ドミコが生み出す摩訶不思議な楽曲、
その源を最新作『VOO DOO?』を通して
探る

曲の構成、楽器の鳴りやフレーズ、全曲日本語の歌詞が醸すイメージ──どこをとっても「なんでこうなる?」「どうやって思いつく?」と言いたくなる、他のどこにもない楽曲を生んできた、ボーカル&ギターとドラムの2ピース・ドミコ。ニュー・ミニアルバム『VOO DOO?』も、その不可思議な魅力に満ちた7曲が並んでいる。SPICEでは初のインタビュー、ということもあって、そもそものこのバンドの音楽の作り方について、も含めて、『VOO DOO?』について訊いた。
■いかに突発的なものをキャッチできるか
──『VOO DOO?』に入っている7曲のうち、いくつかの曲に関して、どんなふうなとっかかりから作り始めたのか、教えていただけますか。
さかしたひかる(Vo/Gt):じゃあ1曲目と2曲目からいきますか。まあ実質、1曲目と2曲目は一緒の曲ですけど、作ったときは、分かれていて。1曲目は……これ、元のビートは、まったく残ってないんですけど。ちょっとポスト・パンクっぽい、BPM速めのビートから始まって、そこにウネウネッとしたベースにリバース・ディレイをかける、っていうアイディアだけは最初に自分の中にあって。そこからどんどん広げていった感じです。
今までポスト・パンクは、ドミコではやってなかったんですけど、いま入れてみたらどうなるんだろうって。で、ポスト・パンク的なビートから、一回練って作ってみて、その延長で2曲目の「化けよ」ができたのかな。2曲目は、制作に入る前に長谷川(啓太/Dr)にレゲエのライブ・アルバムを聴かせて──。
長谷川:古めの。
さかした:「このドラムを叩けるようにしてきてくれ」とお願いして。「そっから制作に入るから」と。
──「この曲のドラム・パターンを」じゃなくて、アルバムの? 何曲も入ってるでしょ。
さかした:何曲も入ってんね。あれ、1時間ぐらいなのかな?
長谷川:そうだね。丸々ライブ演奏で。
さかした:その曲を全部覚えるっていうよりも、出てくるフレーズを叩けるようにしてほしい、っていう感じですね。1曲コピーするとかじゃなくて、出てくるフレーズを全部叩けるぐらいの。
長谷川:今までの自分にないようなフレーズもあって。で、それを覚えて消化して、「これ、使えそうだな」っていうところを厳選するっていうか。
さかした:で、それをふまえてスタジオに入って、1から作ってみたっていう感じですね。だから、ひとつのアイディアで2パターン曲を作ったっていう感じですね。そこからいろいろ足したりしていくんですけど、もとは両方ともそういう、ちょっとした不協和音っていうか、そういうものをリフに入れたかった感じですかね。
ドミコ 撮影=高田梓
──さっきおっしゃっていたポスト・パンクっぽい感じというのは、どのへんの音のイメージなんですか?
さかした:いや、それもフワッとなんですよね。別にジョイ・ディヴィジョンみたいな感じとか、そういうピンポイントではなくて。たとえば最初から「ジョイ・ディヴィジョンで」ってめがけて行っちゃうと、ほんとにそれになっちゃうので。それだと退屈だし、何かっぽくなったと思ったら、その曲は却下にするから。
だから、あんまり明確に言わないんですよ、僕も。デモも聴かせたくないし。それよりも毎回、二人とも思ってたものと違うゴールに行きたいので。そのために、だいたいの部分をフワッとさせて曲を作り始めるんです。たとえばレゲエのライブ・アルバムを聴かせても、どこの何に使われるかは明確には伝えないし。
長谷川:そうなんです。
さかした:で、「これ、◯◯っぽいよね」ってなったら、それは自分らの曲じゃないので。引用っていうのもあんまり好きじゃなかったんですよ。でも今回はあえて……自分らっぽいものっていうのはだいぶ確立できてきたので、逆に引用したいなと思って。それで6曲目「さなぎのそと」では──。
──ああ、「Markey Moon」のリフを使っていますよね。
さかした:はい、テレヴィジョンの。それをやってみて……引用するのは決まってたんですけど、誰のどのフレーズを引用するか、あとから考えるみたいな。「有名なやつ、なんだろう? あ、これだ」みたいな感じで。引用したとしても、元の曲とは全然雰囲気が違うから、自分的にはオシャレだなっていうか。クスッとなるかなっていうのがポイントで、やってみましたね。
──どの曲もそういうふうに、二人で音を出して、できあがってみないとわからない感じで作っているんですよね。
