FINLANDS約一年ぶりで初のデジタルシ
ングル新作は、はからずも<平穏がな
くなったら・・・>がテーマに。塩入
が語る「今」とは

FINLANDS約一年ぶりの新作は、初のデジタルシングル「まどか/HEAT」(3月29日配信)。「まどか」について塩入冬湖(Vo/G)はnoteで<制作時、平穏がなくなる事や、日常に感謝する事が当たり前になってしまう日が来た時に、どうしたら私は近くにいる家族や恋人、友達を守っていけるだろうか。と、ぼーっと考え続けて作った歌です。こんなに早くそんな日々に直面するとは。>と綴り、当時はある事件のことがきっかけとなって作った曲が、コロナ禍の影響で世界中に不安が広がっている今、非常に考えさせられる内容になっている。この強くも切ないミディアムバラードをどんな気持ちで書き、歌ったのか、塩入冬湖(Vo/Gt)に聞いた。
――塩入さんがnoteで綴られている文章を読んで「まどか」を聴きましたが、より思いが伝わってきました。
元々あった思いというのがもちろんあるのですが、こういう時期にその内容がリンクしてしまって、色々考えさせられます。
――この曲は去年7月に起きた、京都アニメーション放火事件のニュースを見たことがきっかけでできあがった曲ということも、noteに書かれていました。
あの時ライヴで大阪に遠征していて、ホテルの部屋で一人でニュースを見ていて、とてもショックでした。人が亡くなる凶悪事件はたくさん起こっていて、怒りも悲しみももちろんありますが、もし自分がそういう場に遭遇してしまった時どうするんだろうとか、感情のない部分をすごく考えているなと。今まで感じたことのない思考が生まれてきました。
――描かずにはいられなかった歌詞とメロディ、という感じですか?
そうですね、書きたいことは明確にあったのですが、それを言葉にすることで上澄みの部分だけを歌うことになるのがすごく嫌だったので、大きい社会を見て歌うのではなく、自分に近しいところを例えに出すことで、聴いてくれる人が身近に感じてくれればいいなと思いました。そうするためにはこの言葉は違うんじゃないか、この表現方法は違うんじゃないかとか、書きたいことが決まっている中で、表現方法はずっと悩み続けていました。
――個としてどういう風に感情を持ち続けるか、と。近いしい人、近しいことに対する思いを描いたので、この状況に中で最近書いた歌詞に思われますよね。
ワーって思いましたね。「REMOTE CULTURE TOUR」のファイナルが去年の11月にあって、その時に歌っていたので、9月頃にはできていた曲なのですが、それをこういう状況の中で聴いていただくと、受け取り方も変わってきますよね。
少し淀んでいる青い空も含めて、感情の変化をしっかり受け取っていただけている
FINLANDS
――「まどか」の歌詞は完成までに時間がかかりましたか?
いつも最初は仮の歌詞でデモテープを作るのですが、<泣いて抱いて当たり前を願わせてよ>という歌詞だけはずっとあって。このフレーズにすごく引っ張られていった気がします。歌詞全体がただ悲観するだけとか、落ちているだけじゃなくて決意表明というか、淡白だけど強い意志表明できた歌になったのは、あのサビがあったからだと思います。タイトルもなかなか決まらなくて、でも無意味なものにもしたくなくて、色々なものを読んだり調べたりして行くうちに、“円かな月”という言葉浮かんで、まん丸くて平穏な様、私が今望んでいるのはこれだなと。
――シンプルでわかりやすい言葉で、深い思いをきちんと届けてくれ、歌も後半になるにつれどんどん熱帯びてきて、エモーショナルになって感情が揺さぶられます。塩入さんの専売特許のあの高い部分のキュンキュンする声もそうですが、今回は小刻みなビブラートのよさを改めて感じさせてくれました。
どうしても癖をつけて歌ってしまう歌唱方法になるので、今回は最後まではあまり癖がない方がいいな、フラットでいたいなと思って。でもレコーディングで歌っていくうちにサビ最後、Cメロくらいからたまらない気持ち、感情になってきます。ガッツリいってしまいそうになって、何回か歌い直しましたが、それが素直な心の声として出ているんだったらいっか、と思って。
