武正晴監督

武正晴監督

【インタビュー】映画『嘘八百 京町
ロワイヤル』武正晴監督「悪いやつを
笑い飛ばすことこそ、映画の使命」

 あの骨董(こっとう)コンビが帰ってきた!古美術商・小池則夫(中井貴一)と陶芸家・野田佐輔(佐々木蔵之介)が、骨董品をめぐって一世一代の大勝負…! 俳優陣の名演と巧みなストーリーで全国を笑いの渦に巻き込んだコメディー『嘘八百』(18)の続編『嘘八百 京町ロワイヤル』が、1月31日(金)から全国公開となる。さらにパワーアップした本作では、広末涼子マドンナに迎え、戦国時代に活躍した武将茶人・古田織部の幻の茶器をめぐって、抱腹絶倒の大騒動が巻き起こる。前作に続き監督を務めたのは、『百円の恋』(14)、「全裸監督」(19)の武正晴。公開を前に、本作誕生の舞台裏、作品に込めた思いなどを聞いた。 -2年ぶりの続編ですが、生みの苦しみなどはあったのでしょうか。
 難しかったです。続編は初めての上に、原作のないオリジナル作品なので、ゼロから物語を作り上げなければいけませんから。主人公の2人が引き続き出ると決まっていても、話をどうすればいいのかと。とりあえず脚本を書き始めてみたものの、どうしても前作と同じような話になってしまう。「新しいキャラクターが必要だよね」ということで、「謎めいた女性を出そう」となったところから、ようやく話が転がり始めた感じです。 -陶芸というモチーフは、前作を経験している分、扱いやすかったのでしょうか。
 いや、やっぱり難しかったです。千利休は前作でやっているので、もう使えませんから。古田織部の名前が挙がってきたのは、舞台が京都だったからです。それから参考に…と思って、漫画の『へうげもの』を読み始めたら、面白くてつい、全巻そろえてしまいました(笑)。そうこうしているうちに、「ゆがみの美学」みたいなものが、テーマとして浮かび上がってきて。「ゆがみや傷があってもいい」という織部の美学を、今描けば面白くなるんじゃないかと。 -前作では、佐輔が「贋物(がんさく)を作る」ことから、自分の進むべき道を見いだすという展開で、陶芸が人の生きざまに通じるものがありました。今回は「ゆがみ」がそれに当たると?
 そうですね。最近は「コンプライアンス」みたいなことが声高に言われ、何でも真面目にやらなきゃいけないような風潮が幅を利かせています。ちょっと失敗すると、ネットですぐに叩かれる。映画でも、不良やアウトローみたいなものは描きにくくなっていますし。でも、本当にそれが正しいのかと。「そんなに責めなくてもいいんじゃない? そもそも、みんな何かしらの傷を持っているんじゃないの?」という疑問は常々感じていましたから。 -武監督は『百円の恋』(14)や「全裸監督」(19)など、さまざまな作品を手掛けていますが、本作のようなコメディーに対しては、どんな思いを持っていますか。
 僕は『銃』(18)という映画を除いて、基本的に全てコメディーだと思って作っています。『百円の恋』もブラックコメディーです。最近は「感動もの」や「いい話」みたいな映画が多く作られていますが、僕は「もっと笑い飛ばせばいいんじゃない?」と思うんです。やっぱり、映画を見るなら笑わせてほしい。人間の生活なんて、笑える瞬間がいっぱいあるわけですから。 -なるほど。
 しかも、「悪いやつを笑う」というのは、暴力の要らない大きな武器だと思うんです。「こんなばかなやつを笑ってやろうぜ」という皮肉こそが、映画のあり方じゃないのかと。だから、この映画にも悪いやつが出てくる。ああいうやつらを笑い飛ばすことこそが、自分たちの使命だろうと。何か問題が起きたときに正面から「反対!」とやるのもいいんですが、僕にはちょっとやぼな感じがする。それよりも、笑い飛ばす方がスマートじゃないのかなと。 -そういう意味では、前作に続き見事なコンビぶりを見せる中井貴一さん、佐々木蔵之介さんをはじめ、新たに加わった広末涼子さん、加藤雅也さんなど、俳優陣の芝居もノリノリで、終始笑いっぱなしでした。
 普段やらないような役を与えると、俳優は喜んでやってくれますよね。今の日本ではいろいろな制約もあり、年齢と共に役の幅が狭まってきます。若い頃はいろんな役をやっていたのに、年齢と共にお父さんの役、おじいさんの役…みたいになっていく。でも、それよりも説明のつかない役の方が面白い。広末さんがやった志野は何者なのかよく分からないし、中井さんも蔵之介さんも、2作目とはいえ、自分たちの役についてまだはっきり見えていない部分がある。だから「よく分からないけど、面白いからこいつに近づいてやろう」と楽しんで役作りをしてくれるわけです。
-劇中で重要な役割を果たす織部の幻の茶器「はたかけ」について教えてください。
 あれはもちろん創作ですが、茶碗をゼロから作らなければいけないので、大変でした。実際にありそうなものにしなければいけないわけですから。実存する安土桃山時代の茶碗を手に取り、参考にしてそれっぽいものを作る。しかも、撮影に使うので、同じものが幾つも必要になります。でも、同じ色のものは簡単には焼けないんです。ものすごく大変な作業ですが、陶芸家の方たちは「織部の茶器を作るのが、いかに難しいか分かって勉強になる」と言って、どんどんのめり込んでいく。プロが必死になって「うまくいかない」と悩んだり、「土が言うことを聞いてくれない」と言ったり…。本当に真剣勝負です。 -まさに、劇中の佐輔のようですね。
 そうなんです。物を作っている人たちには、常にそういう苦悩があるんですよね。それは、映画も同じです。だから、茶碗を作ってくれる陶芸家の方たちが、「映画作りも茶碗作りも一緒ですね」と言ってくれたのが、すごくうれしかった。「これだけ茶碗作りをちゃんと見せてくれた映画はない」と言われましたが、やっぱりそこはきちんと見せたくなりましたよね。 -そういう思いも、この映画には詰まっていると?
 そうですね。ただ、同じ物作りと言っても、“Make”(メーク)ではなく“Create”(クリエート)です。“Make”は同じものや似たようなものを作り続けるという意味ですが、“Create”は世の中に一つしかないものを作ろうとすること。いくら腕が良くても、一歩間違えると“Create”ではなく“Make”になってしまう。それは、陶芸も映画作りも同じです。そういう自分たちに対する戒めも含めて、という感じです。とはいえ、それは僕らのモチベーションの話なので、お客さんには余計なことを考えず、単純に楽しんでもらいたいですね。 (取材・文・写真/井上健一)

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