WONK・荒田洸×HIMI 初対談 「一番
音楽の趣味が合う」マルチなミュージ
シャンふたりならではの音楽談義とは

WONKのドラマー/リーダーの荒田洸とミュージシャンでもあり俳優でもあるHIMIこと佐藤緋美。HIMIの母であるCharaのライブでバンドメンバーとして共演しているふたり。荒田はビートメイカー/プロデューサーとしての顔も持ち、2018年にリリースしたソロデビューEP『Persona.』では、メロウなネオソウルやジャジーなR&Bに乗せて初めてボーカルを披露。一方HIMIは、今年1月にPERIMETRONの企画プロデューサー・西岡将太郎とともにクリエイティブ・レーベル「ASILIS」を立ち上げ、1stEP『STEM』をリリース。全編自宅レコーディングで、ボーカルのみならず全楽器を担当。フューチャーソウルなトラックと抜群に相性の良い歌を聴かせている。マルチプレイヤーとしてもメロウなソウルシンガーとしても魅力溢れるふたりは、とにかく音楽の趣味が合うのだそう。10月1日には渋谷WWWで、荒田の記念すべき初ソロライブとしてHIMIとの2マンが行われる予定だ。
――去年9月に行われたCharaさんの28周年イベント「Bunkasai」で観たふたりのセッションが素晴らしくて。ふたりとも歌えるし演奏面でもマルチプレイヤーで。
荒田洸・HIMI:ありがとうございます。
荒田:僕はライブで歌うのはあの日が初めてで。初ライブだったら20人とかの規模でやりたいところではあったんですが、300人弱くらいいたから嫌でしたねえ(笑)。
HIMI:「どう歌ったらいいのか」みたいなこと言ってたよね(笑)。
荒田:HIMI君に「どうやってライブで歌えばいいの?」って訊いたよね。「自然にやればいいんじゃない?」「そうか」って(笑)。
――Charaさんにあの日のライブで歌うことを薦められたんですか?
HIMI:「歌いなよ~。良い声してるんだから~」って感じだったよね。
荒田:そう(笑)。最初歌は自分のソロ作品の録音物だけでいいかなって思ってたんです。それがCharaさんの無茶ぶりによって吹っ切れました。
――おふたりの出会いはそもそもいつなんですか?
荒田:HIMI君が制作してる曲にドラムで参加させてもらったのが最初か。
HIMI:まだリリースしてない曲だよね。「良いドラマーいないかな」って周りに言ってたら、「荒田良いよ」って言われて連絡して。それでうちに来てもらって喋ったんだよね。
荒田:その前からCharaさんの家に制作で行くとHIMI君がいるからちょいちょい顔は見るみたいな感じではあって。
HIMI:「ふたり気が合うんじゃな~い?」って言われるみたいな。
荒田:それで「Bunkasai」の時にセッションして歌ったら声質もうまい具合に合って。
HIMI:優しい感じっていうかね。好きな音楽もすごく合うよね。
荒田:家でふたりで適当にセッションしてカバーしたら、好きなものがかぶってて。
HIMI:この前荒田の家行ったときも、曲作ってたのに、途中でボン・イヴェールのライブすげえなってずっとふたりで映像観ちゃったよね。
荒田:ね。ダニエル・シーザーとかフランク・オーシャンも好きだし。
HIMI:(ロバート・)グラスパーとか。
荒田:多分、ネオソウル系はかなりクロスオーバーしてるよね。
――4月から10月に振り替えられることになった荒田さんの初ソロライブをHIMIさんとやろうと思ったのはなんでだったんですか?
荒田:俺のソロの活動としては、WONKの周り見てても音楽性的に一番近いのはHIMI君だなってかなり思ってたんです。それで一緒にやろうよって連絡しました。
HIMI:ありがとうございます(笑)。バンドのメンバーもかぶってるしね。ベースの越智(俊介)くん。
荒田:CRCK/LCKSのメンバーで、あと菅田将暉のサポートとかもやってて。
HIMI:そう、Charaもやってたな。
HIMI / WONK・荒田洸 撮影=高田梓
■HIMI君はものすごいスピード感で進んでいってる(笑)。
よくそのスピード感で歌詞書けるなって
――HIMIさんはまずドラムから入ったそうですが、どういう流れで様々な楽器をやるようになったんですか?
