可児市文化創造センター(ala)と英
リーズ・プレイハウスが共同制作~『
野兎たち MISSING PEAPLE』主演俳優
二人に聞いた、稽古、作品、可児市、
栗きんとん

『野兎たち MISSING PEAPLE』。可児市文化創造センター(ala)✕リーズ・プレイハウスによる日英共同制作が実現する。この二つの地域劇場は2015年に提携を結び、人的な交流などを行うなどしてきたが、これが初めての共同制作になる。スタッフ、キャストとも日本とイギリスから起用された混合チーム。特にキャスト陣はオーディションにより選ばれたメンバーで、昨年末にはイギリスのリーズにて、年明けから岐阜県可児市に場所を移して稽古をしている。劇作家ブラッド・バーチが、3度の来日で可児や東京、大阪などを取材して書き上げたのが『野兎たち MISSING PEAPLE』。主役となるカップル役を演じるスーザン・もも子・ヒングリー、サイモン・ダーウェンに話を聞いた。
物語の舞台は、岐阜県可児市。中村家に、ロンドンで暮らす娘・早紀子が、婚約者・ダンとその母・リンダを伴い久しぶりに帰ってくる。母・千代が一行を迎え、しばし和やかな時間が流れているようだが、早紀子は様変わりした自室や、彼女の帰省を知りながら家を不在にする父・勝に不信感を募らせ、「“違う生き方”を選んだことで、自分は今も両親に罰さられているのだ」と鬱積した想いをダンに吐露する。日本滞在からしばらく、早紀子の兄・弘樹の見舞いだと言って、同僚が訪ねてくる。名古屋で妻と暮らすはずの兄。そして次第に、知られざる家族の姿が浮き彫りになっていく――。
――リーズでのお稽古ではどんなことを行なってきたんですか?
サイモン テーブルワークが中心。その時は、まだ完成していない脚本をもとに、みんなでどういう可能性があるのかを話し合ったんだ。アイシャ、もも子とはその前に一度顔合わせていたけれど、日本のキャストの皆さんとは稽古初日に初めて会ったんだ。どうやってコミュニケーションを取ろうか不安だったけど、約2週間のうちに徐々に緊張も解けていったね。
もも子 私が唯一バインリンガルだから、日常も稽古もずいぶん頑張りました(笑)。
サイモン そうそう、最初のころは、もも子に頼りっきり。
一同 笑い。
サイモン 少しずつ稽古が進んでいくうちに、お互いがどうやって作品を立ち上げていくのか、またその違いもわかってきたのも大きかった。それからムーブメントダイレクションの木村早智さんが、立って、動いて、どうやって場面転換をするのかなどの動きを付けてくれた。
サイモン・ダーウェン
――脚本を読んだときに、すごく日本的だなという気がしました。言いたいことも言わずに心に秘めておく感じが。イギリスの戯曲はもっと直裁的なイメージがあったんです。
サイモン アラン・エイクボーン、デビッド・ヘア、トム・ストッパードなどなど有名な劇作家は確かにそうかもしれない。それにイギリスは階級があるから、たしかに直接的な感じになることは多々ある。でも現代の若い作家はちょっと違うよ。社会工学的、心理学的な面も研究しながら、曖昧なニュアンスもよく描いている。アジスタ・マクダウル、サラ・ケインなんかは極端な形で言語を探求しながら実験的なことをしているしね。
もも子 よく稽古場では、イプセンぽいね、チェーホフぽいねという言い方はしますね。表面的には単純なことを言っているようでも、奥がものすごく深くて別の意味がある戯曲の場合は、そんな形容をしたりもします。
――共同演出の西川信廣さん、日本の役者さんと話し合う中で、この脚本に書かれている世界について不思議に感じたり、共感できたりするところはありますか?
サイモン そうだね。そういう意味では国ということに限ったことではなくて、どんな国の人でも不思議なキャラクターはいるもんだよ。小田豊さんは役者としても個人のキャラクターとしても不思議なところがあって、例えば彼のやっていることを見ていると僕なんかいつも笑っちゃうし、彼自身もだんだんサイモンをつついて笑わせてやろうみたいな感じがある。だから稽古場はいつも笑いが絶えない。不思議と言えば不思議なところもあるけれど、そういうものでしょう。
もも子 私は七瀬さんが演じる千代かな。早紀子との間には過去に何かがあって仲が悪いんだけど、4年ぶりに再会したときもいつも微笑んで優しいふりをしているのが気持ち悪い。そこはゾッとくるし、面白いなあ。いろんな料理を作って、お客さんとしてもてなしてくれるんだけど、それは最高の仕事でもあるんだけど、裏に何かを秘めているんですよ。まだまだ探っているところですけど、今の段階でも七瀬さんは千代をすごくうまく演じていらっしゃいます。
――もも子さんは東京生まれだそうですね。役者をやりたくてイギリスへ?
もも子 実はそうじゃないんです。東京で生まれたんですが、生後半年でイギリスに戻っています。だから住んだことはないんです。
――それにしては日本語がすごいお上手ですね?
もも子 いえいえいえ。
――早紀子の心情に共感できるところはありますか?
