作曲家の笠松泰洋、女優の今村沙緒里
、サンドアートのemullenuettがコラ
ボした心に優しい“動く砂の絵本”~
「ユニットとして継続しよう!」(笠
松)

新型コロナウイルス感染拡大によるステイホーム期間中に、オンラインでさまざまな作品や演奏を見ることができた。ある意味、活況を呈していた。そんななか、砂漠で見つけたオアシスのように、心に優しい素敵な作品が生まれていた。ミュージカルやダンスなど舞台の音楽で活躍する作曲家・笠松泰洋、女優の今村沙緒里、サンドアートデュオのemullenuett(清水友絵&須田江梨香)というジャンルの異なる3組が、アンデルセンの『小さいイーダの花』を題材にYouTube上に発表したコラボレーション作品だ。それぞれの要素は素朴なのに、組み合わせられた世界は見る者のインスピレーションを豊かに広げていく。記事を読む前に、まずは10分と少しの旅を体験してほしい。
【動画】アンデルセン【小さいイーダの花】『朗読 』×『音楽』×『サンドアート』の動く砂の絵本!
2013年、笠松が監修を務める福井県立音楽堂「越のルビー音楽祭お話とピアノでつづる『音の絵本』コンサート」で彼らは顔を合わせた。そのときはシンガーソングライターで絵本作家でもある川本真琴による『ぼくね、ほんとうはね。』、そして2014年は小説家・エッセイストの宮下奈都による『リトルピアニスト』のライブでの上演に取り組んだ。今回はそのとき以来の再会だったそう。
(上段左から)今村沙緒里、笠松泰洋(下段左から)清水友絵、須田江梨香
■コロナ禍で必要なのは温かい気持ちになれる、ほっとできる作品だと思った
――企画のきっかけから教えてください。
今村 提案したのは私です。ある講座の発表で映像作品をつくる予定があって。最初はダークな雰囲気のものを考えていましたが、コロナで世界中の人びとが悲惨な状況になってしまった。この苦しさのなかで、みんなはどんな作品を見たいだろう?と考えたら、温かい気持ちになれる、ほっとできる作品をつくりたいと方向転換したんです。笠松さんとは福井で何度かご一緒させていただいていて、笠松さんのお母様もよく見にきてくださったんです。最初は、デビュー仕立てで抜擢していただき、不安を情熱で払拭するみたいな感じだったのに、お母様が「よかったわよ」とおっしゃってくださった。あとで普段は厳しい方だと聞いて、その一言が私の心の支えになっていました。そのお母様が4月に亡くなられたのを知り、そのときのDVDを見直したら、これを真剣につくったら映像でも面白くなると思ったんです。
今村沙緒里
笠松 僕は3月の芝居が中止になったのを皮切りに、11月まですべての仕事が飛んでしまいました。生演奏のものが多いから仕方ないけれど。僕は毎日作曲しないと生きている気がしない人間なんです。1週間も空いたら、この先一生作曲できないかもと思ってしまう。だから連絡をいただいたときは、すぐに食いつきました(笑)。
須田 私たちも仕事が次々と延期になるなか、今だからこそできることがないかと考えているところにお声がけいただいたので、すぐにお願いしますとお返事しました。
清水 前にご一緒できたこともうれしかったんですけど、月日が経っても覚えてくれていて、話をくださったのがとてもうれしかったですね。
笠松 福井の音楽祭のときは僕が台本も演出もと全部やっていました。でも今回は今村さんが言い出しっぺだし、全体のまとめは任せた方がいいなと思ってアドバイスはさせてもらったんですけど、本当にうまくまとめてくれました。
笠松泰洋
今村 いえいえ、とんでもないです。あれやこれや細かなお願いばかりで、みなさんにはご迷惑をおかけしてしまいました。
――アンデルセンの物語を選んだのは?
