明日海りお 今振り返る宝塚時代、目
指す女優像とは? 退団後初の宝塚関
連番組、収録直後にインタビュー

2019年11月24日をもって宝塚歌劇団を卒業した前花組トップスター明日海りお。退団後、映画『ムーラン』(近日公開予定)のタイトルロールの吹き替えを担当するなど、新たな活動を始めている彼女が、2020年8月29日(土)にWOWOWで放送される「宝塚への招待 明日海りおスペシャル」に登場する。トップコンビを組んでいた仙名彩世と共に、出演作『CASANOVA』の副音声解説を務めるほか、宝塚好きで知られる高橋真麻とトークを繰り広げる。収録を終えたばかりの明日海に話を聞いた。
――収録を終えていかがですか。
仙名さんとの収録はとてもリラックスしたもので、お部屋で二人で懐かしい話をする楽しい時間でした。高橋真麻さんは、宝塚歌劇をお好きで観てくださっているのはずっと知っていたのですが、初めてお会いできてすごくうれしかったですし、真麻さんの大きな愛を直接感じられて、とても新鮮でした。宝塚を卒業して半年以上経ちますが、宝塚の話をするとそのときその瞬間が甦ってくるというか、私自身が自然体でいられるので、とても楽しい番組になっていると思います。今後についての思いも少しずつ語っているので、そこも注目していただけたらと思います。
明日海りお
――『CASANOVA』を振り返ってみていかがでしたか。
宝塚ではお芝居とショーの二本立てが多い中、『CASANOVA』は一本物なんですが、それを感じさせないくらい、とても華やかで、いろいろなダンスナンバーやいろいろなジャンルの歌も織り込まれていて、非常に宝塚らしい作品だなと思っています。
私としては、退団公演の一つ前ということもあって、とても伸び伸びと、一日一日の舞台を非常に楽しめた時期で、個人的にも楽しい思い出しかない作品なので、それを皆様に観ていただけるということがとてもうれしいです。自分で言うのも何なんですが、私自身、宝塚ファンなので、ファンの方にとってはとても楽しい副音声解説になっていると思います。ときどき、当時を振り返って本編とは関係ないこともしゃべったりしていますし、実は…みたいな話もありますし、今観て、もうちょっとこうしておけばよかったかなみたいな話もしていて。色彩豊かな舞台で、お衣装が美しいし、歌と踊りに関しても、いろいろな場面が次々とたたみかけるように展開していくので、宝塚にしかない醍醐味がある作品だと思います。本編だけではなく、最後にはフィナーレ・ナンバーもついていて、男役だけの場面、娘役と私の場面、そして私と仙名のデュエットダンスがあり、ロケットがありと、とても見応えがある作品です。ストーリーがとても明るいので、気軽に楽しんでいただけるんじゃないかなと。
私が演じたカサノヴァは、とても女性にもてる役で、1000人以上恋人がいたという役どころなんですね。誰からもきゃあきゃあ言われてとても楽しかったですし(笑)、ゆとりのある大人の男性の役どころだったので、私自身、けっこうアドリブなんかも挟みつつ、共演者との芝居を楽しんでいましたね。男役、今からでも戻れなくはないですが、やめておきます(笑)。仙名さんとも今日言っていたんですが、戻るとなったら大変だなと。ゆきちゃん(仙名の愛称)は絶対戻れると思うんですけど(笑)。やっぱり、すべてを懸けていたなと思うんです。どんなにゆとりで楽しんでやっていたとしても、コンディションとか、すべてを公演に集中して男役に懸けてやっていたので。あれをまたやるとなったらえらい騒ぎだなと思うので(笑)。
明日海りお
――すべてを懸けてやっていた自分を、新たな立場から振り返っていかがですか。
自分の目から見ても楽しそうだったし、観ていてやっぱり、当時と一緒のポイントで歌い出しちゃったり、ここ好きだったなとか思い出したり。自分の舞台を好きっていうのもあれですけど、楽しかったときの感覚がこう、身体にみなぎる感じがあって。私が最初に宝塚を観たときのときめきと通じるものがありましたね。まあ、自分がその最初に観たときと同じくらい男役としてかっこいいかと言われるとそういうわけではないんですが、やっぱり舞台っていいよな、宝塚っていいよなと確信しました。男役を一度終えたから、冷静に見られる、引きで見られて、ここもうちょっとこうしておけばよかったなと思うのかも。今現在のことって、半年後とか一年後とかにちょっと引いて見てみないとわからなかったりするじゃないですか。もうしかたがないな、今この瞬間を一生懸命生きることは、在団中も今も変わらないことであって、目の前にあることをちゃんとていねいにやっていくしかないなと思っています。
――仙名さんとはどんなお話を?
すごく久しぶりに会ったので、元気でいてくれてよかった! と思いました。そして、いつも染みついたテンポ感で、二人、自由にしゃべらせてもらったなと。ゆきちゃんがいつもすごく、次から次へとしゃべってくれるんですが、それを、うん、うん、って聞いていればいい感じが、すごく懐かしくて、居心地がよくて。ほぼ普段通りですね。二人して現役時代にタイムスリップしたような感覚でした。
明日海りお
――現役時代、ご自身の舞台映像を観ることは?