さかした:そうですね。結局、構想して1からアルバムを設計していっても、最後の方にはやりたいことが変わってたりとか。レコーディングで「ドラムやっぱりこうしよう」とか、「展開をこう変えよう」とか。録ったやつも、あとからエディットして、イントロを短くしたりとか。そういうのが最後の最後までどんどん閃いちゃって、だったらもうそっちに行こうっていう。
メンバーも、エンジニアも、いかに突発的なものをキャッチできるかに集中しようっていうモードに、最近は変わったんですね。やっぱり、最初に構想してたよりもいいものが出てきたら、そっちに行った方がいいので。だから、閃きとか、そういうところを大事にしたいなって思っていますね。
ドミコ 撮影=高田梓
■結局、よくわかんないものを作りたい、みたいなのがある
──もともと最初から、ドミコが曲を作るっていうのは、こういうことだったんですか?
さかした:どうなんだろう。そうなのかな?
──さかしたさんは、それまでバンド経験はなかったわけですよね?
さかした:ないですね。
──長谷川さんはあったでしょ?
長谷川:バンドは、他で2~3やってましたけど。
──そのときは、曲を作る人がいて、構成とメロディが決まっていて、それを軸にバンドでオケを付けるかとか、そういう感じですよね。
長谷川:そうですね。
──ドミコのような作り方は──。
長谷川:しないですよね(笑)。
さかした:いや、10割作ってから投げるときもあるんですけど。でも最初の頃はたしかに、セッションで……セッションでもないんですよ。僕がドラムに合わせて即興で曲を作るよ、っていう感じで。叩いてもらって、その場でメロディもコードも展開も作っていく。
だから、あたかも、元から曲があったかのように、バーッと作ってたんですけど、最初の頃は。それだけだと、だんだんおもろくなくなってきて、もうちょっと練っていこうっていうふうに、アルバムごとになってきている、というか。
──大学の先輩後輩なんでしたっけ。
さかした:そうです、長谷川が1個上の先輩で。で、僕が卒業して、めっちゃヒマだったんですよ。とりあえず曲を作って、人に見せる場も聴かせる場もないから、とりあえずドラムとスタジオに入って合わしたいなと思って、入ってもらって。それで、曲をちゃんと作ってみたら、こっち(長谷川)が「ライブやりたい」って言い出して。僕は人前がイヤだから、考えてなかったんですけど。
長谷川:他のバンドでライブやってたんですけど、明らかにこの二人でスタジオに入ってできた曲の方が、すごいゾクゾクするみたいな。「えっ、なんだこれは?」っていう驚きがあったので、これ、ライブでやったらすげえんじゃないか?っていう感情になって、そう言ったんだと思います。
──その作り方って、基本の部分では今も変わっていない?
さかした:そうですね。
──なかなかお客が増えなかった頃も、「もっとわかりやすく既存のジャンルに寄せた方がいいのかしら」とかは思わなかったでしょ。
さかした:そうですね。最初の話に戻るんですけど、そこを意識すると、何かっぽくなっちゃうから。結局、よくわかんないものを作りたい、みたいなのがあるわけじゃん?
長谷川:うん。
さかした:「これ知ってる」ってなっちゃったら、それはもう曲になってないから。「これ、なんだろう?」っていうところから曲を広げていくじゃん、いつも。
長谷川:そうだね。「これ、曲になるのか?」みたいなフレーズも、やっていると曲になったりして。
さかした:だから、自分らも楽しんでるんですよね。いったいこの曲、ゴール、何になるんだろう?っていうのを。だから、人のことを考えている余地がないというか(笑)。まあ、ドミコではそれをやりたい。ほんとに濾過されまくってよくわかんない、っていうものをドミコで固めたい。そこがでかいですね。
──曲が、思ってもいなかったものにならないとイヤ?
さかした:あ、それが一番イヤですよね。だから、アイディアを思いついたらどんどん注ぎ込むし、録り直しもするし、なんか、やっぱり一番は自分で聴いてテンション上がりたいので。自分のために作ってるから、っていう感じですかね。自分のためにしか作ってないけど、他の人が聴いてくれるっていうのは、とてもありがたいことですよね。ほんとにもう、自由に作ってますね。ノンストレスで。
長谷川:(笑)。
ドミコ 撮影=高田梓
■この二人でしかできないから、この二人でやっている
