特別展『出雲と大和』展レポート 約
170件の名品から、古代日本の成り立
ちに迫る

日本最古の公式な歴史書として編さんされた『日本書紀』。その成立1300年を記念した特別展『出雲と大和』が、東京国立博物館にて開催中だ(会期:〜2020年3月8日)。
『日本書紀』の国譲り神話には、出雲と大和の地が、神々や祭祀の世界を司る「幽(ゆう)」と、現実世界や政治の世界を司る「顕(けん)」を、それぞれ担っていたと記されている。本展は、日本の古代史が形成されるにあたり、出雲と大和が果たした重要な役割を、国宝や重要文化財を含む約170件の名品を通して紹介するもの。
赤糸威肩白鎧(重要文化財) 室町時代 15〜16世紀 島根・出雲大社 前期展示:1月15日~2月9日
左:勾玉・管玉・算盤玉 古墳時代 5世紀 奈良県立橿原考古学研究所附属博物館  右:勾玉 古墳時代 4世紀 奈良県立橿原考古学研究所附属博物館

その中には、東京で20年ぶりに出品される大量の青銅器や、出雲大社の境内から出土した巨大柱など、古代史を裏付け、時にその定説を覆すような作品も含まれている。本展を担当する品川欣也氏(東京国立博物館 学芸研究部調査研究課 考古室長)は、展示を見る際の切り口として、「まずは作品の素材の移り変わりだけ追いかけてみる。もしくは、作品の大きさや数、造形に注目することで、さまざまな時代の移り変わりや、ヤマト王権の権力の範囲、交流の様子といったことがわかってくる」と語った。
会場エントランス
悠久の歴史を体感できる会場より、本展覧会の見どころを紹介しよう。
出雲大社のスケールが感じられる巨大柱
本展は全4章からなり、第1章では、出雲大社の歴史や、出雲に伝わる御神宝を取り上げている。
宇豆柱(重要文化財) 鎌倉時代 宝治2年(1248) 島根・出雲大社(島根県立古代出雲歴史博物館保管)
平成12年(2000年)の発掘によって、出雲大社の境内から発見された巨大な柱《心御柱(しんのみはしら)》と《宇豆柱(うづばしら)》。鎌倉時代に作られたものだと考えられ、杉を3本束ねてひとつの柱となり、全部で9本の柱が本殿を支えていたという。
本殿の中心に位置するのが心御柱であり、前面中央に位置するのが宇豆柱であった。2つの柱が同時に出品される機会は滅多になく、柱と柱の間隔は、当時の本殿のスケールに合わせて展示されている。柱の側面には、杉の柱を運搬する際に縄かけをした跡や、手斧で表面を加工した痕跡などが残っているので、ぜひ間近で観察してみたい。
心御柱(重要文化財) 鎌倉時代 宝治2年(1248) 島根・出雲大社
さらに本章では、48メートルの高さを誇ったと言われる、平安時代の出雲大社本殿を、1/10のスケールで再現した模型や、本殿の平面図などを通して、古代の出雲大社の規模を想像することができる。
模型 出雲大社本殿 平成11年(1999) 島根・出雲市
金輪御造営差図 鎌倉〜室町時代 13〜16世紀 島根・千家家 前期展示:1月15日~2月9日

圧倒的な数を誇る出雲の青銅器群
第2章では、弥生時代の出雲から出土した、さまざまな祭りの道具が紹介される。章の冒頭では、加茂岩倉遺跡から出土した銅鐸の埋納状況を復元した模型が展示されている。品川氏は、「現在では、青銅器というと青緑色のイメージがありますが、弥生時代の人々が使っていた当時の色は金色。当初の色を思い浮かべながら、本章の青銅器を見ていってほしい」と話す。
模型 加茂岩倉遺跡銅鐸埋納状況復元 令和元年(2019) 島根県立古代出雲歴史博物館
弥生時代に、祭祀に用いられていたとされる青銅器。なかでも、昭和59年(1984年)の発掘調査によって荒神谷遺跡から出土した、銅剣、銅矛、銅鐸などの青銅器は、考古学界を驚かせる大きな発見となった。それまで弥生時代の銅剣の発見数は300本ほどだったが、荒神谷遺跡から出土した銅剣は358本。過去に蓄積された総数を、ひとつの遺跡が塗り替えた出来事だった。
荒神谷遺跡出土品のうち 銅剣(国宝) 弥生時代 前2〜前1世紀 文化庁(島根県立古代出雲歴史博物館保管)
本展では、358本の銅剣のうち、168本が展示される。銅剣の大きさや重さは規格性が高く、「銅剣が作られてから埋められるまで、極めて短時間に、複数の集団ではなく、特定の数限られた集団が製作して納めたことがわかる」と、品川氏。
荒神谷遺跡出土品のうち 銅矛(国宝) 弥生時代 前2〜前1世紀 文化庁(島根県立古代出雲歴史博物館保管)
また、北部九州を中心に出土していた銅矛や、近畿・東海地方を中心に出土する銅鐸が、島根の出雲で一緒に出土したことも、研究者を驚かせたという。品川氏は、「両地域との交流がなければ出土しないものであり、これだけの量の青銅器を集めた人々がいるということは、出雲に大きな勢力があったということを示している」と、解説した。
加茂岩倉遺跡出土品のうち 銅鐸(国宝) 弥生時代 前2〜前1世紀 文化庁(島根県立古代出雲歴史博物館保管)
189点もの荒神谷遺跡の出土品や、ほかにも、加茂岩倉遺跡から出土した銅鐸39個のうち、30個が展示される。これだけの数が東京で展示されるのは20年ぶりとのこと。圧倒的な数を誇る青銅器群から、「神々の国」としての出雲の姿がみえてくるようだ。
日本史の一級史料「七支刀」から、「見返りの鹿」の埴輪まで
3世紀になって、ヤマト王権が成立すると、王権の権力を象徴する前方後円墳が奈良盆地を中心に築かれるようになる。第3章では、埴輪や三角縁神獣鏡など、古墳時代の副葬品をもとに、ヤマト王権成立の背景をたどっていく。
黒塚古墳出土品のうち 三角縁神獣鏡(重要文化財) 古墳時代 3世紀 文化庁(奈良県立橿原考古学研究所保管)
大和を中心とした国づくりが行われていた5世紀以降は、「朝鮮半島の動乱にともない、百済(くだら)や伽耶(かや)など、朝鮮半島の文物や技術が日本列島に伝わってくる。ヤマト王権は、そうした舶載品(はくさいひん)を各地の豪族に配布することで、王権の基盤を整えた」と説明するのは、河野正訓氏(東京国立博物館 学芸研究部調査研究課 考古室 研究員)。

