Maica_n 聴く人の数だけ解釈がある
、余韻が残る音楽を――2020年最注目
のMaica_nのスタンス

中性的なルックス、笑わない瞳。音楽性も声も媚びない魅力を放ちつつ、センシュアルでパーソナルなニュアンスも内包した表現力で、一度聴くと不思議な引っ掛かりを残すアーティストとして音楽好きを騒がせているのが、2000年生まれのMaica_nだ。ビートルズやザ・バンド、ダニー・ハサウェイやシェリル・クロウなど普遍的な洋楽を聴いて育ち、ギターの習得と共に作曲を始めた彼女。昨年(2019年)6月にリリースしたEP『秘密』のタイミングでSpotify「Early Noise」に選出、その後、山崎まさよしやCharとの共演など、ライブの現場でも驚きを持って迎えられている。すでにメジャー1stEPから「Flow」、「Unchain」の2曲が先行配信されているが、いよいよそのEP『Unchained』がリリース。SPICEでは今回が初めて肉声を届ける機会だが、奇しくもコロナ禍により取材はパソコン越しのリモートスタイルで実施。そうした特異な状況ながら、オンラインでも語るべきことを自然に堂々と伝える態度は音楽と同様の印象を残してくれたのだった。
――私、Maica_nさんとの出会いがSpotifyの「Early Noise」のビジュアルだったんですよ。で、この人は男の子なのか女の子なのか、どんな音楽をやってるんだろう?と思いながら聴いたのが前のEPの『秘密』で。
ああ、ありがとうございます。最初に“どういう人なんだろう”と思ったって言ってもらうことは多いですね。写真を見て、結構謎が多いというか。
――この感じが自然体なんですか?
そうですね。自分としてはずっと自然体というか、ありのままの自分を表現できたらいいなと思っているので。
――資料によると、Maica_nさんは王道の洋楽育ちであることがわかるんですけど、ミュージシャンとしての大きな影響や要素はなんだと思いますか?
自分が曲としてアウトプットするときには、今までインプットしてきたものの中から出てくると思うんですけど。そのインプットされたものが、小さいときに聴いてきた音楽だったり、育ってきた上での感受性みたいなものにすごく関わってるんじゃないかなって、いま曲を作っていて思います。
――洋楽に惹かれたのは何が大きかったんでしょう?
それこそギターを始めたきっかけというのも、小学校6年生の時に、「Blackbird」っていうビートルズのポール・マッカートニーが歌っている曲を父親がリビングで弾いてたんですね。それをその時に初めて聴いて。楽曲の良さはもちろんなんですけど、ギターを弾いてる指さばきだったり、音色に惹かれてしまって。その場で頼み込んで「Blackbird」の“ここを押さえて、ここを弾いて”っていうところをイチから全部教えてもらって。その1曲だけを練習して弾けるようになった時に、弾けたら楽しいなと思えたのと、やっぱりグルーヴ感みたいなものもちょっと違うなと思うので、そういうものの影響は大きいんじゃないかなと思います。
――Maica_nさんの世代は、いわゆる邦ロックブーム?
そうですね。洋楽の話は学校ではあんまりしなかったんです(笑)。でも自分自身、別に洋楽ばっかり聴いていたわけではなく、“どういう音楽がいま流行ってるんだろうな?”っていうぐらいの感覚で聴いてはいました。でも学校ではあまり音楽の話はしなかったです。
――じゃあ友達には“音楽をやっていきたい”みたいな話はしなかったんですか?
ほんとに自分が信頼して心を開いてる友達……片手で数えられるぐらいの子たちに少し話していた程度ですかね。ちゃんと全部を話してた子っていうのはほとんどいなかったので、去年、『秘密』をリリースさせてもらった時に周りの反応はすごく大きかったです。
――“大きい夢を語る”みたいなことがあまりない世代じゃないですか?
だから余計に、自分の中で広がっているものが大きいんじゃないのかなと思います。
――いま、同世代の人は大学に行けなかったり、就活もできなかったりしているんじゃないですか?