今村 最初は別の作家の作品を考えていたんですけど、コロナの影響か先方と上演許可に関するやりとりができなかったんです。
笠松 それでアンデルセンから選んぼうと。候補はいくつもあったんですけど、実は暗い作品が多くて。でも今村さんには少しでも明るい気持ちになれるものがいいという思いがあった。
今村 私はとにかくアンデルセンをいっぱい読んで、3つに絞って投げかけたんです。私的にはこれをという思いもありましたが、みなさんがアイデアをどう盛ってくださるかも大事にしたくて。
笠松 サンドアートは練習して、曲に合わせてこの音からこの音までにといったふうに絵を生み出す。練習を重ねないといけないし、演劇に近いんですよ。だったら僕が先に音楽で時間軸を示して、そこにいろんなものを入れ込んだ方がやりやすいかなと思ったんですよ。ネット上でやり取りして互いの素材を構成するのは大変ですから。朗読も編集して曲にはめ込んで、オペラみたいなつくり方をして、それを美術の人に渡すと。
今村 そう、サンドアートはすごく大変なんです。しかも時間が長くなるほど大変。
笠松 僕なんか台本を全部説明したくなるんだけど、お二人はとても潔く、うまく取捨選択してくれて、面白い作品になったなあと思いました。
今村 お二人がつくってくださった絵には余白があるので、ぐっと想像が膨らむんですよね。今度は本を読もうかなって思ってもらえる気がします。
――サンドアートのお二人はどんなイメージでクリエーションをされた?
須田 普段のサンドアートは音だけで、声が入ることはあまりないんです。前はライブでしたが、今回は映像でしたので、先に声と音楽をいただいて尺がわかったうえでサンドアートを膨らませるという順番にさせてもらいました。でもその時点で音源は完成されていた印象でした。私たちは手を早く動かしさえすれば情報を盛り込めるんですけど、それでは素敵な声と音を生かせないと思ったんです。もう一つ、作品は10分でも、その先をイメージしてもらえることを意識しました。ステイホーム期間だったので、お子さんにも大人の方にも作品を長く楽しんでほしくて。それで要素を省いたり、登場しないものをわざと入れたりしています。なぜだろうと想像することを楽しんでもらえたり、一緒に作品をつくっているような気持ちになっていただければと。そういう意味では普段のサンドアートではやらないことに挑戦しました。
須田江梨香
笠松 普段は逆なんだ?
須田 サンドアートは派手なものが好まれるんですね。
清水 それとわかりやすい、物語に沿って描くものも多いんです。
清水友絵
須田 普段は犬が出てきたら犬を描く、花が出てきたら花を描くとか物語を重視します。私たちにとっても挑戦だったので、お二人がどういう反応をされるかはドキドキしました。
今村 本当に?
笠松 いや、これは相当に考えてつくっているに違いないと思いましたよ。物語中のイーダのお人形、彼女にいろんなことを教えてくれるお兄さんも重要な役割なのに映像には出てこない。街灯を出すことで夜を描くアイデアも良かった。アンデルセン自身が比喩の達人みたいなところがあるから、お二人の絵を見てあのお兄さんは実はイーダの家にある本のことかもしれない、人形だって人形じゃないかもしれない、全部彼女のイマジネーションの世界かもと思った。
――愚問だとは思いますが、サンドアートの魅力はどんなところですか。
須田 手で描いていくんですけど、途中は何を描いているかわからないんです。最後の一手でチョウチョになった、街灯になったという驚きを表現できるのが魅力かな。わざとわからないように描いたり、変わった描き方をしたり、どうなるんだろうとワクワクしながら見ていただけると思うんです。画面のなかには最大4本の手が登場するんですけど、その手が出演者として捉えているので、動きが心地よくなかったらダメだと思っているんです。そういう意味ではダンスの振り付けを考えている感じ?
笠松 そうそう、そんな感じがする。
須田 それぞれ右手と左手を出したときに、同じ一人の手に見えるように、左右の均等が取れるように見せたり、どちらかの手がどのくらい動くのか割合を考えるのも振り付けですね。手の動きがゆっくりなら声が耳に入ってくるとか、逆に早く動かしたら声は入ってこないけれど音に乗っているように感じられるとか、計算しながら動かしています。私は15年バレエをやっていたので、そういうことにすごくこだわってしまうんです。
――清水さん、あまりしゃべらないけど大丈夫ですか?
