出していく様子を、村井が見事に表出した。
夜神月役 村井良大 提供:ホリプロ   (c)大場つぐみ・小畑健/集英社
デスノートを拾ってから1週間が経ち、月の存在はインターネット上で救世主「キラ」として騒がれるようになっていた。突然月の元に現れた死神のリュークからデスノートを拾った人間と死神との契約について聞かされ、「お前は救世主なんかじゃない」と嗜められる。が、全能感に酔い始めた月は聞く耳を持たない。
エル役 高橋颯 提供:ホリプロ   (c)大場つぐみ・小畑健/集英社
その後、名探偵のLに出し抜かれ苛立ちを覚えた月は、当初の「正義のための殺人」という大義名分を忘れ、Lを追い詰め死に追いやることに躍起になっていく。キラの連続殺人を捜査に来た無実のFBIの捜査官をも皆殺しにし、自分へ好意を寄せる少女・弥海砂を利用し破滅させ、最終的には自身の身をも滅ぼしてしまう。
弥海砂役 吉柳咲良 提供:ホリプロ   (c)大場つぐみ・小畑健/集英社
死神レム役 パク・ヘナ 提供:ホリプロ   (c)大場つぐみ・小畑健/集英社
初演、再演で浦井健治と柿澤勇人がそれぞれの人物像を立ち上げて来た夜神月。今回村井は、聡明で利発な青年が、権力を手にしたことで人生を狂わせていく様子を巧みに演じた。表向きは好青年として振る舞っているが、内に秘めているのは権力を行使するためのネガティブな思惑。自己愛と承認欲求、人間が持つ二面性と歪みを生々しく芝居ににじませた。
現代日本の社会問題をあぶり出す
劇中で描かれるのは、スマートフォンにしか目を向けず街を歩く人々、「退屈だ、つまらない」と言い続ける死神、親と子のミスコミュニケーション、アイドルに熱狂する人々、両親を殺され盲目な恋に走る少女、過保護なまでの母性で少女を見守る死神、メディアのプロパガンダなど。死をもたらす1冊のノートを巡って、現在の日本をリアルにあぶり出している。原作漫画の連載が始まったのは2003年だが、本作はまさに今の日本を描いたミュージカルだと言えよう。
左)死神レム役 パク・ヘナ/右)死神リューク役・横田栄司 提供:ホリプロ   (c)大場つぐみ・小畑健/集英社
もちろん、エンターテインメントとしても見応えは抜群。フランク・ワイルドホーンのメロディアスな楽曲や、実力派キャストらの歌声、ショーアップされた華やかなシーンが作品を盛り上げる。台本も上演の度に改稿を重ね、今回更にテンポアップし物語の完成度が高まった印象だ。
中央)夜神総一郎役 今井清隆 提供:ホリプロ   (c)大場つぐみ・小畑健/集英社

左)夜神粧裕役・西田ひらり/中)夜神月役・村井良大/右)死神リューク役・横田栄司 提供:ホリプロ   (c)大場つぐみ・小畑健/集英社

東京公演は2月9日(日)まで、その後静岡、大阪、福岡を巡る。日本発の大型ミュージカルの深化をぜひその目でチェックしてほしい。
『デスノート THE MUSICAL』2020 ダイジェスト映像
取材・文=永瀬夏海 撮影=田中亜紀

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