HIMI:僕は遊んでただけで習ってもいないんですよね。最初小学校のときにドラムにハマって、自然に他の楽器もやるようになって。歌はずっと歌ってたんですけど。
――それで1stEPの『STEM』は歌も楽器も全部自分でやろうという。
HIMI:そうです。全部自分でやって、自分のタイミングで作っていって、すぐリリースしちゃおうみたいな感じでしたね。
荒田:ものすごいスピード感で進んでいってるよね(笑)。HIMI君と一緒にレーベルやってるPERIMETRONのにっしー(西岡将太郎)も前々から知ってて、それもあってPERIMETRON界隈からHIMI君の話はよく聞いてたんで、「めっちゃ作ってるな」って思ってた。ソロの『STEM』出した後すぐに、ビートメイカーとのD.N.Aってユニットでも作品出してたけど。オーガニックめの曲の後、ビートが強いトラップ寄りの曲でラップしたりしてて。よくこの振り幅がいけるなって(笑)。
HIMI:あははは。
荒田:でも根幹はこの優しい感じがあるから。そこはHIMI君の色が担保されてまとまってるなって。流れとしても良い感じだなって思ったんですよね。
HIMI:ありがとうございます。
荒田:個人的に一番思ったのはよくそのスピード感で歌詞書けるなって。
HIMI:作るときはバーンって作りたい方で。最初の感じ忘れちゃうから、結構早いのかもしれない。でも日本語の歌詞はまだ全然自信が持てない(笑)。英語の方が楽ですね。歌ってる感じでペラペラ歌詞にできて、ちゃんと意味もつけられて。
WONK・荒田洸 撮影=高田梓
――PERIMETRONの西岡さんとクリエイティブ・レーベル「ASILIS」を作ったのはなんでだったんですか?
HIMI:僕は作ろうって気持ちはなかったんですけど、音楽はやりたいから、だったら一番意味のあることをやりたいなとは思ってたんです。それで西岡君とそういう話をしてて、「せっかくなら作ろうよ」ってなった。荒田も言ってくれてる優しい感じというか、俺の感じをレーベルのカラーにもしたくて。
――レーベル名が書いてあるそのトレーナーもかわいいですよね。
HIMI:かわいいですよね! これ僕がiPadで書いたのを元にして作ったんです。
――WONKもレーベル・EPISTROPHを立ち上げていますが、どういう思惑があったんでしょう?
荒田:僕は自分のレーベル立ち上げたときは、音楽のメジャーのシーンにカルチャーが存在し得なくなってるなってすごく思ってたんです。海外だったらストーンズ・スロウとかブレインフィーダーとか、昔だったらブルーノートとか、レーベルのカラーがあって、レーベル聴きするファンがいる。どれだけ大きなアーティストがいても、小さいアーティストだとしても、うまい具合にリスナーが入り混じってそこから大きなマーケットに出ていってひとつのカルチャーができてる。でも日本であまりそれを感じることがないなって思ってたんです。そういう動きを作りたかったのがEPISTROPHを立ち上げたきっかけでした。服もだし、ボーカルが料理人っていうこともあってレストランも作りたい。カルチャーって様々な要素が混じってるって思ってるんで、それを包括的に表現するハブがあればいいなって。個人でもやりたいことがたくさんあるんですけど、今WONKはWONK、個人は個人、EPISTROPHはEPISTROPHっていう良い具合の関係値になっているので、プラスになるって感じがします。
――HIMIさんは今後どうしていきたいっていうのはありますか?
