ACIDMANがコロナ禍の時代に示した、
ロックの、ロックバンドの一つの形

ACIDMAN TOUR “This is instrumental” 2020.9.11 LINE CUBE SHIBUYA
9月11日金曜日、LINE CUBE SHIBUYA。およそ7か月ぶりに、ACIDMANがついにライブ会場のオーディエンスの前に帰ってきた。『ACIDMAN LIVE TOUR “This is instrumental”』は、彼らにとって初となる全編インストゥルメンタル曲によるセットリストで、1日2回公演、除菌の徹底や会場のキャパシティを半分に抑えるなど、すべてが初めてのことばかり。当初予定されていた全国ツアーは、諸般の事情により1日限りのものになってしまったが、希少性はさらに増した。コロナ禍の中でロックバンドに何ができるのか、この日のパフォーマンスは時代に対する一つのメッセージにもなるはずだ。
ACIDMAN 撮影=Taka"nekoze_photo"
背後のスクリーンに映る幻想的な風景、オープニングSEは「at」、メンバー登場。浦山一悟のドラムが雷鳴のように青い闇を切り裂く、1曲目は2005年のアルバム『and world』からの「water room」だ。インストゥルメンタルと聴いて、穏やかなオープニングを予想していたオーディエンスは度肝を抜かれただろう。続く「usess」も、きわめてテンションの高いロックチューン。「Walking Dada」は、力強い四つ打ちのキックでぐいぐい進むダンスチューンだ。映像も非常に凝っていて、光の粒子の乱舞、ハンドメイドのアニメーション、そしてシュールレアリスティックな画像処理など、ミュージックビデオを駆使して1曲ごとにめまぐるしく変わる。まるで1曲が1編のショートストーリー、サウンドトラックのように目と耳を強烈に刺激してくる。
ACIDMAN 撮影=Taka"nekoze_photo"
「みなさんの人生がちょっとでも豊かになるように、音楽って素晴らしいと思う、そんなきっかけの1日にみんなでしましょう」
インスト曲のみというマニアックなライブに駆け付けたオーディエンスを、「つわものたちよ」とユーモラスに讃えつつ、大木のMCはどこまでも明るくポジティブだ。ねばりつくように重厚なダンスビートの「en」では、ルーパー・エフェクターを使ってギターの音を重ね、その間にアコースティックギターに持ち替える技を見せる。「Dawn Chorus」を経て「room NO.138」では、五拍子の変則ビートに乗せて佐藤雅俊がご機嫌なアップライトベースを聴かせる。「アルフヘイム」はこの日一番のレア曲で、シングル「最後の星」のカップリングでのみ聴けるものだ。この日がライブ初披露で、アコースティックギターによる静かな前半から、壮大なロックバラードに展開する後半へ、あえて映像を使わずに強烈な逆光と音のパワーだけで勝負する、無駄を排した演出が冴えわたる。
ACIDMAN 撮影=Taka"nekoze_photo"
「見たことのない景色や、感じたことのない感情や、不思議な世界を感じることができる、それがインストゥルメンタルだと思います」
スクリーンに静かに雪が降り続ける中、荒ぶるリズム隊とクールで美しいギターの音色とのバランスが絶妙な、曲は「真っ白な夜に」。ライブはちょうど折り返し地点に差し掛かり、ここまでは3分程度の曲が多かったが、ここから3曲はいずれも5分を超える大作へと突入してゆく。壮麗なアニメーションを駆使して創世記的な神話世界を描く「SOL」、映像ではコンテンポラリーダンサー・森山開次を中心としたダンス&演劇パフォーマンスをフィーチャーし、音源では坂本龍一が参加した「風追い人(前編)」は、音と映像がぴたりと寄り添いインストゥルメンタルの醍醐味をたっぷりと伝えてくれる。メランコリックなスローバラード「Λ-CDM」では、大木がキーボードとギターを使い分けながらリリカルなフレーズを積み重ね、一悟の強烈なシンバル連打のクライマックスへ至る、7分を超える壮大な音による叙事詩。音が消えてしばらく動けないほど、その緊張感と迫力はすさまじい。
ACIDMAN 撮影=Taka"nekoze_photo"
緊張感ばかりじゃない、インストゥルメンタルには優しく柔らかい楽しみ方もある。「バードコール」とは、鳥を呼び寄せるための道具のことで、今回のライブのツアーグッズとして制作されたもの。オーディエンスがそれを使い、「曲中や曲間で自由に鳴らしてください」という、そんなロックバンドのライブは前代未聞だろう。しかもこれが最高にハマっていて、ファーストアルバム『創』収録の「at」、「slow view」、「彩-SAI-(前編)」と続く3曲の、イントロや曲中、曲間に絶えず流れ続ける鳥のさえずりが耳に心地よく、音楽、映像、鳥の声が混ざり合ってなんともピースフルな世界観を作り出す。ファン参加型のパフォーマンスの、これは一つの理想形と言ってもいい。
ACIDMAN 撮影=Taka"nekoze_photo"
「思考を変えれば、世界は変わる。とにかく前向きになれば、言葉も変わるし表情も変わる。思考を変えて、ポジティブに行きましょう」
現状を、必要以上に恐れることはない。大木の言葉はどこまでも前向きだ。そして最後に演奏されたのは、光の三原色=赤、緑、青をテーマにした「THE LIGHT」と題した組曲。初出は2008年の映像作品『scene of“LIFE”』で、大木が初めて映像監督を手掛けた重要な楽曲であり、のちに2012年の企画アルバム『THIS IS INSTRUMENTAL』にも収録された18分に及ぶ大作。3曲揃って演奏されるのはこれが初めてだ。疾走するドラムンベース調の「赤色群像」、静寂と爆発が交互に訪れるダイナミックなスローチューン「ベガの呼応」、そして淡々としたビートの中で確かな熱気が脈打つ「EVERGREEN」。それまで閉ざされていた背後の幕が上がってゆくと、そこに現れたのは数十本に及ぶ幻想的なキャンドルの灯り。大木の友人、Candle JUNEによる渾身の力作が、楽曲のイメージをより豊かに彩ってくれる。それはこの日のライブを締めくくるのにふさわしい、平和な日常への祈りと願いを込めた素晴らしいラストシーンだった。
ACIDMAN 撮影=Taka"nekoze_photo"
なおこの日のライブは映像収録され、9月25日21時から「マルチアングル方式」で配信されることが決定した。これはメンバー一人ずつとバンド全員をとらえた4台のカメラを用意し、リスナーが手元で好きなアングルを選べるというユニークなもの。新しい試みを積み重ねながら、ポジティブなパワーを振りまきながらACIDMANは進む。その雄姿をぜひ、配信映像でも目撃してほしい。

取材・文=宮本英夫 撮影=Taka"nekoze_photo"

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