【FEATURE】Parcels『Live Vol.1』
Daft Punk、〈Kitsuné〉との関係性
を辿ることで見えてくる”デビュ
ー・アルバムの完璧な締めくくり”
の意味

Text by 
Jun Fukunaga

ダンサブルかつエレクトロニックな風味を帯びたサウンド好きの間で人気を博すレーベル〈Kitsuné〉と契約後、Daft Punkが初めて他のアーティストをプロデュースした2017年のシングル「Over Night」で、一気にシーンの前線に躍り出た、オーストラリアのバイロンベイ出身で現在はベルリンを拠点に活動する5人組バンド、Parcels。
注目を集めるきっかけとなった先述の「Over Night」のメロディックかつ腰にくるディスコ・グルーヴは、確かにDaft Punkがグラミー賞最優秀アルバム賞を受賞した名盤『Random Access Memories』の遺伝子を色濃く感じさせるものであったことから、Daft Punkの秘蔵っ子的イメージで捉えていた音楽ファンはここ日本でも決して少なくはないだろう。
しかし、そんなParcelsは、“Daft Punkプロデュース”という肩書きに甘んじることなく、その後も順調にキャリアを飛躍させ、知名度も上昇。70〜80年代からの影響を感じさせるファンク、ディスコと現代的なエレクトロ・ミュージックが相まった独特のサウンドで好評を博すだけでなく、即完売となった昨年の1月の単独来日公演や同年4月に出演した『Coachella』からのライブ・ストリーミングで見せた会場を巨大なディスコ化させるフィジカルなライブ・パフォーマンスによって、今ではライブ・バンドとしても定評がある。
このように近年の活動によって、世界的にもファンベースを拡大し続けているParcelsだが、そのキャリアには2000年代に世界を席巻した彼らの地元オーストラリアの音楽シーンの影響がうかがえる。

Parcelsの音楽性はしばしばThe BeatlesThe Beach Boysのような1960~70年代のレジェンドと比較されることがあるが、音楽的な影響の面においてはSteely DanMarvin Gaye、Toto、The Whitest Boy Aliveからをこれまでに公言している。

ここで興味深いのは2000年代に勇名を馳せたベルリンのインディロックバンドであるThe Whitest Boy Aliveの名前が挙がっている点だ。The Whitest Boy Aliveは元々エレクトロユニットとしてスタートしたバンドだが、彼らは徐々にそのスタイルを排除しながらフィジカルなバンドスタイルに移行していったことでも知られている。先述のとおり、現在は故郷を離れ、ベルリンを拠点に活動するParcelsだが、その移住はThe Whitest Boy Aliveの映像を彼らが高校時代に観たことがきっかけになっており、The Whitest Boy Aliveは、彼らの人生に大きな影響を与えた存在だといえる。
そのThe Whitest Boy Aliveは、2000年代にいわゆる“オージー・エレクトロ”の総本山と知られたレーベル〈Modular〉とも契約しており、ライセンス盤が同レーベルからリリースされている。

その頃の〈Modular〉といえば、Cut CopyThe PresetsVan Sheといったバンドサウンドとエレクトロニック・ミュージックのスタイルを融合させたグループを輩出し、“踊れるインディ・ロック”であった“オージー・エレクトロ”は、世界的にも大きな注目を集め、当時の音楽シーンのトレンドを牽引する存在だった。
また2000年代の〈Modular〉は、Daft Punkや〈Kitsuné〉とは浅からぬ縁がある。例えば、Cut Copyの1stアルバム『Bright Like Neon Love』は、当時の音楽メディアからは「Daft Punkがやるべきサウンド」と批評されるほど、音楽性ではDaft Punkに通じる部分があり、それはモジュレーション、フィルター、フランジャーなどエフェクトによって丹念に作り込まれたシンセ・サウンドやダンサブルなビート・アプローチ、ベース・ラインなどから感じ取ることができる(そのことを如実に示すのが収録曲の「Zap Zap」だろう)。
また〈Modular〉初期の傑作で、モダン・クラシックのひとつとして知られるThe Avalanchesの『Since I Left You』に収録された直球ディスコ・チューン「Everyday」もDaft Punkの影響が感じられるほか、〈Modular〉以外のアーティストでもCut Copyらと同時期に活躍したSneaky Sound Systemの「I Love it」は、メロウなシンセとブリーピーなシンセ・ベースのエレクトロ・ディスコというように、この頃のオージー・シーンは、ディスコの要素とエレクトロの要素を掛け合わせることに非常に長けたことを証明しながら“Daft Punk以降のポップ・ミュージック”の可能性をシーンをあげて確立してきた印象がある。
そして、当時のトレンドであったエレクトロ・シーンの主要レーベルとして認知されていた〈Kitsuné〉とも、その頃のオージー・シーンは関係が深く、Cut CopyやVan She関連の曲は同レーベルのコンピレーションにも数多くピックアップされ、この界隈に限らずポップスとしてアンセムになった曲は多い。

