私が好きなのはコレと思ってもらって
構わない「ミュージカルの映画版」3
選/ホーム・シアトリカル・ホーム~
自宅カンゲキ1-2-3 [vol.16]<ミュー
ジカル映画編> by 町田麻子

おうちをシアトリカルな空間に! いま、自宅で鑑賞できる演劇・ミュージカル・ダンス・クラシック音楽の映像作品の中から、エンタメ界隈に棲息する人々が激オシする「My Favorite」3選。(SPICE編集部)
ホーム・シアトリカル・ホーム~自宅カンゲキ1-2-3[vol.16]<ミュージカル編>
私が好きなのはコレと思ってもらって構わない「ミュージカルの映画版」3選​ by 町田麻子
【1】『レ・ミゼラブル』(2012年・映画版)
【2】『オペラ座の怪人』(2005年・映画版)
【3】『ヘアスプレー』(2007年・映画版)

好きなミュージカルが映画になってくれるとありがたいのは、他人に勧めやすくなる点だ。親しくなった、あるいは親しくなれそうな相手には自分の好きなものを紹介したくなるものだが、なかなか「私の好きなミュージカル観てね(発売日調べて1万円ちょっと払ってチケット買って当日は嵐でも劇場行ってね)」とは言い難い。だが映画なら、すぐ言える。
一方で、「好きなミュージカル」と「その映画版」は、基本的には別物だ。別物だからこそ、舞台は劇場で観るものと思っているナマ信者の筆者も、映画版ならば観る。だが別物すぎて、映画版だけを観て「へ~、町田さんってこういうのが好きなんだ」と思われては困るような映画版が少なからず存在するのも事実。そこで今回は、そう思ってもらって大丈夫です!な3作を紹介させていただく。
【1】アフレコなしの真っ向勝負!『レ・ミゼラブル』(2012年・映画版)
「レ・ミゼラブル」予告編

舞台版のほうはもう、間違いなく町田麻子・人生の一作。それだけに、映画版公開前はなんだかドキドキしていた。原作も、そこからの取り出し方も、音楽も大好きだが、何より好きなのは総合芸術としての完成度の高さ。あのセットでは、あの照明では、あの衣装ではなくなったレミゼにどれほどの魅力があるのか分からなかったし、背景がリアルな映画という表現媒体において、“歌う”という現実離れした手法がどう映るのかも未知数だった。
だがそんなオタクの心配をよそに、トム・フーパー監督は舞台版と全く同じDNAを持った、しかし映画ならではのレミゼを作り上げた。背景がリアルであること、表情のアップがあること、曲順の入れ替えや歌詞の変更があることにより、泣けるシーンは舞台版と正反対と言っていいほど異なるのだが、泣ける量も涙の質も一緒。変更箇所に、いちいち必然性と舞台版へのリスペクトが感じられるのも素晴らしい。新曲「Suddenly」はその最たる例で、つまりは映画版だからこそ必要な楽曲なのだが…“レミゼの神”が約30年ぶりに降臨したとしか思えない大名曲すぎて、舞台版に還元されてほしいとも思ってしまうほどだ。
歌うという手法の扱いについては、驚きの“スルー”。CGなどを使って映画全体をリアルでなくすることも、また「CHICAGO」のように歌うシーンを空想世界として切り離して処理することもなく、リアルな背景の中でただ歌う。しかも、アフレコではなくその場で――! この真っ向勝負が功を奏し、映画版レミゼはミュージカル映画史に残る名作になった、と勝手に思っている。余談だが、同じフーパー監督が手がけるということで楽しみにしていた『キャッツ』は、CGを駆使し過ぎちゃってもはやアニメを観ているような気がしてくる、典型的な、町田さんってこういうのが好きなんだと思われちゃ困る映画版であった。
というわけで、(1)舞台版も映画版も未見の方へ。まずは映画版を観てください、それが世界中で愛されてるレミゼです!(2)映画版しか観ていない方へ。同じDNAを持った、でも全然違うレミゼも観たくないですか?それが舞台版です!(3)舞台版が好き過ぎて映画版が観られてない方へ。大丈夫だし、初代バルジャンのコルム・ウィルキンソン演じる司教とかマジ必見なので今こそぜひ!あとこれまた余談ですが、BBC制作のドラマ版とかも今観るにはいいかもです。NHKでの放映が終わっちゃったばかりですが、前回の舞台版の時にすでに役作りの参考にしてるキャストさんがいたので、次回以降の舞台版にも影響があるはず!
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映画版のパンフと、公開記念イベントでもらった用紙
画像の「用紙」の用途
【2】三角関係の“正解”がある『オペラ座の怪人』(2005年・映画版)
「オペラ座の怪人」予告編

