“風景”を音楽に刻み続けるバンド、
koboreが描く“ひとりの夜”【SPICE
×SONAR TRAXコラム vol.12】

東京・府中発の4人組・koboreが結成から5年、満を持してメジャーデビューを果たした。デビューアルバムのタイトルは『風景になって』。なんというか、これぞkobore!な、すばらしいアルバムタイトルだと思う。
koboreの音楽はいつだって「風景」を描き続けてきた。その「風景」は、曲を書いている佐藤赳の心の中にあるものだったり、日常のふとした瞬間に浮かび上がるものだったり、年がら年中ツアーをしているバンドがいろいろな場所で出会ったものだったりする。過去もあるし、未来もある。いろいろだ。いろいろだが、そこには必ず風が吹いていて、時間が流れていて、そして音楽が鳴っている。そのすべてを目に焼き付け、心に刻み、抱きしめるようにして、koboreは音と言葉を紡ぐ。
たとえば前作に収録されている「ダイヤモンド」。<月火水木金土日 日々は流れてく/その中で見つけた大事な物を/離さないように壊さないように/ぎゅっと抱きしめてダイヤモンドに変えるのさ>。あるいは「僕の全部」。<僕はずっとこの景色を見ていたいのに/過ぎてくんでしょ? 過ぎてくんだよ>。そうやってkoboreの音楽は過ぎていく風景を積み重ねてきた。
だから、『風景になって』はkoboreそのもののようなアルバムだ。<口ずさむとあの場所を なぜか思い出してしまうんだ>と歌う「るるりらり」もそう、<風が吹いて 雲に乗って このまま空を泳げたらなぁ>と歌う「HAPPY SONG」もそう。「なんにもないの」では<なんにもない時間が僕を 優しく撫でてくれたりするんだ>と日常への視線を投げかけ、「君とじゃなくちゃ」で佐藤は<この風景は君とじゃなくちゃ この音楽は君とじゃなくちゃ>と歌ってもいる。日常を、消えゆく風景を、僕たちが生きているこの世界を、心臓の鼓動のようなビートと吹き抜ける風のようなメロディに乗せて封じ込めるバンド、それがkoboreだ。
アルバムの6曲目に収録されている「夜に捕まえて」には、孤独な夜の風景が描かれている。それこそ夜空か宇宙のようなスケールの大きなサウンドに乗せて、佐藤が綴る歌詞は<今すぐ窓際に吹いた風に乗って 君が会いに来てくれたらいいな そしたらこの星も月も要らないからさ>という願いを歌う。日常と日常の狭間、ふとした瞬間に訪れる“ひとり”の感覚。ひとりだからこそ余計に強くなる“君”の存在が、<ふと夜風に 揺れたカーテン 君だったりしないかな>と描かれる。ひとりの風景とふたりの風景が重なり、明るく優しいメロディに乗って夜空へと放たれる……そんなイメージが浮かぶ、ロマンティックな楽曲だ。
今は難しいが、この曲がライブで鳴らされたらそこにはどんな景色が広がるのだろう。フロアに集まったひとりひとりの心象風景が重なり、キラキラと光るバンドサウンドを浴びて美しく輝き出す……キャッチーで力強いサビは、きっとそのひとりひとりをひとつにつなげるはずだ。<君と夜を抜け出せたりしないかな そしたらこの星も月も連れてくからさ>――この曲が鳴らされるとき、その夜にはそんな魔法がかかるのだろう。そんな夜が待ち遠しい。

文=小川智宏

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