【レトロな少女 インタビュー】
ネットで話題のレトロでモダンな
男女ユニットが“ご挨拶代わりの”
デビューアルバムをリリース
“もっといい曲を書きたい”
それに尽きますね
佐藤さんは成山さんの歌詞についてはどんなふうに思っているのですか?
佐藤
“マキシマイザー”ってほとんどの男性は知らない言葉じゃないですか。“なんで知ってるんやろ?”って思ったりするんですね。今日初めて、その理由を知ったわけですけど、そういう経験をちゃんと歌詞に落とし込んでくるってすごいと思うし、まだ発表していない曲では、“ブルベ夏”“イエベ春”とかって言葉を使っていて。それってパーソナルカラーのことなんですけど、男性の方はあまり知らないじゃないですか。そういう言葉を使いながら、しかもちゃんとマッチしている歌詞を書いているってすごいと思います。「西八行き最終バス」の歌詞なんて、大学生の女子なら“分かる!”って言葉がたくさん入っていて、全然違和感ないんです。だから、歌いやすいし。分かるって思いながら歌っています。
今作の中でも「西八行き最終バス」は遊び心が感じられる他の曲とは違って、リアルな感じがありますね。
どんなところからの発想だったんですか?
成山
いやぁ、あまり話したくないんですよ(笑)。大学生の頃のリアルな思い出が詰まっているので。
分かりました(笑)。「教頭戦線異状なし」は教頭先生にフォーカスしていて、学生の頃に教頭先生の存在を意識した人はそんなにいないと思うのですが(笑)。
成山
大学で受けた授業の影響です。法学部で教育法を取っていたんですけど、学校組織は通常の社会とは違うと教えられたんです。普通の組織ってピラミッド型の三角形じゃないですか。でも、学校の組織はナベブタ型って言うそうです。
あっ、歌詞に《職場はずっとナベブタだった》ってありますね。
成山
基本的に平教師が横並びで、教頭先生がいて、その上に校長がいるというナベブタの形をしているんですよ。その中で教頭先生がいかに大変かってことを教授がしゃべっていて、教頭先生にはなりたくないなって(笑)。僕は学校に馴染めるタイプじゃなかったので、先生から怒られることがよくあって、“先生って嫌だな”って思っていたんですけど、“先生は先生で大変なんだなって。じゃあ、そういう曲を書くか”という軽い気持ちでできた曲です。
成山
歌詞の“ナベブタ”って何なんだってよく訊かれるんですけど、教員の方が聴いたら分かると思います(笑)。
面白い。全曲にそういう興味深いバックグラウンドがあるのですね。
今回、リリースするアルバム『1限目モダン』は、これまでYouTubeで発表してきた6曲に新曲の「さんすうのこたえ」を加えた全7曲という内容になっていますが、なぜそういう構成に?
成山
ここからが始まりということで、確かにYouTubeにはあるんですけど、僕らはまだ結成してからそんなに時間も経っていないし、認知度的にもこれからだし、多くの人にとっては新曲なわけだし。
成山
ベースラインを変えたり、ギターを録り直したり、別のヴォーカリストが歌っていた「私の大総統」の歌を餓死ちゃんの歌に差し替えたりしてて。今までの作品をブラシュアップする機会に恵まれたのは良かったです。
ミックスを変えただけではないんですね。
成山
そうなんです。ドラムの音が小さいと言われたので、大きくしました(笑)。
佐藤
ファンの方はYouTubeの音と今作の音と聴き比べて、“ここが変わっている!”という答え合わせができますね(笑)。私も歌い直したり、コーラスも変わったりしているんですよ。さらに良くなったと思います。
佐藤さんは歌を入れる時は、どんなことを意識しているのですか?
佐藤
歌詞の背景や、主人公の女の子の性格とかキャラクターとかを考えながら歌っています。「さんすうのこたえ」だったら男性を翻弄する女の子を想像したり。語尾を切りがちと言われるので、長めに伸ばして歌おうと意識しているんですけど、感情が入っていないと言われることが多いんですよね。
成山
でも、それが個性ですよ。もちろん感情を乗せているんだろうけど、重たくない感じで、乗ってきているところがいいと思います。ドライなんですよね。
そう言われると、確かに最近のJ-POPは感情過多な歌が多いように感じます。
佐藤
中和していますね。成山さんの密な歌詞や曲とドライな歌とで、うまく合致していると思います。
成山
この歌詞をエモーショナルに歌っちゃうとギャグになっちゃうと思うんですよ。
“1限目モダン”というタイトルはどんなところから?
