赤い公園 “ずっと青春してる”4人
に訊く、新体制で切り開くバンドの現
在と未来

何をやっても“初”がつく、いまの赤い公園はやることなすことすべてがフレッシュ。今度の“初”は“新体制初CDシングル”で、曲はアニメ『空挺ドラゴンズ』エンディングテーマになった「絶対零度」だ。三、四、五拍子がぐるぐる回る摩訶不思議なリズム、突如現れる美メロ、寓話的な歌詞、そしてボーカル・石野理子の無垢でまっすぐな歌声と、予測不能の展開でスリルたっぷりに駆け抜ける、3分半のカタルシス。新体制・赤い公園の新たな代表曲について、そして来るべきツアーについて、“ずっと青春してる”4人に話を訊いた。
――ふと気づいたら、結成10周年なんですよね。2020年が。
津野米咲(Gt):そうなんです。しれっと10年。
――特にアニバーサリーとうたっているわけでもないですけども。
津野:全然それどころじゃないですね。でも最初から応援してくれているお客さんに対しては、感慨深い気持ちにはなります。よくもまあ、もの好きな人たちだなと(笑)。
――いやいや。誇らしく思ってるんじゃないですか。
津野:最近は、はじめましての方もすごく多いので。10年頑張って来た私たちにご褒美、とかは考えてないです。
――前向き感しか感じないですけどね、今回の曲も。あらためて、津野さん、ボーカルが理子さんになってから、曲の作り方が変わったとか、そういうことはあるんですか。
津野:提供させていただく時も、あんまり変わらないので。自分の中で、作り方を変えたとかはないですけど、演奏とかも含めて、意識的に変えなくても変わっていってる感じは感じてます。使う音とか、それがメロディや歌詞にも反映してきてるのかな?と。“この声だったらこんな曲が聴きたい”というものが、感覚的に出てきているのかなとは思います。
藤本ひかり(Ba):あんまり、意識みたいなものはないよね? “いいボーカルだなー”と思うぐらいで、何かが変わったとは特にないです。
歌川菜穂(Dr):歌がぐいっ!と連れて行ってくれる感じというか。ライブで特に思うんですけど、リズムを叩いていても、意識せずにスッと歌がそこにいてくれる感じがあって。いつも歌を頼りに叩いてます。
津野:理子の特性かもしれない。様子をうかがう部分ももちろんあったと思うけど、しれっと普通の顔で入ってきてくれたので。私たちも、スローガンを改めるとか、規則を改めるとか、そういう感じではなかったんですよね。かつ、先代ともまったく違う歌い方をするので、本当に自然に、毎日一生懸命バンドをやっているという感じで、こうなってきました。
――理子さんめっちゃ褒められてる。
石野:褒められて、なんて言っていいのかわからないですけど。前に作られた曲をライブで歌う時は、ちょっと意識することはあるんですけど、私が入ってから作った曲は、すごく自然に歌えてます。気負いなく。
――あれから1年半とかでしたっけ。
藤本:もうすぐ2年じゃない? 初ライブが5月だけど、加入は4月とかだった。
――その間に理子さん、自分の中での成長を感じたりしてますか。自己診断で。
石野:自己診断で言うと、だいぶ変わりました。入ったその年の1年は、まだ高3だったので。地元が広島で、リハーサルやイベントがあるたびに東京に通ってたんですけど、本当にがらっと変わったのは、卒業したあと、2019年の4月とかからです。環境も変わったし、まだまだいろいろ変わってます。思春期なんで。
――パンチラインだなあ。思春期なんで。
石野:まだまだ言えますね。二十歳になったらちょっと、と思いますけど。
――言ってもいいんじゃないですか。
石野:でもこのバンドは、ずっと青春してるんで。
――出たなあ。パンチラインその2。かっこいい。
津野:ほんと、青春だよね。

――そんな、青春真っただ中の赤い公園の新曲は、アニメのタイアップということで。これはまずお題をいただいて。
津野:はい。原作を読ませていただいて、何曲か作って提出したんですけど、一番ヤバめな曲が選ばれまして。すごく私たちらしい曲だなと思うので、これを選んでいただいてかなり嬉しかったです。
――それは原作の、どのへんにインスパイアされて、こうなったのか。
