新たな価値の創造を教えてくれるミュ
ージカル『ホンク!』に主演する女優
・東野寛子にインタビュー

「障害者だからと特化するのではなく、こうやればできる、視点を変えたら魅力になると感じていただけたら」
「1年にわたって創り手と観客が体験を共有できるパフォーミングアーツを通じ、障害・性・世代・言語・国籍など違いを楽しむ接点を創る、世界初の/世界でも類をみない試み」を掲げて、開催されている「True Colors Festival ―超ダイバーシティ芸術祭―世界はいろいろだから面白い」(日本財団主催)。2月は、芸術活動を望む障害者の就労・自立を促す活動を展開しているアメリカの劇団ファマリー(Phamaly)が新作『ホンク! 〜みにくいアヒルの子〜』を上演する。アンデルセン童話「みにくいアヒルの子」を原作にした本作は英国演劇界の最高峰ローレンス・オリヴィエ賞の最優秀ミュージカル賞に輝いたミュージカル・コメディ。実はこのプロダクションに日本から二人の俳優が出演している。そのお一人、東野寛子さんにお話をうかがった。
東野寛子
――東野さんがこのプロジェクトに参加するきっかけを教えてください。
東野 ビッグアイ(国際障害者交流センター)の鈴木京子さんがこの企画のディレクターをされていて、誘っていただいたんです。鈴木さんとは、2018年にシンガポールで開催された「アジア太平洋障害者芸術祭 ~True Colours Festival~」に日本から2作品が参加していて、ダンスカンパニーDAZZLEの長谷川達也さんが演出・振付した『Seek the Truth(真実を求めて)』に応募して拾っていただけたのが出会いでした。今回も「参加してみない?」とお声がけいただいたときは「やります!」と即答しました(笑)。
――アメリカでの稽古、公演に不安はありませんでしたか?
東野 語学力こそ、海外旅行で何もトラブルがなければ楽しんで帰ってくるくらいのものですが、これまでにも、ウィーンで歌のレッスンを受けたり、海外旅行の際にスタジオを見つけてダンス・レッスンを受けたりはしてきました。でも作品をつくるのは今回が初めてでしたから、不安よりも楽しみが先に立ちました。
『ホンク!』アメリカ公演より
――カンパニーのことを紹介してくださいますか?
東野 ファマリー・シアター・カンパニーは、アメリカのコロラド州を拠点にした劇団です。ここは芸能活動を望む障害者がメンバーの中心で、劇団が芸能活動も含めた就労支援や自立支援をしています。だから演者は身体だったり、聴覚だったり、自閉だったり、発達だったり何かしら障害がある方です。芸術監督のリーガン・リントンさんも車椅子を使われている方です。ファマリーは受け皿がすごく大きいと言いますか、障害だから何ができないということではなく、障害があるけどこうやったらみんなが心地よく芸術活動ができる、表現できる場になるねということを一緒に考えてくれるんです。
――稽古で驚いたことなどはありますか?
東野 スタッフ・キャスト皆さんがフラットな状態でお稽古に入るんですよ。日本の場合は演出家がこうしたいという意向を持っていて、主演の役者さんがいて、セカンド、アンサンブルがいてと、それなりにヒエラルキーがある。このカンパニーの特徴なのか、アメリカがそうなのかはわからないけれど、みんなが同じ立場なんです。だから演出のステイシー・ダンジェロもみんなの考えを集約して整理する係という感じでした。そこは日本で私がやってきた舞台のつくり方とは違う印象を受けました。それから必ず稽古の前にディスカッションの時間があるんです。それは作品に関することも話し合うんですけど、自分の体調のことも話します。例えば自閉の子が「今日は気持ちの浮き沈みが大きくて、今は少し沈んでいる。でも気にしないで」というふうに。それに対して「あまり大きい声は出さないようにしよう」とか配慮がなされるんです。
――体調や気持ちの問題まで話せるというのは重要なことですね。
東野 日本はどうしても我慢をする文化だったりしますもんね、そういうことを言える場があるというのは素敵だと思いました。でもこの稽古場では話し合いで出てくることが必要かつ重要な情報でもあります。
――今回はアメリカ公演を経ての凱旋になります。アメリカでの公演はいかがでしたか?