成山
侃侃諤諤(かんかんがくがく)の議論がありました。要は学校を連想させる曲が多いからなんですけど、“学校”というワードが持つ“懐かしい”という要素とレトロな少女のレトロが結びつくというところから、学校関連のワードをいっぱい出したんです。その中でいいものはないかと考えて、1stアルバムなので“1限目○○○ってどう?”ってなり、“1限目ロマン”“1限目ハイカラ”といろいろ考えていった結果、“モダン”で決まりました。
新曲の「さんすうのこたえ」はレトロな少女にとってどんな位置づけになる曲なのでしょうか?
佐藤
出発地点だと思います。今回、今まであった曲をブラッシュアップしたんですけど、そこからの新たな一歩目だと思っています。
成山
音楽的には今までやってきたことの結晶と言える曲だと思っています。レトロな少女がYouTubeにアップしてきた曲の、うまくいった要素を詰め込んでいる。キャッチーなリフとか、ピアノのリフがギターと重なって終わっていくところとか、転調とか、レトロな少女なりのアメリカ合衆国みたいな(笑)。そんなふうにいろいろ混ぜ込みつつ、新しい挑戦ももちろんしています。それはコーラスなんですけど、コーラスを重ねて、音の厚みを出すという試みをしています。それは餓死ちゃんのアイディアでした。
その「さんすうのこたえ」のMVでは、おふたりがcinema staffの辻友貴さん(Gu)、ex.雨のパレードの是永亮祐さん(Ba)、arko lemmingの有島コレスケさん(Dr)と演奏していますが。
成山
ユニットとしての在り方は非バンド的なので、映像はそれとは真逆にしたら面白いんじゃないかというレーベルのアイディアです。
でも、今後ライヴをするとしたら、そういうバンド編成でやりたいと考えているそうですね?
佐藤
そうですね。状況が許せばライヴもやっていきたいですね。音源がバンドサウンドなので、バンドスタイルでやりたいです。MVに出演してくださった方々と一緒にできたら嬉しいんですけど、やってくれるかな? レト女らしくもあり、音源とはまた違う面も見せたいと思っています。
最後に今後の目標を聞かせてください。
佐藤
成山さんが曲を書くのがとても速いので、音源はこれまで以上にもっと早いペースで発表していきたいと思いますし、ライヴでもできたらいいとも思うし、いろいろな人にもっとレト女を知ってもらって、みんなに聴いて欲しいです。
佐藤
出たいです。子供に聴かせたいです。子供に聴かせられない歌詞は、『みんなのうた』バージョンにします!
成山
それは書けるけど、それ以前に餓死ちゃんの名前が問題でしょ?(笑)
成山
たぶん、その時は砂糖菓子になっていると思います(笑)。
そもそもレトロな少女はCDをリリースしたいと考えていたのでしょうか?
佐藤
何も考えてなかったです。成山さんも卒業制作の一環として考えていたし、私も大学を辞めようと思っていて、“辞めたら何もすることがないなぁ”と思っていた時に誘われたので、その時は何も分からなかったんですけど、今はレトロな少女で頑張って、音楽活動を通して人生を充実させたいと思っています。
成山
だから、基本曲を書ければ幸せってところはあるんですけど、目標を挙げるとしたらふたつあって。まずひとつは集団行動と対バンしたいです。もうひとつはこのCDをリリースさせてもらったことをきっかけに、これからもっといい作品が作れるんじゃないかと思っていて。というのは、この業界に入ったことで、得られる音楽性もあると考えているからなんですけど、もっといい曲を書きたい。それに尽きますね。
取材:山口智男
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アルバム『1限目モダン』2020年9月9日発売
actwise
レトロナジョウジョ:バンド経験はないがパソコンで作曲をしていた成山まことが理想のヴォーカリストとして見つけた佐藤餓死とふたりで、2019年2月より活動開始。MVをYouTubeにアップしていったところ、そのポップなメロディーと独特な音楽性にネット民からの反応がじわじわと増えていった。今まで発表してきた楽曲と新曲をかたちにするため、20年8月にタワーレコード限定・初回プレス限定盤シングル「タワレ娘」でCDデビュー。
「さんすうのこたえ」MV
「西八行き最終バス」MV