──でも、そういう作り方をしていると、一番難しいのは、歌詞をのっけることなんじゃないかという気がするんですけど。
さかした:そうですね。それはほんっとにそうなんですよ。歌詞を最初に付けるんですけど、作曲時間よりも3倍ぐらい長い時間、考えてますね。メッセージ性は込めたくないし、何かを断定したくないっていう、自分のポリシーがあるので。
ただ、わけわかんないことは言いたくなくて。なんとなく……たとえば「化けよ」なら、最初に「化けよ」っていう単語は出てきてないんですけど、そういうテーマみたいなのがうっすら頭にあって。それに沿って書いて、タイトルはなんだろうな、「化けよ」とか「羽化」とかそういう言葉だな、じゃあ「化けよ」かな、みたいな。
で、歌詞はどっちの意味でも取れる、たとえば病んでる人が聴いても共感できる、逆の人が聴いても共感できるような。どっちでも取れるような言い回しがいいなあっていうのは、最近思ってます。「化けよ」って人に言ってんのか、自分でひとりごとで言ってんのか、それはどっちなんですか?ってことではなく、どっちでもいいっていう感じのニュアンスですね。
──直接的ではなくて、でも無意味でもなくて、響きがよくて、音に合っている、という言葉を探すの、大変そうですね。
さかした:きついですね(笑)。楽しいときもあるんですけど、大変ですね。
──今回、楽しかったのは?
さかした:「噛むほど苦い」とか。
──大変だったのは?
さかした:ほか全部ですね(笑)。ほか全部、悩まされました。そのさっき言った、意味がどちらでも取れるとかも考えつつも、メロディも意識して発音を考えるというのも同時にやるってなると、まだまだちょっと、僕のスキルが及ばないというか。なかなか時間かかるなあという。
──何か、すべてにおいて、一番手間と時間がかかる方法で作っているような。
長谷川:(笑)。
さかした:たとえば「このビート、任せるよ」って言ったときに、一発目で答えが出てきたとしても、とりあえず4パターンぐらい聴いてから一発目に戻るみたいな。じゃないと、気がすまないんですよね。「この曲にとって、よりいいビートはどれだ?」みたいなのを考えると、性格的にポンポン行けないんです。だから、全部において効率悪いかもしれないです。
長谷川:リズムのパターンとかも、いっぱい……この曲に付けるリズムじゃないようなものも、もしかしたら合うかもしれないと思ってやってみるとか。そうやっていろいろなパターンを試してみて。だから、効率は悪いですね。
さかした:要は、そうやって何パターンも試すうちに、想像の範疇から出ていっちゃうんですよ。でも、そこにもいいものがあったりする可能性があるので。
──というか、想像の範疇から出ないものは弾いていくみたいな。
さかした:そうなんです。だから「あ、これ聴いたことねえや」っていうものにならないと。それを探していく作業というか。でもまあ、時間をかければできます。
──なんでずっとメンバー二人なんだろう?とか、ライブとかサポート入れないの? とか思ったこともあるんですけど、今日の話でわかりました。無理なんですね。
長谷川:(笑)。
さかした:そうなんです、べつに不思議な話じゃないんです。この二人でしかできないから、この二人でやっている。

取材・文=兵庫慎司 撮影=高田梓
ドミコ 撮影=高田梓

アーティスト

SPICE

SPICE(スパイス)は、音楽、クラシック、舞台、アニメ・ゲーム、イベント・レジャー、映画、アートのニュースやレポート、インタビューやコラム、動画などHOTなコンテンツをお届けするエンターテイメント特化型情報メディアです。

連載コラム

  • ランキングには出てこない、マジ聴き必至の5曲!
  • これだけはおさえたい邦楽名盤列伝!
  • これだけはおさえたい洋楽名盤列伝!
  • MUSIC SUPPORTERS
  • Key Person
  • Listener’s Voice 〜Power To The Music〜
  • Editor's Talk Session

ギャラリー

  • 〝美根〟 / 「映画の指輪のつくり方」
  • SUIREN / 『Sui彩の景色』
  • ももすももす / 『きゅうりか、猫か。』
  • Star T Rat RIKI / 「なんでもムキムキ化計画」
  • SUPER★DRAGON / 「Cooking★RAKU」
  • ゆいにしお / 「ゆいにしおのmid-20s的生活」

新着