京都市交響楽団 演奏事業係長 白方
里枝に聞く

日本が世界に誇る観光都市は、日本有数の文化芸術都市でもある。歴史的な神社仏閣に囲まれ、日本の四季をどこよりもリアルに感じ、他所とは違う時間の流れを感じる街、京都。
そんな京都の町のオーケストラ京都市交響楽団は、1956年に自治体直営のオーケストラとして設立され、64年目を迎える。途中で心変わりされて、民営化を迫られる事も無く、京都の文化芸術を牽引する存在として市民に愛されて来た京響は、12年前に広上淳一が常任指揮者に就任すると、演奏レベルが格段に上がり、観客動員も増え、日本有数の人気と実力を兼ね備えたオーケストラに変貌を遂げた。
広上淳一によって何が行われ、何が変わったのか。ずっと近くで見て来た京都市交響楽団の演奏事業係長 白方里枝に、あんなコトやこんなコトを聞いてみた。

―― 広上さんが京響の第12代常任指揮者に就任されたのが2008年。それから12年経過しましたが、広上&京響の評価は依然として高いですね。白方さんは広上さんが京響に関わりを持たれた最初からご覧になられています。広上さんによって、京響の音楽はどう変わったのでしょうか。
第13代常任指揮者兼芸術顧問 広上淳一 (c)Masaaki Tomitori
広上さんは音楽を音楽として捉える人だと思います。音楽を音楽として捉えるって表現、難しいですか(笑)。作品が学術的にいつ作曲されたのかや、作曲当時の社会背景や作曲家の心理状況といったことはいったん横に置いて、作品の美しさ、素晴らしさにまず目が行く指揮者なんだと思います。同時に作曲家の求めていたものを瞬時に見抜き、それをどう表現するのかを重要視される。例えば、悲しい場面で流れる美しいメロディなんかでも、嬉しそうにニコニコしながら指揮をされている事がよく有るのですが、これは悲しい場面だから悲しそうに…といった固定観念?約束事?を超えて、そのメロディやハーモニーの持つ本質的な部分を見抜くチカラと言えばいいのでしょうか、そんなモノに長けておられるのだと思います。
そして、広上さんのキャラクターだと思いますが、「ここはこうやって弾いて!」といった言い方はほとんどされません。「ここはこう思うんだけど、あなたならどう表現する?」とメンバーに投げかけて、メンバーは「それならこれでどうでしょう!」といったやり取りが、常に行われています。自主性に任せられたメンバーは責任を感じ、結果を出していく。このやり取りが、今の京響のサウンドを作って行ったのだと思います。
―― なるほど。広上さんいつも、とても楽しそうには指揮をされています。そして上手くいったら、嬉しそうにgood!と、メンバーに合図を送られています。
楽しそうに指揮をする広上淳一(’19年3月 第632回定期演奏会)
実際にメンバーは広上さんとの音楽作りは楽しいみたいですよ。この感じはずっと12年間、続いています。
また、京都市内の小学生や中学生を対象とした音楽鑑賞会を広上さんに指揮して頂くこともあるのですが、「指揮の人が楽しそう!」「ずっと踊ってばっかり!」といった感想がお子さんから寄せられます(笑)。「指揮者って、しかめっ面で指揮するモノと思っていましたが、クラシックの見方が変わりました。」と云うのも、よく頂くご感想です。
少し敷居が高いというクラシック音楽のイメージが、広上さんの楽しそうな指揮姿で変わる人が多いですね。
―― そんな広上さんですが、この4月から第13代常任指揮者に就任されたそうですね。第12代から第13代。第12代常任指揮者のまま、契約延長ではダメだったのでしょうか。
