【追悼】ファウンテインズ・オブ・ウ
ェインのアダム・シュレシンジャー

パワーポップバンドとして根強い人気を誇るFountains Of Wayne(ファウンテインズ・オブ・ウェイン)のメイン・ソングライターでベーシストのAdam Schlesinger(アダム・シュレシンジャー /写真左端)が、4月1日、他界した。新型コロナウイルス感染症の合併症だった。
米国Rolling Stone誌を始めとして、多くのメディアが報じている。
彼の活動の母体となったバンド、ファウンテインズ・オブ・ウェインは何度も来日公演を行うなどここ日本では特に人気が高く、アダムはバンドのソングライターとして名を知られた存在だったが、それ以外に多くのプロジェクトを手掛けそれぞれで大きな話題を振りまいてきた。また、純粋にソングライターとして映画の主題歌や、サウンドトラックをも手掛け、アカデミー賞にノミネートされるなどの大成功を収めている。
ここ日本でもその才能を大いに評価されたアダムの訃報を受け、追悼の意を込めて彼の軌跡を追ってみたい。
ニューヨークに生まれたアダム・シュレシンジャーは、マサチューセッツ州にあるウィリアムス・カレッジ在籍中にギター&ボーカルのChris Collingwood(クリス・コリングウッド)と出会いバンドを結成。
この2人は、1996年にファウンテンズ・オブ・ウェインとしてセルフタイトルのデビュー・アルバムをリリースしシーンに頭角を現した。アルバムをサポートするツアーに出る際にサポートメンバーとしてリードギターのJody Porter(ジョディ・ポーター)とドラムのBrian Young(ブライアン・ヤング)がバンドに参加し、そのまま正式メンバーとなった。
1999年に、2ndアルバム『Utopia Parkway (ユートピア・パークウェイ) 』 を発表。このアルバムを契機として日本での知名度を飛躍的に伸ばし、以降のキャリアを通じて幾度となく来日公演を行うこととなる。
2003年には3rdアルバム『Welcome Interstate Managers (ウェルカム・インターステイト・マネージャーズ) 』をリリースし、シングルカットされた「Stacy's Mom(ステイシーズ・マム)」が全米9位を記録するヒットとなった。続くシングルとしてカットされた「Mexican Wine(メキシカン・ワイン)」もスマッシュヒットを記録しバンド最大の成功作となった。その成果は目に見える形として結実し、同年のグラミー賞の「最優秀新人賞」へノミネートされるという結果を残した。デビュー7年目にして、「最優秀新人賞」へノミネートされるという珍事としても大いに話題となった。
以降、2007年には4thアルバム『Traffic and Weather (トラフィック・アンド・ウェザー) 』、2011年には5thアルバム『Sky Full Of Holes(スカイ・フル・オブ・ホールズ)』を発表し、良質なポップソングを紡ぐバンドとして多くのファンに愛されてきた。
これらのファウンテンズ・オブ・ウェインの活動以外にアダムは、多くのプロジェクトを始動させている。
Ivy(アイヴィー)はその一つで、Tahiti 80等で知られるプロデューサーのAndy Chase(アンディ・チェイス)とフランス人女性のヴォーカリストDominique Durand(ドミニク・デユーランド)と組んだインディーポップバンド。
数枚の秀作を残すが、2002年にリリースしたアルバム『Guestroom(ゲストルーム)』は日本でも好セールスを記録し、その名を広めるのに貢献した。このアルバムは、自身の好きな曲をピックアップしたカバーアルバムで、 The Cure(ザ・キュアー)や、Steely Dan(スティーリー・ダン)などの名曲をカバー。特に、The Go-Betweens(ザ・ゴー・ビトゥイーンズ)の名曲「Streets of Your Town」出色の出来だった。
また、同じく大きな話題を集めたのは、ある種のスーパーバンドとして驚きを持って迎えられたTinted Windows(ティンテッド・ウィンドウズ)だろう。
このバンドは、ヴォーカルがハンソンのTaylor Hanson(テイラー・ハンソン)、ギターがスマッシング・パンプキンズのJames Iha(ジェームス・イハ)、ドラムがチープ・トリックのBun E. Carlos(バン・E・カルロス)で、ベースがアダムという4人組。
2009年にセルフタイトルのデビューアルバムをリリースし、来日公演も行った。
また、アダムは、ジェームスとIvyのアンディと共に、ニューヨークのチェルシーにあるSTRATOSPHERE STUDIOというスタジオ経営を行っている他、ジェームスと同じくスマッシング・パンプキンズのダーシーと共同でSCRATCHIE RECORDSというレーベル運営も行っていることでも知られている。
アダムの功績は、ここまででも十分すぎるほどではあるが、映画やテレビのサウンドトラックの世界での活躍も忘れてはいけない。
アダムのキャリアの最初期の成功は、1996年のトム・ハンクス監督・脚本の映画『That Thing You Do!(すべてをあなたに)』だろう。この映画は劇中のバンドが成功を収めていく過程を描いたものだが、アダムはこの劇中バンドが演奏した楽曲「That Thing You Do!」を提供している。この曲は大ヒットを収め、アカデミー主題歌賞とゴールデン・グローブ賞にノミネートされるという偉業を遂げた。
また、米のミュージカルコメディドラマ『Crazy Ex-Girlfriend(クレイジー・エックス・ガールフレンド)』でエグゼクティブ・ミュージック・プロデューサーを務め、多くの楽曲を提供。見事、エミー賞を受賞したことも記憶に新しい。この『クレイジー・エックス・ガールフレンド』に関しては、長い間放送されたドラマシリーズであり、本当に多くの楽曲があるため、そちらに見識の深い方の稿を待ちたい。
他にも多くの映画音楽を手掛けるほか、テレビドラマの世界でも幅広くサウンドトラックの仕事をこなし、何度もエミー賞をノミネートや受賞をするなど、その功績は枚挙にいとまがない。
パワーポップの雄としてのファウンテインズ・オブ・ウェインに始まり、アイヴィー、ティンテッド・ウィンドウズや、サウンドトラックの世界にまでも活動の幅を広げ、多くの名曲・名演を残したアダム・シュレシンジャー。
52歳という早すぎる死を悼み、今一度彼の作品を通して彼の功績を讃えたいと思う。
2003年に発表された出世作『ウェルカム・インターステイト・マネージャーズ) 』の1曲目である「メキシカン・ワイン」。その冒頭の歌詞は、「He was killed by a cellular phone explosion(彼は、携帯電話が爆発して死んでしまった)」だった。もちろん、英語詞特有の韻を優先した歌詞だが、この歌詞を初めて聴いた時、アルバムの一行目としてはこれを超える出だしの歌詞はないんじゃないか!と吹き出しながらも胸を打たれたことを今でもはっきりと覚えている。
ちょっと笑える歌詞に、泣けるメロディ。
アダムは、いつもそんな最高のロックンロールのソングライターだった。
合掌。

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