OAUをホールで味わう新体験と“変わ
っていかないもの” 『OAU Hall To
ur 2020-A Better Life-』東京公演

OAU Hall Tour 2020-A Better Life- 2020.2.12 LINE CUBE SHIBUYA
2月12日、新装となった渋谷公会堂ことLINE CUBE SHIBUYAでOAUを観た。OAUを観るのは随分久しぶりで、前回はステージで日本酒やら泡盛やら飲みまくり、スタンディング会場なのに4時間コースというとんでもない、しかしとことん楽しいライブだったっけ。あれから数年、バンドは15周年を迎え、最高傑作『OAU』を作り上げて着実に成長を遂げた。リリース・ツアーの追加公演、『OAU Hall Tour 2020-A Better Life-』のセミ・ファイナル東京、レポートなので酒は飲めないが仕方ない。成熟したグッド・ミュージックを思い切り楽しむことにしよう。
なんと、1曲目からいきなり「新曲」だ。KAKUEI(Per)とRONZI(Dr)の勇壮な掛け合いをイントロに、雄々しく前進するリズムに乗り、MARTIN(Vo/Vn/Gt)がフィドルを弾きながら歌う、遥かな郷愁を誘うグッド・メロディ。OAU得意の、陰影豊かなアイリッシュ・トラッド風味のレパートリーに、また一つ輝く曲が加わった。「Ice Queen」は脈打つ鼓動のように激しく強く、「Pilgrimage~聖地巡礼~」は緩急自在のリズムでしなやかにたくましく。「こころの花」は、TOSHI-LOW(Vo/Gt)の呼びかけで、“歌って!”というワン・フレーズで会場全体が一つになった。自信あふれるアティテュード、精気みなぎるパフォーマンス。『OAU』で達成した成熟は、ライブでも本物だった。
OAU 撮影=KAZUYAKOSAKA
声出したり、手拍子したりしても、いいんだぜ。とMARTIN。せっかくのワンマン、俺たちの歴史のかけらを見せたいと思います。と、TOSHI-LOW。言われてみれば、ここまで新曲、セカンド、サード、フォース・アルバム収録と、見事にバラバラ。そうか、集大成のツアーだと思うと、俄然期待がふくらむ。KAKUEI(Per)が陽気に手拍子を煽る「Follow The Dream」は、KOHKI(Gt)、TOSHI-LOW、MARTINのトリプル・ギターのユニゾンがかっこいい。しっとりスリー・フィンガーで始まる「Believe」は、1曲の中に1日があるかのような、静けさと高まりが交錯する精妙なアレンジが素晴らしい。
この歌を作った頃は、「歌えるかな?」と思ったけど、今なら歌える。――TOSHI-LOWの前置きで始まった「In all of a day」は、人生の孤独を受け止めてそれでも大地を踏みしめる者の歌。MARTINのフィドルが悲しくてとても優しい。KAKUEIのスティール・パンが柔らかく響く「Remedy」は、ドラムンベース調のリズムに乗って緩急自在、一体感溢れるプレーに胸揺さぶられる名演奏。偉そうな言い方で申し訳ない、OAUは本当に巧くなった。
OAU 撮影=KAZUYAKOSAKA
「夢の跡」を歌う前に、TOSHI-LOWが大事な話をした。この世界で、変わっていくものと変わっていかないもの。俺たちは変わっていかないものを大事にしてる。でもそれを歌うのは苦しい。なぜ? 出会うことと、別れること、それが人生の全てだから。――変わってしまうことがわかっていながら、変わらないものを歌う決意。それがOAUだと、あらためて噛みしめる素晴らしいMC。
「夢の跡」から「Americana」へ、暗く激しい四つ打ちの重低音がかっこいい。TOSHI-LOWがハーモニカを吹く「Where have you gone」では、何の前触れもなく細美武士が姿を現し、強力なハイトーンのコーラスを決めて拍手喝采を浴びた。「帰りに追加料金いただきます」と、おどけるTOSHI-LOW。「このあと、打ち上げの予定あけてるから」と笑う細美。ただ1曲のためにやってきた細美。仲良きことは美しきかな。
