Creepy Nutsが『ミュージックステー
ション』に初出演、初の武道館ライブ
を前に改めて足跡を辿る

9月4日、『ミュージックステーション』(テレビ朝日系)に初出演するCreepy Nutsは、“日本一のラッパー”R-指定と“世界一のDJ”DJ松永による1MC1DJのヒップホップユニットである。
1991年大阪府堺市生まれのR-指定は、日本最高峰のMCバトル大会『UMC』を2012~2014年に3連覇し、2015~2020年には『フリースタイルダンジョン』(テレビ朝日系)で「モンスター」のひとりとして幾多の強豪のチャレンジを退け、のちには全モンスターを倒した挑戦者の前に立ちはだかる「ラスボス」として君臨。押しも押されもせぬフリースタイル(即興)ラップ最強の男である。
相方のDJ松永は1990年生まれ、新潟県長岡市出身。TOC(Hilcrhyme)を筆頭に多くのラッパーのバックDJを務め、プロデューサーとしてもサイプレス上野とロベルト吉野KEN THE 390、鬼、晋平太などにトラックを提供してきた。2019年にはターンテーブリストが技を競い合うDJバトル大会『DMC JAPAN DJ CHAMPIONSHIPS』を制し、世界大会『DMC WORLD DJ CHAMPIONSHIP FINALS 2019』に出場。見事に優勝を遂げた。
Creepy Nutsの結成は2012年。しばらくはそれぞれソロ活動に勤しむが(R-指定は1枚、DJ松永は2枚のソロアルバムを出している)、2014~2015年ごろから活動を本格化。2016年にミニアルバム『たりないふたり』でインディーズデビューした。同作は『フリースタイルダンジョン』人気の後押しもあって大ヒット、二人は全国を駆け巡って毎晩のようにライブを行い(ロックバンドやアイドルとの競演も多数)、各地のロックフェスにも精力的に出演。敬愛する元祖“たりないふたり”山里亮太&若林正恭をはじめ著名人の知遇を得て、めきめきと知名度を上げていった。
2018年にはソニー・ミュージックエンタテインメント内のレーベル「CREEPERS」から12曲入りのフルアルバム『クリープ・ショー』でメジャーデビュー。初のレギュラーラジオ番組『オールナイトニッポン0 (ZERO)』(ニッポン放送)も始まった。
以降はメディアに引っ張りだこの快進撃。R-指定は日本語ラップの先達を語りまくった著書『Rの異常な愛情』(白夜書房)を上梓し、DJ松永は『ACTION』(TBSラジオ)の週1レギュラー(9月いっぱいで終了)、『文學界』(文藝春秋)に寄稿するなど、トークと文筆の才も開花させている。
『たりないふたり』というデビュー作のタイトルは、山里・若林コンビへのオマージュであると同時に、Creepy Nutsを象徴する言葉でもある。日本一のラッパーと世界一のDJなのだからむしろ“最強のふたり”と呼ぶべきだが、“イケてない”“モテない”“目立たない”“勉強も運動もできない”“ヤンキーでもオタクでもない”、ないない尽くしの学生時代を出発点とし、整理整頓ができない(R-指定)、女性とうまく話せない(DJ松永)などの劣等感を表現のエネルギー源にしているのだ。
そこに自己言及というヒップホップマナーが重なり、「トレンチコートマフィア」「たりないふたり」「助演男優賞」などなど、自虐的なユーモアをたっぷり盛り込んだ批評性の高い楽曲がディスコグラフィを埋めることになる。同様にヒップホップマナーであるボースティング(自慢)も、メジャーデビュー作の収録曲「スポットライト」でようやく、それも控えめに行われたくらいだ。
8月にリリースした4枚目のミニアルバム『かつて天才だった俺たちへ』には「耳無し芳一Style」や「オトナ」などネガティヴ思考癖を発揮した曲もあるが、表題曲や菅田将暉を迎えた「サントラ」、「日曜日よりの使者」(ザ・ハイロウズのカヴァー)など、二人の視線が他者に向けられ始めているところに成長の跡を見てとれる。
拭いがたい劣等感に根ざしていることがCreepy Nutsの表現の強度を支え、多くの人の共感を得ている理由だが、二人は「できることは音楽だけ」とも公言している。このバランスが彼らの魅力の核だ。R-指定はライミング(韻)はもちろん比喩やダブルミーニング、トリプルミーニングを駆使して出し惜しみなしの濃厚な歌詞をしたため、ラップにも歌にも常に新しいスタイルを試す。DJ松永はサンプリング主体のトラックメイキングにこだわりつつも、バンドサウンドなどの新機軸に柔軟に対応し、いなたく温かみのある唯一無二のメロディセンス(これには相方の貢献も大)を見せつける。
ライブの場では、DJ松永が披露する超絶技巧のDJルーティンやR-指定が観客からお題を募って即興で一曲にまとめる「聖徳太子フリースタイル」で観衆を圧倒する。正確さとバイタリティが同居した卓越したライブスキルは、8月に公開された「THE FIRST TAKE」の一発撮り動画でも証明されている。
11月に初めての日本武道館公演を控えるCreepy Nuts。まさかのコロナ禍と重なってしまい、1万人の大観衆が右手を振り上げる光景はおあずけになるかもしれないが、常日ごろから「ライブが俺らの真骨頂」「ライブしか自己肯定できる機会がない」と語る二人のこと、限定があるならあるでそれなりに楽しいショーを見せてくれるはずだ。
文=高岡洋詞

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