――MUSIC VIDEO(監督/大川直也)の中の空の色や、漂っている空気感を含めて、この曲はグッときますね。
私もMVを見てそれを思いました。少し淀んでいる青い空も含めて、感情の変化をしっかり受け取っていただけているなと。少し複雑かもしれませんが、聴いていただきたいです。
ダメとダメの掛け合わせのようなものを経験している最中
FINLANDS/塩入冬湖
――約一年ぶりのシングルで、初のデジタル配信で。しばらく出していなかったという感じはありましたか?
作品を作り始めたときにやっと思いましたね。自分が書いている言葉やサウンドに対する要望が、一年で変わってきたなと感じたときに、そっか一年ぶりだもんなって感じました。
――「HEAT」も「まどか」と同じ時期にできた曲ですか?この2曲を一年振りのシングル&初の配信限定シングルにしようと思った決め手は?
そうですね。まどかと同じ時期です。他にも候補曲はあったのですが、どうしても「まどか」が強かったんですよね。「まどか」がバラードですが曲として強かったので、バランスと相性を考えました。歌っていることは全然違いますが、人との温度感みたなものを歌っている2曲なので、対象が違ってもそこに通ずるものもあるなと。
――「HEAT」も塩入さんにしか描けない表現です。部屋の中の二人の様子や会話を想像してしまいます。
ダメな女とダメな男の部屋の中みたいな(笑)。
FINLANDS/塩入冬湖
――そういう部分を掘っていく歌にこそ深く感情移入でき、共感できると思います。
きっと憧れている部分もあると思います、ダメとダメの掛け合わせのようなものを経験している最中の、生きている気がしないくらい胸が痛いみたいなのって、何回も経験できものじゃないと思っていて。今後経験できないかもしれないと思ったら、そこに憧れている節はあるのかもしれないですね。
――全く温度感が違うこの2曲で、FINLANDSというアーティストが感じている“熱”が伝わってきます。
私もそれはすごく伝えられているんじゃないかなと思っています。
きちんとパワーアップしたFINLANDSを構築できたと思います
FINLANDS
――先ほど出ましたが、昨年4月10日に東京・渋谷CLUB QUATTROで行われた「UTOPIA TOUR」ファイナル公演でコシミズさんがバンドを脱退して、FINLANDSは塩入さんのソロプロジェクトになって。少し時間が経ちましたが、気持ちに変化はありましたか?
一人になったばかりのときは、新しいサポートメンバーを入れて活動していくので、暗中模索で、先が見えていなかったというか。見えているんですけど、そこにどう追いつくか。スタジオに入って、FINLANDSの形を構築していくことに対する実感がない、どうしたらいいんだろうっていう、初めて感じる焦りのようなものはありました。練習してライヴをして、一からじゃないですけど作っていくのが不安要素だったり、自分が突っ走っていることで、周りが見えなくなる恐怖とか、そういう部分での疲れもありました。でも一年経って、新しいサポートメンバー二人がすごく協力してくれて、きちんとパワーアップしたFINLANDSを構築できたと思います。だからそこに関しては、すごく心穏やかになりましたね、大丈夫だなと(笑)。
――ファンの方も一年経って、「どうよ最近?」って聞きたかったと思います(笑)。
そうですよね、最近心穏やかに楽しくやっています(笑)。一人になった時も皆さんめちゃくちゃ優しかったんですよね、変に気を遣わないでいてくれたし。二人のうち一人が辞めるってファンの方からしたら、なんのこっちゃという感じだったと思うんですけど、周りのバンドマンやお客さんも妙に気を遣わないで、一年間我々が活動して行く形をちゃんと見守ってくれて。だからこそワンマンライブツアー「REMOTE CULTURE TOUR」を完走することができて、人って優しいなってすごく感じました。
