パンク文脈から登場した職人
グループ、ポリスの衝撃的な
デビューアルバム
『アウトランドス・ダムール』
アンディ・サマーズ
アンディ・サマーズの長い音楽経験、プログレとワールドミュージックのバックボーンを持つスチュワート・コープランド、ジャズとフュージョンをバックボーンに持つスティングの3人は、デビューアルバムに向けてリハーサルを繰り返す。主に曲はスティングが持ち寄り、リズムの処理をコープランドが担当、サマーズは全体の色付けを行なうといった役割分担で自分たちのスタイルを徐々に作り上げていった。最初にリリースしたパドヴァーニ在籍時のシングル「Fall Out」の問題点はパンクに寄りすぎたことにあり、そのあたりの調整に時間を要したと思われる。初期のアルバムに見られるレゲエ(ダブ)風のサウンド処理は、スティングの悲しげなヴォーカルとサマーズのギターカッティングの巧みさが相まって素晴らしい効果を生んでいる。
本作『アウトランドス・ダムール』
について
ポリスは先行シングルとして78年4月に「ロクサーヌ」をリリースするものの、歌詞の内容に問題があるとされ、一部のラジオ局でオンエアされないこともあってヒットしなかった。8月にリリースされた第二弾先行シングル「キャント・スタンド・ルージング・ユー」も自殺をモチーフにしたシングルのジャケットが問題になり、これまた一部のラジオ局が放送禁止扱いにしたのだが、チャートインを果たす(全英42位)。このあと、本作『アウトランドス・ダムール』と第三弾シングル「ソー・ロンリー」が11月にリリースされ、彼らはアメリカツアーへと旅立つ。ポリスのライヴはアメリカでは好意的に迎えられ、イギリスで受けなかった「ロクサーヌ」が全米各地のラジオ局でオンエアされるなど、彼らの名前は徐々に広まっていく。
79年3月、彼らがイギリスに戻るとアルバムの評判は良く、4月にはアメリカで「ロクサーヌ」がチャートで32位となる。アメリカでの人気を受け、イギリスで再リリースが決定した「ロクサーヌ」「キャント・スタンド・ルージング・ユー」「ソー・ロンリー」は、それぞれ12位、2位、6位という好成績を収め、『アウトランドス・ダムール』は全英6位まで上昇、ポリスの名は全世界に知られることになる。
本作の収録曲は全部で10曲。もちろん1曲も捨て曲などないが、ヒットした3曲はポリスの独創性に満ちた名曲群であり、どれも文句なしの仕上がり。「ピーナッツ」はスティングとコープランドの、「サリーは恋人(原題:Be My Girl - Sally)」がスティングとサマーズの共作で、それ以外はスティングの曲である。オリジナリティーに富んだポリスの楽曲は、当時流行していたディスコ音楽やAORと比べるとあまりにもロック的であったから、リスナーが受け入れるのに時間が掛かったのかもしれない。
タイトでシャープなリズムとスティングのメロディメイカーぶりは、次作の『白いレガッタ(原題:Reggatta de Blanc)』(‘79)以降で顕著になるのだが、本作の粗削りでワイルドな魅力は瑞々しく、リリースから40年以上が経っているとは思えないほどの新鮮さである。
TEXT:河崎直人