12年常任指揮者をやって来て、途中(2014年)から高関健さん、下野竜也さんとの3人指揮者体制になりました。それがこの3月で終わり、新たにジョン・アクセルロッドさんとの新体制になるので、一区切り付ける意味で敢えて第13代という形を取りました。あわせて、芸術顧問に就任ということについては、少し楽団全体を俯瞰して見るという立場を示すものになっています。この12年間で伝えるべきことは伝えたという思いをお持ちなのだと思います。
―― 今も話に出ましたが、2014年から高関健さん、下野竜也さんと3人指揮者体制でしたね。日本を代表する指揮者3人が京響に集結!と大きな話題になりましたが、それぞれが京響で果たした役割を振り返って頂けますか。
3人の指揮者陣(左より高関健、広上淳一、下野竜也) (c)伊藤菜々子
プライベートでも大変仲の良い3人ですが、それぞれに魅力的で個性的なマエストロたちです。
高関さんは学術的な見地から、根拠を元にオーケストラを指導されます。奏者に向けた的確な指示は、疑問を挟む余地のないほど明晰です。この6年間にショスタコーヴィチの交響曲第8番、マーラー交響曲第6番、メシアン「トゥーランガリラ交響曲」、ブルックナー交響曲第5番、ブリテン「戦争レクイエム」とバラエティに富んだ大曲を中心に指揮して頂きました。
下野さんは、レパートリーの拡充に大きく貢献頂きました。京響が取り上げて来なかった曲を勉強する機会が出来ました。常任客演指揮者の就任では、珍しいオール・チェコ・プログラムでしたし、アメリカの作曲家コリリアーノの交響曲第1番、ジョン・アダムズの「ハルモニーレーレ」、ブルックナーは人気の後期の作品ではなく、交響曲第0番と第1番。最後となる退任の定期演奏会は、予想を裏切ってベートーヴェンの交響曲第6番「田園」と、下野さんと一緒に振り回された定期会員さんも多かったと思います(笑)。下野さんのプログラムには、楽曲同士の調性を考えて組まれていたり、完璧なまでのストーリーがベースにありました。常に新しい発見があり、オーケストラの奥深さと、プログラミングの妙を教えて頂きました。
そして、このお2人の後押しが有ったからこそシュトックハウゼンの「グルッペン」が演奏出来たと思っています。
圧倒的なスケール感!「グルッペン」演奏風景(’16年12月 京都市勧業館みやこめっせ) (c)Tatsuo Sasaki
「グルッペン」を大成功に導いた3人の指揮者陣 (c)Tatsuo Sasaki
―― 京響創立60周年記念で演奏されたシュトックハウゼン「3つのオーケストラのための『グルッペン』」は、日本のオーケストラの歴史に燦然と光り輝くでしょう。素晴らしかったです! 高関さん、下野さんの活躍は、これからも目が離せませんね。そのお2人に替わって、首席客演指揮者に就任するのがジョン・アクセルロッドです。どんな役割を期待されていますか。
首席客演指揮者 ジョン・アクセルロッド (c)Stefano Bottes
アクセルロッドさんとは2009年の初登場からこれまで5度の共演を重ねてきており、メンバーとは互いにリスペクトし合える間柄です。過去5度のプログラムには、彼の哲学に裏打ちされたテーマやコンセプトがしっかり詰まっており、広上さんもメンバーも大いに評価し、これから京響がもう一歩大きく前進するために一緒にやって行きましょう!というハナシになり、ポジションを用意する事になりました。広上さんとは異なったアプローチで、オーケストラから違う魅力を引き出して欲しいと考えています。
9月の第649回定期では、大曲マーラーの交響曲第2番「復活」で、皆さまへのお披露目となります。ご期待ください。
―― それでは、今年度の定期演奏会のラインナップの聴きどころをお聞かせください。年間通して定期演奏会は全部で11回。定期の無い12月に「第九」を置く感じですね。常任指揮者の広上さんが指揮する定期演奏会は2公演だけ。これ、少なくないですか?