今のような状況で感じてしまう悲壮感は、私は音楽に入れ込みたくないという気持ちがあって
FINLANDS/塩入冬湖
――今年はこの後アルバムを予定しているじゃないですか(発売延期)。どんな内容になるのか、しゃべれる範囲でいいので教えて下さい。
めちゃめちゃいい作品です(笑)。私、今後ずっと一生恋愛について歌わないなと思っていて、でもそれじゃつまらないなとも思っていて。自分の人生が変わっていき、成長していくのに合わせて変わっていかないといけないと思っているんです。だからこれからもしかしたら結婚するかもしれないし、子供も産むかもしれないし、そういう節目に自分は変わるんじゃないかってすごく考えていたんですけど、そうじゃなくて、昨年一年リリースがなかった時期に、恋愛や男女間の関係、悲愴感、そうじゃないところで自分が考えて物事を選んでいくこととか、本当にこれは自分が好きなのかとか、自分の判断とか、そういうところに疑問を持ち始めました。そういうジャッジを去年ずっとしていた気がします。なので、恋愛のことを考えている時間が本当に少なかったと思っていて、そういう意味でも根本的に歌うことが少しずつ変わってきていると思うので、去年一年貯めに貯めた私の嗜好の変化や、メンバーのサウンドの変化を如実に感じてもらえる、めちゃめちゃいい作品です。4月7日現在も、サポートメンバー含め一生懸命作っている最中なので、それが2019年から2020年の記録なので、どんな形であれ、聴いて頂いて、作品が成長して行くことが本来の在るべき姿なので、そこまでどう持っていけるかを試行錯誤しながら考えています。
――ソングライターとして次のフェーズに行ったというか、そういう感情になる時って、曲のネタがいっぱいあるということじゃないですか。
去年の変化をアルバムにパッケージして、でも今のような状況で感じてしまう悲壮感は、私は音楽に入れ込みたくないという気持ちがあって。そこに頼ってしまうことって、音楽の本質として自分が今までやってきたことに逆行する気がしていて。なので、今回のことで気づいたことや、発見したことを曲に昇華させたいです。人に会いたくないと思うのは、いつでも会えるからだったんだなとか、今までは選択肢があったからこそ、家にいる、誰にも会わないことを選べたんだとか、そういうことを実感しています。
――今こういう状況でライヴも延期や中止になって、ファンも残念がっていますが、FINLANDSも含め、多くのアーティストはライヴを活動の軸に置いています。ステージに立てないというのは素直にどういう思いなのでしょうか?
これが誰かのせいであれば本当にブチ切れますけど、誰のせいでもないので。家から配信できる機材を大量に買ったり、家を改造したり、こうなったら家でライヴできるという状況に振り切ってやるしかないなと思っています。
取材・文=田中久勝 LIVE photo by ハットリ

SPICE

SPICE(スパイス)は、音楽、クラシック、舞台、アニメ・ゲーム、イベント・レジャー、映画、アートのニュースやレポート、インタビューやコラム、動画などHOTなコンテンツをお届けするエンターテイメント特化型情報メディアです。

連載コラム

  • ランキングには出てこない、マジ聴き必至の5曲!
  • これだけはおさえたい邦楽名盤列伝!
  • これだけはおさえたい洋楽名盤列伝!
  • MUSIC SUPPORTERS
  • Key Person
  • Listener’s Voice 〜Power To The Music〜
  • Editor's Talk Session

ギャラリー

  • 〝美根〟 / 「映画の指輪のつくり方」
  • SUIREN / 『Sui彩の景色』
  • ももすももす / 『きゅうりか、猫か。』
  • Star T Rat RIKI / 「なんでもムキムキ化計画」
  • SUPER★DRAGON / 「Cooking★RAKU」
  • ゆいにしお / 「ゆいにしおのmid-20s的生活」

新着