Cocco 新たなアレンジや新曲も披露
した、生配信ワンマンライブのオフィ
シャルレポート到着

昨日(8月31日)、『Cocco 生配信ライブ2020 みなみのしまのはなのいろ』と題されたライブが行われると、Twitterでは「#Cocco」がトレンド入りするなど大きな話題となった。Coccoは今年3月から初のライブハウスツアーを行う予定だったが、新型コロナウイルスの影響で延期となり、振替公演も検討されたが現状では難しいということから「生配信ライブ」が実現することとなったのだ。
ライブ前にはCoccoからのメッセージ映像が流れ、今回のライブの趣旨や思いが語られた。昨年リリースした10thフルアルバム『スターシャンク』はCoccoの3年ぶりの新作であり、そのアルバムを引っ提げたホールツアーも行われたが、そのツアーのリハーサル時に「ライブハウスツアーも」やることに決めたという。曰く、「アルバムは制作する過程で作品として大きなものとなって、多くの人の手が加わりながらポップになっていく」。Coccoもポップが好きで自身の手でポップな作品に仕上げていくわけだが、一方で、そもそも自分の作る歌は「もっと内向的でドメスティックで内緒の歌」だという想いもあり、Coccoが自らを「ダークサイドクイーン」と位置付ける所以でもある。計画されていたライブハウスツアーは、その「ダークサイドクイーン」Coccoとして、彼女の歌に潜むもうひとつの本質を表現するものになるはずだった。結果として「配信」という形になったが、この貴重なライブを全国の誰もが観られることとなったのは嬉しいことだ。
Cocco  撮影=Shidu Murai
映像がライブステージに切り替わり、バンドメンバーが持ち場に立つ。いつものホールツアーのようなフルセットではなく、今回はデビュー当時からCoccoのサウンドを支えてきた根岸孝旨(Bass)、同じくCoccoが全幅の信頼を寄せる椎野恭一(Drum)、そして初期からの縁で、『スターシャンク』で久しぶりにCocco作品に携わった堀越信泰(Guitar)というシンプルなバンド編成。いずれも「ダークサイドクイーン」Coccoの良き理解者であり、ライブハウス仕様のスリリングなバンドサウンドを奏でるに申し分ない布陣だ。ほの暗いステージに黒いドレスにベールで顔を覆ったCoccoが登場し、『スターシャンク』の1曲目に収録されている「花爛」でライブはスタートした。堀越がボウイングでギターを奏で、原曲よりも不穏でヒリヒリとした音像が浮かび上がる。Coccoのどこか深い暗闇から響いてくるようなスクリームにも、今回のライブの趣旨が浮かび上がる。ダークでアップタイトな歌声とサウンド、それはつまり楽曲が生まれるときに一番初めにCoccoの頭の中で鳴っているプリミティブな音のイメージに近いのではないかと。この曲を皮切りに、この日のライブでは驚きのアレンジで『スターシャンク』の曲たちが披露されていった。
Cocco  撮影=Shidu Murai
「2.24」では、Coccoは曲の合間にふと「三村エレジー」(2010年アルバム『エメラルド』収録)の一節を挿し込んでみせ、まるで元からひとつの歌であるかのように2つの曲が織られていく。根岸のコーラスも重なりながら、その響きは呪術的な祈りにも似て、早くも新たな歌世界に心奪われてしまう。さらに「Ho-Ho-Ho」の思い切りロックサウンドに振り切ったアレンジにも驚く。アップテンポなギターのディレイサウンドは原曲とはまるで違った景色を見せた。続く「Gracy Grapes」は、原曲ではアコースティックギターの美しい音色が印象的だが、根岸がベースをチャップマンスティックに持ち替え、不思議な浮遊感を生み出していく。「フリンジ」は圧巻だった。淡々と繰り返すベースラインが不穏なグルーヴを生み、静かな炎のようにCoccoの歌が凄みを増していく。さらに。「願い叶えば」は、『スターシャンク』の中で最もポップに振り切れた楽曲だったはずだが、そのまばゆさの裏側の影を穏やかに映し出すようなアレンジには心底驚かされた。曲のラストに「Rose letter」(1998年アルバム『クムイウタ』収録)の一節をさらりと挿入するなど、ここでもまた新旧楽曲が不思議な邂逅を見せる。
Cocco  撮影=Shidu Murai
『スターシャンク』の楽曲だけではない。過去曲の新アレンジにも耳を奪われた。イントロだけではなかなかそれと気づけないほど深淵なサウンドで立ち現れた「強く儚い者たち」(1997年 2ndシングル)は、椎野のドラムが胸を打つように響き、より内省的な情景を描き出していく。曲のラストには沖縄のわらべうた「じんじん」が挿し込まれたり、「ひばり」(2016年アルバム『アダンバレエ』収録)でも、アウトロで「沖縄」を感じさせる堀越のギターフレーズが鳴り響いたり、Coccoのルーツがいつにも増して色濃く映し出されて感動的に響いていった。「ひばり」を歌い終わったCoccoは少し涙ぐんでいたようにも見えた。
コロナ禍での自粛生活中にYouTubeにアップしていた、『自粛生活・おうちdemo』からもいくつかの楽曲が披露された。なかでも「take me home」のあたたかく包み込むような歌声は、ダークサイドクイーンのイメージとは一転、穏やかに癒しを感じさせてくれるもの。さらに「7th floor」と題された新曲も披露され、フロリダの青空を思わせる軽快なギターサウンドに悲しみが滲んで、ダークサイドを知るCoccoだからこそのロックがそこにあった。もう1曲の新曲はライブのラストに披露された「Rockstar」。とびきりヘヴィで、原点回帰的なオルタナティブなロックサウンドでありながら、Coccoの洗練された歌唱表現はとにかくクールで、次なる新作にも大いに期待が高まる。たぶん今Coccoはこれまでになく創作に前向きなんじゃないかと思う。今週9月2日には、楽曲提供に加え初めてプロデュースを手掛けた、清原果耶の1stシングル『今とのあの頃の僕ら』がリリースされる。そして、Cocco自身もすでに次のアルバムに向けてスタジオに入っていると言っていた。その前向きなモードが何より嬉しい。
Cocco  撮影=Shidu Murai
今回の、シンプルなバンド編成で表現するライブハウスを念頭に置いたセットリストとアレンジは、これまでに見たことのないCoccoの歌世界を描き出した。配信でありながら、Coccoの歌はとても生々しく響き、とても特別なこのライブ体験は楽曲に新たな解釈をもたらすものでもあった。生配信を見逃した人も、本日9月1日の23:59までは視聴できるので(視聴チケット購入は19:00まで)、可能ならばぜひ観てみてほしいと思う。大げさでもなんでもなく必見のライブである。

文=杉浦美恵 撮影=Shidu Murai

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