津野:共通点みたいなものを感じていたんです。竜を取って、食材として街に卸すという話で、この人たちは、無理かもしれないことを楽しみながらやって、切り拓いている。太字で書く冒険ストーリーではなく、すごく自然に楽しみながら、そういう旅をしているんですけど、それが自分にとってのバンドにも近いというか、バンドに向き合う姿勢として大事にしたいところだなと思ったんですね。見たことないものを見たいし、こうしておけば大丈夫とわかっていても、一歩めんどくさいところに足を突っ込んでみたり、そういう共通点を私は勝手に感じたので。「絶対零度」は、“もしも死海に飛び込んで生き残った金魚がいたら”という着想で書きました。
――あー、なるほど。それで冒頭に<アラバの海(=死海)>が出て来る。すごい塩分濃度で、魚は住めないところ。
津野:住めないところなんだけど、金魚鉢から飛び出して、死海に飛び込んでみる。そんな金魚の話です。
――応援歌というか、めちゃめちゃ前向きな曲じゃないですか。
津野:前向きですね。とらえ方はそれぞれだと思いますけど。これを聴いて、背中を押してくれる曲だと思う人は、もう腹が決まっているというか。挑戦したいことが目の前にある状況だと思うので、“だったらやってみれば?”という曲になればいいなと思います。
――藤本さん的には、この曲は。
藤本:いつも津野さんからデモが送られてきて、そこで曲の実態を知るんですけど、まあ、とんでもないものが来たなと思いました。最初は金魚の歌だとは知らずに聴いてて、“戦う歌なんだろうな”という解釈でした。ちょっと戦隊チックな、構えてる感じというか、凛とした姿がすごくかっこいいなと思って。何か戦ってたの?
津野:戦ってるんだろうね。毎日ね。
藤本:仁王立ちで歌ってる感じがして、理子が。海をバックに、ばーん!みたいな。
津野:いま、「伯方の塩」が流れた(笑)。
藤本:すごくイメージしやすかったです。
石野:初めて聴いたデモの時点で、曲の中に展開がたくさんあったんですけど、完成に近づくにつれて、曲全体で見せたいイメージがはっきりしてきて。ひかりさんが言ったような、“戦う”とか“試練に立ち向かう”とか、そういう感じの曲だという全貌がつかめてきて、そういう雰囲気を歌で出せるように。ちょっと挑発する感じもありつつ、歌いました。
――仁王立ちで。歌川さんは?
歌川:私は逆に、Bメロが合唱曲だなと思いました。開ける感じがあって、ピアノも乗ってて、突然合唱曲っぽくなる。ホール感が出るなと。“なんだこれ、たまらん~”と思いました。たまらんポイントです。
――わかります。僕もそこ、たまらんポイントなんで。
津野:私もそこ、たまらんポイントです。だから、そこがサビなんです。本当のサビが追いサビみたいな感じというか。AメロBメロは、作ってて楽しかった。
石野:聴いた時に、冒険してる感じがすごいあって。小さなねずみが、大都会に出て、何もわからない状態で、“これは何だろう?”みたいな雑多な中にいる。この曲は、赤い魚でたとえられてるけど、歌詞はいったん置いておいて、初めて聴いた時に、冒険してる感じ、ゾクゾクするスリルがあったなって思いました。
藤本:なんだっけ、サビでハムスターが滑車を回してる感じ、とか言ってた。
津野:場面の移り変わりで言うと、理子の感覚はすごいわかりやすいかも。最初はごみ溜めみたいなところから始まって……。
石野:そうなんです。ガラクタがいっぱいあるようなところ。
津野:歌舞伎町の朝方みたいなところから、突然ネオンがきらめいてきらびやかになって、それから高いところに行ったのかな、空がすごく開けて見えて。右も左もわからず、いろんな景色を見てる感じ。サビは何かに追いかけられてますね。たぶん。
石野:カシャカシャカシャーって。
津野:チェイスしてる。なんか、通じ合ってるね。どぶねずみが街を見上げて、いろんなことを思っていく感じかも。展開を説明すると。
――面白いなあ。みなさん、想像力ふくらませて聴いてほしい。
津野:それぞれに違うものが見える、余白があると思います。
――これ、基本は三拍子ですかね。
津野:何拍子だろう?
