PSY・Sが
最重要ユニットである証明!
意欲的コンセプトアルバム『ATLAS』

男女2人組ユニットの先駆け

ロッカバラード風のミッドチューンM7「See-SawでSEE」は、鍵盤の連打やブラスアレンジからすると、大枠ではソウル~R&B系と言えるかもしれない。だが、やはり正統なるそれではないというか、あくまでもPSY・S流に仕上げているのがポイントだろう。間奏のギターは完全にロックそのものだけど、そこに終始していないところに、やはりこのユニットの意欲を感じざるを得ない。その点ではM8「STAMP」も同様。シタール的な音を取り込んでおり、インド音楽を意識した…というよりは、PSY・S流ラーガロックをやろうとしたと見るのが自然だろう。そう考えると、先ほどは“『Sgt. Pepper's~』を過度に意識したところはなかったのだろう”とは言ったけれども、わりと意識していたのかもしれないと思ったりもする。


それはM9「引力の虹」もそうで、前半の綺麗なギターのアルペジオは──M8「STAMP」からの続きで聴くと、「Norwegian Wood」を彷彿させるような感じもある。そうは言っても、「引力の虹」は中盤からリズム隊が入ってサウンドが力強くなっていくので、幻想的なだけに留まらないのはこれもまたPSY・S流ではあるが、The Beatlesうんぬんはともかくとしても、PSY・Sは『ATLAS』でロックの進化過程を示したような印象はある。かなり邪推ではあるけれども、アルバムのフィナーレを飾るM10「WARS -Reprise-」がヒップホップの要素を取り込んでいることを考えると、あながち的外れでもないのでは…と思ったりもする。

ちなみに、『ATLAS』が発表された1989年は、RHYMESTERが結成された年であり、スチャダラパーの1stアルバム『スチャダラ大作戦』の発売がその翌年の1990年である。PSY・Sは本格的にヒップホップを標榜したグループではないので、比べるのはやや乱暴だろうけれども、メジャーシーンでヒップホップ的要素を取り込んだのは大分早かったことは間違いない。

“早かった”と言えば、PSY・Sはそのユニットのスタイル自体も早かった。男女2人組のユニット、バンドというのは、今となっては特に珍しいもものではない。Ego-Wrappin、LOVE PSYCHEDELICO、Do As Infinity、GLIM SPANKYらがそうだし、もう少し時間を遡れば、ZARD、KIX-S、ICE、PAMELAH、Every Little Thing、Jungle Smileらの名前が挙がるだろうか。PSY・Sはそれらの人たちよりも早い1985年のデビューだ。それ以前にはチェリッシュやヒデとロザンナなど男女2人組のデュオはいたが、ヴォーカル+コンポーザといったスタイルは、もしかすると少なくともメジャーフィールドではPSY・Sが初めてだったのかもしれない(ちなみにPIZZICATO FIVE、dip in the poolも同年デビューだが、音源リリースはPSY・Sが若干早い)。また、上記ユニットはもともと3~5人組のバンドだったものが、メンバーの脱退によって2人組になった人たちがいくつかあるけれども、PSY・Sは最初から松浦雅也、CHAKAの2人組で、ライヴの際はバックバンドである“Live PSY・S”を率いてパフォーマンスしていた。まさしく男女2人組ユニットの先駆けである(もうひとつちなみに、その“Live PSY・S”には、美尾洋乃(バイオリン)、鈴木賢司(Gu)、沖山優司(Ba)、安部王子(Ba)、新居昭乃(cho)、保刈久明(Gu)、南流石、田中徹ら、超一流アーティストが参加していた)。その点で言っても、決して忘却の彼方の追いやってはならない、邦楽史上の最重要アーティストのひとつなのである。

TEXT:帆苅智之

アルバム『ATLAS』1989年発表作品
    • <収録曲>
    • 1.Wondering up and down 〜水のマージナル〜
    • 2.WARS
    • 3.ファジィな痛み
    • 4.Stratosphere 〜真昼の夢の成層圏
    • 5.遠い空
    • 6.(北緯35°の)heroism
    • 7.See-SawでSEE
    • 8.STAMP
    • 9.引力の虹
    • 10.WARS -Reprise-
『ATLAS』('89)/PSY・S

OKMusic編集部

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