東野 13公演やってきました! 私も海外でミュージカルを観たりしますが、アメリカのお客さんはやっぱり面白いことには素直に手を叩いて、大きな声を出して笑ってくれたりする。お客さんのノリがいいんですよね。舞台の上で、「これこれ、この反応」とうれしくなりました。逆にファマリーのみんなには、日本公演のときに、私たちの作品がつまらないんじゃないかしらと思われてしまうと困るので、私の拙い英語で「日本のお客さんはかなりクワイエットだから気にしないで」と伝えておきました。基本的にコメディなので楽しく観ていただければと思います。
『ホンク!』アメリカ公演より
――飼われている場所を抜け出した主人公のアヒルのアグリーが農場内をさまよいながらいろんな友達と出会い、みんなと違っていることは「個性」だということを発見していく物語ですね。東野さんはアヒルの子ビリーと、白鳥のペニーを演じられるんですよね。
東野 ビリーは主役のみにくいアヒルの子と呼ばれるアグリーの兄弟です。そのアグリーがめぐりめぐって出会うのがペニー。アグリーはペニーと出会って本来自分があるべき姿を見出すきっかけになるんです。ペニーが「(あなたは)みにくいアヒルの子って言われているんだ? でもそんなことは気にしないで。誰もが通る道だから」と伝えることで、アグリーがネガティブな考え方を改めます。ファマリーの創立メンバーには両足の膝から下がない女性もいて、この舞台ではアグリーのお母さんの友達を演じています。いくらアメリカと言えども彼女が若かったころは障害者への偏見はもっと強かったと思うんです。彼女はもちろんファマリーのメンバーが通ってきた道であり、右手に障害がある私もそうだった。みんなの思いを集約したかのような「そんなこと気にしなくてもいいよ!」というセリフを私が言わせてもらう、伝えるというのは正直重いなあと思いますね。責任重大です。
――ソロのナンバーもあるんですよね?
東野 はい! アグリーが実は白鳥だったということを自覚したときにペニーと再会するんですけど、そのシーンで歌うナンバーです。最終的には彼とデュエットになっていく。ペニーは最後の方に出てきて美味しいところを持っていく役(笑)。そういう意味では、ヒロインキャラなんですけど、私はそういう役は初めてなんですよ。家で練習するときはYouTubeでいろんなカンパニーの映像を見て参考にしていました。そのどれもが、アグリーが「みにくいアヒルの子」と呼ばれていることに対して「気にしてちゃダメよ!」ってすごく怒るんです。ペニー役の女優さんは容姿もスタイルも抜群で、きっとそういう悪いことを言われたことがないから、怒りとしての表現になるのかもしれません。そういう意味では私たちの場合は、カンパニーのみんなの経験を踏まえているぶん、この言葉に込められたニュアンスが違ってくるのかな、とやっていて思いましたね。
――お客さんへのメッセージをお願いします。
東野 この作品は「超ダイバーシティ芸術祭」の一演目として上演されます。今はダイバーシティという言葉が流行っていて、もしかしたら仰々しいイメージを持つ方もいらっしゃるかもしれません。けれど誰のためにやっている、何のためにやっているかということは一度忘れて、ミュージカルそのものを楽しんでほしいですね。日本では車椅子の方が舞台で演じるということはまだまだレア。でも去年のトニー賞(アメリカ演劇界の最高峰の賞)では車椅子の方が受賞したり、海外ではあることなんです。だからこそまずは楽しんでください。そのあとで舞台にこういう可能性があるんだということを知っていただければと思います。私は舞台も社会の一つだと思っているので、これは一般社会でもできることだよねと気づいていただけたらさらにうれしいです。障害者として特化するのではなく、こうやればできる、視点を変えたら魅力になるということを感じていただけたらと思います。
東野寛子
取材・文:いまいこういち

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