名曲の数々に陶酔必至! 今や幻の映
画版ブロードウェイ・ミュージカル3
選 by 中島薫/ホーム・シアトリカル
・ホーム~自宅カンゲキ1-2-3 [vol
.23]

おうちをシアトリカルなエンタメ空間に! いま、自宅で鑑賞できる演劇・ミュージカル・ダンス・クラシック音楽の映像作品の中から、演劇関係者たちが激オシする「My Favorite 映像」の3選です。(SPICE編集部)
ホーム・シアトリカル・ホーム~自宅カンゲキ1-2-3[vol.23]<ミュージカル映画編>
名曲の数々に陶酔必至! 今や幻の映画版ブロードウェイ・ミュージカル3選​ by 中島薫
【1】『ジプシー』(1962年・映画版)
【2】『バイ・バイ・バーディー』(1963年・映画版)
【3】『不沈のモリー・ブラウン』(1964年・映画版)​
ブロードウェイとハリウッドの蜜月時代
今なお再上映を繰り返す、ミュージカル映画の最高峰『ウエスト・サイド物語』(1961年)。世界中で大ヒットしたこの作品に刺激され、1960年代のハリウッドは、ブロードウェイ・ミュージカルの映画化が盛んだった。ただ、公開から半世紀以上を経た今、日本では忘れ去られた映画も多い。そこで、現在DVDで楽しめる3作をオススメしよう。いずれもブロードウェイのヒット・ミュージカルで、何よりも楽曲が魅力的。しかも元の舞台のエッセンスを損なわずに、比較的忠実に映画化されており、安心して鑑賞できる。また、いずれも巨費を投じて製作された大作で、スケールの大きいミュージカル・ナンバーが見もの。早速、年代順に紹介しよう。
【1】『ジプシー』(1962年)
映画公開時に発売されたサントラLP
1959年のブロードウェイ初演(続演702回)が、絶唱で鳴らしたエセル・マーマン。以降リバイバル上演では、アンジェラ・ランズベリー(1974年)やバーナデット・ピータース(2003年)、2008年のパティ・ルポンと、アクの強いディーバ系大物女優が主役を張ってきた名作だ。原作は、実在したストリッパー、ジプシー・ローズ・リーの回想録。彼女と母親ローズの葛藤を描いており、冒頭のスターたちが演じたのがローズだった。この母親が、ステージ・ママの要素をすべて兼ね備えたタフな女性。娘をスターにするためなら手段を選ばず、ゴリ押しとハッタリを繰り返すが、どこか憎めない。あらゆるミュージカル女優が憧れるのが、『ジプシー』のローズ役なのだ(1982年の日本初演は草笛光子)。
ロザリンド・ラッセル
映画版のローズは、コメディーを中心に活躍したロザリンド・ラッセル(1907~76年)。ドスの効いたオッサン声で、時に辟易するほどの派手な芝居に圧倒される。旅廻りの一座を組んで、2人の娘を売り出そうと躍起になるローズ。ところが、芸達者な妹は駆け落ち。しかし転んでもタダでは起きぬ猛母は、シャイで地味な姉に望みを託す。やがては美しいストリッパーへと生まれ変わる、この姉を演じるのがナタリー・ウッドだ。『ウエスト・サイド物語』に続くミュージカル出演で、くっきりした個性を打ち出して流石に上手い。加えて、「ウエスト・サイド」で彼女の歌は吹き替えられたが、本作では自ら歌っている。またラッセルのボーカルは、声質の良く似た歌手リサ・カークが大部分吹き替えた。
ナタリー・ウッド
そしてこの作品、とにかく楽曲が素晴らしい。作詞は、今年90歳の誕生日を迎えたスティーヴン・ソンドハイム、作曲がベテランのジューリィ・スタイン。期待をかけた妹に去られたローズが、姉に対し「今度はあんたをスターにしてみせる!」と歌う〈エヴリシングズ・カミング・アップ・ローゼズ〉を始め、「前向きにトライあるのみ」と信条を歌う〈サム・ピープル〉、ラストで自分の人生を振り返り、フラストレーションを爆発させる〈ローズの出番〉など、ブロードウェイならではのドラマチックで華やかなナンバーが揃っている。監督は、『哀愁』(1940年)の名匠マーヴィン・ルロイ。
★「復刻シネマライブラリー」にてDVD化され販売中、TSUTAYA、Amazon等での購入可。