同級生は今年、就活する子も多いですね。自分自身も、予定していたライブができなくなってしまったり。当たり前に思っていたことが当たり前じゃなくなったんだなって、日々実感していて。だからこそ、今まで当たり前だと思っていたことが当たり前じゃなくて特別なことだったんだなって、改めて実感しているので、今後、何かイベントをさせてもらったり、発信できるようなことがあるのはすごくありがたいことなんだなと思えますね。
――こういう時でも何かを作りたくなるんだなというのは、逆に、いまのように毎日こもっていると実感したりしますか?
しますね。家にいるからこそ曲を作りやすいというのもありますし。制作に集中してはいるんですけど、音楽の部分でもそうなんですけど、自分はよく散歩とかをして何かを見たり感じたりして歌詞が生まれたりすることが多いので、そういう部分でのインプットの部分が、いまちょっとできない状態というか。いろんなものを見て、聞いて、自分が実際に行って、ということができない部分があるので、そういう部分ではすごくバランスが難しいと言いますか、そういう風には感じますね。
――話を戻しますね。曲作りと歌詞を作るのは同時期だったんですか?
ギターを始めたのと曲作りはそんなに大きくは差はないんですけど、小学校6年生の時にギターを弾き始めて。最初に教えてもらってからほとんど独学というか、覚えたコードの中で弾ける曲を鼻歌程度で歌ってる程度だったんです。でも中学校に入って……思春期真っ盛りじゃないですか、みんなも。自分もそういう時期に入って、やっぱり自分の意見とか自分の思いとかを周りに言えなくなったというか。別に特に大きな何かがあったとかじゃないんですけど、自然と周りの意見をより優先するようになったんですよね、自分自身は。で、だからこそ自分が普段言えなかったことだったり、出せないけど奥に秘めているみたいなものを吐き出す、そういうプロセスとして、いまも歌詞を先に書くことが多いんです。で、それを言葉にするようになって、それに曲をつけて、音楽にしたらどうかっていう部分で、オリジナルを書き始めて。最初はなかなか難しくってそんなにすんなりいかなかったんですけど。小学校後半、特に小六から中学校にかけてですかね、自分の中で音楽という部分で大きく変わったのは。
――中学生ぐらいのときって、なぜ思ったことを一瞬考えて引くようになるんでしょうね。
周りの声を一番気にする世代だと思うんですよね、中学生の頃って。噂とか特に多いと思うんです、中学生、高校生って。で、そういうものに惑わされやすくなっているんです。そういうものを気にしていないと、自分も巻き込まれるんじゃないか?っていう意識が誰しもあるんじゃないかなと私は思うので。より周りを気にしてしまうというか、自分を出すよりは、周りの意見を先に聞いていた方がいいんじゃないかな、みたいな風に意識がいったのかなと思います。
――じゃあ割と中学生ぐらいからちょっと引いて見ていた感じはあるんですか?
そういう視点もありましたね。一歩引いて見ている自分もいましたし、でもやっぱりその場に自分もいるわけなので、中学校っていう輪の中に。そういう部分でも、自分は置いていかれないようにというか、引いてる奴ほど多分鼻につくんだろうなと自分でも思っていたので(笑)。そういう部分は一個、視点として持っておきながらという感覚でしたね。
――Maica_nさんの音楽の視点が主観だけじゃないのは、その頃から育まれているものなのかもしれないですね。ところで、ブログで星野源さんの「くせのうた」のことを書いてらしたじゃないですか。初期の作品が好きですか?
