安部コウセイ×小山田壮平、弾き語り
によるオンラインライブ『SEVEN'S U
TOPIA』のオフィシャルレポート到着

SEVEN'S UTOPIA

2020.7.3 Streaming+
コンサート制作会社のSEVEN'S SOFTHOUSEが手掛けるオンラインライブイベント『SEVEN'S UTOPIA』の第1弾が7月3日にStreaming+で有料生配信された。
今回の『SEVEN'S UTOPIA#1』は、安部コウセイ(SPARTA LOCALS、HINTO)と小山田壮平(AL、ex.andymori)のふたりによる弾き語りライブ。ふたりは2014年に開催されたHINTOとandymoriのツーマンライブ『千葉LOOK presents 大感謝祭リターンズ~真夏の2man』以来の共演となった。
いくつものスタンドライトとソファが置かれた洒落た部屋にギターを持った先攻の小山田がふらっと現れる。誠に穏やかな表情で、渋谷のあるところからと説明して、「スタートしてますか? それでは今から始めます」と朗らかに話す。とにかく、その肩の力が抜けたリラックスした佇まいが物凄く印象に残る始まり。その場で立ったままで歌い始める。
小山田壮平
まず1曲目はandymori時代の「投げKISSをあげるよ」。今、色々な不安な状況で、まだ生配信ライブにも慣れていない人が多いはず。そんな中、のっけから「大丈夫ですよ 心配ないですよ」、「大丈夫ですよ 問題ないですよ」、「なんにも考えなくていいよ」と歌われると、本当に聴いているだけで心が浄化されるというか、本当に心を落ち着かす事が出来た。続く、「サイン」、「ゆうちゃん」でも、まるで野外フェスで歌われているかの様な伸びやかさを感じる。特に「ゆうちゃん」は、誰にでもある友人との何気ない日常が描かれていて、誰もが共感できるナンバー。この日は、2018年と2019年に行なった全国ツアーの模様が収録されたDVD「OYAMADA SOHEI LIVE 2018 2019」(6月24日リリース)、そして8月26日にリリースされる初のソロアルバム「THE TRAVELING LIFE」(8月26日リリース)で歌われている楽曲が中心となった。
最初のMCで演奏後にすぐ拍手が無い事や観客が目の前にいない中で何を喋っていいかわからないという生配信ライブへの不慣れを素直に話した上で、尊敬する安部と本番前にお互い「まともな人」だと想ってると語った事を明かす。この時点で、いわゆる対バンというような対決のバチバチ感があるツーマンライブというより、互いに尊敬し合って高め合う結束感があるツーマンライブという事が伝わってきた。当たり前だが、仲良しこよし馴れ合いの関係性では無いし、あくまで対決では無いだけの話で、尊敬している相手とやるからこその緊張感は嫌でも伝わってくる。
小山田壮平
最近ずっと雨が続いてる事もあって、「雨の散歩道」では、より情景も浮かぶし、より情緒を感じた。andymori時代の「16」を経ての「1984」では「ファンファーレと熱狂」と歌われる時のファルセットがたまらなかったし、途中ギターを弾くのを止めて、指でギターを軽く小突きながらリズムを取る姿もたまらない。本人は「配信ライブは、自宅から酔っ払った勢いでツイキャスをやって、流れてくるコメントと会話したりとダラダラやってる。でも、こういう場所で良い音で、ちゃんと演奏するのは、どうしたらいいのかわからなくなる」と本音を漏らしていた。しかし、この日のライブは音響に全く詳しくない私が自宅で何でも無い普通の小さなノートパソコンで観て聴いていても、本当に良い音であったし、しっかりと前述の様な細かいところまで感じる事が出来て素晴らしかったと想う。生の観客の前ではなく、画面越しの観客の前という大きな違いはあるし、今までの簡易で便利というだけの配信ではなく、本格的になった配信との向き合い方の難しさにぶつかる演者の気持ちも勿論理解できる。そんな難局をどう乗り越えていくかを配信とはいえ、生で観れるという意味では、一種のリアルなガチドキュメントでもあった。
小山田壮平
8曲目「彼女のジャズマスター」では歌い出し、えらく微笑んでいるなと思ったら、シンプルに歌詞を忘れたと告白する。普段のライブなら「おい! おい!」とツッコミが入ると説明した上で仕切り直し、再度歌い出すが、最初の歌い出しと違って、明らかに力強さを増していた。後、特筆すべきは10曲目。「輝くものは空の上」と歌い出したところで、andymori時代の「ベースマン」とわかるが、少し歌詞に詰まり、仕切り直す。「何だっけ? 調子がおかしいですね」と、また歌い出しては再度詰まる。「ちょっと待って。違う曲をやろうかな」と、すぐさま同じくandymori時代の「愛してやまない音楽を」へ切り替えた。本格的な生配信ライブへの違和感は色々あっただろうが、この2曲での切り替えの対応力を観た時に、そんな違和感をも軽々と乗り越えた様に感じられた。
