ユアネスの『ES』ツアーファイナルに
みた、彼らの美点と充実の今、そして
この先

One Man Live Tour 2020 "ES" 2020.2.16 LIQUIDROOM
昨年11月にリリースされた2ndEP『ES』を携えて8都市をまわる全国ツアー、そのファイナルにあたる恵比寿リキッドルーム公演。
青色の照明がステージを染めるなか、気合いを入れるためか、「よっしゃー!」と声を合わせるメンバーの声が舞台裏から聞こえてきた。『ES』の1曲目に収録されているポエトリー「あなたは嘘をつく」にインストトラックを重ねたSEをバックにメンバーが登場。そして「ES」からバンドの演奏が始まった。ここで黒川侑司(Vo/Gt)が「こんばんは、ユアネスです。ツアーファイナル遊びに来てくれてありがとうございます。最後まで楽しんで帰ってください」と、前の曲のリズムに乗ったままみたいな口調で挨拶する。短いセッションとタイトルコールを経ての「あの子が横に座る」では、ボーカルとギターのメロディが螺旋を描くように絡み合い、頼もしいリズム隊を土台に飛翔していく。およそ1年前、WWWワンマンのときは、序盤、メンバーの緊張が演奏に出てしまっている感じが否めなかったが、今日は最初から程よいゆとりがある。また、例えば「cinema」のプログレ的なイントロで各楽器のフレーズがしっかりと噛み合うようになっていたりと、全体的にバンドとしてのまとまりが良くなった印象もある。
ユアネス Photo by Kisa Nakamura
シンコペーションのリズムが疾走感を後押しするアッパーチューン「少年少女をやめてから」でフロアを温めたところで最初のMC。黒川が「今日はね、ワンマンライブっちゅーことでたくさんの時間を設けておりますよ」と前置きしつつ、「ユアネスの魅力をしっかり見せることができたら」と意気込みを語った。そのあとに演奏したのは「凩」、そして「色の見えない少女」と、ライブやMVを通じてファンに親しまれてきた2曲である。例えば「色の見えない少女」では、<色づいた>というフレーズを境に照明がカラフルになるなど、シンプルだが細やかな演出も嬉しい。
ユアネス Photo by Kisa Nakamura
2度目のMCでも黒川がマイクを取る。ここでは、カンペ代わりにスマホを見ながら、6~7月に東名阪で自主企画を開催することを発表。今日の衣装がアーティスト写真と一緒であることを観客に報告したり、満杯のフロアを見渡しながら「見てくださいよ! 端から端まで!」と嬉しそうにしたりしていた。そして「Bathroom」。バンドのアンサンブルが描く壮大なサウンドスケープと、訛りやたどたどしさを残したままの素朴なMCとのギャップに面食らう。このキャパシティの会場をしっかり満たすことのできる――いや、むしろもっと広い会場で鳴らされてもいいようなバンドの演奏に、この1年間での成長を感じた。
ユアネス Photo by Kisa Nakamura
SEによるインスト曲「T0YUE9」を挟み、「夜中に」、「日々、月を見る」へ。どちらもボーカル+同期のピアノから始まるスローバラードであり、黒川の穏やかな歌声に観客がうっとりと聴き入っていた。直前まで黒川と一緒に歌詞を口ずさんでいたバンドのメインコンポーザー・古閑翔平(Gt)による、グッと感情を入れ込んだ、歌心溢れるソロも素晴らしい。続く「100㎡の中で」は、ウォーキングベースと哀愁あるコードが特徴的なジャズテイストの曲。セットリストにピリリとアクセントを効かせる存在だ。
ユアネス Photo by Kisa Nakamura
3度目のMCでは、古閑が「やりたいことがある」と切り出す。そして4月から放送が始まるTVアニメ『イエスタデイをうたって』の主題歌として新曲を書き下ろしたことをファン改めて報告し、みんなが「イェーイ!」とリアクションする様子を動画に収めていた。そんななか、「本当に素敵な作品なんです。関わる方々も素敵な人たちばかりで、勉強になったし……」と語りながら思わず涙ぐむ古閑。突然のことにメンバーは驚きながらも、おそるおそる横からフォローを入れる。
ユアネス Photo by Kisa Nakamura
古閑は、前作『Shift』から『ES』をリリースするまでに1年空いたことに触れつつ、「待たせてしまったかもしれないけど、自分が納得した状態で曲を届けたいんです」「やっぱり忘れられたくないわけですよ。自分がいなくなっても音楽だけは残ってくれるから……」「一節一節、一音一音、汲み取ってもらえたら幸せであります」などと語っていた。年間で何百もの新曲が世に放たれ、新人アーティストが続々と出てくるこのご時世、確かにいち作家として不安に思うこともあるかもしれない。しかし――
ユアネス Photo by Daisuke Miyashita
曲それ自体のみならず、MVやアートワーク、CDパッケージ等も含めた作品群の完成度の高さに拘り、きめ細やかに制作をしているからこそ、それ相応の時間がかかるのだろう。また、イントロのカッティングギターを打ち込みに任せることで黒川が呼吸を整える時間を十分に確保したり、微細な強弱を表現するためにフェードアウトするドラムを打ち込みにしたり……と、生音至上主義的な考え方から距離を置いて、最適な演奏法を選択するやり方からは、音楽の純度を高く保つことを最優先するバンドの姿勢を読み取ることができた。そういうこのバンドの美点、“作品”に向かうときの誠実さを、少なくとも目の前にいるオーディエンスはちゃんと分かっているのではないだろうか。この日のフロアの温かな空気がそんなことを物語っていたように思う。
ユアネス Photo by Kisa Nakamura
そのあとに演奏した「紫苑」が良かった。感情を曝け出す類のMCをしたあとに衝動剥き出しの演奏をするバンドは少なくない。が、衝動を抑制したような丁寧な滑り出しが何とも彼ららしかったし、終盤の展開がよりドラマティックになりえたのはその抑制があったからこそだった。「紫苑」はリリース時のインタビューで古閑が“自分以外の3人の協力があったからこそ生まれた”と語っていた曲。黒川の高音のロングトーンが美しく響いていく。その後、<「はじめから」だっていいから/「つづきから」じゃなくたっていいよ/空っぽな今日を注いでほしい/しわくちゃな「i」を重ねてほしい>と唄う「風景の一部」にバンドからのメッセージを託し、本編を終えたのだった。
ユアネス Photo by Kisa Nakamura
WWWの頃は曲数がまだ少なかったためアンコールができなかったが、今回のツアーではアンコールを実施。田中雄大(Ba)と小野貴寛(Dr)が2人で物販紹介をしたあと(グッズフル装備状態で登場した小野の“今から物販紹介やります!”感が思いっきり出ている様子が微笑ましかった)、「虹の形」、「pop」を演奏した。黒川は歌詞を唄わずに観客に「ありがとう!」と投げかけ、古閑はスティックを持ち出して小野と笑いあいながらドラムセットのシンバルを叩きまくっている。ツアーの充実感の表れのようなラストシーンの眩しさに、バンドの未来を感じたのは私だけではなかったはずだ。

取材・文=蜂須賀ちなみ 撮影=Daisuke Miyashita、Kisa Nakamura
ユアネス Photo by Daisuke Miyashita

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