【2】『バイ・バイ・バーディー』(1963年)
アメリカ公開時のポスター
人気絶頂のロックンロール歌手バーディーが、軍隊に召集される事となり、ティーンエージャーのファンたちは大騒ぎ。これに大人たちも振り回されるというストーリーは、実際に起きたエルヴィス・プレスリーの徴兵騒動(1958年)を見事にパロディー化している。ブロードウェイでは1960年に初演。ベトナム戦争に介入する以前の、ひたすらイノセントで健全だったアメリカを舞台にしたミュージカル・コメディーで、続演607回のヒット作にも関わらず、未だ翻訳上演されていない作品でもある。
映画版はキャストが魅力的だ。全米のファンを代表して、テレビの「エド・サリヴァン・ショウ」に出演し、バーディーにキスをする光栄に浴したオハイオ在住の少女がアン=マーグレット。さらにバーディーの座付き作曲家を演じるのが、舞台版にも出演したディック・ヴァン・ダイク(『メリー・ポピンズ』)、その秘書がジャネット・リー(『サイコ』)と個性的な面々が揃った。中でも、この映画で大ブレイクしたアン=マーグレット(1941年~)が凄い。本来純朴な10代の役なのだが、妙にアカ抜けてセクシー。また愛嬌もたっぷりで、映画巻頭で彼女が歌う主題歌〈バイ・バイ・バーディー〉で一気に惹きつけられる。1960年代後半からは、ラスベガスのワン・ウーマン・ショウで活躍した彼女は、ダンスも抜群だ。特に、ピンクのドレスで縦横無尽に踊りまくる〈やる事がいっぱい〉は、俊敏でキレの良い振付も相まって、本作のハイライトとなった。振付は、活気に満ちた群舞で評価が高かったオンナ・ホワイト。
ティーンたちが賑やかに歌い踊る〈やる事がいっぱい〉
前記楽曲の他にも、リー・アダムス作詞、チャールズ・ストラウス作曲のナンバーは佳曲が多い。当時日本でもヒットした美しいバラード〈ワン・ボーイ〉や、ヴァン・ダイクが達者なソング&ダンスで本領発揮の〈プット・オン・ア・ハッピー・フェイス〉、大人たちが「近頃の子供には手を焼くよ」と嘆く〈キッズ〉など、正調ミュージカル・コメディー系の明朗な曲で固められている。監督のジョージ・シドニーは、『アニーよ銃をとれ』(1950年)を始め、秀作ミュージカルを数多く放ったベテラン。職人技でテンポ良くまとめ上げている。
★「復刻シネマライブラリー」にてDVD化され販売中、TSUTAYA、Amazon等での購入可。

【3】『不沈のモリー・ブラウン』(1964年)
主演のデビー・レイノルズを表紙にあしらったプログラム
『ジプシー』と同様に、実在の人物がヒロイン。金鉱で財を築き、タイタニック号の沈没事故(1912年)では多くの人命を救った、破天荒な女傑モリー・ブラウンの半生を綴る物語だ(レオナルド・ディカプリオ主演の映画『タイタニック』では、キャシー・ベイツが演じていた)。1960年にブロードウェイで初演(続演532回)。日本では1986年に、大地真央の主演で上演されている(邦題は『プリンセスモリー』)。
映画版「モリー」の主役は、『雨に唄えば』(1952年)のデビー・レイノルズ(1932~2016年)。ブロードウェイの舞台を観て以来、「モリーこそ私が演じるべき役」と確信した彼女は、制作陣に猛烈に売り込んで役を獲得した。その甲斐あって大熱演で、正に全編デビー・レイノルズ・ショウ。コロラドの山奥で育った粗野な少女時代から、鉱山師と結婚し成金に。やがてレディの教養を身に付けるべく、欧州に渡るという粗筋で分かるように、見せ場の多い大役を嬉々として演じている。ミュージカル・ナンバーでは、男兄弟と暴れ回りながら歌う〈まだ負けちゃいない〉や、酒場の荒くれ男たちを相手にエネルギッシュに歌い踊る〈みんな酒場へ直行だ〉が圧巻。小柄な身体を駆使してのソング&ダンスはユーモアに溢れ、観ているこちらも心が浮き立ってくる。きびきびと闊達な振付はピーター・ジェナーロ。『ウエスト・サイド~』のブロードウェイ初演(1957年)では、ジェローム・ロビンスの元で共同振付師を務めた才人で、プエルトリコ系シャークスの振付は、実はジェナーロがほとんど手掛けた。
迫力たっぷりのナンバー〈みんな酒場へ直行だ〉
作詞作曲は、『ザ・ミュージックマン』(1957年)のメレディス・ウィルソン。軽快かつ、古き良き牧歌的なナンバーを得意とした。モリーと結ばれる鉱山師を演じるのが、舞台版にも出演し、後年『ファーゴ』(1996年)などで、性格俳優としても渋い演技を見せたハーヴ・プレスネル。元々オペラ畑出身の彼は、ソロの〈決してノーとは言わない〉などで、堂々たる歌声を披露する。監督はチャールズ・ウォルターズ。『イースター・パレード』(1948年)や『上流社会』(1956年)など、ミュージカル映画に佳作が多い。
レイノルズとハーヴ・プレスネル

★「復刻シネマライブラリー」にてDVD化され販売中、TSUTAYA、Amazon等での購入可。
文=中島薫(音楽評論家)
*ここに掲載した写真はパブリック・ドメイン、あるいは著者の所有物です。

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