販売になったものを観る機会はあまりなかったですね。稽古場の映像で気になるところを、次の日の稽古までに観返したり、公演中にモニター映像をチェックしたりということはありましたが。みんなで鑑賞会しましょうとかはときどきあるんですけれども。一緒に観ましょうよみたいになるときがあって。子供みたいですよね(笑)。舞浜アンフィシアターで上演した『Delight Holiday』を一緒に観ましょうよとか、横浜アリーナの『恋スルARENA』も、出演していたオリジナル・メンバーで観ましょうよとか。月組時代の仲間と会うと、誰かがDVDを持ってきていたり。飛ばし飛ばししたりして、すごく真剣には観ないですけれども、一緒に笑いながら鑑賞したり。
――高橋真麻さんとのトークはいかがでしたか。
出産されたというニュースを知っていたので、お仕事をされるのはまだ先かなと思っていたんですが、今回、引き受けてくださって。今日お会いしたら、陽のパワーが本当にすごくて。すごく楽しそうにお話ししてくださって、でも司会、話すことのプロフェッショナルでいらっしゃるから、お話を回すのがすばらしくて、私もすっかり甘えさせていただいて。本当に素直にお答えしていった、ノンストレスな収録でした。
――女優として興味のあるジャンルは?
収録をして、その後にこうして取材していただくというお仕事が続いていますが、そうなってくるとやっぱり、歌いたいなとか、身体を動かして踊りたいなとか、お芝居の中で何かの役になりたいなと思って。その日のその雰囲気を演じるという意味では、撮影、収録も同じだと思うんですが、人の目にふれるのは間接的にであって、直接ではないじゃないですか。もっと身体を使って何かを表現したいですし、そういった場が増えていったらいいなと思っています。依頼があれば何でもと思います。そうしたら、今まで出会ったことのないことに出会えるかもしれないし。
明日海りお
――コロナ禍にあって、今、舞台芸術界は難しい状況にありますが、そんな中で感じたこととは?
命が最優先と考えたら、やはり、すべての人にとっての必需品ではないのかもしれない。でも、私はつくづく、それに命を懸けてきたんだよな……ということを、家にいながらずっと思っていました。生きがいでもあるし、いろいろな責任もつまっていたし。ときめきとか、やりがいとか……。すべてを宝塚に……と思ってやっていた、その宝塚も、エンターテインメントの中にあるものなので。これ以上状況が悪くならないで、ちゃんと、そういうものも必要とされるものであってほしいと思います。やはり、条件が限られてくると、本当に届けたいものがそのままお届けできなくなってしまうかもしれないじゃないですか。できる限りの感染対策、個人でできることは、私もちゃんと対策して。エンターテインメントは私には必需品なんだ! という皆様にも、それがちゃんと供給される日まで元気でいていただけたらと思います。
――今、改めて、明日海さんにとって、人の目に直接ふれる場、舞台とは?
これまで、ファンの方と、物理的にも、心も、距離感が非常に近かった、そばにあったんですよね。やっぱり、舞台と客席というのは、劇場の中で同じ一つの空間ですし、公演中だけでなく、皆さん、お稽古中から熱心に通ってきてくださって、お手紙を書いてくださって。本当に心でそばにいてくださったので、今とてもさみしく感じるのはあるんですけれども、何かを届けられるとなった際には、その分のさみしい思いも払拭させるような、こういうのが観たかった! とか、こういうのを待っていた! とか、意外だった! なんて驚きもお届けすることができたらと思います。
明日海りお
――目指す女優像は?
凝り固まりたくないという思いが強くて。宝塚出身の人だからサバサバしていてトップさんっぽいオーラがあって……みたいにならなきゃいけないのかな、それは自分の個性と違うのかな、でも、傍から見たらそう見えるのかなとか思ったり。でも、逆に、宝塚っぽく見えなくなっていくことも必要だなって。やっぱり、外部の舞台、映像もそうですが、その作品の世界観に染まる上では、それが邪魔するときもあると思うので。そういうところをちゃんと切り替えたり、新しいことも吸収して学んでいって、そこにプラス、自分ならどうするというものを加えていきたいなと。今からまた、とても時間のかかる作業なのかもしれない、今までそういった作業を何年も続けてきて、私と同じ年齢で女優さんをしている方もたくさんいらっしゃいますし。そう思ったら本当に初心者ですけれども、そう言っててもしょうがないので(笑)。根性と体力は今までだいぶ培ってきたので。
――5月末、柚希礼音さんの呼びかけで、元トップスター19名が集まってYouTubeチャンネル『#Our song for you -また会える日まで-』で「青い星の上で」の歌唱動画を披露、明日海さんも参加されていました。
ちえ(柚希礼音)さんから直接ご連絡をいただきまして、宝塚歌劇団百周年以降のトップさんで何か一緒にできないかなと。私も、自分にできることが何もなくて、ふがふがしていたところですとお返事して。それで、皆さんやろうということになって、曲は何にする? とか、タイトルはどうする? とか、いろいろ相談して。ちえさんが先生みたいに、動画の撮り方を指導してくださって、カウントとかも細かにご指示くださって。動画も、元相手役さんのところはまっさきにチェックしちゃって。未だに亭主っぽいというか、ついつい昔通りのいやなクセが出る(苦笑)、そんな自分にちょっと笑ったりして。でも、皆さんと連絡をとり合えることにほっこりしましたね。久しぶりに歌えて気持ちよかったです。
明日海りお
取材・文=藤本真由(舞台評論家) 撮影=池上夢貢
衣装=ジャンプスーツ(ディースクエアード/TEL:03-3573-5731)

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