藤ノ木古墳出土品のうち 金銅装鞍金具 前輪、後輪 古墳時代 6世紀 文化庁(奈良県立橿原考古学研究所附属博物館保管)
七支刀(国宝) 古墳時代 4世紀 奈良・石上神宮
当時の朝鮮半島の百済と倭の友好関係を象徴するような刀が、《七支刀(しちしとう)》だ。石上神宮に伝わる宝剣である七支刀の両面には銘文があり、太和4年(369年)に刀が作られ、百済王が倭王に贈ったものであると考えられている。日本書紀に記述される、「七枝刀(ななつさやのたち)」が本作にあたるという説もあり、日本史の一級史料とも言える、大変貴重な作品であるとのこと。
左から:四条1号墳出土のうち 埴輪 見返りの鹿 古墳時代 5世紀 奈良県立橿原考古学研究所附属博物館  中央:平所遺跡出土品のうち 埴輪 見返りの鹿(重要文化財) 古墳時代 5〜6世紀 島根県教育委員会 右:埴輪 飾り馬(重要文化財) 古墳時代 5〜6世紀 島根県教育委員会 
さらに、古墳時代の習俗を示す埴輪類の展示も見逃せない。本章で展示される、大和と出雲の両地で出土した埴輪について、河野氏は、「出雲の埴輪をよく見ると、大和の影響を受けて作られていることがわかり、当時の埴輪製作における技術交流を垣間見ることができる」と解説した。
出雲と大和を代表する四天王像が勢ぞろい!
第4章では、飛鳥時代以降、仏教を中心とした国づくりが進むなかで誕生した造形を紹介する。6世紀半ばに伝来した仏教が日本に定着していく過程で、大和の地では、古墳に代わって寺院の建立が始まった。それにともない、寺院に祀るための仏像も数多く造られていく。
如来坐像(重要文化財) 飛鳥時代 7世紀 東京国立博物館(法隆寺献納宝物)
渡来系の仏師である鞍作止利(くらつくりのとり)によって造られた《如来坐像》について、「法隆寺金堂釈迦三尊像によく似た作風で、止利仏師の様式をよくあらわしている」と解説するのは、皿井舞氏(東京国立博物館 学芸研究部列品管理課 平常展調整室長)。
浮彫伝薬師三尊像(重要文化財) 飛鳥〜奈良時代 7〜8世紀 奈良・石位寺
日本に現存する最古級の石仏《浮彫伝薬師三尊像》は、寺外初公開となる作品。台座に腰かけて禅定印を結ぶ中尊に、左右両脇の菩薩像が合掌する三尊形式は、中国初唐期に流行したものであるという。本作について皿井氏は、「遣唐使が中国から持ち帰ってきた、レリーフ形式の塼仏(せんぶつ)の型をもとに、サイズを大きくして作ったもの」であると説明した。
持国天立像(重要文化財) 飛鳥時代 7世紀 奈良・當麻寺
さらに、奈良の當麻寺に安置される四天王像のうちの一体《持国天立像》は、「髭をたくわえていたり、甲冑の襟が立っていたりするなど、中国初唐期の神将像のイメージをダイレクトに取り入れている」と、皿井氏。
四天王像のうち 広目天立像(国宝) 奈良時代 8世紀 奈良・唐招提寺
仏教が、国土安寧をもたらすものとして国家の支柱になると、四天王像は、国土を守護する尊像として重視されるようになった。会場には、唐招提寺の金堂の四隅に安置される四天王像のうち、《広目天立像》と《多聞天立像》の国宝2体が展示されるほか、平安時代に出雲で造られた四天王像4体が集い、威容を誇っている。
四天王像のうち 増長天立像(重要文化財) 平安時代 9世紀 島根・萬福寺(大寺薬師)
特別展『出雲と大和』は、2020年3月8日まで。島根県と奈良県の名品が一堂に会する機会に、ぜひ足を運んでみてはいかがだろうか。

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