変幻していく才人・志磨遼平。彼の人
生観に、今改めて迫る

キミは志磨遼平という人物に対してどんなイメージを持っているだろう。無二のロックンローラー? 稀代のペテン師? 珠玉のメロディメイカー? それとも当代一のロマンチスト? あるいは…芸術家や批評家、もしくはひとたらしやロクデナシだろうか。きっとそのすべてが間違いではない。しかし、そのすべてを合わせても彼の一部でしかない。志磨遼平はこう語る、「いつか自分がいなくなった時、自らはどんな風に語られるのだろうか」と。そしてその時は、できるだけ沢山のエピソードがあったらいい。そこに詩を感じるのだと。
彼のこの発言を聞いた時、こんなことを思い出していた。セックス・ピストルズのギグを撮影したことでも知られる、映画監督ドン・レッツによる、シド・ヴィシャスについてのコメントだ。「あいつはいつもトラブルに巻き込まれてた。マヌケだったからな。愛されるバカだったよ…」。確かに、「彼はベーシストだ」なんて言われるより、ずっと詩的でそして的を射ているように思うのだ。
毛皮のマリーズでのメジャーデビューから10年。その歩みを総括するベスト盤、『RIOT』と『QUIET』がリリースされた。本インタビューは、そこから彼の音楽家としてのアティテュードに迫ったものである。キャリアの転換期は、思ったよりも意外なところにあった。

志磨遼平がなりたかったものは

ー『RIOT』と『QUIET』と名付けられた、2枚組のベスト盤がリリースされました。志磨さんはそれぞれこの2枚をどういう意図でコンパイルしましたか。
まずは『RIOT』ですが…..うーん、なんて言えばいいんだろう。難しいな。
ー何か答えがあるのに、言い淀んでいるように見えますが…?
そうですね。凄く端的というか、スパッと言える言葉があるんですけど、それを言っていいのかどうか……つまり、『RIOT』に関しては、僕は「仕事」だと思っているんですよ。
ーほう(笑)。
ほら、こう言うと誤解を招くじゃないですか(笑)。「仕事」というのは、嫌々やっているという意味ではなく、自分に与えられた使命にも近い、担うべき役割という意味ですね。今更自分のパブリックイメージはよくわからないのですが、僕はいわゆるロックンロールとかガレージパンクといった、威勢のいいところから世に出て来たわけです。で、僕が思うに、ロックンロールにはリスナーの何がしかを代弁したり、あるいはアジテートするところがある。
ーつまり、それを生業とし、担ってきたと。
そう。僕の仕事のひとつに、不特定多数の何かを代弁したり、その人達をアジテートするという業務があるならば、そうした僕のロックンローラーとしての業績を集めたものが、『RIOT』かなと思います。
ーなるほど。
一方『QUIET』は、仕事から一番遠いものを集めたもの。誰に向けるでもない、独り言に近いものかもしれないし、あるいは本当に信頼できる友人や恋人に打ち明けるようなもの、そんな楽曲による作品だと思います。言うなれば、『RIOT』のほうが「Speach」です。
ーでは、「QUIET』は「Talk」ですね。
まさにおっしゃるとおりです。なのでこれまで発表してきたシングルや、いわゆる代表曲と呼ばれるものは威勢のいいものが多いんですが、それを並べただけだと自分としては片手落ちと言いますかね。外面はいい感じになるんですけど、「これがぼくのすべてです、とは言えないんだよな」という気持ちもあるので。僕の表裏を2枚組としてひとつの作品にすることで、自分の表現を大まかには網羅できるのではないかという気持ちがありました。
ーただ、自分のパブリックイメージが今更よくわからないというのは、ロックンローラーとしての責務から離れた仕事もされてきているからだと思います。
うん、そうですね。
ーそれはロマ音楽を基調とした『ジャズ』のリリースや、その前の『三文オペラ』の音楽監修など、ここ数年の活動からも明らかだと思います。志磨さんは、今のご自身の活動をどのように解釈していますか。
何をやっているのかわからなくなってきたという意味で、今は凄く理想的ですね。僕はそういう風になりたかったから。
ー何故?
自分が憧れたアイドルみたいな存在が沢山いて、それは寺山修司だったり、セルジュ・ゲンスブールであったり、ジャン・コクトーだったりするんですが、彼らはある時は詩人で、ある時は映画監督であると。でも、またある時は作詞作曲家であり、俳優でもある。そういう何を仕事としているかよくわからない人にずっと憧れがあって、なんとなくそんな人になりたいと思っていました。……というか、それが健全であると思っていると言うんですかね。
ー健全?
そういう仕事の仕方が人間本来のあり方なんじゃないかなと。たとえばギタリストは、凄くギターが上手い人と、ギターが上手くないのにギタリストと呼ばれる人の二手に分かれると思うんです。で、僕が好きなのは後者なんですよね。それはキース・リチャーズであったり、ジョニー・サンダースであったりね。彼らを説明する時には、別にギターの話はそんなに重要ではないんですよ。「あの人はタバコを吸う」だとか、「ジャック・ダニエルの瓶をいつもアンプの上においている」だとか、「ボルサリーノみたいな帽子に注射器が刺さっている」だとか……僕はそれをとても詩的に感じるんです。
ーなるほど。
僕がいなくなった後、志磨遼平について語られる時に、どういう風に記憶されるのかなって思います。「彼は歌を歌っていました」というだけではなく、たとえば「背が高くて嘘つきである」とか(笑)、そんな風にね。僕は肩書きが増えていくことは、悪いことではないと思っています。
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