やはりそう思われますか。広上さんは「オーケストラの自主性は芽生えたので、定期演奏会では、自分以外の色々な指揮者に指揮してもらった方が良い」と仰います。色々な国やタイプの違う指揮者と共演する事で、経験を踏ませ、対応力を付けさせることが目的なのだと思います。
―― なるほど、京響の演奏力の向上を考えてのことなのですね。広上さんが今シーズン指揮される定期演奏会のプログラムですが、6月がブルックナーの交響曲第8番。正直言って、広上さんはブルックナーを振るイメージがありません。ちょっと意外なプログラムですね。
広上さんが、日本のオーケストラでブルックナーを指揮するのは、今年の6月が初めてだそうです。3人指揮者体制の時代は、高関さんも下野さんもブルックナーは得意だったので、お二方にお願いしていましたが、そもそも広上さん自身、ブルックナーに対しては大変こだわりがお有りだったようです。広上さんの中で「そろそろやってみようかな、京響と!」という想いが相まって、今回、満を持してのブルックナー、しかも畢生の大曲第8番。京響では過去に、井上道義さんの指揮でCDをリリースしていますが、どんな演奏になるのか私たちも楽しみにしています。
ダニエル・ホープ (c)Nicolas Zonvi
もう一つの定期演奏会は、ヴァイオリニストのダニエル・ホープさんとエルガーを一緒にやる事が先に決まっていました。それに合わせる形で選ばれたのが、ドヴォルザークの交響曲第7番。オールマイティに指揮される広上さんのレパートリーの中にあって、ボヘミアの民族色漂うドヴォルザークは得意とされている作曲家の一人です。昨年の6月、京響友の会コンサートでは、3人の指揮者陣でドヴォルザークの7番から9番までの第1楽章を順番に演奏しましたが、その時第7番を指揮したのは下野さんでした。年齢順です(笑)。ファンの皆さまとの楽しい思い出と共に、今回の定期演奏会では広上さんの指揮で、名曲ドヴォルザーク交響曲第7番にご期待ください。
―― そしてジョン・アクセルロッドの首席客演指揮者就任を祝う9月の第649回定期演奏会はマーラーの交響曲第2番「復活」ですが、こちらは2日公演ですね。広上さんのブルックナー交響曲第8番は1日公演でしたが、1日、2日を決める基準は何ですか。
いずれは定期演奏会全てを2日公演にしたいのですが、現在は偶数月が1日、奇数月が2日公演と決めています。集客を考えて、出演者やプログラミングに工夫をしてはいますが、2日公演をいっぱいにするのは大変なことが多いのが現状です。しかし、ここで1日に戻してしまえば、今、キャパ1800を超えてご来場くださっているお客様に聴いて頂けなくなります。まだまだ大変な道のりですが、2日公演3600の客席をいっぱいに出来るように、今が踏ん張りどころだと思っています。
―― そういう思いで作られた今シーズンの定期演奏会のプログラムですが、新型コロナウイルスの影響で、4月と5月の定期演奏会の中止が発表されています。現在、この問題でエンターテインメントや文化芸術の世界が大変な事になっていますが、その事には今回あえて触れず、今シーズンの定期演奏会の聴きどころをお聞きします。6月の広上さんのブルックナー交響曲第8番に続いて、7月はフランスの名匠パスカル・ロフェによるオール・フレンチ・プログラムです。
パスカル・ロフェ (c)B Ealovega
パスカル・ロフェさんは初めての登場です。エスプリの効いた浮遊感漂うお洒落なフランス音楽に、京響がどこまで迫れるか、ご期待ください。ピアノのムラロさんも初共演。華やかなプログラムと指揮者、ソリストとの新しい出会いによって生まれるサウンドを楽しみにしています。
―― 8月は京都のご出身、阪哲朗さん。R.シュトラウスにモーツァルト交響曲第36番「リンツ」と、1曲目が廣瀬量平さんの曲ですか。
阪 哲朗 (c)Florian Hammerich
阪さんと定期演奏会でご一緒するのは、1997年以来2度目です。廣瀬量平さんは、阪さんの母校、京都市立芸術大学のお師匠さんだそうです。「リンツ」と歌劇「ばらの騎士」は、デビュー定期演奏会の時のプログラム。23年ぶりの再会で、お互いの成長を確認し合うようなプログラム。昨年、山形交響楽団の常任指揮者に就任されて多忙を極める阪さんが、現在の京響から更なる魅力を引き出して頂けることでしょう。
―― 10月の第650回から1月の第652回定期演奏会まで、外国人指揮者が続きます。それぞれのマエストロについて、聴きどころを教えてください。
ゲルゲイ・マダラシュ (c)Balazs Borocz Pilvax
10月のゲルゲイ・マダラシュさんは、5月の定期演奏会で指揮をして頂く予定だったアルミンクさんの後任として、ベルギー王立リエージュ・フィルの音楽監督に就任したハンガリーの指揮者で、京響とは今回が初共演。メインで指揮して頂くのは生誕250周年で沸くベートーヴェンの交響曲第3番「英雄」。京響は天邪鬼な所があって、アニバーサリー的なものは他所の楽団に任せて我が道を行くのですが(笑)、「第九」以外でシーズン唯一のベートーヴェンをプログラムに入れてみました。どうぞお楽しみ下さい。
サッシャ・ゲッツェル (c)Ozge Balkan
11月の第651回定期演奏会を指揮するのは、4年ぶりに再登場を果たすサッシャ・ゲッツェルさん。メンバーからの評価も高い指揮者で、マエストロに、前回の共演を踏まえ、京響とマエストロの相性の良さが活かせる曲は何かと尋ねたところ、「アルプス交響曲」が上がって来ました。特殊楽器も活躍し、大迫力の京響サウンドが堪能できます。夜明けから日没までの登山を描いた、分かり易い曲です。前半には、人気のグリーグのピアノ協奏曲が並び、オーケストラ未体験の人に聴いていただきたいプログラムです。
アレクサンドル・スラドコフスキー
1月定期演奏会の指揮者スラドコフスキーさんも初登場です。日本ではまだあまり知られていないと思いますが、ロシアのタタルスタン国立響をロシアのトップクラスに育て上げたことで、関係者の間では注目されています。得意のロシアもので、オーケストラ・ビルダーの本領発揮を望みます。この公演は、プログラムが凄いです。メインのショスタコーヴィチの交響曲第5番に合わせるのがチャイコフスキーの幻想序曲「ロメオとジュリエット」と祝典序曲「1812年」。熱いロシアンサウンドをぜひお楽しみ下さい!
