あなたをここではないどこかへと誘い
導く朧げを交えたUruの歌唱
そんなUruからニューアルバム『オリオンブルー』が届いた。むろんここでも「朧げ」は、自身が作詞作曲を務めたその各曲での歌内容も含め、我々を「ここではないどこか」へと導き誘ってくれる。
後半では、TVアニメ「グランベルム」挿入歌「Scenery」、「横顔」でのノスタルジック性溢れる情景感たっぷりな歌声と歌物語を経て、最後は映画「劇場版夏目友人帳〜うつせみに結ぶ〜」主題歌の「remember」が、その伸びやかで力強い歌声と共にしっかりと次に向かっていくバイタリティをみなに与えてくれる。
そしてオリジナルアルバムの収録曲に加えて今回も特筆すべきは、前作同様ファーストアルバムでも、初回盤B[カバー盤]に収録されているカバー曲たちだ。
と、その内容の紹介の前にUruとカバーの歴史を振り返ろう。彼女の現在までにおいて切っても切り離せぬ重要な表現でもあった、このカバー群。シングルのカップリングへの毎度の収録を始め、ライヴの際にも都度多くのカバー曲が贈られている。そして歌われるそれらからは、オリジナルへの聴き手の想い出やノスタルジックさ、思い入れを尊重しつつも、自身の特性を交えて歌われているのも印象深い。
元々Uruのカバーは深い歴史を持つ。それは、それらがなければ現在の彼女が存在していないほど重要な歴史だ。話は彼女のデビュー以前よりかなり遡る…。2013年頃よりYouTubeの公式チャンネルを開始した彼女。そこを通し、J-POPを中心に様々なジャンルの楽曲をカバーし配信してきた。しかもそれらはいづれも歌唱、演奏、アレンジ、プログラミング、動画の撮影や編集等をセルフで行ったものばかり。延べ100本を超えるそれらを全て自身色に染め上げてきた。
Uru 公式YouTubeチャンネル
モノトーン調の画像にて、あえて半身や顔もマイクが見切れ、歌声や表現力だけで勝負したかのようなその歌唱群は「糸」(中島みゆき)の約500万回の再生を始め、「幸せ」「ヒロイン」(共にback number)の約400万回、「粉雪」(レミオロメン)や「真夏の果実」(サザンオールスターズ)他の300万回超え等々、アップする毎に多くの再生数を記録。独自の世界観を交えたその歌声は称賛された。
そこで歌われるジャンルも多岐。J-POPからロック、バラード、R&B、中には海外の楽曲と楽曲のタイプの幅も広く、レパートリーの年代も70’s年代~80年代のミューミュージックや歌謡曲、最近のJ-POPやJソウル等、裾野も広い。しかもそれらにはキチンと自己解釈が施され、かつてのそれらの曲のファンをも魅了。結果、幅広い層の方々からの支持を受けることとなる。
主はバラードやミディアム、スローテンポな曲ながら、ONE OK ROCKやSEKAI NO OWARI、UNISON SQUARE GARDENやBUMP OF CHICKEN等の疾走感やアッパー、盛り上がる曲もあり。それらをもしっかり自身の神秘性や奥深さを交えているのも特徴的だ。
とは言え、数多の「歌ってみた系の歌い手」とは一線を画す彼女。それはそのシンガー性や歌声、二次元性に頼ることのない自身が元々持っているアーティスティックさやアーティスト気質が交えられ、シンガーのみならず表現者としての気質の高さによるものも大きい。主にピアノアレンジが施され、その行間や隙間も大事に、吐息までも伝わってくる、奥深い、美しさと神秘性を湛えた、透明感の同時に儚さや淡さを有した歌声と、ウェットで芯のあるロートーンから、のびやかで凛としたハイトーン、そしてウィスパーをも駆使したその歌声のレンジの広さは、各楽曲に新たな解釈やアナザーストーリーを広げている。
粉雪 / レミオロメン
シュガーソングとビターステップ / UNISON SQUARE GARDEN