歌川:いろいろ。三も四も五も出て来る。イントロが四、Aメロが三。間奏は五とか。
――さり気にやってるけれども。すごいですよ。昔からこのバンドの特徴ではあるけれど。
津野:さり気にやるのが大事です。
歌川:考えたら終わりだよね。わかんなくなっちゃう。
――考えるな、感じろ。らしくもあり、新しくもあり、いい曲です。
津野:『空挺ドラゴンズ』のチームと出会えたから、できた歌だと思うんです。シンプルに、素敵なものを作っている素敵な仲間と出会って、自分の誠意として、赤い公園としてかっこいいものをきちんと返す。お互いそういうことだと思うんですけど、タイアップって。それが、すごくハッピーな形でできたと思います。そして「絶対零度」が持っている、それこそBメロのシンフォニックな感じ、重厚感のある感じ、だけどノイジーな感じ、サビの四つ打ちの感じというのは、これまでの赤い公園にもタネはあったものなんですけど。そのすべてを、ささやかにアップグレードできている感じが、自分の中ではしていて。胸を張って、新体制の赤い公園の初のシングルとしても、自分にとっても腑に落ちる、気持ちのいい作品になったかなと思います。
フルアルバムを作ることができる健康状態まで回復して、さらに元気になって帰ってくることができたことを、このタイミングであらためて感じてます。
――素晴らしい。みなさんぜひチェックを。で、カップリングはまた全然違う曲調という。
津野:違います。でも海繋がりです。
――あー、そうか。言われてみれば。これは書き下ろし?
津野:ではなく、作ってあったものをここに持ってきました。“あ、海だ”と思って。ナイスカップルっていう感じで。
――ループするリズムの、不思議な浮遊感覚のある、ヒップホップっぽいクールな曲。これはどんなイメージで書いた曲ですか。
津野:これは、サウンドのイメージより先に、歌詞の<She sells seashell by the seashore>というのがあって。いまだにちゃんと発音できないんですけど、英語の早口言葉なんです。なんか聞いたことがあって、意味は、女の人が海辺で貝殻を売ってるという、それだけすごい覚えてて、“変なのー”と思っていて。ふと思い出して、どういう状況?と思って書いてみました。
――なんか訳ありっぽい。海辺で貝殻を売る女。
津野:私の解釈その1だと、この人は、愛する人をなくして、戦いなのか何なのか、海に行ったまま帰ってこない。彼女はその海でずっと、“これはあの人のかけらだ”と思って、貝殻を守っている。そこに人が来ても、この海は私の大事なあの人なので、お帰りくださいという、“貝殻あげるから帰ってください”というような物語を、そんなに詳細に書かなくてもいいかなと思って、かいつまんで書いてみました。
――うーむ。なるほど。
津野:今はそういうふうに説明しちゃったけど、ほかにもいろいろ考えようはあるんです。
――<ゲートが開くその時まで>ですからね。いずれ何か、事件が起きそうな。
津野:生と死の扉みたいな。すごく神聖な感じがするので、現実感と、現実味のなさと、行ったり来たりするようなサウンドがいいなと思って、こんな感じになりました。
――腑に落ちました。藤本さんの解釈は。
藤本:これも、曲が送られてきた時、なんぞ!?と思いました。でも、こういうダークな曲はすごく好きなので。歌詞がふわっとしているから、聴き手側にいろんな余地を与えてくれる、津野さんは優しいなと思いました。私は恋愛の曲だと思ってたんですけど、考えさせられる感じでした。