11月定期と合わせて、2回連続でスケールの大きな曲が並びました。どちらも2日公演です。この機会にオーケストラを聴いたことのない人たちに向けて、京響を知って頂くような仕掛けを作っていければと思っています。
―― 確かに、今シーズンのラインナップは指揮者陣が入れ替わったからか、有名な曲が並びますね。仰るように席に余裕のある2日公演で、これだけのプログラムなので、思い切った方法で京響の魅力を訴えていく場に出来たら素晴らしいですね。名曲と言う意味では2月定期演奏会もブラームスの交響曲第1番です。
小泉和裕 (c)Ivan Maly
はい、京響ファンにもお馴染み、京都出身の小泉和裕さんにお願いしました。デビュー当時と変わらないスラっとした指揮姿の小泉さんも、今では70歳ですっかり巨匠の風格。東京都響、名古屋フィル、九州響、神奈川フィルにポジションを持ち、全国を飛び回っておられる小泉さんから、京響メンバーが学ぶものはまだまだたくさんあります。前半に演奏するグラズノフのヴァイオリン協奏曲のソリストは、インディアナポリス国際コンクールの覇者クララ=ジュミ・カンさん。ロシア特有の叙情性を秘めた名曲を彼女の華麗なテクニックでお楽しみください。
―― そして広上さんの指揮するドヴォルザークの交響曲第7番でシーズンが終わります。初登場で未聴の指揮者も多いですが、プログラム的には有名な曲が並びました。「初めての指揮者を、名曲を通して聴いて欲しい!」という楽団のメッセージなのでしょうね。定期演奏会に加えて、今年の「第九コンサート」を指揮するのは、広上さん。そして「ニューイヤーコンサート」を指揮するのは第9代常任指揮者の井上道義さんですね。
第9代音楽監督 井上道義 (c)高木ゆりこ
はい。アニバーサリーイヤーを締め括る「第九」は、やはり広上さんだろうということで、指揮していただく事になりました。
「ニューイヤーコンサート」には、1990年から1998年まで京響音楽監督&第9代常任指揮者として京響をリードした井上道義さんにご登場頂きます。ニューイヤーコンサートでよく演奏される楽しいウインナワルツばかりではなく、ちょっと捻りを入れた「ワルツ」の数々をお楽しみ頂けるコンサートにしています。井上道義さんが池辺晋一郎さんに委嘱した作品も世界初演されます。盛り沢山でバラエティに富んだプログラムは、プロデュース力溢れる井上道義さんならではです。
―― その他の自主公演は、オーケストラ入門的なコンサート「オーケストラ・ディスカバリー」ですが、これも随分長くやられていますね。そして、家族そろってお得にオーケストラを聴こう!をキャッチコピーに、「京響みんなのコンサート」。そして、広上さんが指揮される名古屋公演と大阪特別公演です。 
秋山和慶
「オーケストラ・ディスカバリー」は今年で12年目です。子供のためのオーケストラ入門コンサートというコンセプトで始めましたが、子供にこそ本物を提供すべきだということで、会場は京都コンサートホールに、定期演奏会クラスの指揮者やアーチスト、そして気合の入ったプログラムを用意したため、クラシック好きの大人が大勢お越しになっています(笑)。今年、4回のコンサートを指揮するのは、秋山和慶さん、首席客演指揮者のジョン・アクセルロッドさん、沼尻竜典さん、それに常任指揮者の広上さんで、名曲の数々をセレクトして、ナビゲーターと共にオーケストラの魅力を紹介していきます。幅広いお客様に喜んで頂いているのは大変嬉しいのですが、やはり子供連れのファミリーで会場をいっぱいにしたいと云うのが本音ですね。
京都市内の5区で開催される「みんなのコンサート」は、コンサートごとにお客様の対象を年齢で分けていて、未就学のお子様が入場できる"0歳児以上入場可能"なコンサートも用意しています。今年は、常任指揮者の広上さんが担当します。このシリーズはいずれの会場でも、それぞれの地域の方々が気軽にオーケストラを楽しめるという事で人気があります。下野さんの京響デビューはこの「みんなのコンサート」の前身の「ふれあいコンサート」だったそうで、地元のアマチュアコーラスとの共演ステージで"てんとう虫のサンバ"を指揮されたそうです。その後、ブザンソン国際指揮者コンクールを優勝したことで、あの時の指揮者が…と、語り草となったそうです(笑)。
