ダニー・ハサウェイのプロデュースで
ファンク度を増した
コールド・ブラッドの『悪の極致』
収録曲は全部で9曲。うちオリジナルが5曲、ジェームス・テイラー作が1曲、クラーク・ボールドウィン作が1曲、ハサウェイ作が2曲で、ハサウェイの代表曲のインスト「ヴァルデス・イン・ザ・カントリー」は本家(傑作『愛と自由を求めて(原題:Extension Of A Man)』(‘73)に収録)よりも早く披露されている。
本作はハサウェイのプロデュースや過去2枚のアルバムとはメンバーが替わっていることもあって、それまでと比べると演奏技術やアンサンブルがはるかにハイレベルになっている。コールド・ブラッドにはロッコ・プレスティアやデビッド・ガリバルディ(タワー・オブ・パワーのリズムセクション)ほどの力量を持ったプレーヤーはいないが、ハサウェイの指導によるものかどうか定かではないが、リディア・ペンスをはじめメンバーの才能がフルに引き出されており、テンションの高い演奏になっている。また、ギターのマイケル佐々木によるロック的なプレイはグループの立ち位置(タワー・オブ・パワーはソウル/ファンク色)をうまく表現していて、完全無欠の緻密なアンサンブルを披露するタワー・オブ・パワーには感じられない荒々しさが聴きどころ。他にも、ピート&コーラ・エスコヴェード(サンタナやアステカでもお馴染みのパーカッション奏者)が参加しているナンバーではラテン風味のあるアレンジが新鮮で、様々な側面が感じられるアルバムとなっている。
本作以降も『スリラー』(‘73)や『リディア』(’74)など、彼らは秀作を続けてリリースするのだが、僕はハサウェイのキーボードが聴ける本作『悪の極致』の仕上がりが頭一つ抜けていると思う。セールス的には成功とは言えない結果にはなったが、本作がベイエリア・ファンクを代表する傑作であることは間違いない。
TEXT:河崎直人