舞台版は、筆者がおそらくレミゼの次に多く観ている作品。ハロルド・プリンス演出版はブロードウェイでもロンドンでも日本各地でも観ているし、なんなら日本未上陸の“赤ファントム”、ローレンス・コナー演出のツアー版を観にわざわざボルチモアくんだりまで足を運んだこともある。何度観てもアンドリュー・ロイド=ウェバーの天才ぶりには恍惚とさせられるばかりだが、怪人ファントム、歌姫クリスティーヌ、恋人ラウルの三角関係の様相は観るたびごとに=演者によって、それはもうびっくりするくらい違う。正解はないのだろうが、筆者的に正解だと思う理想的な形の三角関係が描かれているもの、それが映画版だ。
クリスティーヌが愛しているのは立派な子爵になって現れた幼馴染のラウルで、ファントムはその恋路を邪魔する悪者――。統計をとったわけではないが、筆者の感触として、三角関係はこの形で描かれることが(特にブロードウェイでは)結構多い。だが筆者的には、クリスティーヌにはファントムを愛していてほしい。愛してはいけないと頭では分かっているのに、あの声に本能的に惹かれてしまい、抗うことができない。だからラウルに自分をつなぎ止めてほしい、それが筆者の理想のクリスティーヌ像で、それなのになんだかぼんやりしている、それが理想のラウル像。となるとファントムに必要なのはもちろん、魔力的な声。
エミー・ロッサム演じる映画版のクリスティーヌは、ファントムの声が聞こえる度に官能的な表情を浮かべる。ラウルがファントムを殺しそうになった時、思わず止めてしまう。危険と分かっていても、ファントムとオペラで共演できることが楽しくて仕方ない。イイ……!ジェラルド・バトラーのファントムも、パトリック・ウィルソンのラウルも、それに即した造形。もちろん音楽に関しては生で味わうに越したことはないし、シャンデリアが落ちてきたり火の手が上がったりする演出は舞台版ならではの見どころだが、ことストーリーに関しては、下手な舞台版よりはこの映画版のほうが伝わるような気がするのだった。
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“赤ファントム”が上演されていたボルチモアの劇場
【3】映画版でも健在な“明日も頑張ろう”パワー『ヘアスプレー』(2007年・映画版)

「ヘアスプレー」予告編

「ミュージカルって、歌って踊って華やかで、観ると明日も頑張ろうっていう元気が湧いてくるよね!」。基本的に、この意見にはあまり賛同できない。ミュージカルとは無限の可能性を秘めた表現形態で、華やかじゃないものにも素晴らしい作品がたくさんあると思うからだ。だが、「明日も頑張ろうっていう元気が湧いてくる華やかなものを作りたい時、ミュージカルって最適な形態だよね!」、これならば大賛成。音楽に伴われた言葉には、筆者のようなネガティブなひねくれ者をも無条件に素直にさせてしまう魔法の力があるからだ。

人を好きになるのに、人種も見た目も性別も関係ないよね!――そんなちょっと教育的ですらある前向きなメッセージを、最高にアガる歌と生命力を爆発させる踊りとで真っ直ぐに訴えかけてくる『ヘアスプレー』は、筆者にとってナンバーワン“明日も頑張ろう”ミュージカル。気分がクサクサしていて、こんな時に観ても絶対楽しめないよ…とか思いながら観に行っても、百パーセント楽しくなってしまう作品なのだ。ミュージカルの音楽は聴くより観たほうがいい派の筆者にしては珍しく、音源もわりとヘビロテしている作品で、冒頭のナンバー「グッドモーニング、ボルチモア!」はカラオケの十八番にもなっている。
『ヘアスプレー』の前向きパワーはすさまじく大きく、舞台版のように直で浴びることができない映画版でも、十分に“明日も頑張ろう”モードになれる。また、直で浴びられない代わりに物語の舞台であるボルチモアの空気感が分かったりするので、舞台版の予習復習にもうってつけ。2002年の世界初演から18年(!)、ようやく実現されようとしていた待望の日本語版の舞台は、このたび誠に残念ながら中止になってしまった。中止ではなく延期に過ぎないと信じて、今はこの映画版で予習に励みながら、ついでに元気をもらいたい。
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『オペラ座の怪人』を観に行ったボルチモアのホテルにて、朝一に「これが本当のグッドモーニング・ボルチモア」と思いながら(歌いながら)撮った一枚

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