ハルカミライは思い出も青春も抱きし
めたまま、僕たちと一緒に進む 【S
PICE×SONAR TRAX コラム vol.7】

昨年12月に開催されたハルカミライの幕張メッセワンマン『A CRATER』。巨大なホールの真ん中に円形ステージを設え、360度観客に囲まれながら矢継ぎ早に楽曲を繰り出す彼らを観ながら、改めてこのバンドを信じようと思った。
メンバーが学生だった2012年に東京・八王子で結成され、全国のライブハウスでじわじわとファンベースを広げてきたハルカミライ。シンプルなエイトビートを基調とした、ドがつくほどストレートなロックンロールは、流行とか時代性とかを最初から超越して、一切のバイアスなしに心に突き刺さる。世界的に見れば(これが何度目かわからないが)「ロックが死んだ」と言われる時代に、そんなことが可能なのか?なんて彼らは微塵も疑わない。
ハルカミライ 撮影=MASANORI FUJIKAWA
その幕張でのライブでも彼らはそうだった。ステージと客席の境界なんて最初からないかのように、まるで友達に話しかけるように言葉を投げかけ、ときには体ごとフロアにダイブする。ドラム・ベース・ギター・ボーカルという役割分担なんて関係ないとでもいうように、メンバー同士楽器を交換しぶっつけ本番で演奏してみせる。そういえばボーカルの橋本学はメンバー紹介のときに「歌! 俺とおまえ!」と叫んでいた。そうなのだ。「俺」と「おまえ」のあいだの壁を爆音のロックンロールでぶっ壊し、喜びも切なさも丸ごと一緒に抱きしめるために、ハルカミライというロックバンドはある。
悲しい過去とか、永遠にあると思っていたものが失われたり終わってしまったりすることとか、思うようにはなかなかいかない毎日とか、どうなるかわからない明日とか、そういうものが、僕らの人生と同じように彼らの歌にもたくさん詰まっている。でもそれをメロディとギターのコードに乗せて文字通り「遥か未来」に向かってぶん投げる。それがハルカミライであり、昨年リリースされた『永遠の花』というアルバムは、まさに未来に咲き続ける花を追い求め続ける、ロックバンドの信念の結晶のような作品だった。
前述の幕張ワンマンのライブ映像を使ったミュージックビデオとともに世の中に放たれた新曲「夏のまほろ」もまた、まさにそんな彼らの粋を集めたような曲だ。冒頭からライブではシンガロング必至のコーラスが鳴り渡り、疾走するエイトビートが心を躍動させる。そして歌詞では初夏の日差しを背景に、“白球”や“PM5:00のサイレン”といったキーワードとともに過ぎ去った青春の日々への思いが歌われている。<熱狂の中にはもうちょっと 残っていたかったなあ>というラインに込められた、ノスタルジックで甘酸っぱい心情。しかし重要なのは、この曲が決して昔を懐かしんでいる「だけ」ではないということだ。主人公はそれでも前に進み、毎日を歩いている。“あんなに尖ってた熱さ”は形を変え、“歩き続ける俺の胸を温める”のだ。
それは言い方を変えれば、過去を自分のなかにちゃんと抱えたままいくぞ、ということだ。だから最後に橋本は<あんなに尖ってた熱さは 全てを包み込んで 思い出話をする日にまた花開く>と歌えるのである。記憶も、青春も、死なないし死なせない。それはまさにハルカミライというバンドが言葉を変え、メロディを変えながら体現し続けていることでもあるような気がする。
「夏のまほろ」をリード曲として7月8日にリリースされるニューアルバムのタイトルは『THE BAND STAR』。最高である。これがロックンロールで、これがロックンロールバンドだ。

文=小川智宏

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