松本宗利音
―― 今年も新進気鋭の松本宗利音さんが「みんなのコンサート」で京響デビューされます。京響にとって、新人の登竜門的なコンサートですね。名古屋公演と大阪公演は当然、常任指揮者の広上さんが指揮されます。
年に1度の名古屋と大阪のコンサートは、真剣勝負の場です。それぞれに地域に根ざした人気のオーケストラがある本丸に出向いて行く訳です。京響の魅力を伝え、ファンを増やしたいと、プログラミングの段階から真剣です。おかげ様で大変良い評価を頂いています。
―― なるほど。京響が、関西を代表するオーケストラの概念を破って、日本を代表するオーケストラと評価を一変させるきっかけになったのは、こういった他流試合で素晴らしい演奏をされてきたからですね。手元に「京都市交響楽団ビジョン」という刷り物があります。これを作成された目的を、途中から参加されて、白方さんと私のやり取りを黙ってご覧になられていた演奏事業部長の上野喜浩さんに、語っていただきたいのですが、お願い出来ますか(笑)。
はい、気を遣っていただいてありがとうございます(笑)。「京都市交響楽団ビジョン」は、1956年に日本初の自治体オーケストラとして生まれた京都市交響楽団が、市民にとってどんな価値があるのか?オーケストラの意義とは何なのか?といった事をキチンと示す必要が有ると考え、作成したものです。そこには、「私たち京響が目指す姿」、「目指す姿を実現するための5つの戦略」、「5つの戦略の推進に向けて」といった具合に、大変分かり易く記しています。今後、京響の行う活動は、このビジョンに基づくものとなりますので、機会が有りましたら是非ご覧になっていただきたいです。オーケストラがこういった形で考えを表明するのは、日本でもまだ例が少ないです。
京都市交響楽団ビジョン 外面 
京都市交響楽団ビジョン 内面
―― 凄いですね。京響の楽団員と楽団の経営団体である公益財団法人京都市音楽芸術文化振興財団、設置責任を持つ京都市の3者が、このビジョンを共有し、社会の動向やニーズを分析しながら、オーケストラ活動に取り組んでいくなんてあまり聞いたことがありません。恵まれた環境ですね。これこそが京響の強みだと思います。上野さん、ありがとうございました。それでは、最後になりますが、白方さんにとってオーケストラの魅力とは何ですか。それを踏まえて、「SPICE」の読者にメッセージをお願いします。
大編成のオーケストラサウンドをコンサートホールでお聴き下さい! (c)Tatsuo Sasaki
オーケストラの魅力ですか……。
人間が作り出すパワーやエネルギーの凄さですね。楽器の違いや性格の違い、仲がいいとか悪いとかなど色々なものを超えて、100人近い大人が心を一つにして作り出す音楽。
こんなデジタルな時代に、一か所に人が集まらないと出来ない、一人一人が揃わないと良さが出ないと云うのは、何にも代えられないモノだと思います。また、そういうものが無くなると、心も社会も廃れてしまうのではないでしょうか。オーケストラは社会の縮図だと思います。それぞれに役割が有って、お互いが尊重し合って初めて何かが生まれる。指揮者やプログラム、会場や天気によっても出来上がる音楽は変わります。同じものは二つとありません。そんな場面に立ち会えることって、とても不思議で貴重な体験ではないでしょうか。
一生に一度だけでもいいので、オーケストラのコンサートにお越し頂き、その空間を共有して頂ければと思います。お越し頂ければその魅力は十分伝わるはずです。皆様のご来場を心よりお待ちしています!
これからも京都市交響楽団をよろしくお願いします! (c)井上写真事務所 井上嘉和
―― ありがとうございました。京都市交響楽団の更なるご活躍を祈っております。
取材・文=磯島浩彰

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