野田秀樹が選出した、新鋭女優・夏子
インタビュー 舞台『赤鬼』や演劇へ
の魅力をきく

次世代演劇人の育成を目指して野田秀樹がはじめたプロジェクト「東京演劇道場」。1700人以上もの応募者から野田がオーディションで選んだ道場生・約60名は2019年からワークショップを受けてきた。そして、このたび、野田の代表作のひとつ『赤鬼』を4つのチームに分けて演じることに。
ある漁村に流れ着いた“赤鬼”と呼ばれる人物をめぐって揺れる住人たちの心を描く作品は、1996年の初演以降、日本、イギリス、タイ、韓国で野田がそれぞれの国の俳優たちと上演してきた。今回は、16年ぶりに、日本で、野田自身の演出で上演する貴重な公演となる。
4つのチームのひとつで“あの女”を演じる夏子はモデルを経て、俳優の道を歩み始めて4年の新鋭。東京芸術劇場で上演される作品への出演が続いていて今回で3作目となる。池袋に通うことが増えたと笑う夏子に、演劇、そして『赤鬼』の魅力を聞いた。
ーー初日を前にしたお気持ちはいかがですか。
劇場入りした今は、純粋に楽しくてしょうがない気持ちです。とくにこの数ヶ月、コロナ禍で演劇がこれまで通りにできない状況ですから、稽古ができて、こうして本番も迎えられるだけで嬉しくて……。稽古場と違って、客席が四方につくられ、中央に舞台があることにも、ワクワクします。
夏子
ーー四方から見られるお芝居は一方向から見られるお芝居とは演じる心構えは違いますか。
四方から見られるのみならず、舞台裏にはけることもあまりできず、ほぼ出ずっぱりで、お客様に見られることは初めての体験です。舞台はそもそも全身をお客様から見られるものとはいえ、いつも以上に全身に気を配っていないといけなくて、背中からおしりまで緊張を緩められません。できるだけ全方向に向くように動きを工夫しているものの、必ず、誰かには後ろから見られることになるので、全身で表現することを意識しています。そのせいか、通し稽古をした後、全身が謎の筋肉痛になりました(笑)。
ーー一番難しかったのはどんな動きですか。
野田さんのお芝居でここぞというときに使われるスローモーションが難しいです。カラダを動かすことは好きで得意だと思っていたのですが、スローモーションはいままで使ったことのない筋肉を使います。体幹をはじめとして、根本的にカラダのつくりを鍛え直す必要があり、毎日筋トレしています。
夏子
ーー改めて、今回の出演のきっかけを教えてください。
私は野田さんがオーディションで選んだ「東京演劇道場」の道場生​で、定期的にワークショップを受けてきました。その集大成のようなものが今回の『赤鬼』です。
ーー「東京演劇道場」ではどんなことをされていましたか。
野田さんのワークショップのほかに、海外の演出家の方によるワークショップや、振り付けの先生によるダンスレッスンなどもありました。野田さんは、道場でやっていたことと『赤鬼』の稽古では感じがちょっと違っていました。道場ではテンションの使い分けや位置取りのバランスのとり方など基礎を教えていただくほか、いろいろと表現の実験を行っていて、それが稽古になると、実験したことを実践しているように感じました。
ーー出演される『赤鬼』の物語はどう感じましたか。
今回、A〜Dまで4チームによる公演なので、同じ役を演じる俳優がほかに3名いて、それを客観的に見ることができます。そうすると、物語を理屈で追うのではなく、俳優たちの動きの連なりに心が動かされることを発見しました。野田さんのセリフはとても詩的で美しいですが、セリフでお客様を感動させようとは思わずに、出演者たちの関係性を大事にしていこうと感じました。会話劇なので、遊びがところどころに散りばめられていて、テンポや間を意識していこうと思っています。
夏子
ーー演じられる“あの女”ですが、なぜ役名が“あの女”だと思われますか。
“あの女”にも名前があって劇中に出てくるのですが、確かに、ほかの登場人物たちは、意味はどうあれ“赤鬼”、“とんび”、“ミズカネ”という名前で呼ばれるのに比べ、“あの女”だけ“あの”がついています。これは作品のテーマに通じることだと感じます。異端者――よそ者について描かれた作品で、4人の中で、島の外からやって来た赤鬼が最も異端で、島の住人でありながら、“あの女”も村人から異端として扱われているんです。ほんとうは4人とも異端者ですが、とりわけ“赤鬼”と“あの女”がその象徴であるのかなと思います。
ーー異端者ということについてどう思いますか。
『赤鬼』のような作品は、今の時代とすごくマッチしているように思います。自分たちと違うものを弾く力がどんどん強くなっている今だからこそ、やる意味があるのかなと思います。私も、どちらかといえば、世間に馴染めないなぁと思っているところがありますし、むしろ、異端でいいとも思うのですが……。そんなことを言うと、もっと異端の立場に苦しんでいらっしゃる方に申し訳ないのかもしれないですね。
ーー先ほどおっしゃっていた、「違うものを弾く力」というのは感じますか。
言えないことはいえない感じがして、言葉尻を捉えられないように発言に気を使います。だからこそ本音を描く演劇や映画や小説が大切だと思います。
ーー野田さんの舞台は観られましたか。
なかなか舞台そのものを観ることができていませんが、映像で何作か拝見しました。『贋作・桜の森の満開の下』の美しくも残酷な世界が好きで、何度も何度も見返しています。いつか夜長姫を演じてみたいなんて夢見ています。
夏子
ーー夏子さんは現在、テレビドラマ「私の家政夫ナギサさん」(TBS系)に出演(※)されていますが、舞台で培ったことはドラマでも生かせますか。(※主人公の相原メイ(多部未華子)ら天保山製薬横浜支店のメンバー行きつけの店、薬膳居酒屋「万薬の長」の店員・吉川かりん役)
台本をストレートに読まなくなりました。つねに違う角度からも読んでみて、こういうことしたらどうだろうとアイデアを考えるようになったと思います。とくに今回、「ナギサさん」で演じている役はちょっと変わったキャラクターにしたいと勝手に思っていて、何ができるだろうと常にひと工夫しています。それと、舞台のクセで声が大きくなり過ぎることには気をつけています(笑)。
ーー舞台は今回、3作目だそうですが、今後、舞台への出演はどうお考えですか。
舞台には映像では伝わらないことがあります。やはり生のやりとり、人と直接会話できること、お客様に実際に観にきてもらえることは、代えのきかない喜びや楽しさがあると感じています。舞台は、去年はじめて、芸術劇場のプレイハウスで行った『BACKBEAT』に出演しました。そのときは慣れなくて、できないことがたくさんあって、悔しくて、すぐにまたやりたいと思いました。そして今年の1月にシアターウエストで二兎社さんの『私たちは何も知らない』に出演させてもらい、今度の『赤鬼』が3作目になります。やっと楽しめるようになったので、これからもいろいろな作品に出会いたいと思っています。プレイハウス、シアターウエスト、『赤鬼』のシアターイーストで芸術劇場の劇場をコンプリートできたのが嬉しいです!
夏子
取材・文=木俣 冬 撮影=福岡諒祠

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