――理子さんの解釈を聞きましょう。
石野:私もめちゃくちゃ好きなタイプの曲で、聴いた瞬間に、ここがどこであるのか、すぐにわかるような、世界観に引きずり込まれる感じがありました。深海の、もはや光が入り込まない場所にいる感じで、そこに聖母マリア的な人が、深海の魚たちに、さっき米咲さんが言った歌詞の内容を語りかけてる。
津野:読み聞かせてる。
石野:そうそう。そういう情景がふわっと浮かんで、それをイメージしながら歌いました。
――美しい光景だなあ。
石野:神秘的で、神聖な感じがあるんです。
――歌川さんの目にはどんな光景が。
歌川:暗い、夜めの海のイメージでした。紺色の、光少な目の。中毒性がある曲だなと思って、聴いててトリップしそうになっちゃう。ちょっと狂気も感じて、怖いなと思ったり。ポツンと立っている<お嬢ちゃん>とか、ホラー感もちょっと感じました。ほんと、トラックも歌もかっこよすぎて。
津野:踊りだしちゃった。
歌川:踊れないけど踊っちゃいました。踊りませんけど。
――これもいい曲。ライブでどうやればいいのか、全然わかんないですけど。
津野:今のところ何も考えてないです。これから考えます。
――そして、ちょっと先、5月からはツアーが始まるので、抱負、おねがいします。
歌川:アルバムを引っ提げてのツアーは、新体制になって初なので。会場数も多いですし、前回もそうでしたけど、毎回私たちもいろんな挑戦をしているので、ただ音源通りになるのかどうなのか?と。自分たちでも何をしでかすかわからないので、楽しみに待ってて、来てほしいなと思います。
石野:初日にはホールもありますけど、できる限り最大限に、曲の良さを引き出しながら、みんなで楽しめたらいいなと思います。
藤本:初めてのホールワンマンで、私自身もホールでライブを見るのが好きなので、今は頭の中にやりたいことがいっぱいあって、それをかなえられるかどうか、みなさん当日お楽しみにということで。でも、来てくれるだけで嬉しいです。
津野:ほとんど言われちゃった。でも、アルバムの中身についてはまだ言えないですけど、バンドをやってて思うのは、今はいろんな曲の聴き方があるし、便利で素敵で私もハッピーなんですが、やっぱりフルアルバムを作るのは、ライフワークみたいなものだと思っていて。で、フルアルバムを作ることができる健康状態まで、回復したんです、赤い公園ちゃんが。回復して、さらに元気になって帰ってくることができたということを、このタイミングであらためてすごく感じてます。5月8日の、アルバムを引っ提げての初日は、ホールでの初ワンマンで、結成10年になりますけど、みんなで一緒に“せーの”で、“赤い公園が大きくなったね”って実感できるタイミングって、意外と今までなかったんです。それをホールワンマンという形で、キャパを大きくしてみる勇気は、今までのツアーに来てくれたみんなが与えてくれたものなので。ちゃんと見に来てほしいし、それに見合ったものをちゃんと返すし、さらには、ここからもっと大きく、どんどんチケットが取れなくなっていく予定なので、まだ見たことない人も、このツアーをきっかけに、そのドラマにここから一緒に参加してもらって、やっていけたらいいなと思っています。ので、ぜひ来てほしい。……真面目なこと言うと、恥ずかしくなってきちゃった。
――アルバム、楽しみにしてます。
津野:アルバムの時もお話したいです。よろしくお願いします。
取材・文=宮本英夫

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