ライブは後半に入った。明るいエイトビートで疾走する「A Better Life」から「Thank you」へ。TOSHI-LOWの「そろそろ立ってみる?」という呼びかけに、総立ちの中で歌われた「Again」では、KOHKIがスライド奏法で最高にかっこいいリフを決める。MAKOTO(Cb)がコントラバスを弾きながら、嬉しそうにジャンプしてる。どんどんテンポが上がって最後は大合唱になる、なんてハッピーな曲だろう。エンディングではRONZIが巨大スティックを持ち出し、くるくる回ってフィニッシュ。場内爆笑の渦。しばらく見ない間に、OAUのライブがこんなにフレンドリーでハッピーな空間になっていたことが、なんだか嬉しい。
OAU 撮影=KAZUYAKOSAKA
どんどん行こう。「Freight Train」は、KAKUEIとRONZIがスリリングなリズム・バトルで盛り上げる。「Midnight Sun」は、陽気なツービートに乗って気持ちよく疾走する。そして最高のクライマックスは「Making Time」で、高速ビートと美しい逆光の中、MARTINが掲げる手に応えて何百本もの手が上がる。間違いなく、今日イチの盛り上がり。大人も子供も男も女も、全てを踊らせ笑顔にさせる最強ライブ・チューン。歌い終わったTOSHI-LOWが、「なんで初めからその反応くれないの」と笑ってる。初めてのホール・ツアーで、緊張感もあったろうが、これが2020年2月12日の、二度とないOAUのライブだ。「やっと、やった気になったのに、次で最後の曲」とTOSHI-LOW。雰囲気は最高だ。
ラスト・チューンは「帰り道」。TOSHI-LOWが、ぐっと胸に迫るMCをしてくれた。東京の親父さんと慕っていた人が、先日なくなった。予期せぬ別れは必ず来る。大事なのは、最後に何を言ったか。毎日の、行ってきます、行ってらっしゃい、それはこの世の別れの言葉です。そして無事帰ってきたら、おかえり、ただいま、と毎日繰り返す。「愛する人に挨拶してください」。――当たり前すぎる言葉がなぜこんなに胸に染みるのか。変わっていかないものを歌い続けるOAU。「帰り道」がドラマ主題歌になって、今ここにいる多くの女性や年配層や、新しいリスナーが増えて本当に良かった。これはOAUの革新の1曲。ここから入れば間違いはない。
OAU 撮影=KAZUYAKOSAKA
アンコール。TOSHI-LOWのMCが神がかってる。子供の頃に読んだ漫画の話。息子に勧められた『AKIRA』の映画。素晴らしい漫画、そして音楽は、素晴らしい予言者。破滅に向かう世の中。気づくのが遅いか早いかはあなたが決めればいい。――最後の最後、万感の思いを込めて歌ったのは井上陽水「最後のニュース」だった。1989年に書かれた、2020年を予言する戦慄の名曲を、魂込めて歌うTOSHI-LOW、どっしりとした安定感で支えるバンド。一つずつ音が消え、一人ずつステージを去り、最後に残ったKOHKIがギターを置く。暗転。拍手。明るくなる場内。夢からさめたようなざわめき。美しいフィナーレ。
『A Better Life』ツアーは4月、“Extra Tour”と題した東北公演へと続く。イベント出演も続々決まっている。どこでもいい、ぜひ観てほしい。BRAHMANがどうとかOAUはよく知らないとか、関係ない。2020年の今、観るべき、いや、感じ取るべきバンド。楽しんで、笑って、ぐっときて、ガツンとくる。今度は酒が飲める場所で観よう。

取材・文=宮本英夫 撮影=KAZUYAKOSAKA

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