清水 気持ちは須田と一緒です(笑)。
清水友絵
今村 街灯がピアノになるくだりはうれしかったなあ。完成版を朝5時くらいに送ってくれたでしょ。眠い目をこすりながら見たのに、感動してやばかったんです。舞踏会の始まりの場面もピアノの音をすごく立ててくれたり、サンドアートの鍵盤を登場させて演奏してくれたり。映像ってデジタルじゃないですか。だからこそ、つくり方は徹底的にアナログにしたいなと思ったし、彼女たちの手の動きも見せたかったんです。
――音楽はどんなイメージで?
笠松 音楽に乗せた朗読って結構ネット上に出ていたじゃないですか。音楽が物語とほんの一部しか合ってないものが多い。そういうのを見ていたから、オリジナルで、本当に噛み合った、音楽の時間で物語が流れているものをつくらなきゃって思いました。
笠松泰洋
今村 笠松さんのイメージはクラシックなんですけど、クラシックをポップにもできる方なんです。そのポップさを生かせればと思って、よくわからないながらも、迷惑をかけながらもご協力していただきました。笠松さんの音楽も普段よりは手づくりっぽい雰囲気でした。
笠松 データの打ち込みはしないで、映像を見ながら生演奏しているからね。尺に合わせるのは打ち込んだ方が本当は楽なんだけど。舞踏会のシーンも何年かぶりかというくらいピアノの練習をしましたよ。不思議なお兄さんが出てくるときはアラビアンな感じにしようとか、舞踏会は本当に宮廷で奏でられるようなワルツみたいにとか、楽しんでやりました。
今村 でき上がってくるのもすごく早かったですよね。
笠松 曲づくりは1日でやっています。でもピアノの練習が時間かかったなあ。
須田 王道のクラシック、軽やかなワルツ、さまざまな音楽、それから言葉の美しさ、気持ちのいい音にも乗りたいと思っていました。
須田江梨香
笠松 今村さんの朗読もさっぱりしていて。感情を込めすぎていないから、僕らにもいろんなことを試す余白を与えてくれているんだよ。これが思い入れたっぷりになると、ここは音楽いらないなってなっちゃうから。
今村 朗読はいつも通りなんですけど、全体を見たときに、自分の声が嫌になってしまって、自分を消すのを課題にしていたんです。私自身もニュートラルな朗読の方が好きで、女の子なのか男の子なのかわからないようなちょっと控えめになるように意識しました。逆にサンドアートにスポットが当たるように言葉を削ってもいい?と提案して、私が最初につくった台本に沿って秒単位で映像をつくってくれていたのに、大混乱をさせてしまいました。私はサンドアートだけ、音楽とサンドアートだけの時間があってもいいと思ったんですけど、返事がこなかったんでちょっぴり焦りました。(笑)それは反省として、次回はそういう要素を最初から考えたりしていきたいです。
今村沙緒里
笠松 でもそうやって引いた目で見てくれているのが大事。僕なんかだいぶ年上だから僕に今村さんからダメ出しはしずらいと思うんですけど、モーツァルトだって散々ダメ出しもされたし、歌手のわがままも聞いて素晴らしいオペラができた。ダメ出しされたら、ほかの手を考えます。そして最初のものと比べていい方を取ればいいこと。僕の経験では、だいたい85パーセントはダメ出しされてからつくったものの方がいいんです。
今村 でも何分何秒から何秒まで音をあげてくださいとか、すみませんでした。
笠松 いやいや。どんどん言ってくれていいんですよ。
今村 須田さんも清水さんも完成したあとで「またやりたい」と言ってくれたことがうれしかったんです。
笠松 やろうよ、ぜひ。これを機に、年に1、2回、ユニットとしてやれたらいいなあと思った。ライブでもネットでも。特にネットでは、僕も文化庁の文化交流使としていろんな国を回ったんですけど、そこでできた知り合いが今回の作品を見てくれて「よかった」というメールをたくさんくれたんですよ。日本語の朗読だし、解説もつけてないんですけど、みんな理解して、評価もしてくれていました。今度は先にサンドアートを自由につくってもらうのもいいかもしれない。いろんな可能性を感じます。
(上段左から)今村沙緒里、笠松泰洋(下段左から)清水友絵、須田江梨香
どうやら、次なる作品に向けて、すでに動きが始まっているらしいです?!
取材・文:いまいこういち

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