いまの作品ももちろん大好きです。日々いろんなものを取り入れながら自らの音楽として発信していらっしゃるので、一番新しいアルバムも好きでよく聴いています。でも、自分が星野さんの音楽と出会ったのが初期の頃の音楽と言いますか、それこそ「くせのうた」、あの時期の曲だったので。自分が中学校の頃にちゃんと聴くようになったというか。いまもですけど、歌詞の部分で星野さんの言葉選びだったり、歌詞にこもった思いみたいなものを尊敬しているというか――もちろん他の部分もなんですけど、特に歌詞にインスピレーション受けたので。歌詞を先に書くようになったっていうのもそうですし……いまでも歌詞にはこだわりながら、一つひとつの言葉を選びながらっていうのが多いですね。
――すごくわかります。「くせのうた」、自由に解釈できるけれど刺さる歌詞で。
そうですよね。思います。一番最後のフレーズがすごく好きで。《抱えきれぬ教科書より 知りたいと思うこと》って言葉がすごく好きで。
――Maica_nさんの書く歌詞が一筋縄ではいかない理由がだんだんわかってきました。去年『秘密』が出て、その後は様々なイベントやフェスにも出演されて。その中で今回の『Unchained』に繋がっていったことは?
音楽はもちろんなんですけど、去年EPを出したのが5月で、その前もいくつかライブには出させて頂いたんですが、高校を卒業するまで本格的な音楽活動がほとんどなかったんですよね。で、4月に大阪に引っ越してきて、一人になったっていうのも自分にとって結構大きかったり。あとは4月からいろんな活動をさせてもらって、今までになかった経験ばっかりだったので、そういう部分で自分が色々刺激をもらって、影響を受けたっていうのがあります。聴いてくれる人からの反応をちゃんと感じられることができたのが大きかったですね。だからこそ、それは楽曲を作る部分から考えるようにはなりました。今回の『Unchained』も曲順にすごくこだわってるというか、それこそライブのセットリストを作るような気持ちで作ったというのがあるので、そういう部分は関わっているかなと思います。
――今回収録されている曲は直近の曲なんですか?
直近の曲もありますけど、それだけでもないですね。「海風」は中学校の時に作った曲です。自分が曲を作る上で、一番はじめに1曲としてちゃんと形にできたのがこの「海風」で、そういう意味ですごく大事な曲だったので、メジャーデビューというタイミングで一番最初に聴いて欲しい曲だなと思って、今回選びました。
――《海を眺めた日はなかなか寝付けない》という表現がいいですね。身体性を伴うというか。
「海風」は、自分が住んでいた徳島の海を思い浮かべながら作ったんですけど、自然がたくさんあって、玄関を開けたらもう田んぼ、みたいなところだったんですよ(笑)。で、自転車で10分、15分も行けば海があるようなところで。だからこそこの曲が生まれたのかなと思うんですけど。なんだろうな? 海に行っていて、潮風に当たって波の音を聴いていたりとかという中で、寝る前に思い出すというか、自分でもよくわからないんですけど、どっかこう悶々とするような。目を閉じてもまだずっと意識がある中で、波の音だったりその感覚がずっと脳内にある、みたいな。自分としては、そういうところだったんです。もちろん、聴く人によってそこはその人のドラマに繋げて、その人自身の曲にしてもらえたらいいなと思うので、そこまで詳しくは言わないほうがいいかなっていうのもあるんですけど(笑)。
――大きな余韻が残るなと思いました。
全曲そうなんですけど、曲を作る時に意識していることが、あんまり全てを語らない、というか。もちろん自分を表現するという意味ではそうなんですけど、特に歌詞で全部を言っちゃわないで、音でもお伝えするというか。10人聴く人がいたら10通りの解釈がある、ぐらいの余韻が残るような曲にできたらいいなっていうのはあるので。そういうのはすごく意識しながら書いてますね。
――1曲目の「HYW 55」は自己紹介的な曲ですね。
この曲はもともと、ライブで一曲目にやれる曲を作りたくて、共同制作者と一緒にアイデアを考えて作った曲です。
――EPのタイトルは『Unchained』で“解放された”ということだと思うんですけど、楽曲は「Unchain」ですね。EPのタイトルと「Unchain」という曲の関係性は?