どれも彼女のこれまでのカバー同様、ピアノを基調としたシンプルで音数少ない演奏楽器と耳元で歌われているような傍ら感あふれる歌唱も特徴の今作。まずはこの時期の卒業や旅立ちのシーズンにぴったり。エレガントなピアノと、あの春独特の霞かがった青空を思い浮かばせるレミオロメンの「3月9日」から幕を開ける。竹内まりやのオリジナルでのしっかりとしたどこか背徳感を擁した歌声に対して、淡さや柔らかさを交え、原曲よりノスタルジックさを引き出した「カムフラージュ」、場面はガラリと変わり、シングル「願い」にも収録のKing Gnuの「白日」に於いては、あの独特の譜割りやリズム感、テンポチェンジや軽さや躍動感を彼女なりに解釈。字詰め感やリズムに揺蕩わせるように躍動感にエモーショナルに歌うそのキーの高低の絶妙な使い分けた歌唱には新機軸を感じた。
対して原曲の清涼感や爽快さにどこかソフトフォーカスをかけたかのようないい想い出感に変えてくれたのは、DEENの「このまま君だけを奪い去りたい」。この曲こそ彼女独特の「朧げ」さの真骨頂が伺えた。
中盤に入ると、アクエリアスTVCM「Funny Bunny」(the pillows)が、オリジナルでのテンポが良いながらも力強くファンタジー性や哀愁性も擁した世界観に対し、その原曲のダイナミズムを活かしながらも、優しさや包み込む解釈にて面白みを感じさせてくれた。また、同じく鍵盤を基調にしながらも、あえて低音ベースでのアプローチも独自性を感じさせたOfficial髭男dismの「Pretender」では、ブワッと広がる原曲のポイントをより厳かにエレガントに解釈。歌われる♪君はきれいだ♪の箇所は是非その耳で確かめて欲しい。
とは言え同盤にて最もノスタルジックを掻き立ててくれたのは、フジファブリックの「若者のすべて」であった。そこはかとない青春性と哀愁、想い返し目を細めて歌っているかのようなその歌唱は同曲にベストマッチ。後半のハミングを交えたハーモニーアレンジと共にあなたにあの夏のあの日を思い返させてくれることだろう。
春で始まり各季節を駆け抜け最後は冬に辿り着く。同盤のラストを飾ったのはシングル「プロローグ」にも収録されていた中島美嘉の「雪の華」。オリジナルの外は寒いけど、心は温かいあの雰囲気を歌唱でしっかりと自己解釈。ラストのビアノと歌唱のみでとてつもなくダイナミズムや高みへと引き上げてくれる。最後にどこか安心感や安堵感に包まれた感受を受けたのは私だけではないだろう。
Uru 2nd ALBUM「オリオンブルー」カバー盤ダイジェスト
作品情報
Uru 2nd album
「オリオンブルー」
通常盤CD
AICL-3844
¥3,000(税込)
≪収録曲≫
1. プロローグ
2. 今 逢いに行く
3. あなたがいることで
作詞・作曲:Uru 編曲:小林武史
4. space in the space 作詞・作曲:Uru 編曲:Kan Sano
5. marry
6. 願い
7. Don’t be afraid
作詞・作曲:Hidenori 編曲:渡辺シュンスケ
8. 頑な
9. いい女
10. PUZZLE
11. Scenery
12. 横顔
13. remember
Special Track
Binary Star / SawanoHiroyuki[nZk]:Uru 作曲:澤野弘之 作詞:Benjamin & mpi 編曲:澤野弘之
〈Uru〉
Youtubeチャンネル
あなたをここではないどこかへと誘い導く朧げを交えたUruの歌唱はミーティア(MEETIA)で公開された投稿です。
アーティスト
関連ニュース
ミーティア
「Music meets City Culture.」を合言葉に、街(シティ)で起こるあんなことやこんなことを切り取るWEBマガジン。シティカルチャーの住人であるミーティア編集部が「そこに音楽があるならば」な目線でオリジナル記事を毎日発信中。さらに「音楽」をテーマに個性豊かな漫画家による作品も連載中。