忌野清志郎

忌野清志郎

【忌野清志郎 リコメンド】
“ザ・キング・オブ・ロック”が
シーンに遺したもうひとつの側面

忌野清志郎がRC SUCCESSIONでデビューシングル「宝くじは買わない」を発売したのが1970年3月。今年が50周年目の節目の年だ。そのジャスト50周年目にRC SUCCESSIONの『COMPLETE EPLP ~ALL TIME SINGLE COLLECTION~』がリリースされたが、今度は清志郎のソロワークでのシングル集が発表される。没後10余年を経ても“ザ・キング・オブ・ロック”はまだまだ衰えを知らない。

アルバム初収録曲、
そして初CD化曲に注目

 忌野清志郎の『COMPILED EPLP~ALL TIME SINGLE COLLECTION』が6月24日にリリースされる。本作は“RC SUCCESSION・忌野清志郎デビュー50周年記念企画”の第二弾。意外なことにオールタイムでのソロナンバーの作品集はこれが自身初の試みである。こうした網羅型の作品が制作されることで何が嬉しいかというと、これまで触れる機会の少なかった“初もの”が収録されることである。今作にも初めてアルバムに収録される楽曲が5曲、初CD化楽曲が1曲収められている。前者が「明・る・い・よ」「恩赦」「君にだけわかる言葉」「ダーリン」「激しい雨(2006.05.14 Private Session)」、後者が「ちょっと待ってくれ(CHOPPED TOMATO PUREE)」。そのほとんどがそもそも今回のようなシングル集じゃないと日の目を見ないカップリング曲なうえに(「君にだけわかる言葉」はシングル表題作)、それぞれ発表された時期を考えるといずれもオリジナルアルバムに入れづらかったと思われるミディアムレアな音源である。それゆえにこのような復刻は実にありがたい。厳密に言えば、「明・る・い・よ」はRC SUCCESSIONのアルバム『シングルマン』が1994年に再発された際に収録されたが、その1994年版『シングルマン』自体が廃盤らしく、今は入手困難となっている。「恩赦」は『Baby #1』(2010年3月発表のアルバム)にも収められているが、今回収録されたものはそれとは別のバージョン。「激しい雨」も同様で、『夢助』(2006年10月発表のアルバム)収録曲版とは異なるものである。

 そうした初収録曲はコレクションとしてありがたいだけでなく、それぞれの音源から改めて当時の清志郎の創作意欲や取り組み方が偲ばれることが興味深い。例えば、忌野清志郎+坂本龍一名義の「明・る・い・よ」。その表題作であった「い・け・な・い ルージュマジック」はメロディーもリリックもサウンドもサビのリフレインが印象的で、キャッチーさは全開なのだが、今聴いても如何にもCMソングらしい15秒ポップスの体裁は否めない。さらに言えば、全体的な仕上がりとしては忌野清志郎&仲井戸麗市(※仲井戸は“井戸端矮鶏”名義で参加)に坂本龍一が乗った感じで、個人的にはRC SUCCESSION色が若干濃い気がする。しかしながら、「明・る・い・よ」はしっかりと清志郎と坂本教授とがコラボレーションしている感じが強いように思われる。「い・け・な・い ルージュマジック」に比べると地味と言えば地味だが、清志郎らしさも坂本龍一らしさも等分に注入され、ちゃんと混じり合った楽曲に仕上がっているのだ。ふたりとも当時は多忙を極めていた時期ではあっただろうし、それゆえに制作が手探り状態であったことも伝わって来るものの、この後にさまざまなアーティストとの共演を実現させていく清志郎の原点とも言えるスタンスが垣間見えるようで面白い。

 清志郎が最後に残したスタジオ音源がアルバム『夢助』。「激しい雨」はその『夢助』に収録された楽曲で、今回収録されているのはそのもととなったデモ音源である。『夢助』は米国テネシー州ナッシュビルにおいてレコーディングされたアルバムで、清志郎とはソロ2ndアルバム『Memphis』(1992年3月発表)以来の付き合いだったBooker T. & the M.G.'sのSteve Cropperのプロデュース作である。その質感に文句があろうはずもないし、どう聴き比べても『夢助』版のほうがきちんとしているのだが、何度聴いても今回の“2006.05.14 Private Session”のほうがいいと思う。一応、私見であることを断っておくけれども、こちらのほうが圧倒的にグルービーであるし、躍動感があるのだ。「激しい雨」はRC SUCCESSION以来となる盟友・仲井戸麗市との合作であり、ふたりで作った曲を“ちゃんとしたデモを作りたい”と、これまた盟友である新井田耕造がドラムを叩き、三宅伸治がベースを弾いて録音されたものだ。まさしくプライベートなセッションであって、おそらく一発録りだっただけに(そうでなかったにせよ、それに近い録り方であっただろう)、その瞬間にしか生まれ得なかったバイブスが見事にパッケージされているように思う。声にも張りがある。そうしたところが手に取るように分かって、とてもいいのだ。「激しい雨(2006.05.14 Private Session」は清志郎の没後に発売されたシングル「Oh! RADIO」(2009年6月発表)のカップリングであるが、清志郎は最後の最後までバンドマンであったことがよく分かるテイクである。