HIMI:僕は今はいっぱい作りたいっていうことしかないですね。でも荒田のそういう話とか聞いて参考にはさせてもらっていて。西岡君も結構考えてるから、そこはシェイクハンズしてもらったら良いなって(笑)。僕はとにかく曲を作って、あと海外のアーティストとも一緒にやりたいと思っていますね。英語もせっかくできるんだし。
――俳優のお仕事もやられていますが。
HIMI:俳優は勉強しながら、出たい作品に出てやりたい役をやれれば良いなと思ってます。メインはミュージシャンとしてやっていきたいので、どんどん曲を作っていきます。
HIMI 撮影=高田梓
――millennium paradeの「Fly with me」でもボーカルを務めてました。
HIMI:いきなり「歌ってよ」って連絡が来て呼ばれて。それでスタジオ行って歌った感じでしたね(笑)。
荒田:昔から(常田)大希とかともみんな繋がってますからね。
HIMI:うん、みんな繋がってる。僕は下の世代だけど、荒田とかの世代見て良いなって思ってて。で、入れてもらって(笑)。
荒田:そういう感じが良いんですよね。シーンの話をすると、ライバル意識はあると思うんですけど、バチバチしてる状態じゃなくてリスペクトしてて、お互いがしっかり手を取り合って進んでいこうよみたいな雰囲気を感じるよね。
HIMI:うん。みんなそういう意識があるのが嬉しい。「Fly with me」のMVが公開される時にみんなが集まってるところに行ったんです。そしたらすごく盛り上がってて(笑)、泣いたりもしてて。日本でもこんなシーンあるんだなって。海外の友達がちょうど来てたんだけど、その子もそう言ってた。「日本熱いね!」「そうなんだよ!」って。なんか嬉しかったですね。
荒田:良い雰囲気だよね。YouTube世代って完全に括るのは好きじゃないんですけど、YouTubeから様々な情報を得て、自分の好きな音楽を聴いてる世代だから、お互い共有してるものが結構同じで。WONKでドイツやフランスでライブした時も、同世代くらいの奴らが観に来てくれててバイブスを共有できたっていうか。やっぱり音楽的な趣向が共通してるなって思いましたね。だから海外に行って絡むと結局仲良くなれる。全く隔たれてるものじゃないっていうのはすごく感じたので、行くことは大事だなって。言語は違うけどやっぱり人種は関係ないなって。
HIMI:英語はできた方がいいけど、できなかったとしても、「この音楽かっこいいじゃん!」って感じで通じ合える。だから僕も海外でも活動したいなってすごく思いますね。
WONK・荒田洸 撮影=高田梓
■言葉がわからない人が聴いても「いいな」って思える音楽が良い
――WONKはもっと海外での活動を広げていきたいと考えていますか?
荒田:新しいアルバムの『EYES』は、ナレーションも日本語で入れてるし、割と日本寄りの作品になってるんです。今回はアルバムとしての存在感を強く出したかったからっていうのもあるんですけど、今後はもっとシングルをリリースする方にシフトしていこうかなって思ってて。毎回シングルで海外のアーティストとコラボレーションしていければなって思ってますね。そうやって海外のアーティストと一緒にものづくりをした後に、ライブとかでも絡んで、リアルな場所でも遊べればなって思っています。ソロでもやりたいこといっぱいあるんですよね。僕はVJに違和感を感じてて。出オチってところもあるっていうか、最初お客さん盛り上がるけど、なんとなくの抽象的なものが多すぎる印象があって。そういう映像の新しい表現もやってみたいと思ってて。海外の照明演出のアーティストで一緒にやってみたい人もいて。ほんとやりたいことは尽きないですね。
――そもそも2018年にリリースしたソロデビューEP『Persona.』で初めてボーカルを取ったのはなんでだったんですか?
荒田:HIMI君も家でずっと歌ってるでしょ?