1曲目の「HYW 55」と同じく、この曲も共作なのですが、「Unchain」という曲の意味がそうであるように、単に鎖を外すということだけでなく、「FREEDOM」という言葉の意味である「自由」を越えた、説得力のある開放感を表現しようということになり、”ed”をつけて、自由を手にしたことをアルバム全体のタイトルにしました。
――なるほど。今回、斉藤和義さんがギターで参加していらっしゃいますが、あまり年齢云々を感じさせませんね。
そうですね。特に「Flow」という曲はそれこそ斉藤さん、歌をうたわれる方なのにギターのみで参加していただくというのはなんとも恐縮なお話だったんですけれども(笑)。でも全曲、それこそ根岸さんだったり小田原(豊)さん、gomes(中込陽大)さん、もちろんこの「Flow」にキーボードで参加してくれた大楠(雄蔵)さんなど、大先輩の方たちとレコーディングをさせてもらったり、ライブでもありがたいことにご一緒させて頂いてるので。そういう部分では、自分も19歳だからといって関係なく、そこにもついていけるような自分になれるようにっていうのは普段から思いながらやってますね。
――この「Flow」のようなファンク寄りの楽曲でのMaica_nさんのボーカルの自然さというか、R&Bのシンガーでもないけど独特な歌唱法を身につけてらっしゃるんだなと思って。
歌も特に誰かに習っていたということもなかったので、完全に独学なんですけど。でもよく言われるのは、あんまり力まずに歌っているというか、いろんな方からナチュラルな感じだね、とは言って頂けますね。
――それは歌詞の内容も、全ての人に同じように伝わらなくていい、というところと通じているんでしょうか。
それも多少は通じてますね。幅がないのは面白くないなと思うので、今後そうならないようにしたいなとは思ってます。でもだからと言って、押し付けがましくもなりたくないなと思って、よりその人の心だったりその人自身にスッと入っていけるような感じにできたらいいなっていうのはあるので。
――中性的な声とちょっとバカラックっぽい愛らしさもある「Go My Way」。グッときますね。
ちょっと、今までとも雰囲気の違った曲というか。歌詞の内容もより身近な感じというか。それこそ自分のありのままを書いた曲でもあるので、よりリアルに近い感じなので。でもこの曲とか「Unchain」は通じるものがあるんです。寂しさとか孤独とか、そういうものを誰しもが持っていると思うんです。自分も結構、性格とか自分自身の根底に孤独感とか寂しさみたいな部分がすごくあるんだろうなって思うので。そういう部分を楽曲として、“そう思ってるのは一人じゃないんだよ”というか。一人ひとり、もちろん違った苦しみや不安とかを抱えていると思うんですけど、少しでも自分の楽曲を聴いてもらって、ラクな気持ちになったり、重荷が少しでも軽くなる、そういう風になってくれたらいいなと思っているので。それでいて、寂しかったり孤独っていう部分から周りに流されてしまったりはしないように、「Go My Way」っていう言葉もあるように、自分自身っていうものはしっかり持っていて欲しいなっていう。これはもう、EP全体に通じるメッセージでもあるんですけど。
――では最後にいま、ちょっと先が見えない状況も踏まえて、改めて初めましての人にメッセージをお願いします。
やっぱり、いまこういう状況ですから、いろんなことをマイナスに考えがちだと思うんですけど、こういう時こそポジティヴに。家にいる時間が多いからこそ、自分のことを知ってもらえる機会も、SNSとかで特に増えていくんじゃないかなと自分は信じているので(笑)。そこでほんとに一人でも多くの人に出会いたいなと思いますし。だからこそ、今回のEPも1曲1曲、言葉で説明するというよりは、実際に聴いてもらって、耳で肌で感じてもらうっていうのが一番かなと思うので、まずは曲を聴いて欲しいです。そして自分自身、これからも誰かの心が軽くなるような音楽だったり、純粋に楽しんでもらえるハッピーな音楽を届けていきたいと思っているので、一人でも多くの人と出会えたらなと思います。
取材・文=石角友香

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