糸井重里、山口百恵など
さまざまなコラボレーションを実現

 さて、その「い・け・な・い ルージュマジック」「明・る・い・よ」でDISC1が幕を開け、DISC3は「Oh! RADIO」「激しい雨(2006.05.14 Private Session)」で締め括られる本作。RC SUCCESSION以後も、忌野清志郎&2・3'S、忌野清志郎Little Screaming Revue、ラフィータフィーと、清志郎がさまざまなバンドを組んできたことは今さら言うまでもないけれど、ここに収録された全47曲を並べて見ただけでも、前述の通り、いろいろなミュージシャン、アーティストとコラボレーションしてきた人であったこともうかがえる。収録順に見ていくと、坂本教授は先ほど述べたのでそちらに譲るとして、まずは糸井重里の名前が目につく。氏は「パパの歌」「パパの手の歌」「カラスカラス」の作詞を担当している。作品として残っているのはこれらの楽曲群だが、糸井氏は1980年代にひと早くRC SUCCESSIONを自身がMCを務める番組で紹介したりもしていたので(しかもその放送局はNHK教育!)、糸井氏もまた清志郎の盟友である。清志郎言うところの“古くからのオイラのダチ”のひとりであろう。続いて、「サラリーマン」の作曲者・肝沢幅一や、「競馬場で会いましょう」の作詞者・心里万司郎に“おや?”となるかもしれないが、これは清志郎の変名なので、そんなに気にしなくても大丈夫。注目は「マーマレード・ソング」である。この作詞者としてクレジットされている百池万子なる人物。ファンならばご存知のことだろうが、この人は山口百恵である。「マーマレード・ソング」は1996年発売のシングル「世界中の人に自慢したいよ」のカップリングとして発表されたものであるものの、1986年8月に日比谷野外大音楽堂にて行なわれたライヴ『4 SUMMER NITES』にて披露されたというから、原曲はRC時代のものだろう(『4 SUMMER NITES』はライヴ収録されてアルバム『the TEARS OF a CLOWN』として1986年に発表されているが、「マーマレード・ソング」は未収録)。山口百恵の夫、三浦友和は高校時代のRC SUCCESSIONのサポートドラマーでもあったので、その友人関係での依頼だったのだろうけど、“山口百恵作詞”の事実を知らなかった人にとっては必聴の楽曲と言えるだろう。

 友人関係というところで言えば、「RUN寛平RUN」と「走れ何処までも」も決して無視できない大切な2曲だ。どちらも友人のコメディアン、間寛平が世界一周のアースマラソンに挑戦中にその応援歌として書き下ろした楽曲である。清志郎自身も癌再発での療養中であって若干声が出ていないことが気になるテイクではあるし、楽曲そのものも比較的単純なブルースであるのだが、余計にスピリッツが感じられるというか、魂がグッと込められた感じがする。楽曲制作に直接関わるかたちではなくともコラボレーションは成立すること示す上でも、オールタイムベスト作品に収録されたのは必然と言っていいかもしれない。(※「RUN寛平RUN」と「走れ何処までも」は配信限定リリースで、これまで少なくとも清志郎名義のアルバムには収録されていないと思うのだが、だとしたらこれもまた貴重な収録であることは言うまでもない)。

 あとは、「赤いくちびる」を作詞した仲畑貴志であったり、「ラクに行こうぜ」を作詞した中島靖雄であったりとの邂逅も見逃せないところだが、RC SUCCESSION以後、ソロとなった清志郎と切っても切り離せない人物と言えば、三宅伸治であろう。本作収録で言えば忌野清志郎 Little Screaming Revue(およびScreaming Revue)へ参加している他、2003年に結成された忌野清志郎 & NICE MIDDLE with NEW BLUE DAY HORNSでは彼がバンマスを務めているし、THE TIMERSには三宅によく似た人物がギターを弾いていた。今回の作品集では、「BOYS」「プライベート」「君にだけわかる言葉」「JUMP」「仕草」などが彼の作曲だが、アルバム『KING』(2003年発表)や『GOD』(2005年発表)の収録曲はほぼ全て“忌野清志郎、三宅伸治”とクレジットされているので、晩年の清志郎にとって三宅はほぼ共同制作者だったと言っていい。1979年頃に三宅が清志郎の運転手を務めた時からの付き合いであり、気心の知れた間柄であったことは、その楽曲からも分かる気がする。清志郎のバックボーンであるソウル、リズム&ブルースをしっかりと取り込みながらも、ポップに仕上げているのは三宅の功績が大きかったのではないかと想像する。今作で注目なのは「サンシャイン・ラブ」。ここで何と清志郎はラップをやっている。のちに忌野清志郎 featuring ライムスターで「雨あがりの夜空に35」(2005年発表)を発表していることからすると、今となってはヒップホップと清志郎の組み合わせを意外と思わないリスナーがいるかもしれないが、「サンシャイン・ラブ」は1998年なのでそれよりも早かったし、当時オールドファンの中に“清志郎がラップ!?”と驚いた人も少なくなかったのではなかろうか。このラップは三宅のアイディアだったそうだ。清志郎はのちに“三宅に“やれ”と言われてやっただけだから”と笑いながら述懐していたという。クレジットには三宅の名前はないが、ふたりの関係が偲ばれる意味で、「サンシャイン・ラブ」は清志郎のソロワークにおいて無視できないナンバーなのである。
忌野清志郎
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OKMusic編集部

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