また〈Modular〉一派で“オーストラリアの2manydjs”と称されたDJクルーのBang Gang DeejaysのメンバーだったBeNiは単独でも〈Kitsuné〉と契約し、レーベルの中核を担うなどオージー・シーンと〈Kitsuné〉には高い親和性があったことが証明されている。
Parcelsと「Kitsuné」、Daft Punkのつながりに関してだが、インタビューによると〈Kitsuné〉との契約はインターネット上でつながったことがきっかけだったという。またDaft Punkとは彼らがParcelsのパリ公演を観に来たことでつながったというが、かつてDaft Punkは、2007年に〈Modular〉が企画したオーストラリア・ツアー『Never Ever Land』でCut Copy、Van She、The Presets、Bang Gang Deejaysら〈Modular〉一門と共演しており、その経験が同郷のParcelsへの興味関心につながったことも考えられる。
このようにParcelsの故郷であるオーストラリアとDaft Punkや〈Kitsuné〉の関係性を遡っていくと、00年代のオージー・シーンの姿が見えてくるのだが、その関係性の先にエレクトロ・ディスコ・バンドであるParcelsが立っていることは興味深い。
今年リリースされたParcelsのライブ・アルバム『Live Vol.1』は、ベルリンの名門スタジオであるハンザ・スタジオでレコーディングされ、先述の「Overnight」始め、未発売のライブの定番曲やこれまでのヒット曲を含む全18曲が収録されている。

同作について「2年前の僕らにとって、このアイデアはデビュー・アルバムの完璧な締めくくりになるもの」と語るParcelsだが、”デビュー・アルバムの完璧な締めくくり”とは一体、何を指すのだろうか? その“締めくくり”には、もしかしたら”Daft Punkプロデュース”の肩書きで注目を集めた彼らにとってのキャリア初期を締めくくるという意味が含まれているのかもしれない。というのも実際にセルフ・プロデュースで完成させた2018年のデビュー・アルバム『Parcels』は、NMEなど音楽メディアから高評価を獲得しており、すでに”Daft Punk”という冠がなくとも、彼らは自らが優れたアーティストであることを証明しているからだ。

その意味で彼らがいう“デビュー・アルバムの完璧な締めくくり”とは、“Daft Punkがプロデュースしたバンド”期を締めくくることで名実ともにParcelsというアーティストとして1人立ちし、さらなる飛躍を目指すというメッセージにも思える。

『Live Vol.1』でキャリアの第1章を締めくくった後、Parcelsは今後、どのようなフェーズに向かうのだろうか? 本作はこれまでのParcelsを振り返るとともにそんなことにも想いを馳せつつ、聴き込みたい作品だ。
【リリース情報】

Parcels 『Live Vol.1』

Release Date:2020.07.18 (Sat.)
Label:Caroline International / Kitsuné / Because
Tracklist:
01. Enter
02. Myenemy
03. Bemyself
04. Comedown
05. Lightenup
06. Gamesofluck
07. Intrude
08. Withorwithout
09. Returned
10. Everyroad
11. Overnight
12. Untried
13. YourFault
14. Clostowhy
15. Redline
16. IknowhowIfeel
17. Elude
18. Tieduprightnow

■ レコード購入はこちらから(https://tower.jp/item/5057040/Live-Vol-1)

■ Parcels 日本オフィシャル・サイト(https://carolineinternational.jp/parcels/)

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