もも子 私の母も20歳のときにイギリスに行って、それからずっとイギリスに住んでいるんですよ。そして父に出会って。だからこの物語の設定とすごく似ているんです。うちは家族の仲が良いから(笑)、そこはちょっと違うけど。でも私は日本に住んだことがないので、早紀子が社会のどういうところ、あるいは親のプレッシャーのどういうところが嫌でイギリスに渡ったのかなって役づくりで考えるときに、うちの母はどうしたんだろうというところから考えています。ロンドンの方がいろいろ言えるし、勝手に生活して、それが自由で気持ちよくて残ったのかなあとか。あるいは10年ぶりに自分の国に帰る、家族に会うというのは確かに大きなことなので、うちの家族だったらどうなるのかなって。
――サイモンさんは、ダンさんの役づくりはどういうふうに?
サイモン 僕は役づくりを積み上げていくというタイプの役者じゃないんだ。優れた戯曲には、キャラクターのすべてが詰まっているから、バッググラウンドの事実と場面とで、そこからいろんなことができ上がっていく。そして自分がせりふを言う相手、返してくれる人とのやりとりがあれば最後には役はでき上がるものなんだ。だからリサーチをしてこう演じようということはしない。ただ役のアクセントがあるから、そういうところは注意深く考えたりはするよ。
――脚本に書かれた通りにやれば自然に役になるということですね。
サイモン ザッツ・ライト! もちろん稽古で徐々に徐々に、1ページ1ページ、それぞれの場面を積み上げていけば。これが『リチャード3世』だったら足を引きずらなければいけないとかいろいろあるから、もっと作業は複雑になるけど、ダンは僕と同じような男性で、早紀子との関係で、キャラクターが浮き彫りになっていく。それが僕のやり方。
スーザン・もも子・ヒングリー
――じゃあ結婚する早紀子の魅力はどんなところに感じていますか?
サイモン 早紀子は日本を離れて、ロンドンに来たでしょ。自分のいるところではなく、ほかのものに感化されたわけだよね。でもそれよりも大事だったのは逃げたかったということ。あとは父親との関係、それは古典的に常にある微妙な関係ではあると思う。そういう早紀子に実はダンも似ていて。ダンは北部のリーズという街を捨ててロンドンにやって来た。彼のお父さんは5年前に亡くなっているんですけど、彼と彼のお母さんの関係もこじれてしまっていて、まだ壊れたままでいる。母は、父が亡くなって悲嘆にくれている時期というのをきちんと解決できていない。そういう意味では、“ミッシング・ピープル”というタイトルは直訳では「いなくなった人たち」だけど、ダンとお母さんもいなくなって迷っている。そこでもう一度自分たちを見つけられればいいんですけどね。と同時に、彼にとって日本は魅力的で、しかも素晴らしい早紀子の家族の関係があるんだと彼は思っている。
もも子 早紀子がロンドンに行ったのは、自分の家族から逃げたかったからなんだけど、そこでまだ何をしたいのか探っているんだと思う。そこはダンとの共通点であって、支え合っているんだろうなあと思います。でもやっぱり何をしたいかが見つからないんですよ。自分の親には成功しているとウソを伝えなければいけない、この二人はそういう芝居をしているんです。そう、実は自分たちのロンドンでの生活にも不満があって、二人とも悩んでいて、もしかしたら普段から話し合ったりしているんだろうなあ。
――リーズから可児にきて10日ほどだと聞いていますが、日本の空気をたくさん吸って、今感じていることはなんですか?
サイモン まだ時差ぼけがやっと治り始めたところ(笑)。言葉もわからないしどこに行っていいのかもわからないし、38年間生きてきた中で今回ほどのカルチャーショックはないよ。今回も、もも子に頼りっぱなしだった。でもだんだん勇敢になってきたよ、昨日は新しいレストランを見つけたしね。そろそろ一人でも何かできそう。ここはすごく静かで平和です。僕はスーパーマーケットに行って食材を見るのが大好き。でも一番好きなのは温かいトイレのシートかな。
一同 笑い
もも子 ハハハ! ないんです、ロンドンには。私はこの地域はうなぎが美味しいと聞いていたので、普段食べられないから、みんなを一緒に連れていったんです。みんなには無理かなと思って自信はなかったんですけど、劇場の方にうなぎ屋さんを探してくださいってお願いして、勝手に行くことを決めて連れていったら成功しましたね。みんなにも大人気で。
サイモン 美味しい、美味しい。
もも子 チャレンジすることはいいこと(笑)。私たちが泊まっているのは山の中の古民家集落なので、毎日運転して劇場まで来ているんですよ。休みの日も山の中を探検したり、山を越えて御嵩に陶芸をやりに行ったり、とても開放感があるんです。
サイモン パートナーをイギリスに残してきたからね、ちょっと自由でもあるよ。でもその時間は自分のせりふを覚えたり、芝居のことを考えられることに集中できる素敵な環境だね。
――劇中に出てくる、栗きんとんとすき焼きはもう食べましたか?
もも子 すき焼きはこれからです。栗きんとんは食べましたよ。劇場のサポーターの方がつくってきてくださって。
サイモン 僕も楽しみだね、すき焼きは。それに栗きんとんは美味しいし、栗きんとんに罪はないんだ。早紀子のお母さんにとってはきっとご自慢の一品なのに一口も食べないんだもん、それは機嫌も悪くなるよ。ダンが悪い(笑)。
通訳:臼井幹代  取材・文:いまいこういち

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