HIMI:ずっと歌ってる(笑)。
荒田:俺も小さい頃からずっと歌ってるんですよ。
HIMI:普通にお風呂とかでね。
荒田:(笑)。あとトイレとか。この前、制作作業のために家に知人が来たときに、俺風呂に入ってて、いつも通りに歌ってたんですよ。それで出て行ったら、「めっちゃでかい声で歌ってた!」って言われて。「え、普通じゃないですか?」って返したら、「いや、普通あんなでかい声で歌わない」って言われてびっくりして(笑)。
HIMI:あははは。そんとき見に行きたいな(笑)。
荒田:それが自分にとっては普通なんだけどね。
HIMI:歌は自分の一番の楽器だと思うしね。
荒田:それHIMI君からめちゃくちゃ感じるし、共通項としても感じるなあ。ラップもリズムマシン的な楽器的な要素あるかもしれないけど、声を器楽的に扱ってる意識が僕も大きい。HIMI君の曲とか、インスタで歌ってる動画を観るとそこも共通してるなって思う。
HIMI:俺は言葉もわかんないくらいの人が聴いても「いいな」って思えるのが良くて。
荒田:多分好きなエフェクトとかも似てるんですよね。
HIMI:(笑)。あれ使おうよって思うのも同じなんだろうなってくらい似てる。
HIMI 撮影=高田梓
――荒田さんはずっと野球少年だったそうですよね。
荒田:ずっと野球やってましたね。僕、野球やってたからこその葛藤みたいなのがあるんですよね。スポーツって勝ち負けがはっきりしてて、正解不正解がわかりやすい。ヒット打てば正解っていう世界に小1から高3までいると、「勝ち負けってなんて素晴らしいんだ」って思っちゃうんですよね(笑)。音楽って勝ち負けがないのが良い面でもあり、自分としてはかなり苦しい面でもあるなってのはすごく思うんです。勝ち負けがはっきりしてるほうがわかりやすくてありがたい。
HIMI:もうはっきりさせちゃえばいいんじゃないの?(笑)。
荒田:ははは。音楽のどこを切り取るかによって勝ち負けはできると思うんだけど、でもそれは音楽の本質じゃないなって。
HIMI:そうだね。
荒田:ビジネス面で言ったら、それこそオリコン1位になったら勝ちだって考え方もあるし、実際それを狙ってるバンドもいると思うんですけど、でもそれは僕にとっては音楽の正解/不正解ではないっていうか。
HIMI:どっちかと言うと、アンダーソン・パークのライブ観てて、「うわ、こいつの勝ちだ!」みたいな勝ちがいいよね。
荒田:そうだよね。でもそれがなんの勝ちかはわからない。
HIMI:そう、それはわからないけど。
――ライブ観てて、「あの人圧勝だったな」って感覚ありますもんね。
荒田:そうそう。でもそれも一過性の正解であって。僕は思うのは、例えばアンダーソン・パークのライブヤバいとか、フジロックでこのアーティストがヤバかったって思ったりしても、今の時代に対して音楽的な面で、ビートとかメロディラインとか声質が合ってるだけで、もしかしたら下北の路上ですごく下手なんだけどギター弾いて歌ってる人の方が正解かもしれない。やっぱり正解とか不正解って概念自体がないですよね。だから、それも結局人気者かそうじゃないかの二択っていうか。まあ様々な要素の中で人気になる要素っていうのもあるかもしれないですけど、でもそれが音楽的正解でもないし。ジョン・ケージの無音の音楽も正解のひとつだしっていうのが複雑でおもしろいんですけど、僕の感覚としては苦痛でもある(笑)。それを考え続けなければいけないっていうのは素晴らしいことでもあるけど、しんどいことでもあるっていう。
――HIMIさんは感覚的な世界でずっと生きてる印象ですが。
HIMI:僕はもう感覚的ファミリーなんで(笑)。
荒田:あははは。
HIMI:ずっとそうですね。まあうちはソウルが大好きってこともあって、全部が感覚的な感じっていうか。
――全然違う環境だったふたりが、今一番趣味が合う関係っていうのがおもしろいですね。
HIMI:やっぱり環境とかも関係ないって思いますね。
――10月1日の2マンでまたふたりのセッションが観れるのを楽しみにしています。
荒田:僕らも心待ちにしています。
HIMI:うん、もっとやっていきたいですね。

取材・文=小松香里 撮影=高田梓
HIMI / WONK・荒田洸 撮影=高田梓

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