小山田壮平
「コウセイさんにバトンを繋ぎたいと想います。しっかり温まったと想うので、後はドカンとやって頂いて!」とラストナンバー「OH MY GOD」へ。ここでも対決という火花を散らすより、結束として協力して高め合うという関係性を感じられた。楽曲も緩やかなミドルテンポだが、リズミカルで軽快で、前へと突き進む疾走感がある。「ありがとうございました! また、逢いましょう!」と〆られた。
後攻の安部は既にギターが置かれた場へ現れ、用意された椅子に座る。「まともな安部コウセイです。中々の空気感やわ…。すげーな小山田君、これでやったんや?!」と独特の空気感に驚きはするものの、物怖じする事なく、威風堂々と歌い始める。1曲目は「なつかしい人」。甘くて粘っこい声は幻想的な雰囲気を一瞬で作り、同じ場所で歌っても、これだけ小山田と違う印象を与える事が出来るのだなと思わず感動してしまう。夏の日や夕焼けという歌詞からも情景が浮かび、何とも言えない風情を感じた。
安部コウセイ
ギターカッティングが気持ち良い「トキメキドライ」では、「飽き飽きしてることに 飽きてる なにかやらなきゃ くるくるぱー」という歌詞がやけに響いた。もう本当に今の状況に飽き飽きしているし、でも、その事自体にも飽きてきたし、だからこそ、何かやらなきゃと想うが、中々想うようにいかず、頭も心も疲れ切ってしまう…。そんな今の心情を見事に突かれた。その後も穏やかながら力強さがある「花をかう」、ピックでギターを撫でる様に弾くというギターストロークが心地よい「ぬきうちはなび」とHINTOの楽曲が続く。特に「ぬきうちはなび」は、花火、波打ち際、夏の夢と描かれる世界が、より幻想的で、とろける様な感覚があった。
1曲目から4曲目のHINTOと5曲目から8曲目がSPARTA LOCALSと、ちょうど半分ずつのセットリストになったが、5曲目に入る直前に本人も「こっから、SPARTA LOCALSブワーっとやります」と言った様に、見事なくらいに何かスイッチが入った状態になり、ギターも声も先程までと別人かのように激しくなっていく。終わった後、「小山田君が拍手してくれてる!」と笑っていたが、パソコン画面越しに観ても凄い迫力だっただけに、現場で観ていたら本当に凄かっただろう。
安部コウセイ
その5曲目「まぼろしFOREVER」の前に、小山田も話していた「まともな人」という話題に。とてもポジティブな会話だったが、ふと我に返って小山田が「(ふたりが)同じカテゴリーにいるから、勝手にそう想っているだけじゃないですかね?」と言い、安部も「確かにと想って、とっても怖かったですね」と振り返った。ここは個人的にとても興味深い話だったが、まともな感覚を持っているからこそ多くの人に伝わる歌が歌えるわけだし、まともじゃない感覚を持っているからこそ多くの人をぶっ飛ばすような歌が歌えるわけで…。まともな正気とまともじゃない狂気を共に持ち合わすふたりだからこそ、ずっと僕は好きなんだろうなと改めて想えた。
安部コウセイ
安部の「似ているところで産声をあげた」という言い回しも好きだったが、福岡県田川市出身の安部と福岡県飯塚市出身の小山田という筑豊地方出身のふたりは本当に相性が良い。北九州でのライブ前にギター修理を急いでいる時に、寝起きの小山田から電話がかかってきて、「今コウセイさんが夢に出てきたんですよ」と言われたが、急いでいたので電話を切ってしまったエピソードを今更ながら謝るというくだりも可愛らしかった。その流れから、地下の重くて臭い空気の場所で起きるあれやこれやの人間模様を描いた「THE CLUB」へ。随分昔の楽曲ではあるが、安部のワイルドさ、野性味が如実に表れた楽曲。いつでもみんなイキイキしていて、感性だけがルールと歌われる、そんなTHE CLUB(ライブハウス)。「降り出した雨なんか ここでは関係のない事さ」と想えるライブハウスだが、今は中々行く事が出来ない場所だけに、最後の「楽しく踊りなよ」という歌詞も心に刺さりまくった。
安部コウセイ
まさしくチルアウトとは、こういう事と想えた「FLy」が歌われ、ラストナンバー「ミーハーher」の前に、安部が「コロナの状況が収まったら、また小山田君とお客さんがいる状態でやりたいです」と語った。「配信も他では味わえない異空間なんで嫌いではないですけど」と最後に付け加えたが、「コロナ飽きたよね? 飽きた、飽きたな―と想ってます」というひとことは本当にドンピシャだった。さっき少し書いたが、本当にコロナには飽きている。だからといって、「コロナに勝つ」や「コロナに負けない」といったウイルスと勝負する表現も、いまいちピンときてなかっただけに、ここではっきりと安部が「コロナに飽きた」と言ってくれたのは、何だか嬉しかった。だが、すぐには元に戻れない状況も理解した上で、異空間の配信も楽しんでいる姿は本当に頼もしい。

