おすすめコミックス:20世紀少年(22)浦沢直樹(ビッグコミックス/小学館)

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ロマン優光のさよなら、くまさん
連載第158回 浦沢直樹炎上 政府の「布製マスク二枚配付」に対して、漫画家の浦沢直樹氏が会見時の安倍首相が小さめの布マスク(いわゆるアベノマスク)をつけている姿をやや滑稽に描いたイラストをTwitterで公開し、賛否両論を巻き起こした。
 マスク配付自体に対する賛否(私は他にもっと先に予算を使うべきところがあるのではという観点で否定的だ。)があるなか、安倍首相を揶揄したかのように見えるイラストを上げれば、当然賛成派の中から反発はくる。それは想定されること、当たり前のことではあるが、漫画家は政治について触れるべきではない、ファンだったのにがっかりしました、のような言説に関してはどうだろうか。
 漫画家といえど一市民であるわけで、何に対しても意見を発表する権利は持っている。発表された意見に対して批判をよせるのはいいのだが、漫画家の政治的意見表明自体を否定するような発言はおかしいだろう。それを「漫画という表現の中に風刺というものがあって、漫画家がそれをやるのは変なことではない」という職業上の話以前のことであり、言説自体を言説で批判すればいいだけの話だ。創作者や演者が政治的なことや社会的なことについて触れること自体を否定するのはエゴでしかない。また、そもそも、新型コロナ対策について意見を表明することは、平時の政治的な思想の表明とはまた違う、社会の継続や自分や家族の生存に関する問題だ。
「がっかりしました。ファン辞めます。」という言説は、よくネット上で見かけるものだ。実際のファンが、道徳的に受け入れない発言や政治的信条の問題から発する場合も当然あるのだが、ファンでもない人が嫌がらせのためにTwitter上でリプを飛ばしているだけの場合もある。今回の件に関して考えてみると、氏の代表作である『20世紀少年』や『PLUTO』等の他の作品を読んでいれば、浦沢氏が社会的な問題に関心が高く意思表明をしそうな人だというのはわかると思うので、実際にファンと言えるほどファンだったかどうか疑わしい人が多いと思う。それは置いておいても、「もう読まない」などと言うのは攻撃でしかない。
 浦沢氏のイラスト自体について考えてみると、風刺画としての完成度は低く、単に安倍首相をバカにしてるようにも見え、何を伝えたいのかわかりにくいというのはある。批評性が明確ではないのだ。マスク配付に対する批判的な意識を共有している人たちにとっては、政策批判だという風に受け取れるが、そうでない人にとっては単に人をバカにしている絵でしかない。ただ、たとえ批評性が明確なイラストであったとしても、感情的に反発している人は同じような反発をしていたと思う。これは政治的・社会的な問題に関わらず創作物に関しても言えることだが、自分が好きなもの・支持しているものに対する肯定的意見以外は全て攻撃ととらえ、批評自体を悪と見なす価値観が蔓延しているのが現代の日本の状況だからだ。批評、批判は個人に対する全否定ではないということを精神的に受け入れられない人が多く存在しているわけで、それが「自分」に属する対象に向けられた時に感情的になってしまうし、それに対して反駁するのではなく、感情的に全否定したり、攻撃したりするだけに終わりがちだ。
糸井重里の大きな間違い 新型コロナ禍の現状に置いて、政権の政策について批判的な意見が出てくるのは普通のことだと思う。生活・生存の根幹が脅かされているのであり、それに大局的に対処できるのは国家でしかないのだから。そういったものがあるから、実際に少しずつではあるが経済対策など改善された部分もある。糸井重里のように、それを「責めている」ととらえるのは大きな間違いだ。声を出さなければ届かない。現状に心が弱り、批判的な強い言葉を見ることにも耐えられなくなっている人もいるとは思う。そういう人は無理しないでSNSから離れて休んでほしい。かといって、生活に根差した怒りの声をあげること自体を否定することは違うのではないかと思う。
 新型コロナウイルスによって世界の形がどんどん変わっていく。そのスピードが加速しているような現状において、浦沢氏の炎上も遠い過去のようだ。あのイラストも、それを巡る騒動も牧歌的に感じる。政治的な立ち位置を越えて、一人一人が自分のなすべきことをやりながら、同時に声をあげていくことが必要になっていると思う。声のあげ方も今までとは変わっていくだろう。同時に私たちは日々の生活の中での喜びも捨ててはいけない。今は店に飲みにいくことも、観劇も、映画館にいくことも、ライブに行くことも、友達で集まるともできなくなってしまったが、それでも新しいやり方で日々の生活の中での喜び、楽しみのあり方を見つけていこう。心が負けてしまわないように。
 一連のアベノマスクに関するTwitter上での漫画家のアプローチの中で、個人的に一番面白かったのが松田洋子先生の「アベビエ」という1ページ漫画だ。なんというか、こういったものや、こういったものを面白がれる心は忘れてはならないと思うのである。
(隔週金曜連載)
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