climbgrow 田中仁太(Ba)最後のラ
イブ、メジャーデビュー目前に示した
バンドの進化と期待

EL RODAR release oneman live「青天井」

2020.2.11 Veats Shibuya
結成から8年、演奏の疾走感を担ってきた田中仁太(Ba)がメジャーデビューを目前にして、バンドを抜けるのは、歴の長いファンほど残念だと思うが、バンドっていうのは、いろいろな出会いや別れを経験しながら前に進んでいくものだ。インディーズ・ベスト・アルバム『EL-RODAR』のリリース記念であると同時に田中最後のライブでもあるこの日、改めて脱退の理由が語られることはなかったが、メジャーデビューという大きなステップを迎えるにあたって、バンドと田中がそれぞれに自分が進むべき道を歩いていくことを決めたということのようだ。
climbgrow/杉野泰誠(Vo/Gt) 撮影=浜野カズシ
「仁太が抜けるという実感は全然なかったけど、演奏しながら、じわじわと実感してきた。こいつが抜けるのはちょっと寂しいけど」と言いながら、「8年間、一緒にバンドをやってきて、思ったのは、仁太はとんでもない女ったれ。仁太に抱かれた人?(と手を挙げさせ)ウソつけ! 男ばっかじゃねえか(笑)。仁太との思い出はそれだけです」と精一杯強がっている(?)杉野泰誠(Vo/Gt)の姿に一瞬、うるっとなったものの、このレポートで何よりも伝えなきゃいけないのは、2時間たっぷり熱演を繰り広げたライブそのものは、決して湿っぽいものではなく、常に変化し続けてきたclimbgrowがさらなる変化と進化を予感させ、期待させたことだ。
1曲目の「極彩色の夜へ」で、《俺はこんな所で終わらせるつもりは無い》と歌い、本編最後の「ラスガノ」で、《此処からが勝負だ》と杉野が宣言したその直後、アンコールで早速、新ベーシストの立澤賢を紹介しがてら新曲を披露したこの日、筆者はまたclimbgrowというバンドに対する見方がちょっと変わったのだった。
climbgrow/近藤和嗣(Gt) 撮影=浜野カズシ
「(仁太とは)小学校からの付き合い。知られたくないようなことも、仁太は知っている。俺はそういう奴を応援できない人間じゃない。全力で応援して、最後のライブにしたい。仁太ががんばる以上に俺たちもがんばる。俺たちはそれをバンドで見せたい。歌で見せたい」
杉野はこの日のライブにかける思いを、そんなふうに語ったが、さらなる変化と進化を予感させたライブは、田中にとって一番の餞になったんじゃないか。
climbgrow/田中仁太(Ba) 撮影=浜野カズシ
満員の観客がいきなりシンガロングの声を上げた「極彩色の夜へ」から「渋谷Veats、ぶっつぶしに来ました!」(杉野)とギターの裏打ちのカッティングが小気味いい「THIS IS」、タイトルを叫ぶ杉野の雄叫びからなだれこんだロックンロールの「LILY」とたたみかけるように繋げると、スタンディングのフロアが波打つように揺れ、血の気の多い観客がダイヴを始める。
「俺らのワンマンで、こんなにたくさんの頭が見えるなんて、すげえ。すげえ。だからこそ、バンドやってきて本気で良かった」
観客の熱い反応に序盤から杉野もゴキゲンだ。しかし、それで満足するどころか、逆にもっと! もっと! となるのがclimbgrowだ。
climbgrow/谷口宗夢(Dr) 撮影=浜野カズシ
「もっと行こうぜ! 俺たちだったらやれる! どこまでも行ける!ついてこい!」と自らフロアにダイヴをキメながら、ギターをかき鳴らし、強靭な喉を震わせ、シャウトする杉野が観客の闘争心をぐいぐいと駆り立てる一方で、彼をバックアップする3人の演奏が直情型のロックンロールバンドと思わせ、実は曲調の変化に合わせたきめ細かいものであることを、改めて声を大にして言っておきたい。
せつない曲調がおやっと思わせる「過ぎてしまった」の変拍子も含め、8ビートにとどまらない多彩なリズムパターンを使い分ける谷口宗夢のドラム。エフェクターを踏みかえ、多彩な音色を奏でた「街へ」が物語るようにフレーズ、音色ともにいくつものひきだしを持っていることを思わせる近藤和嗣のギター。シンプルに8ビートを刻むことが多い田中は敢えて疾走感を生み出すことに徹していたように思うが、climbgrowというバンドは、曲が持つ魅力を生かすという意味では、とことんストイックに演奏に取り組んでいる。演奏中、近藤がしばしば谷口と向き合うのは、リズムにシビアだからだろう。
杉野のソングライティングもさることながら、ブルージーなガレージロックからエモーショーナルなギターロックまで、思いの外、幅広いレパートリーは、そんなミュージシャンシップの高さによるところも大きい。
「過ぎてしまった」「街へ」の2曲をじっくりと聴かせたバンドは、曲の始まりを杉野による弾き語りにアレンジしなおした「POODLE」からテンポアップ。
climbgrow 撮影=浜野カズシ
「もっと来い! ここに何しに来たか知ってるか? 革命を起こしにきたんだ。よろしく!」と杉野が煽りながら、再びフロアを揺らすと、「未来は俺らの手の中」を観客と一緒にシンガロング。そのままアンセミックな盛り上がりの中、終わっても良かったと思う。しかし、一歩目を踏み出したあの時の思いを今一度、自らの胸に刻み込んだ上で、前述したように思うところを、最後に叫んでおきたかったのだろう。《此処からが勝負だ》という歌詞が曲を締めくくる「ラスガノ」を、最後に駆け抜けるように披露。田中のダイヴとともに本編を終えたが、バンドは一瞬も止まらないということをアピールするかのようにアンコールでは、5月20日にメジャー1stアルバム『CULTURE』をリリースして、全国を回るリリースツアーを開催することを発表した。
そして、人懐っこそうな新ベーシストの立澤を迎え、早速、『CULTURE』から新曲を演奏する。近藤が奏でるブルージーなリフからロックンロールになるところは、いかにもclimbgrowらしい。が、立澤はそこに絶妙にファンキーなプレイを加え、筆者を驚かせたのだった。もちろん、この1曲を聴いただけでは何とも言えないが、跳ねる8ビートを含め、実はダンサブルなプレイを得意としている谷口と、立澤の間には何やら新たな化学反応が生まれそうな予感が。
climbgrow/立澤賢(Ba) 撮影=浜野カズシ
立澤を迎えるにあたって、周囲の先輩ミュージシャンから、「“こいつで行くん?”と言われたから、こいつで行きますと答えた」と杉野はMCで明かしたが、キャラを含め、田中とは全然違うタイプの立澤を迎えたことが、改めて田中の存在の大きさを物語る一方で、立澤の加入はバンドに新たな風を吹き込むに違いない。
『CULTURE』は、どんな作品になっているんだろう? それも含め、これからのclimbgrowがぐっと楽しみになってきた。
取材・文=山口智男 撮影=浜野カズシ

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