小山田壮平、安部コウセイ
アンコール。小山田が昔から尊敬していると言っても、安部が疑っているという何とも仲睦まじい話から、小山田の初ソロアルバムがどんな感じなのかを、安部がインタビュアーの様に聴いたりと、ふたりの楽屋話を盗み聞きしてるような楽しい時間が止まらない。また、SPARTA LOCALS「ぼくのポッパー」はルアーのポッパーからきているという話から、小山田が現在住んでいる福岡で先日15分も格闘して鰤を釣り、1時間半かけて捌いた話を。ヘミングウェイ「老人と海」という安部の例えから、今度福岡での海釣りを約束するという流れになるが、「このフリは、また後で!」と突然話を変えて、andymori「革命」のセッションへ。
ふたり共に座り、小山田がギターを弾き、安部がメインで歌う。とてつもなくギターが熱を帯びていき、そのギターに安部もぴったりと寄り添うように歌っていく。歌い終わり、安部が「革命起きそう! いい曲だね~!!」と思わず感情を爆発させたのが本当に印象的だった。そして、何事も無かったかの様に、小山田が鰤の話を初めて話す感じで話し始め、再度福岡で海釣りを約束する流れに。安部の「約束ね!」に対して、小山田が「約束しようか!」と嬉しそうに笑う。「笑うのは俺達だけ!」と安部は笑っていたが、これがSPARTA LOCALS「トーキョウバレリーナ」へと繋がる。
小山田壮平、安部コウセイ
「やくそくをしよう やくそくさ」という歌詞に、画面を見て聴いているだけなのに異様に興奮する。小山田も喜びを爆発させるかの様に奇声を上げて、「おどろーぜ おどろーぜ」と叫ぶ。終盤、小山田は楽器の様に手拍子を鳴らし、最後も安部のギターの決めに合わせて、手拍子を鳴らし、セッションは終わった。
敢えて余韻を残さない様に、すぐに画面から消えるふたりもかっこよかった。難儀で厄介な話だが、当分は観客がいる満杯のライブハウスで、ふたりのライブを観るのは難しいかも知れない。だけど、異空間の配信ライブでも、こんなに楽しい事を今回ふたりは教えてくれた。コロナに飽き飽きしてしまった今だからこそ、生ライブと配信ライブを上手に使い分けながら、僕らが愛してやまない音楽を、これからも楽しんでいきたい。

文=鈴木淳史 撮影=朝岡英輔

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